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緋と紺の親子
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これもまた、とあるマンションの管理人のおじさんから聞いた話。
当時小学六年生だった正吉は、真夜中に体がズンと重たくなるのを感じ、突然夢の中から意識が引き戻された。
(寝苦しい、な)
目蓋はうとうとしているのに意識だけがどんどんとハッキリしてきて、溜め息と共に上半身を起した。掛けていた布団を足元へ、半分にバサリと折る。すると正吉の目は、その視線の先に緋色の何かを捕らえた。
「わっ!」
それは、緋色の着物を纏い、ぼんやりと薄ボケた白い光を纏った少女であった。
歳は恐らく六、七才ではないだろうか、蒼白い肌が透けている。いわゆる体育座りをして、瞬きひとつせずに正吉をじっと見詰めている。
(ゆ、幽霊だ)
正吉は瞬間的にそう察知し、思わず心の中で呟いた。
すると少女は、まるでそれが聞こえていたかのように、残念そうに目蓋を伏せるとシュワリと消えてしまった。
「あっ?!」
正吉は目を白黒させてその場を見詰めたが、もうそれきり彼女は現れなかった。
体の重みも無くなっていたので、再び布団を被ると瞬く間に夢の中へと堕ちていった。
それから幾日か経ち、少女の幽霊のことも忘れつつあったある夜。
正吉は部屋の扉がカタカタカタ…と鳴る音で目が覚めた。
地震ではなさそうだし、真夏でもないので窓を開けて寝たりなどはしていないから風でもないだろう。
(嫌だなぁ。また、出たのかな)
そう思ったのとほぼ同時に扉のカタカタがピタリと止み、眉を寄せて起き上がると扉の目の前にこの前の少女が立っていた。
「うわっ!」
少女は右手を誰かと繋いでいた。
彼女の母親だったのであろうか。とにかく小柄で紺色の着物を着た女性と、以前と同じ緋色の着物の少女が、手を繋いでじっとどこか一点を見詰めて立っていたのである。
「…………」
正吉は敢えて声を発さず、じっと彼女らを観察した。
二人共ぼんやりと薄ボケた白い光を纏っているところから、彼女らは『悪い霊ではないモノ』だと正吉は感じていた。正吉はそのまま二人が消えるまで、布団の上で足を伸ばして座り、ただただ黙って彼女らを眺めていた。
「…………」
目的も理由もなにもわからずただ立ち尽くしているようなので、「どうしたの」などと声をかけようかどうか迷っていた。
その時。
ふっと急に意識が薄れ、目の前が真っ白になった。
「え、あれ?」
そう思った時は既に、そこは朝の忙しさでいっぱいの普段と変わらぬ居間の風景だった。
「なにボサッとしてんだ! さっさと食っちまえ」
斜め向かいに座る父親にそうどやされると、自分はあれからどうしたのだろうか、としばらく混乱の渦の中に思考を埋め込んだ。
あの親子は、そうしてそれ以来会っていない。
ただひとつ、その日がいつかの大災害が起きた日だったと学校で聞いたときに、なんとなく無念のうちに死んでしまったのだろうなと正吉は思ったのである。
嘘みたいな、晩秋の話。
当時小学六年生だった正吉は、真夜中に体がズンと重たくなるのを感じ、突然夢の中から意識が引き戻された。
(寝苦しい、な)
目蓋はうとうとしているのに意識だけがどんどんとハッキリしてきて、溜め息と共に上半身を起した。掛けていた布団を足元へ、半分にバサリと折る。すると正吉の目は、その視線の先に緋色の何かを捕らえた。
「わっ!」
それは、緋色の着物を纏い、ぼんやりと薄ボケた白い光を纏った少女であった。
歳は恐らく六、七才ではないだろうか、蒼白い肌が透けている。いわゆる体育座りをして、瞬きひとつせずに正吉をじっと見詰めている。
(ゆ、幽霊だ)
正吉は瞬間的にそう察知し、思わず心の中で呟いた。
すると少女は、まるでそれが聞こえていたかのように、残念そうに目蓋を伏せるとシュワリと消えてしまった。
「あっ?!」
正吉は目を白黒させてその場を見詰めたが、もうそれきり彼女は現れなかった。
体の重みも無くなっていたので、再び布団を被ると瞬く間に夢の中へと堕ちていった。
それから幾日か経ち、少女の幽霊のことも忘れつつあったある夜。
正吉は部屋の扉がカタカタカタ…と鳴る音で目が覚めた。
地震ではなさそうだし、真夏でもないので窓を開けて寝たりなどはしていないから風でもないだろう。
(嫌だなぁ。また、出たのかな)
そう思ったのとほぼ同時に扉のカタカタがピタリと止み、眉を寄せて起き上がると扉の目の前にこの前の少女が立っていた。
「うわっ!」
少女は右手を誰かと繋いでいた。
彼女の母親だったのであろうか。とにかく小柄で紺色の着物を着た女性と、以前と同じ緋色の着物の少女が、手を繋いでじっとどこか一点を見詰めて立っていたのである。
「…………」
正吉は敢えて声を発さず、じっと彼女らを観察した。
二人共ぼんやりと薄ボケた白い光を纏っているところから、彼女らは『悪い霊ではないモノ』だと正吉は感じていた。正吉はそのまま二人が消えるまで、布団の上で足を伸ばして座り、ただただ黙って彼女らを眺めていた。
「…………」
目的も理由もなにもわからずただ立ち尽くしているようなので、「どうしたの」などと声をかけようかどうか迷っていた。
その時。
ふっと急に意識が薄れ、目の前が真っ白になった。
「え、あれ?」
そう思った時は既に、そこは朝の忙しさでいっぱいの普段と変わらぬ居間の風景だった。
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あの親子は、そうしてそれ以来会っていない。
ただひとつ、その日がいつかの大災害が起きた日だったと学校で聞いたときに、なんとなく無念のうちに死んでしまったのだろうなと正吉は思ったのである。
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