玉の輿なんてお断り! 

夕月

文字の大きさ
7 / 24
女官生活

妃嬪の招き

しおりを挟む
「さあ、今日も聞かせてちょうだい。こないだと同じものはだめよ」
そう言って、茶器を優雅に傾ける目の前の女性に、私たちは大人しく礼をして楽器を用意する。
とういうか・・・・。
ほんと、どうしてこうなった。

まあ、原因は私が調子にのって作った?というか再現していた現代日本のボカロや、アニソンのせいなんだけど。
先日の李尚儀に呼ばれて曲を披露していたときに乱入してきた美女が目の前にいる女性。
20代前半そうな外見は、私より少し年上に見える。黒いつややかな長い髪と、雰囲気にあった黄や、赤と言った華やかな衣装がよく似合う美女です。うん、眼福。

名を張 琳(ちょう りん)。後宮での立場は四夫人のひとりで、彩徳妃。彩徳妃張琳という。
私たちが呼ぶときは徳妃、と四夫人の名称であり妃の四人いる妃の呼び分けでもある号である徳妃を呼ぶか、妃に封冊されたときに頂いた彩(サイ)を付けて呼ぶ。
この辺のしきたりは難しい。ドラマとか見てても思うけど、どのときに封号をいれてるのか、「娘娘」という敬称がでるのかわからないだよね。
「娘娘」に関しては、ドラマとかだと一定の地位以上の妃嬪には付けるみたいだったけど、ここではそれはない。
ちなみに私たち下級女官3人は最初の挨拶のときには、「彩徳妃さま」、話しかけられて応えるときには「徳妃さま」と呼んでいる。
こういうときに、記憶がないからという設定は役に立つ。
不敬になるわけにはいかないから、と徳妃に招かれたときにすぐに李尚儀に確認したらこうアドバイスされた。

彩徳妃は、いきなり尚儀局に凸してきただけある行動派の女性だった。
あの場で李尚儀と一緒に曲を気にいった彼女は、3日に一度は私たちを宮に招いて演奏をさせる。
張家の令嬢であり、幼いころから宮廷あがるようにと育てられた徳妃さまは聡明で、動作も優雅なざ・お姫様って感じの部分も多いにあるんだけど、さばさばした性格なのかな?
私たちにもわざわざお付きの女官を通して話すこともなく、軽く扇で口元を隠したりはするけど率直にお話になる。
さすがに側に寄ったり、何か下賜くださるときには女官を通すけど、演奏後の感想なんかもそのまま口にする。
こういう点では、よくドラマで見たような意地悪な妃嬪さまでないことに感謝だよね。
出る杭はつぶす!みたにいびられなくて、ちょっと安心したのは招かれた初日に、自分たちの房に戻ってから実感した。

そうなんだよ。
まったく考えもしないで、現代音楽が恋しくて明蘭たちに協力してもらって再現してたけどさ。
こういう後宮の出世能力のひとつが芸能にたけていることだって、すっかり忘れてた。
娯楽が少ないこういう中世の時代設定ならあり得るってこと、ほんと、まったく、すっかり忘れてた自分が恨めしい。
一歩間違って、徳妃さまが意地悪な方だったらそれこそ難癖付けられて、投獄されたり、宮廷から追い出されたり、最悪殺されていた可能性もあるんだったって、後から気づいた。
それとも、徳妃さまも実はそのつもりがあっていまはこっちの様子を窺っているのかな・・・?

「ほんとうにお前の作る曲は面白いわ」
「もったいないお言葉です、徳妃さま」
「楽房のものもすでにあるものを工夫して楽しませてくれるけど、一から音楽を献上してみせることはそうそうできないのよ。お前は、才に恵まれたのね」
二、三曲を続けて演奏し終わると、徳妃さまは機嫌よく笑って私たちに椅子を進める。
いつもそうなんだけど、おしゃべりしていると集中しすぎてよくのどが渇くから歌っている私は絶対に喉がかわくだろうとお茶を出してくださるんだよ。
本来、私たちのような下級女官が妃嬪と一緒にお茶をいただくことなんてありえない。
最初に断固として断ろうとしたんだけど、思いのほか徳妃さまは気さくだし頑固だった。
次に来た時に歌えないとか、喉を痛めたとか、声がかすれるから歌えないとかで断らせないためだって笑っておっしゃる。
半分本気、半分冗談という雰囲気でそう言う徳妃さまは、よい妃なんだろうなって思うよ。
お付きの女官さんたちもお仕えする徳妃さまに似るのかな、とても優しいし気さくな人が多い。
そのおかげもあって、3日に一度という頻度で呼ばれてもそこまでいやじゃないんだよね。
問題は、呼ばれることに嫉妬している一部の姉さまたちだけで。

「ねえ、茉莉」
「なんでしょう?徳妃さま」
本来ならあり得ない近さでお茶をいただいていた相手、徳妃さまはその位にふさわしくない頬杖をついて私の顔を覗き込んできた。
なーんか、嫌な予感がする。
その満面の笑みは、後宮に入ってから何度も見てきた。
たとえば、曲をみんなに教えろっていった李尚儀とか、尚儀のところに凸してきた徳妃さまとか。
「今度、安賢妃(アンケンヒ)とお茶をするのよ。そのとき、おまえも来て、また歌をきかせてほしいの」
にーっこりと微笑まれる徳妃さまはとてもおきれいですが、内容はできたらお断りさせていただきたいです。
「もちろん、お願いできるわね?」
「・・・・・・・・もちろん、光栄でございます。徳妃さま」

だれか、頷く以外になにか方法があったら教えてください。本気で。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...