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第一章 OBEY

第六話 OBEY

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 しかし、気づいた時には沖田の左右の隊士達が、声もたてずに 昏倒こんとうし、死体が斜めに重なった。

 沖田は背後から振り下ろされた 大刀だいとうを、咄嗟に抜き身で受け止めて、かろうじてその場に留まった。
 けれども斜めに傾かしいだ身体ごと、あっという間に店の外まで押し出された。

 
  摩擦まさつで一瞬、草鞋の底が火がついたように熱くなる。

 刀の圧を受け続ける沖田の かかとが乾いた路地にわだちを作り、土埃を舞い上げた。


「うっ、くっ、……」

 
 沖田は額の前で刀を支えて唸り出す。

  渾身こんしんの力で柄を握る沖田の腕が震え出し、仰け反った 半身はんみが、更に九の字に折れ曲がる。

 沖田の刀に十字に刀を当てた少年の、長い前髪が沖田の額に触れていた。


 まるで鉛のように重い剣。
 相手の刀をこんなに重いと感じたことは、一度もない。

 逆光になった少年の、人相まではわからない。だが、なぜまだ前髪の子供の刀がこんなにと、沖田は奥歯を食いしばる。

 
 戦慄く沖田に刻一刻と、彼は容赦なく刀を寄せてくる。

 このまま額を割られるのか。沖田の脳裏を死の一文字が見え隠れした時だった。



「 佑輔ゆうすけ、やめろ!」

 
 先刻まで鍔競つばぜり合いを交わしていた、若い男が沖田の前に割り入って、前髪の刀を脇差の切っ先で右に跳ね上げた。
 そして直後に返し刀で胴を打たれ、沖田はがくんと膝をつく。 


「He is an exception!」 

 
 沖田はなぜか、叫んだ男にかばわれる。

 だが、前髪の少年は無言で彼を突き飛ばし、沖田に再び切っ先を向け、中段に刀を身構えた。 


「佑輔!」
「why  is it (なぜです)!」 
「You do not need to know it(お前には関係ないことだ)!」
「He injured you(奴はあなたに怪我をさせた)! I do not forgive him(私は絶対に許さない)!」

 
 要所要所で異国語を使い、二人は沖田にはわかならい、言い争いを続けていた。


「It is an order(やめろと言ったら、やめるんだ)!」

 総髪の若い男が痺れを切らしたかのように、前髪の少年を怒鳴りつけた。すると、彼は一瞬怯んだ顔をしたものの、程なく微かに失笑し、したり顔で頷いた。


「SO、……I see(なるほど。わかりました)」

 不気味な薄笑いを浮かべたまま、少年が沖田を振り返る。


「I can’t do that(それなら『言う通り』には、できません)」

 
 改めて刀を上段に構え、無邪気なまでに澄んだ目で、人を殺めようとする。
 沖田は右手に刀を握ったまま、少年の魔力に絡めとられてしまったように、身動くこともできずにいた。

 と、その時、店の中まで突き飛ばされた若い男が、佑輔という少年を睨み据え、起き上がりながら呟いた。

「Obey、dear……」

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