あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

文字の大きさ
47 / 182
第一章 勇者殺しの勇者

第45話 魔王

しおりを挟む


「お前……、……何でここにいるんだよ……」

「言ったよね? おれは〈運命〉の勇者だってさ。この世の事象はなんでもお見通しなのさ」

 フェイだった。

 フェイがそこに立ってたんだ。
 いつも通りへらへらとした笑みを浮かべている。
 意味が分からない。
 頭が上手く追いつかない。さっきこいつベッドで寝てなかったか?
 ハプニングには慣れたつもりだったのに、想定外の状況に心の城壁が壊される。

「そうじゃないだろ。俺は手段じゃなくて目的を聞いてんだよ。……そうだ、リアはどこだ…? ここにいたんじゃないのか?」

「まぁまぁ、そんなことより聞いてよノウト君。おれはね」

「ふざけるなっ!! リアはどこだって聞いてるだろ! 答えろ!!」

 ノウトは冷静さを欠いていた。
 リアと情報を共有するための密会をこの場でする予定だったのに、その場所にリアは居なくて代わりにフェイがいる。異常以外の何ものでもない。

「どこか、だって?」

 フェイは顔に貼り付けられた笑みを一切崩すことなく話す。この夜の真っ暗な中、その顔は不気味としか思えなかった。

「人に聞いてばっかじゃあなくってさ。少しは自分で考えてみてはどうなの? ねぇ」

「………フェイ。お前のくだらない戯れ言に付き合ってられるほど俺は余裕がある人間じゃない。……リアがどこか、教えてくれ」

「ははははっ。いいねいいね。カッコイイこと言うね。リアさんか、リアさん」

 フェイはそう言って桟橋に片膝をついて座り込んだ。……何やってんだ?
 彼はおもむろに右手を地につけた。するとどんどんその手が地に呑みこまれていく。橋の硬さとかそんなの関係なしに腕は呑まれる。
 暗くてよく見えないが、そうとしか表現出来ない。
 フェイは今どう見ても人智を超えたことをしている。これは〈神技スキル〉だ。
 しかし、フェイの〈神技スキル〉は《運命フェイト》という『選択肢から運命を選べる能力』と《新世界ラグナロク》という『選ばなかった運命、所謂平行世界にいる自分のいる場所に跳べる能力』。この二つだと言っていた。断じて物理法則を無視して地に腕を突っ込めるようになる能力なんて持ってないはずだ。

 フェイの腕は肘まで橋に呑み込まれた。そこでフェイは一瞬だけ動きを止めて、呑み込まれた腕をまたゆっくりと引っ張り上げた。
 上げられたフェイの手にはさっきまではここになかった、何かが鷲掴みにされていた。
 暗くてよく見えない。分からない。
 ……いや、ただそれが何なのか理解したくないだけなのかもしれない。本当は分かってる。分かりたくないんだ。
 それはリアの頭だった。目を瞑って、眠っているような顔をしているリアの頭だけをフェイが抱えている。
 リアは不死身だ。なのにどうして再生しないんだ……? いや、今はそうじゃないだろ。
 フェイ、お前は殺す。殺すしかない。リアに危害を加えるなんて、停戦協定やらなんやら約束していたじゃないか。

「意外に重いなぁ。人の頭って」

「───殺す」

 ノウトはなりふり構わずにフェイに向かって全力で走り出した。
 触れれば勝ちだ。一瞬でも触れることが出来ればノウトは絶対に相手を殺すことが出来る。
 あと一歩だ、もう少し。

「動くな」

 だがしかし、フェイがその言葉を発した途端、ノウトの身体は一切動くことが出来なくなった。
 指先を少し動かすことも瞬きすることも出来なかった。呼吸すらもできない。
 心臓が、頭が、どんどん痛みを増していく。

「呼吸と瞬きだけはしていいよ」

 フェイがそう口にすると呼吸が出来るようになり、ぜぇはぁと息切れを起こす。
 なんだこれ。意味不明だ。フェイの言葉に身体が絶対に従ってしまう。
 これもフェイの〈神技スキル〉だって言うのか。ふざけるな。くそ、くそ。
 リア。今すぐにでも救けたいのに。

「意味が分からないって顔してるね」

 フェイはリアの頭を抱えたまま顔を左手で覆い隠す。左手甲に浮かび上がる五芒星、〈エムブレム〉が宵闇の中で朧気に光る。

「あっはははははははは!!! ………はぁ、おれはね、その顔が見たくてここまで隠してきたんだよ。ははっ」

 笑いをどうしても堪えられないと言った様子で肩を上下に揺らしながら話す。
 だめだ。俺はまだ、呼吸と瞬きしか出来ない。

「声を出してもいいよ」

 フェイがそう言うと舌が上手く回るようになり、口が使えるようになった。

「なんなんだよ、お前……! 何がしたいんだよ……。リアを、リアを離せ……ッ!」

「ノウト君。聞いておくれよ、ここからが本題だ」

 聞くしかないという概念に囚われる。耳を塞ぎたくても塞げない。

「…………っ」

「魔皇っているよね。そう魔皇。おれたちが倒せって言われてるそれは数百年前までは人間達を蹂躙していたなんて言われてるけど、ここ数十年は〈封魔結界〉に阻まれて何もしてないっていうじゃないか。で、民たちは〈封魔結界〉がいつ壊されるか分からない恐怖に常に怯えてるんだってさ。ハハハッ。バカバカしいにもほどがあるね。この世界の人間はみんな平和ボケしてる。人間同士の戦争も特になし。そんな話どこでも聞いたこともないだろ? ねぇ、どこかおかしいと思わないかい? 魔人にヘイトを向けさせてるとはいえ、人間同士の争いや事件一つさえないなんておかしすぎる。いや、例外がひとつあったね。コリー君だ。彼はミカエル君の背にナイフを突き立てた例外だ。おれが調べたところ、宗主国アトルの傷害事件はここ何年も起きてない。コリー君が何年かぶりに起こしてしまったんだ。何か、どこかに答えがあるはずなんだ。あははっ。でもね、おれはそんな答えとか真理とかそんなのはどうだっていいんだ」

 フェイはつらつらと捲し立てた後、にへらと口角を上げた。

「茶番はここまでさ。おれはこの平和ボケした世界に一石を投じる」

 フェイが左手を上に掲げる。
 〈エムブレム〉の五芒星が夜空に浮かぶ星と重なり合う。


「おれは魔王になるよ」


「お前、何言って」

「それでさ、ノウト君には最前席でおれの魔王への、第一歩を見てて欲しいんだ」

「……は?」

 ノウトの身体は完全に動けるようになった。
 次の瞬間、地が揺れた。違う。桟橋が動いてるんだ。ノウトはその揺れに耐えきれなくなって手を床につける。
 桟橋が空を飛んでいた。海がどんどんと離れていく。7メートル近く高いところまで来たところで桟橋が止まった。潮風が頬を強く撫でる。
 好機チャンスだ。ノウトはまたしてもフェイを殺そうと手を伸ばす。

「執念だね」

 しかし、フェイの目と鼻の先で手が止まる。それ以上先に手が進めない。
 なんだこれ。半透明な────

「…………壁……?」

「おれはまだ死なないよ」

「……くそ………ッ!」

 フェイを取り囲むように半透明な壁があった。また、宙に浮かぶ桟橋もこの壁で囲まれていた。完全に透明ではない。仄かに、ただ微かに金色に光っていた。

 何度もその金色の壁を殴る。
 殴る、殴る。
 しかし、何度それを殴っても壊れない。拳から血が流れる。構うかよ。壊せ、ぶち壊せ。
 フェイを、フェイを殺さないと。
 リアを救わないと。

「ハハハッ。これはノウト君が殴ったくらいじゃ壊れないよ。まぁどんな手段を持っても壊れないと思うけど。なんたって〈盾〉のだからね」

「はぁ……っ、はぁ………っ。……なんだよ、お前……。まさか《運命フェイト》とかいう運命を選べる能力、思い描いた運命を何でも実現出来るのか……?」

「はははははははははっ。そんな大層なもんじゃないよ。ていうかさ、それが出来たらもう神様だよね。ねぇ」

 ノウトは透明な壁に両手をつけながら、足から崩れ落ちた。じゃあ、なんだって言うんだよ。ノウトは声を出す気力も既に落ち合わせてなかった。フェイはリアの頭を床にことりと、置く。
 リア、どうしたんだ。なんで、生き返らないんだよ。
 あんなに俺が殺して、その度に君は生き返ったのに。
 本当に死んじゃったのかな。ごめん、リア。ごめん。ごめんな。もう、救けられそうにない。
 俺は、無力だ。

「さて、ノウト君、リアさん。準備はいいかい?」

 フェイは両手を広げて、冷酷に微笑んだ。

「さぁ、始めよう。おれらの新世界を」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

お子ちゃま勇者に「美味しくないから追放!」された薬師、田舎でバフ飯屋を開く

ファンタジー
現代日本から転生した味覚オタクの薬師ユージンは、幼い勇者パーティの“保護者枠”として命を守るため口うるさくしていたが、「薬が苦い」「うるさい」と追放される。 田舎ミズナ村で薬膳小料理屋「くすり香」を開いた彼の“バフ飯”は冒険者を覚醒させ、村を救い、王都の薬利権すら揺らす。 一方、追放した子どもたちはユージンの真意を知って大泣きするが、彼は戻らない──自分の人生を取り戻すために。

処理中です...