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第三章 恢復の旅路
第1話 邂逅のきみ
しおりを挟む「ダーシュ………?」
ラウラがダーシュを見て、そう呟く。そして手を伸ばしてぺたぺたとダーシュの頬に触れた。
「ダーシュだよね! ね! どっからどう見てもダーシュだ! なんで生きてんの!?」
ラウラは向日葵のような最高の笑顔を見せてから、両手でダーシュの頬を挟んだまま言った。なんだ。何が起こってるんだ。
「でも、尻尾と耳がない………まるで徒人族みたいな………」
ダーシュは眉を顰めて、そして口を開いた。
「なんだ、お前」
ダーシュはラウラの手を軽く払い除けた。ラウラは「えっ……」と小さく息を呑む。
「ちょっ、ちょっと待てラウラ。いまいち着いていけてないんだが、ラウラはダーシュを知ってるのか?」
ノウトがラウラに困惑しながらも言及する。
「うん。知ってるも何も、こいつあたしの………───」
ラウラは俯き気味に一瞬だけ口をつぐんだ。そして、顔を上げて言う。
「知り合いなんだ。竜連隊との戦争で死んじゃったと思ったけど………」
ラウラがダーシュの顔を見上げる。
「あたしのこと、ほんとに覚えてないの?」
「知らん」
「……そんな………」
ラウラは目を丸くした。
「ちょっとだけ話を整理しませんか?」カミルが提案する。
「そうだな。いろいろと分からないことが多過ぎる」
ノウトが肯定したのちに、ラウラに向き直った。
「まず、ラウラはここにいるダーシュを知ってるんだよな?」
「うん。顔も、声もまったく同じ」
「それにダーシュって名前も言い当ててるわね」ジルが腕を組んで言った。
「でも、尻尾とか耳とか猫耳族の特徴が根こそぎなくなってる。私の知ってるダーシュと違って徒人族になっちゃってるんだよ」
「その……」スクードが手を挙げた。「マナフルとかヒュームってのはなんすか?」
「ああ。えっと、あたしみたいなのを猫耳族って言って、それであんたらみたいなのを徒人族って言うんだよ」
「説明ざっくりすぎるっすね。まぁ何となくはわかりましたけど」スクードが頷く。
「極端な話だけど、顔と声が似てるだけっていうなら赤の他人でも有り得るかもしれない」神妙な面持ちのリアが口を開いた。「でも、名前も一致してるなんて、偶然にしては出来すぎてるよ」
「それもそうですよね」カミルが頷く。
「おい」
ダーシュが無愛想な顔でぼさぼさ髪の向こうから瞳を覗かせた。
「お前は、俺が戦争で死んだって言ったよな」
「え、うん。言った。───ってお前って………別にいいけど」
「俺は、今確かに生きてるぞ」
「そりゃ見りゃ分かるよ」
「つまり、そいつと俺は別人だ。お前のことなんて知らん」
「はぁ!?」
「いや、ダーシュ。ラウラさんはダーシュの名前を言う前に言い当てたんですよ。何か奇妙なものを感じませんか?」
「知らん。どうでもいい」
「どうでもいいって……」カミルが小さくため息をつく。
「───やっぱりダーシュだよ」
ラウラがダーシュを見て言った。
「勘違いでも人違いでもない。このそっけない態度も、仕草も………あいつそのまんまだ」
ラウラは確信したように目をみはって言った。
「つまり───」ノウトが顎を手で触りながら言った。「死んだはずのダーシュが勇者として生き返ったってことか?」
「生き返ったってそんなの───」
「有り得ない話じゃない」
リアがカミルの言葉をさえぎった。そうだ。リアは〈生〉の勇者だから生きることを強いられている不死の存在だ。死なないリアがいるんだ。生き返ったのだって、おかしな話ではない。
「勇者の〈神技〉は人智を超えてる。この世界じゃ何があったって不思議じゃないよ」
リアは言葉ひとつひとつを噛み締めるように言った。
「ラウラサンは……その、前のダーシュが死んだところを見たんすか?」
「………うん。見たよ」
ラウラがゆっくりとでも、確かに頷いた。
「………ダーシュ、あたしを庇って殺されたんだ」
「……………」
その場に沈黙が流れる。さっきまで文句を垂れていたダーシュでさえ口をつぐんで、ラウラのことを目を薄くして見つめていた。その時だった。何かが風を切り、ノウトのすぐ横を通り過ぎた。
「なっ!?」
それは勢いのまま地面に突き刺さる。ノウト達の立っているすぐ近くだ。
「………これは…………」
「矢………?」
「───ゴブリンだ」
ノウトが言うと皆がノウトへと視線を向けた。誰かが「ゴブリン……」と復唱する。そして一瞬の間ののち、ニコが口を開いた。
「逃げないと……!」
そう呟いてから後方へと走り出す。すぐそこに存在している封魔結界の方だ。
「ニコ!?」
ジルが叫んだ。だが、ニコの足は止まらない。ニコは封魔結界へと手を伸ばすと、案の定その手は封魔結界によって弾かれる。弾かれたその勢いのままニコは尻もちをついてしまう。
「あそこ通れないってノウト、伝えてないの?」
ラウラは全く慌てた様子を見せずにノウトに聞いた。その様子を見ていたらノウトまでも気持ちを落ち着けることが出来た。
「……ああ、言い忘れてた」
ノウトがそう言った瞬間だった。ヒュンッ、とまたしても矢がどこから射られ、それが今度はノウトの顔面に向かって飛んでいた。ノウトがそれを《殺陣》でガードしようとすると、ラウラが素早く手を動かしてその矢をキャッチした。
「………ぇ?」
ノウトは思わず間抜けな声を出してしまった。それも当然だろう。
なんたって目の前のラウラという猫耳族の少女は、矢の飛んでくる方角を背にして、ノールックで矢を掴んだのだ。射られた矢を掴むことすら不可能に近いのに、それを目視せずに行った。
そんな芸当、普通の人間には出来ない。というか人間という種族には不可能だろう。
「すげぇ……」
スクードが目を瞠って呟く。
ラウラは掴んだ矢をぼきっ、と片手で容易く折って、その辺に捨てた。そして、ラウラは足をバネのように縮めてから、跳ねた。木々の中へと一瞬で入っていく。もう薄暗い森に阻まれてラウラの姿は見えない。
ラウラの行った方向から「ギャア!!」だの「ウギャアギャア!!」だの、何かの叫び声が聞こえた。おそらくゴブリンのものだろう。木々のざわめきが収まったのちに、ラウラがその向こう側から顔を覗かせた。
「あれ? ノウト、なにぼーっとしてんの?」
「いやいや……」
一番魔人領に親しみのあるノウトですらラウラのスピード感には着いていけなかった。
ラウラが木から飛び降りて華麗に着地する。
「アンタら勇者なんだから加勢くらいしてよねー」
ラウラが自らの頬を右手で搔いた。
「ひっ……」
カミルが息を呑む。それもそのはず。ラウラは返り血を浴びて手が真っ赤に染まっていたのだ。
「……殺したのか?」
「うん。アンタらも死にたいわけじゃないでしょ?」
「そりゃ……そうだけど」
なんていうべきか、今までこんなにも殺すことに慣れた人物と会ったことがなかった。こんなに死と隣り合わせにいる人間と会ったことがなかったのだ。
封魔結界のその向こう、人間領では争いなんて一切なかった。ニコはノウト達を殺そうとしたが、彼女の目的は殺すことではなく、殺したその見返りに本懐があった。
「とりあえず、今ので分かった通りここ敵地でゴブリンの庭だから。一旦こっから離れよ。会話もおちおち出来やしないし」
勇者達はそれぞれ目配せをしてから、黙ってうなずいた。
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