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6.秘密
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『秘密』
自分の部屋にこっそりと戻ったのに、やはりお父様は鋭い。私の従者や仲のいいメイド達も姿を見るとすぐに来て怒られた。更にはこんな手紙まで渡してきた。宛先はもちろんお父様…帰ってきたらすぐに書斎に来るように……。アイナお姉様もオディルお兄様にも、レイディオにも怒られるかもしれない。せめて、せめてお母様だけは知って欲しくない。一番知って欲しくなかった人には一瞬でバレてしまったが。
「お嬢様…、陛下お怒りだそうですよ…」
「…分かってるわ。今日は少しやり過ぎちゃったもの…」
「ドレスを変えてから陛下のところにいきましょう。髪も整えます」
「なるべく早くお願いね…。はぁ…」
とてつもなく緊張が襲う。なんて言おう。今は仕事が忙しくピリピリ感がとても漂っているお父様の書斎なんて怒られる為に入りたくない…。
でも、早くいかないと永久外出禁止とか言われたら大変だ。ましてや心配性なのに。
《コンコン》
「お父様…ディーレです。ただいま戻りました…」
「…入れ」
「失礼します」
《ガチャ》
中に入るとそこには真剣な顔をしているお父様が書斎デスクにいた。山のように置かれた書類。サッと顔を上げ、筆をとめた。目線があってビクッとしてしまう。
「バトラー、少し下がれ」
「はい、陛下」
「ディーレ」
「ご、ごめんなさい…お父様」
父はそっと立ち上がり、目の前に立った。怖くて目を合わせられずにいた。低い声、背筋が震える。お父様なんてどうやっても騙せっこないのは分かっている。
「り、隣国に行こうと思って行った訳じゃないの…。人が倒れてて助けようと踏み入れた時に魔法を使って、それで…」
そっと顔を上げてみる。お父様の怒った顔が私を見下ろしていてすぐに下げた。そして、お父様の大きな手が肩にぽんと置かれた。お父様の低い声が聞こえた。
「ディーレ、怪我はしていないか?」
「う、うん。私は大丈夫」
「良かった…」
「心配してくれてありがとう…」
心から安堵するお父様に少し驚きながらも深く謝った。更に驚いたのが、お父様は私をぎゅっと抱きしめた。
「お、お父様!?」
「…」
お父様の不安に染まった顔を見たのは久しぶりだった。大抵自分が倒れて迷惑かけたと深く落ち込んでいる時の顔。かなり驚いたが、お父様はそっと離すといつもの顔に戻り、あの話が始まった。
「あれほど外は危ないと言ったのに、勝手に出ては駄目じゃないか。周りの人にどれほど迷惑を掛けたと思っているんだ。心配したんだぞ」
「ごめんなさい…」
「今は忙しい時期だから俺も無闇に動けないって言っただろ?騎士を送る連絡は来ていなかったから大丈夫だとは思ってはいたが、森まで行って何か自分の身に起きていたらどうする?隣国まで行けば俺だって手が届かないんだぞ」
「はい…」
「はぁ……。で、怪我をした人はどうなった?」
「え?あ、回復魔法を使って…、王都まで…。自分で歩けたり、話していたので大事には至らないと思います」
「そうか」
お父様はそう言うと背を翻して再び椅子に戻った。案外、怒られなかった…。もしやこのまま帰れるのではないかと希望を抱き始めた。
「ディーレ、約束しなさい。一人で、更には無断で外に出ないと。謹慎を言い受けたくは無いだろう?」
「は、はい!約束します」
「じゃ、下がってくれ」
「あ、お父様」
「どうした?」
忙しそうなお父様に私は早口で話し始めた。次会える時もこんなに話せないと思う。それに二人しかいない…。
「隣国のアストルムの裏社会で奴隷制度があるらしいの。どうにか出来ない…よね?」
「隣国か…すまないが、隣国の事に俺が口を出す事はできない…。この国に被害が無い上に裏社会の話になると国同士ではいがみ合う結果になる…その話、一体誰から聞いたんだ?」
「助けてあげた人がその奴隷の人だったの。この国に逃げて来た時に怪我をしたらしくて」
「…奴隷、か…」
お父様が分かりやすく顔を顰めた。こういう話は普段しないようにしているけれど、あからさまに嫌な表情を浮かべる。私達も身分を利用する時が出てくるけど、権力で全てをねじ伏せる事はしないように言われている。お父様は特に嫌い。お父様と祖父の時代が一番荒れていたらしい。お父様は最小年齢で王様にならざるを得ない状況だったらしいし、あまり昔の話は教えてくれない。自分で外に行って調べる他ない。
「ディーレ、だが俺のできる限り事はするつもりだ。取り敢えず今日の話はここまでにしてくれ。すまない、少し忙しいんだ」
「あ、ごめんなさい。お仕事頑張ってね」
「あぁ。約束、しっかり守りなさいよ」
「はーい!」
そう言って私はそっと部屋から出た。
あまり怒られなかったことにほっとして廊下を歩いている時だった。前から従者を引き連れて、もうお父様程の身長にもなっているのがこう見るとよく分かる。夜ご飯は家族みんなで食べる決まりを作っているのだが、お父様だけはいない日も多い。まぁ、二日ぶりに父にあったのが怒られる為だったけれど。昨日ぶりのお兄様。私を見ると近寄ってきて、少し礼をした。
「オディルお兄様!」
「やぁ、ディーレ。父上と会ったのか?」
「うん。さっき会ったけどとても忙しそうだった…お兄様も忙しくないの?」
「少しね。でも、一通り終わったから、報告して手伝える事があればまた執務に真っ当するよ」
「ふふっ、頑張ってくださいね。あ、そうだ、アイナお姉様はどこにいるか知ってる?」
「アイナは分からないな…部屋にいるんじゃないか?レイディオは稽古場で稽古してるだろうし」
「お母様は?」
「部屋にいるはずだよ。最近この時期は何かと忙しいからな…あ、ひょっとしてまた外に出てるのがバレたのか?」
「さぁ~、なんの事かしら?」
「はぁ、あまり無茶するんじゃないぞ?父上なんて凄く心配するんだから。母上にも言われたら父上より怒られるよ?謹慎じゃ、済まないかもね。一生外に出れないかも……」
「…」
「ジョーダンだよ!ディーレは自分の思うがままに進むから俺も心配なんだよ。それも良いとこだけどね」
「…なによ、それ」
「ハハッ、あ。いけない。俺、そろそろ行くよ。また夜に会おう」
「うん。またね」
オディルお兄様は優しく手を振り返して去っていった。みんな忙しそうだから、アイナお姉様も忙しいでしょうね…。これが二女の役目なんてすぐに終わってしまう。他国にいかないといけないのはうれしいけど長旅は疲れるのよね。と言ってもほとんど来てくれることしかないけど。
自分の部屋にこっそりと戻ったのに、やはりお父様は鋭い。私の従者や仲のいいメイド達も姿を見るとすぐに来て怒られた。更にはこんな手紙まで渡してきた。宛先はもちろんお父様…帰ってきたらすぐに書斎に来るように……。アイナお姉様もオディルお兄様にも、レイディオにも怒られるかもしれない。せめて、せめてお母様だけは知って欲しくない。一番知って欲しくなかった人には一瞬でバレてしまったが。
「お嬢様…、陛下お怒りだそうですよ…」
「…分かってるわ。今日は少しやり過ぎちゃったもの…」
「ドレスを変えてから陛下のところにいきましょう。髪も整えます」
「なるべく早くお願いね…。はぁ…」
とてつもなく緊張が襲う。なんて言おう。今は仕事が忙しくピリピリ感がとても漂っているお父様の書斎なんて怒られる為に入りたくない…。
でも、早くいかないと永久外出禁止とか言われたら大変だ。ましてや心配性なのに。
《コンコン》
「お父様…ディーレです。ただいま戻りました…」
「…入れ」
「失礼します」
《ガチャ》
中に入るとそこには真剣な顔をしているお父様が書斎デスクにいた。山のように置かれた書類。サッと顔を上げ、筆をとめた。目線があってビクッとしてしまう。
「バトラー、少し下がれ」
「はい、陛下」
「ディーレ」
「ご、ごめんなさい…お父様」
父はそっと立ち上がり、目の前に立った。怖くて目を合わせられずにいた。低い声、背筋が震える。お父様なんてどうやっても騙せっこないのは分かっている。
「り、隣国に行こうと思って行った訳じゃないの…。人が倒れてて助けようと踏み入れた時に魔法を使って、それで…」
そっと顔を上げてみる。お父様の怒った顔が私を見下ろしていてすぐに下げた。そして、お父様の大きな手が肩にぽんと置かれた。お父様の低い声が聞こえた。
「ディーレ、怪我はしていないか?」
「う、うん。私は大丈夫」
「良かった…」
「心配してくれてありがとう…」
心から安堵するお父様に少し驚きながらも深く謝った。更に驚いたのが、お父様は私をぎゅっと抱きしめた。
「お、お父様!?」
「…」
お父様の不安に染まった顔を見たのは久しぶりだった。大抵自分が倒れて迷惑かけたと深く落ち込んでいる時の顔。かなり驚いたが、お父様はそっと離すといつもの顔に戻り、あの話が始まった。
「あれほど外は危ないと言ったのに、勝手に出ては駄目じゃないか。周りの人にどれほど迷惑を掛けたと思っているんだ。心配したんだぞ」
「ごめんなさい…」
「今は忙しい時期だから俺も無闇に動けないって言っただろ?騎士を送る連絡は来ていなかったから大丈夫だとは思ってはいたが、森まで行って何か自分の身に起きていたらどうする?隣国まで行けば俺だって手が届かないんだぞ」
「はい…」
「はぁ……。で、怪我をした人はどうなった?」
「え?あ、回復魔法を使って…、王都まで…。自分で歩けたり、話していたので大事には至らないと思います」
「そうか」
お父様はそう言うと背を翻して再び椅子に戻った。案外、怒られなかった…。もしやこのまま帰れるのではないかと希望を抱き始めた。
「ディーレ、約束しなさい。一人で、更には無断で外に出ないと。謹慎を言い受けたくは無いだろう?」
「は、はい!約束します」
「じゃ、下がってくれ」
「あ、お父様」
「どうした?」
忙しそうなお父様に私は早口で話し始めた。次会える時もこんなに話せないと思う。それに二人しかいない…。
「隣国のアストルムの裏社会で奴隷制度があるらしいの。どうにか出来ない…よね?」
「隣国か…すまないが、隣国の事に俺が口を出す事はできない…。この国に被害が無い上に裏社会の話になると国同士ではいがみ合う結果になる…その話、一体誰から聞いたんだ?」
「助けてあげた人がその奴隷の人だったの。この国に逃げて来た時に怪我をしたらしくて」
「…奴隷、か…」
お父様が分かりやすく顔を顰めた。こういう話は普段しないようにしているけれど、あからさまに嫌な表情を浮かべる。私達も身分を利用する時が出てくるけど、権力で全てをねじ伏せる事はしないように言われている。お父様は特に嫌い。お父様と祖父の時代が一番荒れていたらしい。お父様は最小年齢で王様にならざるを得ない状況だったらしいし、あまり昔の話は教えてくれない。自分で外に行って調べる他ない。
「ディーレ、だが俺のできる限り事はするつもりだ。取り敢えず今日の話はここまでにしてくれ。すまない、少し忙しいんだ」
「あ、ごめんなさい。お仕事頑張ってね」
「あぁ。約束、しっかり守りなさいよ」
「はーい!」
そう言って私はそっと部屋から出た。
あまり怒られなかったことにほっとして廊下を歩いている時だった。前から従者を引き連れて、もうお父様程の身長にもなっているのがこう見るとよく分かる。夜ご飯は家族みんなで食べる決まりを作っているのだが、お父様だけはいない日も多い。まぁ、二日ぶりに父にあったのが怒られる為だったけれど。昨日ぶりのお兄様。私を見ると近寄ってきて、少し礼をした。
「オディルお兄様!」
「やぁ、ディーレ。父上と会ったのか?」
「うん。さっき会ったけどとても忙しそうだった…お兄様も忙しくないの?」
「少しね。でも、一通り終わったから、報告して手伝える事があればまた執務に真っ当するよ」
「ふふっ、頑張ってくださいね。あ、そうだ、アイナお姉様はどこにいるか知ってる?」
「アイナは分からないな…部屋にいるんじゃないか?レイディオは稽古場で稽古してるだろうし」
「お母様は?」
「部屋にいるはずだよ。最近この時期は何かと忙しいからな…あ、ひょっとしてまた外に出てるのがバレたのか?」
「さぁ~、なんの事かしら?」
「はぁ、あまり無茶するんじゃないぞ?父上なんて凄く心配するんだから。母上にも言われたら父上より怒られるよ?謹慎じゃ、済まないかもね。一生外に出れないかも……」
「…」
「ジョーダンだよ!ディーレは自分の思うがままに進むから俺も心配なんだよ。それも良いとこだけどね」
「…なによ、それ」
「ハハッ、あ。いけない。俺、そろそろ行くよ。また夜に会おう」
「うん。またね」
オディルお兄様は優しく手を振り返して去っていった。みんな忙しそうだから、アイナお姉様も忙しいでしょうね…。これが二女の役目なんてすぐに終わってしまう。他国にいかないといけないのはうれしいけど長旅は疲れるのよね。と言ってもほとんど来てくれることしかないけど。
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