幸福者

青木倫

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幸福者

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働き初めて初めてのボーナスを貰った日、私はこの世の誰よりも幸福のような気がした。
確かに入社してからというもの、上司に頭を下げたり、同年代の成功を妬んだりと、充実感のない生活だった。
人というものは単純だな、と改めて実感した。
財があるだけで幸せと勘違いしてしまう。
だが、今だけはその勘違いに身を任せてもいい気がした。

銀行からいくらかおろしてきて何かパーッと使えるものはないかという思いに耽っていると、背後から何度も聞いたことがあるような男の声がした。
「幸せそうですね。面白い話だと思うんですけど一度私の話を聞いてみませんか」
特にする事が見つかっていなかったため、男の話を聞くことにした。
「私は記憶研究所のものです。単刀直入に言いますと、記憶を無くす薬を開発しました。使ってみませんか」
私は胡散臭いとは思ったが今だけは心が広い。
「もし、その話が本当だとしても記憶を無くすなんて需要が無いだろう。私は今、覚えたいことばかりだ。」
「そんなことありませんよ。あなただって忘れたくても忘れられない嫌な記憶だってあるでしょうそれを無くしたいとは思いませんか。」
「それもそうだな。で、いくらなんだ。どうせ金は取るんだろう。」
「はい。私たちも生活がありますので。ですがお試し価格ということで一粒だけですが1000円でどうですか。」
「1000円か。普段の私では出さなかったかもな。」
私は徐に財布を取り出し、1000円札を抜き取った。1000円札一枚でここまで変わるのか。銀行から引き出したときよりも財布が随分痩せていた。
男は1000円札と引き換えに大きめのラムネ菓子ほどの大きさの錠剤をくれた。
「これを水無しで呑み込んで下さい。その時に考えていることを忘れることが出来ます。」
私は遊ぶときくらいは、会社のことを忘れようと思い、その薬を口に含み上司等の会社のことを思い浮かべた。
思っていたよりも薬が大きい。何故こんなに薬を大きくしたのだ。もう少し飲みやすくしようと思わなかったのか。水くらい飲んでも良いじゃないか。
ゴクリ。

「幸せそうですね。面白い話だと思うんですけど一度私の話を聞いてみませんか。」
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