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第二章 支配地

第44話 帰還

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「おお、おかえりランカ君。また装備が変わっているな。凄いじゃないか」

「はは、どうもルガーさん。みんなのも作る予定なのでルドマンのお店に来てくださいね」

 オルコッドについてルガーさんに迎えられる。兵士さん達はミスリル装備になっている、流石にアスノシリーズではないけどね。

「ははは、無茶言わないでくれよ。これ以上はこちらの金がなくなってしまうよ」

 ルガーさんはそう言って首を横に振った。兵士さん達は装備にお金を使うことは少ないだろうから仕方ないな。冒険者のみんなに売る感じになるか。
 
「ランカさんは有名人なんですね」

「そうです! 師匠は凄いんです!」

「はは、なんでアスノ君が得意げなの」

 アビゲールが嬉しそうに聞いてくるとアスノ君が自慢げに答えた。恥ずかしいけど思わずアスノ君の頭を撫でてしまう。彼は魔性の少年ということなのだろう。

「……皆さんは宿屋に泊っているんですか?」

「え? そうだけど」

「僕も同じ宿に泊まりたいんですけどいいですか?」

 アビゲールは少し考えるように俯くと話し始めた。別に僕らが決めるわけじゃないけど。

「別にいいよ。宿屋が空いてれば大丈夫でしょ」

「ありがとうございます。この後僕は教会に行くので場所を教えてください」

 アビゲールは嬉しそうに答える。宿屋の場所を教えると馬車から降りて教会へと歩いていった。

「ふぅ。また一波乱ありそうだな」

 アビゲールの背中を見つめてため息をつく。勇者として派遣されてきたのは間違いなくセリスの件だろう。次代の魔王としてセリスは成長するからな。王都にはお抱えの預言者がいる。その人の命令でアビゲールが動き出した。あの預言者は魔物関係の話しか予言できないらしいからな。

「皆さん降りてください~。馬車は僕が預けてきますから」

「いつもありがとうアスノ君。じゃあ、宿屋でね」

 アスノ君に答えて馬車を降りる。ノイシュさんも増えているからガーフさんの宿屋は大繁盛だな。

「お帰りランカ! ってまた人が増えてんな」

 ガーフさんの宿屋に入るとガーフさんが驚いて迎えてくれた。アビゲールの事を話しておくか。

「あと一人増えているんですけど部屋空いてますか?」

「ん? あ~、部屋足りないな。ランカとアスノが相部屋にしないとダメか?」

 四部屋しかないってことか。まあ、仕方ないか。

「分かりました。それでお願いします」

「すまないな」

 とりあえず、アビゲールも泊まれるな。

「我が家のような安心感」

 僕は前と同じ部屋。ほっと胸をなでおろしてベッドに寝っ転がる。

「ランカ~。体拭くようのタオルとお湯持ってきたよ」

「あ、ありがとうレッド」

 扉を開ける前に声をあげてレッドが入ってくる。すでに鎧を脱いで軽い服装になってるな。僕も脱ごう。

「自室に帰ってくるとすぐに脱ぎたくなるわね」

 少し顔を赤くさせてレッドが見つめてくる。鎧を脱いだだけなのに僕も顔が熱くなるのを感じてしまった。

「私が拭いてあげようか?」

「はい?」

「冗談よ」

 顔を更に赤くさせて冗談を言ってくるレッド。湯の入った桶とタオルを置いて部屋を出ていった。冗談と分かっていてもお願いしたくなってしまった。だめだな、彼女は僕を弟と重ねているだけだっていうのに。

「ししょ~、お背中お流しします~ってもう終わってました?」

「ははは、終わってるよ」

 体をふき終わるとアスノ君が入ってくる。馬車を片付けて急いで帰ってきたのか、凄い汗をかいてるな。

「御者もしてくれてアスノ君には助けられてる。代わりに僕が背中を流すよ」

「ええ!? そ、そんな師匠にそんなこと~。お願いします!」

 僕の提案を断ると思いきや、話ながら鎧と服を脱いでいく。やってもらう気満々だな。

「小さな背中」

「む! 僕は育ちざかりなんです! これから大きくなります!」

 背中を拭いていると思わず呟く。頬を膨らませて憤りを露わにするアスノ君。彼はこのままでいてほしいけどな。
 アスノ君の背中を流し終わるとみんなが集まる食堂に向かう。そこにはすでにアビゲールも来ていた。

「ランカさん。待っていました」

 レッドと向かい合わせで座っていたアビゲールが自分の隣の席を叩いて呼んでくる。いわれるまま座ると嬉しそうに微笑んできた。

「ランカ。吸血鬼について話を聞きたいんですって。言っていいのか私じゃ判断できなくて」

 レッドがすでに聞かれたのか声をあげる。セリスの事を話していいものなのか。少し悩むけど、危険が無い事を伝えれば大事にはならないか。

「セリスっていう名前の吸血鬼とその仲間達と知り合ったんだ。でも、安心してほしい。彼女たちは絶対に町を襲ったりはしないよ」

「……絶対ですか?」

「え……」

 アビゲールは鋭い目つきで聞いてくる。僕が驚いて言葉に詰まっていると大きなため息をついた。

「僕の家族は魔物に殺されたそうです」

 悲しそうなアビゲールの声。

「小さなゴブリン達で大人達は危険がないからと言って放置していました。そして、村人と両親は僕を残して全員……」

「……」

 彼女の言葉に僕は頷いた。僕は知ってる。ゲームの世界の勇者の過去だからね。乳飲み子だった彼女はゴブリンの顔を見て大泣きして難を逃れたんだよな。それを思い出して、僕は瞳に涙を溜める。

「泣いているんですか?」

「は、ははは。ごめんね涙もろくてね」

 心配してくれるアビゲール。彼女はノンとはまた違う不幸なキャラクターだ。それが現実となって僕の前に現れてくれた。彼女も救うことが出来るのか、感無量だ。

「セリスが何かしてしまったら僕が責任を取るよ」

「え!? 魔の者が起こしたことの責任を!? それだけ信用しているってことですか?」

 僕の言葉に驚くアビゲール。彼女の疑問に僕は無言で頷く。ラスボスであるセリスは平和を祈って力を求めたキャラクターだ。盗賊や山賊を思っていたという記述はあったけど、町を襲ったことはないはず。

「そんなに……、本当にランカさんは優しいですね。皆さんが言っていた通りだ」

「え? みんなって?」

 アビゲールは少し顔を赤くして呟く。気になって疑問を投げかけるとノイシュさん達が手を挙げてる。

「ランカさんの仲間達はもちろんのこと、冒険者ギルドの皆さんから聞きました。みんなの為にルドマンさんと一緒に働いてくれてるって。アドラーさんなんか足を向けられない、なんて言っていましたよ」

「ははは、何だか恥ずかしいな」

 アビゲールが説明してくれる。褒められ慣れていないから顔が熱くなる。

「ぜひ、そのセリスっていう方に会わせてもらっていいですか? そんなにいうなら一目見ておきたいので」

「ん~、まあ大丈夫かな」

「ありがとうございます! もちろん、お金は教会から出ますからね」

 アビゲールが深くお辞儀をしてお礼を言ってくる。
 思わぬ状況だけど、また一人バッドエンドから救えると思うと感慨深いものがある。ついでにセリスも救えれば万々歳なんだけどな。
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