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第2章 王国と魔道
第94話 エリザベート
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「ありがとうムラタ殿。助かった」
「いえ……」
エスメル様が目覚めて朝を迎えた。僕は一睡もしないでジャネット達と一緒に彼女を見守っていた。流石に眠い。だけど、まだ寝るわけにはいかない。
「エスメル様。エリザベート様って誰なんですか?」
僕は彼女が傷ついて帰ってきたことよりも、ジャネットを見て名前を呼んだ方が気になった。素直にそれを聞く。エスメル様は考え込んでから、真っすぐ僕を見つめてくる。
「私がこうしていられるのもエリザベート様のおかげ。私が私でいられるように助言をくれた方だ。恩人、師匠と言った方がいいかもしれないな」
エスメル様はそう言ってジャネットと僕で視線を反復させる。嬉しそうに微笑む彼女はなんだか子供に戻ったみたいだ。
「なんでジャネットを見て?」
「ん? ははは、その理由はわかっているんじゃないか?」
僕の疑問に彼女は笑って問いかけてくる。
わかってるよ。でも、名前が違う。ジャネットはジャネットだ。でも、思ってみればジャンもルティという本当の名前を持ってる。
ジャネットが別の名前を持っていてもいいんだ。
「ジャネット?」
「私がエリザベート……。記憶がありません。本当に?」
ジャネットに声をかける。すると彼女は首を傾げてエスメル様に問いかける。エスメル様は大きくうなずいて涙を浮かべる。
「初めてあった時、私は感動していた。でも、何もわかっていない様子だったから聞かなかったし、言わなかった。リッテンを屠った時に足早にオルディナに向かったのも、恥ずかしかったんだ。エリザベート様と共同で敵を倒した。それがとても嬉しくて、頬が緩んでしまっていたから」
エスメル様は嬉しそうにジャネットを真っすぐ見つめて話してくれる。彼女は子供が両親に、今日の出来事を話すように報告してくれる。とても幸せそうで、今にもジャネットに抱き着いてしまいそうだ。
「私は……。私がそのエリザベート?」
「はい。私の知っているエリザベート様よりも若い姿ですけど」
「……」
ジャネットの疑問にエスメル様は真っすぐな瞳で答える。嘘を言っていないと一目でわかる。
でも、ジャネットはまだ納得していないみたいだ。
「私は……冒険者となって強くなった。ドラゴンを一人で討伐して。オスロードとリスロードと友になり、家族になった。そして、復讐を忘れて、弟を忘れて、幸せに溺れた。ただそれだけの……」
ジャネットは後悔を口にするように話してくれる。
”オスロード”、それって王都の名前だよね。国の名前でもある人と仲良くなって家族になった。それって彼女が王族になったってこと?
……違うそうじゃない。僕の胸を締め付けるこの感覚は……ジャネットが別の人と仲が良かったことへの嫉妬だ。苦しい、彼女が愛した人がいる。僕と違う、本当の愛を知っている人がいるんだ。
「オスロードは私の父です。父はエリザベート様が死んだときからおかしくなった。それを治す方法をゼグラデムから聞いて実行した。すると驚くことに、父はエルフへと変貌を遂げた。エルフが父に化けていたのだ……」
「え……」
エスメル様は驚愕の真実を話し出した。これは僕が知っていい話なのか?
「ゼグラデムは私に魔根の球のかけらを差し出してきた。それを父、オスロードの胸に押し当ててみろと言ってきた。それが嘘ならば切りに来る。と言って王都に向かった私はすぐにそれを実行した。すると魔根の球のかけらが父だと思っていた男のマナを吸い始めた。かけらがマナをめいいっぱい吸うと、父だった姿がエルフの青白い肌へと変わっていった。耳もとがり、やつは口角をあげて見つめてきた。そして、こういったんだ。『滑稽だったぞ。フォッフォッフォ』と。私は大剣をそのエルフに振り下ろした」
エスメル様は思い出して話すと、悔しそうにこぶしを握る。血が滲んでベッドを赤く染める。
「城はエルフの手の者が入り込んでいた。一人、二人と切り捨てた私は我を忘れる程怒り狂った。襲い掛かってくるエルフを倒して城内を歩いていると、一人のエルフが私の前に立ちふさがった。白銀の仮面をかぶったエルフは得意げに手をかざしてきて、口元を緩ませていたよ。そして、次の瞬間。私は吹き飛ばされていた。オルクスに近い森の中まで吹き飛ばされた私は、息も絶え絶えで何とか帰ってくることが出来た。奴の魔法はゼグラデム並みの威力だった」
エスメル様は打ち震えながら話す。
ゼグラデムと同じくらい、そんな強いエルフがいる。僕は大きなため息が出る。なんでそんな力があるのに争うことを考えてしまうんだ。
ゼターを爆発させたような、あんな魔法を持っているのに何で争うんだ。そんな力を使ったらどうなるかくらいわかるじゃないか。たまらなく怒りがこみあげてくる。なんて自分勝手な人達なんだ。エスメル様のお父さんに化けるのも腹が立つし。
「端的に言うと、私は負けた。いや、オスロード王国が負けたというべきか。エリザベート様のご遺体を埋葬に行った父上は帰ってこなかったんだ。帰ってきたのはエルフで、本物の父上じゃなかった」
悲しそうに話すエスメル様。それを聞いてジャネットはいたたまれない様子で胸を抑える。でも、彼女はまだ思い出せていない。自分がエリザベートであった記憶を。
「父上はエリザベート様と結ばれて私をこの世界に落としてくれた。私はずっと母はいないと言われて育てられた。それはエリザベート様がハーフエルフだったから。ハーフエルフは人間とエルフに嫌われていた。王族にその血が入っていると言われるのを避けるためにエリザベート様、お母様は涙をのんでいてくれた。う、うう……」
「エスメルさん……」
エスメル様は話が終わると泣き出してしまった。たまらずジャネットが慰めるように抱きしめる。
彼女に抱きしめられると、ダムが決壊するように号泣するエスメル様。宿屋の僕の部屋が悲しい声で満たされていく。今まで彼女がどれだけ我慢してきたのかが分かる。とても悲しくて、いたたまれない涙だ。
「いえ……」
エスメル様が目覚めて朝を迎えた。僕は一睡もしないでジャネット達と一緒に彼女を見守っていた。流石に眠い。だけど、まだ寝るわけにはいかない。
「エスメル様。エリザベート様って誰なんですか?」
僕は彼女が傷ついて帰ってきたことよりも、ジャネットを見て名前を呼んだ方が気になった。素直にそれを聞く。エスメル様は考え込んでから、真っすぐ僕を見つめてくる。
「私がこうしていられるのもエリザベート様のおかげ。私が私でいられるように助言をくれた方だ。恩人、師匠と言った方がいいかもしれないな」
エスメル様はそう言ってジャネットと僕で視線を反復させる。嬉しそうに微笑む彼女はなんだか子供に戻ったみたいだ。
「なんでジャネットを見て?」
「ん? ははは、その理由はわかっているんじゃないか?」
僕の疑問に彼女は笑って問いかけてくる。
わかってるよ。でも、名前が違う。ジャネットはジャネットだ。でも、思ってみればジャンもルティという本当の名前を持ってる。
ジャネットが別の名前を持っていてもいいんだ。
「ジャネット?」
「私がエリザベート……。記憶がありません。本当に?」
ジャネットに声をかける。すると彼女は首を傾げてエスメル様に問いかける。エスメル様は大きくうなずいて涙を浮かべる。
「初めてあった時、私は感動していた。でも、何もわかっていない様子だったから聞かなかったし、言わなかった。リッテンを屠った時に足早にオルディナに向かったのも、恥ずかしかったんだ。エリザベート様と共同で敵を倒した。それがとても嬉しくて、頬が緩んでしまっていたから」
エスメル様は嬉しそうにジャネットを真っすぐ見つめて話してくれる。彼女は子供が両親に、今日の出来事を話すように報告してくれる。とても幸せそうで、今にもジャネットに抱き着いてしまいそうだ。
「私は……。私がそのエリザベート?」
「はい。私の知っているエリザベート様よりも若い姿ですけど」
「……」
ジャネットの疑問にエスメル様は真っすぐな瞳で答える。嘘を言っていないと一目でわかる。
でも、ジャネットはまだ納得していないみたいだ。
「私は……冒険者となって強くなった。ドラゴンを一人で討伐して。オスロードとリスロードと友になり、家族になった。そして、復讐を忘れて、弟を忘れて、幸せに溺れた。ただそれだけの……」
ジャネットは後悔を口にするように話してくれる。
”オスロード”、それって王都の名前だよね。国の名前でもある人と仲良くなって家族になった。それって彼女が王族になったってこと?
……違うそうじゃない。僕の胸を締め付けるこの感覚は……ジャネットが別の人と仲が良かったことへの嫉妬だ。苦しい、彼女が愛した人がいる。僕と違う、本当の愛を知っている人がいるんだ。
「オスロードは私の父です。父はエリザベート様が死んだときからおかしくなった。それを治す方法をゼグラデムから聞いて実行した。すると驚くことに、父はエルフへと変貌を遂げた。エルフが父に化けていたのだ……」
「え……」
エスメル様は驚愕の真実を話し出した。これは僕が知っていい話なのか?
「ゼグラデムは私に魔根の球のかけらを差し出してきた。それを父、オスロードの胸に押し当ててみろと言ってきた。それが嘘ならば切りに来る。と言って王都に向かった私はすぐにそれを実行した。すると魔根の球のかけらが父だと思っていた男のマナを吸い始めた。かけらがマナをめいいっぱい吸うと、父だった姿がエルフの青白い肌へと変わっていった。耳もとがり、やつは口角をあげて見つめてきた。そして、こういったんだ。『滑稽だったぞ。フォッフォッフォ』と。私は大剣をそのエルフに振り下ろした」
エスメル様は思い出して話すと、悔しそうにこぶしを握る。血が滲んでベッドを赤く染める。
「城はエルフの手の者が入り込んでいた。一人、二人と切り捨てた私は我を忘れる程怒り狂った。襲い掛かってくるエルフを倒して城内を歩いていると、一人のエルフが私の前に立ちふさがった。白銀の仮面をかぶったエルフは得意げに手をかざしてきて、口元を緩ませていたよ。そして、次の瞬間。私は吹き飛ばされていた。オルクスに近い森の中まで吹き飛ばされた私は、息も絶え絶えで何とか帰ってくることが出来た。奴の魔法はゼグラデム並みの威力だった」
エスメル様は打ち震えながら話す。
ゼグラデムと同じくらい、そんな強いエルフがいる。僕は大きなため息が出る。なんでそんな力があるのに争うことを考えてしまうんだ。
ゼターを爆発させたような、あんな魔法を持っているのに何で争うんだ。そんな力を使ったらどうなるかくらいわかるじゃないか。たまらなく怒りがこみあげてくる。なんて自分勝手な人達なんだ。エスメル様のお父さんに化けるのも腹が立つし。
「端的に言うと、私は負けた。いや、オスロード王国が負けたというべきか。エリザベート様のご遺体を埋葬に行った父上は帰ってこなかったんだ。帰ってきたのはエルフで、本物の父上じゃなかった」
悲しそうに話すエスメル様。それを聞いてジャネットはいたたまれない様子で胸を抑える。でも、彼女はまだ思い出せていない。自分がエリザベートであった記憶を。
「父上はエリザベート様と結ばれて私をこの世界に落としてくれた。私はずっと母はいないと言われて育てられた。それはエリザベート様がハーフエルフだったから。ハーフエルフは人間とエルフに嫌われていた。王族にその血が入っていると言われるのを避けるためにエリザベート様、お母様は涙をのんでいてくれた。う、うう……」
「エスメルさん……」
エスメル様は話が終わると泣き出してしまった。たまらずジャネットが慰めるように抱きしめる。
彼女に抱きしめられると、ダムが決壊するように号泣するエスメル様。宿屋の僕の部屋が悲しい声で満たされていく。今まで彼女がどれだけ我慢してきたのかが分かる。とても悲しくて、いたたまれない涙だ。
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