5 / 22
第5話 救いの後
しおりを挟む
極寒の冬が終わる。
雪山も春を彩る木々の色が蘇っていく。龍は歌い、風も歌う。冬と違い二つの勢力のコンチェルトが耳心地のいい音になる。
ラトスが来て一か月、恋心が実りの春を迎える。それを祝う様に龍が鳴く、風も歌う。少し残る雪も歩くたびに祝いの声をパリッと上げる。二人の歩く道はすべてが祝いの声が上がった。枝の折れる音、緑の葉の擦れる音、石と石の当たる音、そのすべてが二人の幸せに導く。
その音はビートにも届く、背中のドラゴンの卵がとても温かく脈打つ。二人を見て大喜びのビートと同じようにドラゴンの卵もまた、幸せを感じて沸騰している。
ビートを温めるドラゴンの卵は更に熱をあげて祝いの熱とした。
「ビート。君は特別な力を持ってる」
一緒に暮らすようになったラトスがビートの視線に合わせて腰を落とす。そして、告げる。
町で得た知識を彼に教えていく中で、しっかりとビートは特別なのを知らせる。
ラトスでも割れないドラゴンの卵。冒険者でもある彼は剣を持っていた。この世界では剣を持つのは当たり前のこと。魔物いる世界、自分の身は自分しか守れないから。
そんな彼でも割れない卵。本当にドラゴンの卵なのかもしれないとラトスは告げる。
そして、その卵がビートを選んだ。彼はそう言ってビートの頭を撫でる。
「冒険者になりたいんだよね? 町に行くならわかっている必要がある。力だけじゃ危険だ」
ビートと話す中で、彼の夢を知った。父親の影響で冒険者に夢を見ていたビートに、ラトスは苦言を述べる。『決して夢見るような職業じゃない』。
下を向き、申し訳なさそうに告げられる夢の評価にビートは顔を曇らせる。
続けてラトスは『貴族や王族を優先する世界。正義なんてないんだ。僕は医者もしていたからね。流行り病の時に貴族を助けるために平民をないがしろにした』。
罪を話す罪人のように後ろめたく告げる彼はとても悲しく拳を作る。
それが嫌で彼は旅をしながら医者と冒険者を続けていた。それを聞いてビートは目を輝かせる。
「ラトス凄い!」
東で病を治して、西で魔物を倒す。北で男性を助けて、南で女性を助ける。そんな彼の姿にビートは大興奮。『僕もラトスみたいになりたい!』そう言って鼻息荒く笑う。
無邪気な彼に罪を感じていたラトスはクスッと笑った。
彼は自分を卑下していたことをおかしく感じた。思ってみれば助けられる力があるから悩めるんだ。選択できるから悩める。
その力があるのだから助ければいい。それが恥ずかしいことなどと思うことがおかしかった。シーナとビートとの出会いもまたこの力のおかげ。
町に来たノットンが必死に医者を探していた。それを見た彼が手をあげて安い金額で来てくれた。その出会いのおかげでシーナとビートは幸せになった。ラトスも同じだった。
自分を攻めて酒におぼれる日もあった。そんな日は一日として訪れることのないシーナとビートとの日々。彼もまた幸運。
「ふふ、ビートったら」
冒険者の現実と、ラトスの過去を聞いたビートは、居てもたっても居られなかった。卵を背中に背負って雪の溶け切った木々を渡り走る。
山の頂上と家を行ったり来たり、自然と訓練を始める。ドラゴンの卵はそれを応援するように彼の周りを温める。
春が芽吹き、ビートの精神も成長を遂げていく。風を感じ、龍を感じ踊るように走る。
ラトスから剣を借りて風きりの音を龍にプレゼントする。嬉しく揺れるドラゴンの卵は今か今かと揺れる。
それに嬉しく呼応するビートは日が落ちるまで剣を振った。
「ビート。楽しいのはいいけれど、そろそろ休みなさい」
「そうだよビート。休むのも体の作る仕組みのひとつなんだから」
いつも一つだった彼を迎える声。二つに増えて喜びが倍になった。
たまに帰ってくる人よりも、毎日迎えてくれる声の方がいい。子供ながらにビートはそう思いニッコリと微笑む。
ビートの訓練は更に厳しさを上げていく。山脈の尾根を走り、クレパスを越えて、いつもの森とは別の森を歩く。
人のはいれないような険しい森。動物も一回り大きく、魔物も住んでいる森。誰もが恐れる森、だけどビートの前では森に変化なしだった。
「……みんな逃げてく」
ビートを見つけると逃げていく緑色の肌の小人、ゴブリンだ。ビートもゴブリンだと思って剣を構えた。恐怖が先行して逃げようかと思ったら離れていくゴブリン。
人が怖いのかな? 単純にこんな森にいるんだから逃げてきた魔物かもしれない。可愛そうだから何もしないであげよう。
ビートはそう思い散策を再開させた。熊が出た、逃げた、シカが出た、逃げた。緑色の肌を持つ巨人が出た、逃げた。
視覚からの刺激は楽しいけど、訓練にならないとため息をつくビート。
「僕は怖くないよね。ドラゴンの卵が怖いのかな?」
温かさが涼しさに変わるドラゴンの卵。すべての脅威からビートを守ってくれてる。
それが魔物や動物は敏感だからわかってしまうんだ。人にはわからない感覚。嬉しいんだけど、なんだかつまらない。
ビートは山々をかけて、森を散策していく。それは春を越えて夏になっても変わらなかった。
春と夏は短く秋になるとすぐに雪が帰ってくる。いつもの風景にビートは胸を躍らせる。
雪山には龍がいるからだ。6歳の冬、ビートはその謎に迫る。
雪山も春を彩る木々の色が蘇っていく。龍は歌い、風も歌う。冬と違い二つの勢力のコンチェルトが耳心地のいい音になる。
ラトスが来て一か月、恋心が実りの春を迎える。それを祝う様に龍が鳴く、風も歌う。少し残る雪も歩くたびに祝いの声をパリッと上げる。二人の歩く道はすべてが祝いの声が上がった。枝の折れる音、緑の葉の擦れる音、石と石の当たる音、そのすべてが二人の幸せに導く。
その音はビートにも届く、背中のドラゴンの卵がとても温かく脈打つ。二人を見て大喜びのビートと同じようにドラゴンの卵もまた、幸せを感じて沸騰している。
ビートを温めるドラゴンの卵は更に熱をあげて祝いの熱とした。
「ビート。君は特別な力を持ってる」
一緒に暮らすようになったラトスがビートの視線に合わせて腰を落とす。そして、告げる。
町で得た知識を彼に教えていく中で、しっかりとビートは特別なのを知らせる。
ラトスでも割れないドラゴンの卵。冒険者でもある彼は剣を持っていた。この世界では剣を持つのは当たり前のこと。魔物いる世界、自分の身は自分しか守れないから。
そんな彼でも割れない卵。本当にドラゴンの卵なのかもしれないとラトスは告げる。
そして、その卵がビートを選んだ。彼はそう言ってビートの頭を撫でる。
「冒険者になりたいんだよね? 町に行くならわかっている必要がある。力だけじゃ危険だ」
ビートと話す中で、彼の夢を知った。父親の影響で冒険者に夢を見ていたビートに、ラトスは苦言を述べる。『決して夢見るような職業じゃない』。
下を向き、申し訳なさそうに告げられる夢の評価にビートは顔を曇らせる。
続けてラトスは『貴族や王族を優先する世界。正義なんてないんだ。僕は医者もしていたからね。流行り病の時に貴族を助けるために平民をないがしろにした』。
罪を話す罪人のように後ろめたく告げる彼はとても悲しく拳を作る。
それが嫌で彼は旅をしながら医者と冒険者を続けていた。それを聞いてビートは目を輝かせる。
「ラトス凄い!」
東で病を治して、西で魔物を倒す。北で男性を助けて、南で女性を助ける。そんな彼の姿にビートは大興奮。『僕もラトスみたいになりたい!』そう言って鼻息荒く笑う。
無邪気な彼に罪を感じていたラトスはクスッと笑った。
彼は自分を卑下していたことをおかしく感じた。思ってみれば助けられる力があるから悩めるんだ。選択できるから悩める。
その力があるのだから助ければいい。それが恥ずかしいことなどと思うことがおかしかった。シーナとビートとの出会いもまたこの力のおかげ。
町に来たノットンが必死に医者を探していた。それを見た彼が手をあげて安い金額で来てくれた。その出会いのおかげでシーナとビートは幸せになった。ラトスも同じだった。
自分を攻めて酒におぼれる日もあった。そんな日は一日として訪れることのないシーナとビートとの日々。彼もまた幸運。
「ふふ、ビートったら」
冒険者の現実と、ラトスの過去を聞いたビートは、居てもたっても居られなかった。卵を背中に背負って雪の溶け切った木々を渡り走る。
山の頂上と家を行ったり来たり、自然と訓練を始める。ドラゴンの卵はそれを応援するように彼の周りを温める。
春が芽吹き、ビートの精神も成長を遂げていく。風を感じ、龍を感じ踊るように走る。
ラトスから剣を借りて風きりの音を龍にプレゼントする。嬉しく揺れるドラゴンの卵は今か今かと揺れる。
それに嬉しく呼応するビートは日が落ちるまで剣を振った。
「ビート。楽しいのはいいけれど、そろそろ休みなさい」
「そうだよビート。休むのも体の作る仕組みのひとつなんだから」
いつも一つだった彼を迎える声。二つに増えて喜びが倍になった。
たまに帰ってくる人よりも、毎日迎えてくれる声の方がいい。子供ながらにビートはそう思いニッコリと微笑む。
ビートの訓練は更に厳しさを上げていく。山脈の尾根を走り、クレパスを越えて、いつもの森とは別の森を歩く。
人のはいれないような険しい森。動物も一回り大きく、魔物も住んでいる森。誰もが恐れる森、だけどビートの前では森に変化なしだった。
「……みんな逃げてく」
ビートを見つけると逃げていく緑色の肌の小人、ゴブリンだ。ビートもゴブリンだと思って剣を構えた。恐怖が先行して逃げようかと思ったら離れていくゴブリン。
人が怖いのかな? 単純にこんな森にいるんだから逃げてきた魔物かもしれない。可愛そうだから何もしないであげよう。
ビートはそう思い散策を再開させた。熊が出た、逃げた、シカが出た、逃げた。緑色の肌を持つ巨人が出た、逃げた。
視覚からの刺激は楽しいけど、訓練にならないとため息をつくビート。
「僕は怖くないよね。ドラゴンの卵が怖いのかな?」
温かさが涼しさに変わるドラゴンの卵。すべての脅威からビートを守ってくれてる。
それが魔物や動物は敏感だからわかってしまうんだ。人にはわからない感覚。嬉しいんだけど、なんだかつまらない。
ビートは山々をかけて、森を散策していく。それは春を越えて夏になっても変わらなかった。
春と夏は短く秋になるとすぐに雪が帰ってくる。いつもの風景にビートは胸を躍らせる。
雪山には龍がいるからだ。6歳の冬、ビートはその謎に迫る。
23
あなたにおすすめの小説
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない
戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」
辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――!
現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、
中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。
怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として
荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。
だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、
貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。
『良領主様』――いや、『天才王子』と。
領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、
引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい!
「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」
社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく!
――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚!
こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています
是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~
Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。
三男。継承権は遠い。期待もされない。
——最高じゃないか。
「今度こそ、のんびり生きよう」
兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。
静かに暮らすつもりだった。
だが、彼には「構造把握」という能力があった。
物事の問題点が、図解のように見える力。
井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。
作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。
気づけば——領地が勝手に発展していた。
「俺ののんびりライフ、どこ行った……」
これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる