ビートとドラゴン 殻を破るは人か龍か

カムイイムカ(神威異夢華)

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第17話 輝き失った町

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 パンの匂いもなくなった町ツィーダ。ビートは朝目覚めると龍の声を思い出す。風と一緒に鳴いていた声、町では隣の部屋の怒鳴り声になってる。薄い壁の先から聞こえる声は龍よりもうるさい。
 更に隣の人と喧嘩をしてるみたいだ。あまりいい人達じゃないのが分かる。毎日別の宿屋にしているけれど、あまり変化はない。夜に男女の声が聞こえたりしてあまりいい環境じゃないのはビートでもわかった。なんで夜にあんな声を上げているのかわからずに何とか眠りについてる。
 生ごみの匂いがする路地を抜けて冒険者ギルドに到着する。不快、昔のツィーダの町はほんとに綺麗だった。ビートは悔しさが募る。

「あ、おはようビート君。今日はポーションを入れてくれるの?」

 冒険者ギルドに入ると、ほのかな金木犀の匂いを香らせるオリビアが声をかけてくる。最初に会ったときはリンゴのような香りだった。嬉しくて頬が緩むビートは大きくうなずいてポーションの入った革袋を見せる。
 『レッシーさんのお店で働いていたのね。しばらく卸してくれなかったけど再開してくれて嬉しい』、オリビアはそう言って透明の瓶に革袋からポーションを移していく。
 綺麗な赤いポーションが革袋一つで二瓶になっていく。試験管のような細い瓶、瓶も用意できればもう少し高く買い取ってもらえるんだけど、そこまではできない。火を扱う広さはレッシーの店にはないから。

「最近ポーションの性能があがったって、みんな言ってるのよ。もしかしてビート君が作ってるの?」

 オリビアは自分のことのように喜んで報告する。顔を近づける彼女から強い金木犀の香りが鼻をくすぐる。外の生ごみの匂いを嗅いできたビートは、胸がホッとして落ち着いて頷く。
 やっぱり、と言って彼女はビートの頭を撫でた。ありがとうね、とお礼を言って撫でまわす彼女にビートは顔を赤くさせる。シーナに撫でられてるみたいで体が温かくなる。
 オリビアがいてくれるからこの町でやっていけてる、そう思える程安心する瞬間だった。
 でも、それを壊す奴がいる。シュラインだ。冒険者ギルドの扉が勢いよく開く。ズカズカと近づいてくる足音。ビートは嫌な予感がして音に振り返る。

「まだ見つからないのか! アダマンタイトは!」

 シュラインはそう言って受付を叩く。オリビアは笑顔で応対して依頼を受けれない理由を話す。アダマンタイトはどこでも手に入るものではない。この大陸では手に入らないと言っても、シュラインは聞く耳を持たなかった。
 無能、役立たず、そう吐き捨ててくるシュライン。ビートはオリビアが唾を吐きかけられても我慢した。拳から血が出る程の我慢をしていた。
 早く帰ってくれ、そうしないと僕は。ビートは拳を固めて俯く。この拳がシュラインに届いたらきっと死んでしまう。そう思いながら我慢した。貴族を殺めたら何が起こるかわからない。ビートはラトスに教えてもらった通りに我慢をした。

「ちぃ! もういい! 役立たずの冒険者ギルドめ! 商人ギルドに依頼する! 覚えておけ、儂の依頼を達成できなかったつけを払わせてやる!」

 オリビアも我慢強く応対してシュラインは捨て台詞を吐いてギルドを出ていった。大きなため息をつく彼女にビートも続いてため息をつく。拳から血が出て床に滴る。ビートは傷口をなめて治すとオリビアが驚いて彼の手を抑える。

「どうしたの! まさか拳を握って? 私を心配してくれたの?」

 オリビアは泣き出しそうに目に涙をためて声をかける。ビートは照れくさそうに頭を掻いて頷く。『あと少しで殴ってしまうところでした』、ビートは素直に笑いながら答える。するとオリビアはビートの手を取って血を見つめる。
 『貴族様に手を出しちゃだめ。この間も言ったけど、私が傷つけられたとしても手を出しちゃダメよ。見て見ぬふりをするの。そうしないと、あなたがひどい目にあう。そんなの私はみたくないからね』、オリビアは悲しい表情でそういうと傷ついた手にポーションをかけてくれる。
 シューと音と湯気を出して治っていく傷口。ビートのポーションは確かに効果が高かった。

「ふふ、実演しちゃったね。本当に人気があるんだよ、ポーション。みんな買うから品薄になっちゃって困ってるけどね」

 オリビアは涙をぬぐって教える。ビートは温かな彼女の手を見つめて話を聞いていなかった。シーナの手を思い出す彼は人肌が恋しくなっているようだ。
 昔よりも冷たくなったツィーダの町はビートの心を冷たくさせていく。ドラゴンの卵もまた冷たく凍えていく。

「ビート君って毎日凄い荷物を持ってるわね。何が入ってるの?」

 ドラゴンの卵の入っているリュックに興味津々のオリビア。気になっていたのに今まで詮索しなかった彼女はとうとう口にしてしまう。『言いたくなければいいんだけど』と付け加えるが顔はリュックを覗こうとしている。ビートは人差し指を口に着けて『内緒です』と伝える。
 残念そうにするオリビアはすぐに気持ちを切り替えて満面の笑みに変わる。
 ビートのツィーダの町での生活は冷たくて厳しいけれど、雪山の厳しさよりは優しい。匂いはきついけれど、温かい人が沢山いる。いいところに目を向けて力強く暮らしていくビート。
 たまに思い出す銀世界の無臭の空間、龍と風のコンチェルト。帰りたいと思いながらも、彼はツィーダの町も好きになっているのを感じた。
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