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第一章 落とされたもの

第5話 才能

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「落とし物バッグの中の人達はどうなってるのかな?」

 シエルさんと出会って、中の人達のことが心配になる。みんなだしたら大混乱になっちゃうだろうから出せないんだよな。

「まだまだ僕じゃ守れない。少しずつ人を出していくしかないな~。それには強さも必要だよね」

 金銭的な強さと肉体的な強さがないと誰も守れない。
 孤児院にいた時も貴族に連れられて行った女の子がいたんだ。エマさんは彼女を守ろうと抗議したんだけど、守れなかった。お金を突きつけてきたり、脅してきたり、本当にひどかったんだ。
 ……思い出したら腹が立ってきた。いつか、あの子も助けてあげたいな。

「それにはまず……才能だよな」

 落とし物バッグの中の才能を取り出す。戦士、魔法使いをとりあえず獲得しておこう。

「へ~、才能ってアイテムだとこうなってるのか」

 まるで水晶のような才能。どうやって使うのかな?

「触るだけじゃダメなのかな? あれ?」

 そう思って触っていると水晶が淡く光りだす。徐々に光が強くなってきて目を開けていられないほどの光になると、その光が手から体に入ってきた。

「か、体が熱い……」

 熱いスープを無理して飲んだ時みたいだ。二つの才能を一遍にやったからかな……。

「アートさん!? アート様大丈夫ですか?」

「シエルさん……」

 熱さでたまらずベッドにうつ伏せになっているとシエルさんが部屋に入ってきた。なぜか着崩しているけど、今はそれどころじゃない。

「熱い……」

「服を脱がせますね!」

 熱すぎて頭がボーっとしてきた。僕の声を聞いてシエルさんが服を脱がしていく。

「み、水を」

「はい! すぐに持ってきます」

 着崩したままシエルさんが一階に駆けていく。しばらくすると水を手で掬って持ってきてくれるけど、ほとんど水がこぼれてる。コップはなかったか。

「ごめんなさい。これだけしか」

「だ、大丈夫、ありがとうシエルさん」

 残った水を飲ませてくれるシエルさん。涙を浮かべて謝る彼女。いい子だな。
 いつまでも泣かせている場合じゃない。すぐに回復しないと。
 僕は熱い体に鞭打って、落とし物バッグの中に手を伸ばす。中を見ることが出来ないから思い浮かべる。状態異常を治すポーション、キュアポーションを。

「ポーションですね!? すぐに飲ませます!」

「ありがとシエルさん」

 泣きながらポーションを飲ませてくれるシエルさんにお礼を言うと意識を手放した。

「あれ? 僕は確か」

 真っ暗な視界が広がる中、呟く。才能を二つ手に入れようとして体が熱くなって……。

「シエルさんの泣き顔を最後に……。もしかして、僕は死んでしまったのかな?」

 思わずそんなことを思う。だけど、たぶん違う。

「戦士と魔法使いの才能?」

 赤と青の光が近づいてくる。なぜか直感でそれが何か分かった。すでに僕の中にいる才能だからかな。

「アート様……」

「シエルさん……」

 赤と青の光が僕の中に入るのを見届けると意識が元に戻る。ほとんど裸のシエルさんが添い寝してくれてる……!?

「わ~!?」

「ん~ん? アート様!? 大丈夫ですか? ご気分は?」

 シエルさんに驚いていると彼女も起きて僕を心配してくれる。僕も裸で体をまさぐられる。くすぐったいし恥ずかしい。

「だ、大丈夫だよシエルさん。心配かけてごめんね」

「ほ、本当に大丈夫なんですか? あんなに熱くなられて……」

 大丈夫と言っても心配そうに見つめてくるシエルさん。確かに昨日は危なかった。才能をもらうとあんなに熱を持つなんて思わなかったな。
 みんなは生まれた時に才能をもらうわけだけど、その時は赤ん坊だ。赤ん坊の体温が高いのはそう言うことなのかな。

「うん! もう元気いっぱいだよ。心なしか筋肉もついてるような……って本当についてる」

 力こぶを見せると本当に盛り上がる。腹筋もいい感じについていて、カッコいいかも……。才能って凄いな。

「本当に逞しくなられています。とてもカッコいい」

「そ、そう?」

 シエルさんが恥ずかしげもなく褒めてくれる。そんなこと言われたことがないから嬉しすぎる。

「お腹すいたね。朝食にしよう」

 朝日がさしてきて思わずお腹を摩る。あれだけ体が熱くなったからお腹すいちゃったみたいだ。シエルさんもそういえば、夕食も食べてなかったよな。

「何か食べたいものありますか?」

「私は与えられたものならなんでも」

 シエルさんは好き嫌いないのかな? それならいいんだけど、ってその前に。

「着替えですよね。メイド服以外にも寝巻みたいなのを出しておきますね」

 すでに一回見てしまったけど、あまり彼女を見ないようにして話す。着崩したメイド服は妖艶で嬉しいけどダメだ。すぐに落とし物バッグの中から寝巻や私服を取り出す。ピンクのワンピースなんていいかもな。白銀の髪がはえそうだ。

「はい、私服にどうぞ」

「え!? こんな綺麗なお召し物を頂いていいのですか?」

「うん。着てくれると嬉しいな」

「ありがとうございます。メイド服と一緒に大事にいたします!」

 嬉しそうにワンピースを抱きしめるシエルさん。ここまで嬉しそうにしてくれるとあげたかいがあるな~。

「ど、どうでしょうか?」

「うん。似合ってるよ」

 シエルさんはすぐに着替えてしまった。僕が目の前にいるって言うのにね。まったくと言うかなんというか。

「シエルさん……」

「あっ!? すみません。アート様の前で着替えるのはダメでしたね」

「僕の前だけじゃなくてね。女性もそうだけど、男の人の前では絶対にダメだよ。襲われちゃうからね」

 ちゃんと忠告してあげないと、常識がないって本当に危ない。

「おはようございますアート君」

「あっ、おはようございますグランドさん」

 グランドさんが様子を見に来てくれたみたいでお店に入ってくる。ちょうどキッチンに下りてきたところだから一緒に朝食の時間かな。

「おや、そちらのお嬢さんは?」

 シエルさんに気が付いたグランドさん。どう説明しようかな。

「えっとですね。彼女は路上で倒れていて、奴隷だったみたいなんですが」

「ふむふむ、なるほど。首輪がないということは捨てられたのでしょうな。しかし、捨てるなんて愚かなことを。彼女は失われたと言われているフェンリルの血筋。白銀の髪がそう語っています」

「ええ!? フェンリル?」

 グランドさんがそう言うと僕はシエルさんと顔を見合う。フェンリルって何だろう?
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