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第二章
第32話 新たな闇
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フィル達が引越しをしているころ、ルファーとリファが過ごしていた路地では怪しげな男が二人を探していた。
「いない……死んだか? それとも……」
外套を目深にかぶった男はそう呟いて路地を周る。ルファーとリファを探している……いや、孤児を探しているようだ。
「おかしい。路地には新鮮な孤児がたくさんいたはずだが? 一週間前は確かに……」
男は首を傾げて歩き回る。そして、ラフィーリアとフィルが運命の出会いをした市場へたどり着き、ルリを殴ろうとした男からリンゴを買い、話しかけた。
「孤児? そんなもん路地にはいないぜ」
「路地に孤児がいない?」
「ああ」
男は驚愕してかじりつこうとしたリンゴを落とした。
「それはどういうことだ?」
「ああ、あんたこの辺りは初めてか? それじゃ知らなくて当然だな」
「?」
「孤児院が出来たんだよ」
「孤児院!? そ、そんなはずは!?」
男は出店の親父の言葉に更に驚愕する。
「あと少しだというのに。餌が足りないだと……」
「おい、どうしたんだよあんた。ほら、リンゴ落としたぜ」
「……すまない。その孤児院はどこに?」
「確か、貴族街の方に作るって聞いたな。いわくつきの屋敷だったらしいが」
親父の言葉に『いわくつき、あそこか』と呟く男。エレクトラの話を知っているということはそれなりに金を持っている者のようだ。
「孤児院を作ったものを知っているか?」
「ああ? あんた、リンゴを一個買っただけで質問してばっかりだな。冷やかしなら帰りな」
「誰なんだ!」
「うわっ! へ、兵士さん。助けてくれ」
外套の男が親父を押し倒した。親父は横を通った兵士に助けを求める。
「どうしたんですか?」
「こ、こいつが急に」
「……邪魔をしたな」
「ちょ、ちょっとお兄さん。騒ぎを起こしたんだ。名前を聞かせてもらおうか」
「ガイストと名乗っておこうか」
「!?」
男は名を名乗るとその場から風と共に消え去った。
兵士達はあたりを見回すが見当たらずに市場の人達全員に警戒するように告げる。
「この市場や兵士も一週間前と違う? それぞれの店同士、兵士同士に仲間意識が芽生えているのか? 目障りだな」
ガイストと名乗った男は近くの家の屋根に着地して呟く。風魔法を習得しているガイストは素早く空へと逃げていたようだ。
フィルが兵士に告げた言葉を兵士達は噛みしめて読み取った。自分たちが助けられる命を見放していたことに気が付いたようだ。
それからと言うもの罪を犯しそうな孤児を見つけては助けるようになった。盗んだものを代わりに購入して孤児に渡したり、身なりを綺麗にしてあげたりと積極的に行った。
その行いもみんなと共に行ったことで市場の人達は深い仲となっていた。
怪しい男が孤児を探していたことと孤児院のことを話した。そう市場の人達は認識して警戒する。兵士達はすぐに孤児院へと人を走らせる。フィルもこの事を知ることとなるだろう。
「あちらの方角か。しかし、危険だな。ここを離れるか」
ガイストはそう呟いて市場を眺めた。彼は命拾いすることとなる。もう少しいたらもしかしたら市場の者たちに顔を覚えられてしまったかもしれないのだから。
そんなことともつゆ知らず、彼は歯ぎしりをして悔しがる。あと少し、あと少しだというのにと……。
「ガスト大司祭様。どうされましたか?」
「……何でもない。それよりも今日の寄付は?」
「はい。大金貨5枚と言ったところです」
「そうか……」
ガイストは自室に戻り服を着替える。驚きなことに彼は大司祭。ゲルグガルドの大教会の大司祭だったのだ。
彼は毎日の礼拝を終えて教会の塔へと向かう。
「おお、見目麗しい我が女神」
塔の頂上に着くと彼は呟く。すると鐘に張り付いていた黒い液体が彼の前に零れ落ちる。
ベチャベチャと音を立てて近づいてくる液体を手に乗せ、更には肩に乗せるガスト大司祭。
「我が女神、申し訳ございません。餌が見つけられず」
頬をスリスリとこすり付けて告げるガスト。黒い液体はそれを受けて液体を床に打ち付ける。激しく打ち付けるそれは憤りを表していた。
「ああ、申し訳ございません。あと少しであなた様が復活するというのに! この償いは私の手を捧げることで!」
ビッ! ガストの言葉を遮って放たれた黒い液体。ガストはその圧で動きを止める。
「や、やらなくていいというのですか?」
黒い液体はガストの方から落ちてぴょんぴょんと跳ねる。とても可愛らしいその姿にガストは頬を赤く染めた。
「ああ、懐深き女神! 必ずやあなた様の為に餌を! 贄を探して見せます!」
ガストは深く土下座をして告げる。黒い液体は卵のような形に変わりガストのズボンポケットに収まっていった。
王都の孤児は少しずつフィルに助けられて救われている。
彼らがフィルと出会うのもそう遠くはないだろう。いや、すぐに出会うこととなる。
「いない……死んだか? それとも……」
外套を目深にかぶった男はそう呟いて路地を周る。ルファーとリファを探している……いや、孤児を探しているようだ。
「おかしい。路地には新鮮な孤児がたくさんいたはずだが? 一週間前は確かに……」
男は首を傾げて歩き回る。そして、ラフィーリアとフィルが運命の出会いをした市場へたどり着き、ルリを殴ろうとした男からリンゴを買い、話しかけた。
「孤児? そんなもん路地にはいないぜ」
「路地に孤児がいない?」
「ああ」
男は驚愕してかじりつこうとしたリンゴを落とした。
「それはどういうことだ?」
「ああ、あんたこの辺りは初めてか? それじゃ知らなくて当然だな」
「?」
「孤児院が出来たんだよ」
「孤児院!? そ、そんなはずは!?」
男は出店の親父の言葉に更に驚愕する。
「あと少しだというのに。餌が足りないだと……」
「おい、どうしたんだよあんた。ほら、リンゴ落としたぜ」
「……すまない。その孤児院はどこに?」
「確か、貴族街の方に作るって聞いたな。いわくつきの屋敷だったらしいが」
親父の言葉に『いわくつき、あそこか』と呟く男。エレクトラの話を知っているということはそれなりに金を持っている者のようだ。
「孤児院を作ったものを知っているか?」
「ああ? あんた、リンゴを一個買っただけで質問してばっかりだな。冷やかしなら帰りな」
「誰なんだ!」
「うわっ! へ、兵士さん。助けてくれ」
外套の男が親父を押し倒した。親父は横を通った兵士に助けを求める。
「どうしたんですか?」
「こ、こいつが急に」
「……邪魔をしたな」
「ちょ、ちょっとお兄さん。騒ぎを起こしたんだ。名前を聞かせてもらおうか」
「ガイストと名乗っておこうか」
「!?」
男は名を名乗るとその場から風と共に消え去った。
兵士達はあたりを見回すが見当たらずに市場の人達全員に警戒するように告げる。
「この市場や兵士も一週間前と違う? それぞれの店同士、兵士同士に仲間意識が芽生えているのか? 目障りだな」
ガイストと名乗った男は近くの家の屋根に着地して呟く。風魔法を習得しているガイストは素早く空へと逃げていたようだ。
フィルが兵士に告げた言葉を兵士達は噛みしめて読み取った。自分たちが助けられる命を見放していたことに気が付いたようだ。
それからと言うもの罪を犯しそうな孤児を見つけては助けるようになった。盗んだものを代わりに購入して孤児に渡したり、身なりを綺麗にしてあげたりと積極的に行った。
その行いもみんなと共に行ったことで市場の人達は深い仲となっていた。
怪しい男が孤児を探していたことと孤児院のことを話した。そう市場の人達は認識して警戒する。兵士達はすぐに孤児院へと人を走らせる。フィルもこの事を知ることとなるだろう。
「あちらの方角か。しかし、危険だな。ここを離れるか」
ガイストはそう呟いて市場を眺めた。彼は命拾いすることとなる。もう少しいたらもしかしたら市場の者たちに顔を覚えられてしまったかもしれないのだから。
そんなことともつゆ知らず、彼は歯ぎしりをして悔しがる。あと少し、あと少しだというのにと……。
「ガスト大司祭様。どうされましたか?」
「……何でもない。それよりも今日の寄付は?」
「はい。大金貨5枚と言ったところです」
「そうか……」
ガイストは自室に戻り服を着替える。驚きなことに彼は大司祭。ゲルグガルドの大教会の大司祭だったのだ。
彼は毎日の礼拝を終えて教会の塔へと向かう。
「おお、見目麗しい我が女神」
塔の頂上に着くと彼は呟く。すると鐘に張り付いていた黒い液体が彼の前に零れ落ちる。
ベチャベチャと音を立てて近づいてくる液体を手に乗せ、更には肩に乗せるガスト大司祭。
「我が女神、申し訳ございません。餌が見つけられず」
頬をスリスリとこすり付けて告げるガスト。黒い液体はそれを受けて液体を床に打ち付ける。激しく打ち付けるそれは憤りを表していた。
「ああ、申し訳ございません。あと少しであなた様が復活するというのに! この償いは私の手を捧げることで!」
ビッ! ガストの言葉を遮って放たれた黒い液体。ガストはその圧で動きを止める。
「や、やらなくていいというのですか?」
黒い液体はガストの方から落ちてぴょんぴょんと跳ねる。とても可愛らしいその姿にガストは頬を赤く染めた。
「ああ、懐深き女神! 必ずやあなた様の為に餌を! 贄を探して見せます!」
ガストは深く土下座をして告げる。黒い液体は卵のような形に変わりガストのズボンポケットに収まっていった。
王都の孤児は少しずつフィルに助けられて救われている。
彼らがフィルと出会うのもそう遠くはないだろう。いや、すぐに出会うこととなる。
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