何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
28 / 56
第一章

第27話 出立

しおりを挟む
「アルテナ様。準備は済んでいますか?」

「いつでも大丈夫。すぐにでも出れる」

「そうは思えませんが……」

 買い物を済ませて帰ってくるとルレインさんがアルテナ様と話して、頭を抱えている。一人では何もできないお姫様って感じだな。

「食べ物も準備してもらった。お洋服も用意してる。他に何が必要だと?」

「そうですね。アルテナ様はそれで充分ですね」

 アルテナ様は得意げにエラから受け取ったお弁当を手に持ってる。ルレインさんが頭を抱えたまま褒めると彼女はむふっと胸を張る。
 今日出発じゃないからな。お弁当を持っても仕方ないんだけどね。 

「ルレインさん。荷物は僕に教えてください。しまいますから」

「しまう? マジックバッグのようなアイテムをお持ち何ですか?」

 僕の言葉に首を傾げて聞いてくるルレインさん。ディアボロスに闇の収納を開かせると驚いてディアボロスを二度見してきた。

「か、刀というやつですか? な、なんで魔法を?」

 驚いて聞いてくるルレインさん。
 
「ははは、おかしな刀なんです」

「ふんっ。おかしいのはこのお前だ」

 ディアボロスをポンポン叩いて話すとディアボロスが不機嫌に声をあげた。刀が喋ったことでルレインさんが驚愕してる。

「か、刀がしゃべ、しゃべった!?」

「面白い!?」

 ルレインさんと共にアルテナ様が声をあげる。アルテナ様は刀に触れてなでなでし始める。

「気持ちい?」

「気持ちよくなどない。痛覚はないのだ」

 アルテナ様が撫でながら聞くとディアボロスが答えた。痛覚ないのか。通りで魔物を切っても何も言わないわけだ。

「ルレイン! これ欲しい」

「ダメですよアルテナ様。それはヒューイさんのものですからね」

 アルテナ様が欲しそうに指を咥えてルレインさんにおねだりし始めた。いさめるルレインさんは申し訳なさそうに僕にお辞儀をしてる。
 ははは、お姫様の子守は大変だな。っていうかアルテナ様最初あった時と性格がだいぶ違うような気がするな。気のせいかな?
 
 ドンドンドン!
 ルレインさんの大変な様子を見ているとカウンターの奥の部屋から大きな音がなる。

「あの少女か……」

「そうよ」

 魔道具で襲ってきた少女が暴れてるようだ。呟くとエラが答えてくれた。
 自害するための薬も奪って猿ぐつわもしてるからな。暴れてどうにかしようとしてるんだろう。

「ステインとワジソンが見てくれてるんだっけ」

「うん。二人とお姉ちゃんが」

「あ~。そういえば、ミーシャを見ないと思った」
 
 大体、リーシャと買い物してるとミーシャがどこからともなく現れて邪魔してくるんだよな。まあ、二人に腕を取られるのは男みょうりに尽きると言った感じだったが。

「ヒューイ。ちょっと来て」

 しょうもないことを考えていると音のした部屋の扉が開いてミーシャが顔を覗かせた。呼ばれたから部屋に入ると頭から血を流す少女が椅子に括り付けられていた。

「まったく、足だけ自由にしたら暴れて頭を打ちやがった」

「ここまで自害を考えるとは……洗脳のようなことになっているのかもしれんな。それか魔法か」

 ステインとワジソンが僕の顔を見るなり説明してきた。別に二人が傷つけたとは思ってないんだけど、そう思われないように言ったっぽい。疑ってないぞ。

「だから僕を呼んだわけね」

 ミーシャを見て呟く。大きく頷いて手を引っ張るミーシャ。少女の横に着くと彼女に強化を施していく。

「う、ううん……」

 目を覚ますとキョロキョロ周りを伺う少女。なぜか驚いた様子だ。危険だけど、猿ぐつわも外してあげるか。舌を噛んでも回復させるしね。

「こ、ここはどこ……」

 少女の言葉に僕らは首を傾げた。何を言ってるんだ?

「何言ってんのよ。ここはあんたが襲撃したキスタンの私達の拠点よ」

「キスタン? それってダンジョンの、砂漠の?」

 ミーシャが教えると少女が首を何度も傾げて声をもらした。嘘を言っている感じじゃないな。

「とぼけやがって。お前はな」

「ちょっと待ってステイン」

 少女にづかづかと近づいて声をかけるステインを制する。僕は微笑んで少女の目線に合わせて腰を落とした。

「改めて、僕はヒューイ。こっちがミーシャでこの子がリーシャ。怖いおじさんとドワーフさんはステインとワジソン。他にはルラナって言う精霊の子とステインの奥さんのエラがいるんだ」

「……」

 僕の紹介に怪訝な表情の少女。僕らを知らない様子だ。嘘って感じじゃないな。

「君の名前を聞いてもいいかな?」

「……ブルーム」

「ブルームちゃんか。いい名前だね」

 彼女が気が付いて起きても無口だったから名前すら知らなかった。名前を教えてくれたのは大きいな。

「ブルームちゃんはどこに住んでたかわかる?」

「……孤児院です。なんで縛られてるの?」

「あっ。ごめんね。すぐに外すよ。孤児院って国の名前とかわかる?」

 ブルームちゃんは僕の問いに答えながら首を傾げてる。自分の今の状態が分からないのかもな。

「オルダイナ王国」

「そうか。じゃあ、帰りたいよね」

「……別に帰りたくない」

「なんで? 孤児院には友達もいるでしょ?」

 ブルームちゃんはしっかりと答えてくれた。故郷には帰りたくないみたいだ。再度質問すると俯いて口を開く。

「もう痛いのはいや……」

「……そうか、そうだよね」

 泣きそうになりながら語られる言葉。こんな少女がこんな顔をしてしまうほどの訓練か……、あまりいいものじゃないだろうな。

「ふむ、ヒューイの力で洗脳か、魔法が解けて記憶が戻ったのかの?」

「うん。そうみたい。たぶんこの魔法だよ」

 ワジソンが憶測を話すとルラナが部屋に入ってきて本を広げて見せてくる。中には洗脳魔法の記述がかかれている。

「記憶を操ったり、人格も作り出すことが出来る」

「人格を作る?」

「多重人格って知ってるかな? 一つの体に複数の意識があることを意味するんだけど」

 意識が複数ある? 意味が分からないな。

「ん~。例えば、この子の体に成人の女性の意識が入って知識も記憶も豊富になったり、男性の記憶が入って女の子に目の色変えちゃったりするの」

「ええ! そんなことになっちゃうの?」

「うん。少し大げさに言ったけど、そんな感じだよ」

 ルラナが説明してくれるとみんなキョトンとしてた。ブルームちゃんもキョトンとしてる。

「じゃあよ。意識が戻って急に襲ってくるかもしれないのか?」

「ううん。それはないと思う。ヒューイの力で回復しちゃったみたいだから。消えてるよ」

 ステインの言葉にルラナが首を横に振って答えた。怪我を治そうとしたら魔法を解いちゃったのか。っていうか僕のスキルはそんなことも出来るのか。魔法の解除はスカイ達と依頼をこなしていた時はやらなかったから知らなかったな。って勝手に僕がそう思っているだけで治していたのかもしれないな。

「ははは、でもよかった。こんな少女が人殺しなんてしちゃいけないもんな」

 ブルームちゃんの頭を撫でながら話す。彼女は頬を赤くして俯いてしまった。昨日見た時とは大きく違う様子。これが本来の彼女なんだろうな。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...