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第二章 黒煙

第四十三話 幸せのはじまり

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 ダリルさんがルザーを捕らえてくれたおかげで僕らは無事に事なきを得た。ダリルさんの引き連れてきた騎士達はユーラとルザーを入れた鉄の檻の馬車と一緒に王都へと向かっていった。ダリルさんには毎回お世話になっているような気がする。

 僕らが嗜む子牛亭に帰ってきて少しするとダリルさんも帰ってきた。僕達は椅子に腰かけてお礼をいった。

「ダリルさんありがとうございました」
「いやいや、ルザーを捕らえられたのもルーク君たちが動いていてくれたおかげだよ」
「いえ、騎士達が来ていたという事は元から動いていたって事ですよね。だって王都からはかなり遠いんだから」

 王都からこのワインプールの街まで軽く3週間はかかる。どんなに訓練された馬でもこれ以上は早く行軍できないだろう。20人規模とはいえ、騎士達が来ていたって事はダリルさんが動いていたって事だと思うんだ。

「流石兄さん、僕でも王都からここまで六日はかかると思うからもっと前から動いてないとありえないもんね」
「六日って・・」

 流石をそのまま返すよ。ユアンは非常識すぎるね。なんで三週間の道が六日になるのさ。我が弟ながら凄すぎます。

「それでルザーがいなくなって当分はダリルさんが治めるんですよね」
「そうなりますね。こういった領主の仕事には不慣れですが元々こうする予定でしたので準備はできています」

 やっぱり元々動く予定だったみたい。メイドさんや執事も手配済みのようです。屋敷はどうするんだろう、あの屋敷はダリルさんには似合わないよね。

「あの屋敷は取り壊すんですか?」
「そうですね。できればですがルークさんに作り直してもらおうかと思いまして」
「ええ、僕が?」
「はい、孤児院も作っちゃったじゃないか、お願いできないかな?もちろん、解体したものは君にあげるからさ」

 そう言われると頷くしかないよね。ルザーの屋敷を見回した時に結構気になる宝石なんかもあったんだよね。贅沢に壁に埋め込んでいたのを思い出す。

「すぐじゃなくてもいいからさ」
「ダリルさんには色々良くしてもらってますし、やりますけど、あまり期待しないでくださいね」
「ありがとう、恩にきるよ。流石にあんな金ピカな屋敷には勤めたくないからね」

 ダリルさんは苦々しい顔で言っている。確かにあの屋敷は悪趣味だった。ルザーの内面を映しているようだったよね。

「おとさん・・また行っちゃうの?」
「カルロ、おとさんは騎士に戻るわけじゃないんだ。このワインプールの屋敷に行くだけだよ」
「僕、寂しいよ」
「大丈夫、孤児院のみんなもいるだろ?それにラザラさんもいる」
「ラザラさんがお母さんならいいのに」

 カルロ君はラザラさんが来てから指を咥えてラザラさんを見る事が多かった。まだまだ小さなカルロ君はお母さんを欲しているのかもしれない。

「彼女は綺麗な方だ。気高く、美しい・・・彼女のような方を聖母と言うのだろうな」

 カルロ君の母親は魔物に殺されてしまった。ダリルさんが騎士として成功して王都で暮らそうと彼女を迎えに行った時に事件が起こった。ダリルさんの故郷でありカルロ君の生れた村はゴブリンの群れに襲われて滅んでしまった。
 村には赤子の泣き声が響き、ダリルさんはその泣き声へと歩いて行く。するとそこには古い井戸があった、下を覗くとそこには毛布にくるまって籠に入っている赤ん坊が水に浮いていた。あと数日、発見が遅れたら赤ん坊は助からなかっただろう。
 その子がカルロ君だった。奇蹟的にも彼は助かり本当のお父さんであるダリルさんに発見されたんだ。だから、ダリルさんはゴブリンに襲われた子供達の話を聞いた時に涙していたんだ。この世界はとても危険な世界なんだね。
 それからダリルさんは騎士を引退して流浪の旅をしてワインプールに落ち着いたって事らしい。

「あの・・・」
「ラザラさん・・」

 気を失っていたラザラさんが起きてきたみたい。またナイスなタイミングだね。

「私はみんなの母になりたいと思っていました。カルロ君が良ければその・・」
「いいのですか?」
「はい」
「おかあさんになってくれるの?」

 ラザラさんも満更ではなかったみたいで二つ返事で付き合うことになっていきました。カルロ君の言葉にラザラさんは「お母さんになってもいいかな?」って答えてカルロ君は喜んで抱きついていました。何だか微笑ましい。
 
「じゃあ僕は屋敷を解体しに行こうかな~」
「あ、兄さん。僕もいくよ」
「私も~」
「私も行くにゃ」

 僕は空気を読んで外に行こうと思った。ルザーの屋敷に行こうと思ったらユアンとモナーナ、それにニャムさんが僕についてきた。少し歩きずらいけど家族みたいに横に並んでいたので何だか嬉しかった。

「私達はのけ者ですね」
「ウニャ~」

 すっかり仲の良くなったミスリーとメイはのんびりと椅子に座っていた。ミスリーはメイの膝に丸くなっている。頭や顎を撫でられるとゴロゴロと気持ちよさそうにしていた。





 という事でやってきました、ルザーの屋敷。相変わらず、陽の光で照らされていて眩しい。ちゃっちゃと解体しましょう。

 コネコネコネコネ、木材だろうと鉄材だろうと容赦なくコネていきます。その全てをインゴットのようにしていく、木材があの形だとおかしな感じ。
 二階から順々にやってきてすぐに二階がまっさらに、掃除全般スキルのおかげか掃除も一緒にしていることになってアイテムバッグに勝手に入っていっています。何とも便利だ。宝石がどんどん入っていっているのを見るのは爽快だね。

「ルーク、一息ついたら?」

 モナーナが手招きしてお茶に誘ってきた。屋敷の庭に前に作っておいた机と椅子を広げて三人はお茶会をしていました。前回、服を買ってきてから三人は何だか仲良しになってる。まるで恋バナに花を咲かせる乙女たちみたい・・・ユアンは男の子ですけどね。僕も誘われたので一時解体を中断します。

「二階が全部なくなったね」
「まだ、一時間も経ってないにゃ・・」

 ユアンとニャムさんが呆れて声をもらした。そんな信じられないって顔してみないでほしいな。ダリルさんの為にも解体を終わらせて屋敷を作ってしまいたい。一日でも早ければダリルさんの為になるからね。

「どんな宝石があったにゃ?」
「私が覚えているのではサファイアとかエメラルドとかあったけど」
「・・・」

 ニャムさんとモナーナの疑問に僕は無言で答えた。実は解体中は気付かなかったんだけど宝石を取った時に知らない宝石までアイテムバッグに入っていたみたい。サファイアを取ったのにダイヤとかの副産物が取れてたんです。採取スキル7がいい仕事しすぎ。素材が倍になるだけならまだしも種類まで増えてしまうとは・・・。

「また、おかしなことになってるんだね」
「流石ルークにゃ、でもそうそう私達は驚かないから気にしない事にゃ」

 モナーナとニャムは微笑んで気を使ってくれた。やっぱり、こういう能力を知っていてくれる仲間は必要だよね。気が休まって何だか眠たくなってくる。

「おっとっと、眠っちゃダメだ。解体に戻るね」

 三人の笑みに僕は眠たくなってしまう、まだまだ終わっていないのですぐに再開していきます。
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