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おまけエピソード「能登さんとカフェ・スイーツデート」2
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”君は何でそんなにドMなの。痛いことされてヘラヘラしてるなんてみっともない……”
”いや……じゃあ能登さんはどうしてそんなにドSなの?”
”ドSになったつもりないから。もう少しシャキッとしてよ……”
溜息を付く能登さんと、ちょっとした接触でドキドキしっぱなしの僕。
謎のやり取りを続けながら、ようやく到着したお店。
軒先に並んだ色とりどりの花々が上品さを物語っていた。
「疲れたね」
「ひ弱すぎるよ……これくらいの運動で」
能登さんは全然平気そうだけど、僕は息が上がっていた。
三十分ほど能登さんのペースで歩いただけでこの体たらく。
自己嫌悪をしてしまうのも致し方なかった。
九月が終わろうとしているのに、一向に猛暑は終わる気配を見せない。
いっそ、夏休み期間を長くしてほしいくらいだ。
能登さんが日傘を閉じて、颯爽と先に店内へ入っていく。
場違い感を感じながら、僕も一緒に入っていき、テーブル席に向かい合って座った。
「これ」
メニュー表を指差す能登さん。
そこには”特選! 夢のフルーツパフェ 2980円(税込)”と目を疑うような表記が見えた。夢であって欲しいと思う金額だ。
「これが食べたかったの?」
僕が聞くとコクンコクンと頷く能登さん。
大きく開かれた瞳は鋭利な眼差しをしていて、冗談で言っているのではないと物語っていた。
「一人で一個、全部食べるの?」
「もちろん。それとも、君は深愛と一緒に同じパフェを顔を寄せ合いながら食べたいの?」
「遠慮させていただきます」
「意気地なしだね、食べたいって言って来たら首の骨を折るところだったけど」
恐ろしいことを口走り、次の瞬間には店員さんを呼ぶ能登さん。
今の能登さんと一緒に同じパフェを食べようものなら、フォークで顔面を刺されることだろう……恐ろしや恐ろしや……。
僕が恐怖に震えている間に、能登さんは僕の分も注文して2980円が吹き飛んだ。
「楽しみだね……」
魔性の瞳で僕を見つめて言い放つ能登さん。
防戦一方! もう拒否権はなかった。
しばらくして、お目当てだったパフェが到着した。
数え切れないほど何層にもなっているパフェ。
上層にはモンブランやメロン、白桃に苺の姿も見える。
明らかに2~3人でシェアして食べることを想定された量。
しかし、周りを見渡すとこれを一人で食べている大人の女性もいるから驚かされる。
「実物はやっぱり凄いね……。
季節ごとに入っているフルーツは違うんだけど、メレンゲの下にはカシスのソルペやコーヒーゼリーも入っていて、甘いのとほろ苦いのが混じってて絶妙なハーモニーなの。
何よりマスクメロンが上に載っているのが印象的。
苺も大粒のあまおうを使っているし、これだけ贅沢なパフェなら値段相応、安いくらいよね」
やってきたパフェを見ながら誇らしげに説明をしてくれる能登さん。
ここまで甘いもの好きだったとは恐れ入った。
僕は覚悟を決めてスプーンを手に取った。
対戦スタートとばかりに大食い選手権が静かに始める。
無言で食べ続ける能登さんに負けずと僕も続いていく。
甘く蕩けるような生クリームと新鮮なフルーツの味わいが口の中を支配していき、食欲中枢をさらに刺激していく。
しかし、半分を平らげたところから、お腹周りの圧迫感が強くなり、段々と意識が遠のいていく。
手が止まり、食べたいのに食べられないという悲しい現実が襲い掛かる。
ふと、能登さんの方に目を向けると夢中になってスプーンでパフェを掬い、食べ続けていた。そして、時々頷きながら味を確かめる余裕すら見せている。
一体、能登さんの胃袋はどうなっているのか……。
僕は幻想を見ているような感覚を覚えた。
「食べられそう?」
「ギリギリかな……甘いものをこんなに食べたの初めてだよ」
これは例えるなら、終わらない連戦バトルを繰り広げているような感覚だ。
食べれば食べる程、奥に潜んでいた次の味がやって来る。
そのバリエーションは無尽蔵で終わりが見えない。
これほど大きなパフェを一人で食べるのは無謀というものだろう。
「鍛え方が足りないね、今度はデザート食べ放題に誘うよ」
「嬉しいのに、辛い気持ちになるのは何でだろう……」
誘ってくれる能登さんの言葉は嬉しいのに、何故か苦しさが増していく。
能登さんがパフェを完食し、余裕の表情で見つめられる中、僕は何とか完食した。
「美味しかったね」
「うん、それは間違いないよ」
「本当? それじゃあ、二件目に行こうか?」
「そ、それは勘弁だよ……」
そう言って、意地悪な笑顔を少しだけ見せてくれる能登さん。
苦しむ僕を見て愉悦を感じているのだ。
恐ろしい……でも、同じ場所で同じものを食べている。
それが幸せなことだと分かり、さらに愛おしさが湧き上がって来る。
「ご機嫌だね、能登さん」
「ふふっ……君もね」
僕の言葉に能登さんが返事をして微笑む。
満腹感と共に胸もいっぱいになっていく。
もう少しだけ、この関係を続けていたいと思いながら、もっと甘いのもいいかもしれないと考える。
でも、それも能登さん次第なのかもしれない。
きっと、一緒に美術館へ行くよりも、こうして芸術とは離れた時間を送っている方が、能登さんはリラックスできて楽しいのだろうと思うから。
こうしてもうしばらく開放してくれない空気のまま、僕たちは店を後にした。
”いや……じゃあ能登さんはどうしてそんなにドSなの?”
”ドSになったつもりないから。もう少しシャキッとしてよ……”
溜息を付く能登さんと、ちょっとした接触でドキドキしっぱなしの僕。
謎のやり取りを続けながら、ようやく到着したお店。
軒先に並んだ色とりどりの花々が上品さを物語っていた。
「疲れたね」
「ひ弱すぎるよ……これくらいの運動で」
能登さんは全然平気そうだけど、僕は息が上がっていた。
三十分ほど能登さんのペースで歩いただけでこの体たらく。
自己嫌悪をしてしまうのも致し方なかった。
九月が終わろうとしているのに、一向に猛暑は終わる気配を見せない。
いっそ、夏休み期間を長くしてほしいくらいだ。
能登さんが日傘を閉じて、颯爽と先に店内へ入っていく。
場違い感を感じながら、僕も一緒に入っていき、テーブル席に向かい合って座った。
「これ」
メニュー表を指差す能登さん。
そこには”特選! 夢のフルーツパフェ 2980円(税込)”と目を疑うような表記が見えた。夢であって欲しいと思う金額だ。
「これが食べたかったの?」
僕が聞くとコクンコクンと頷く能登さん。
大きく開かれた瞳は鋭利な眼差しをしていて、冗談で言っているのではないと物語っていた。
「一人で一個、全部食べるの?」
「もちろん。それとも、君は深愛と一緒に同じパフェを顔を寄せ合いながら食べたいの?」
「遠慮させていただきます」
「意気地なしだね、食べたいって言って来たら首の骨を折るところだったけど」
恐ろしいことを口走り、次の瞬間には店員さんを呼ぶ能登さん。
今の能登さんと一緒に同じパフェを食べようものなら、フォークで顔面を刺されることだろう……恐ろしや恐ろしや……。
僕が恐怖に震えている間に、能登さんは僕の分も注文して2980円が吹き飛んだ。
「楽しみだね……」
魔性の瞳で僕を見つめて言い放つ能登さん。
防戦一方! もう拒否権はなかった。
しばらくして、お目当てだったパフェが到着した。
数え切れないほど何層にもなっているパフェ。
上層にはモンブランやメロン、白桃に苺の姿も見える。
明らかに2~3人でシェアして食べることを想定された量。
しかし、周りを見渡すとこれを一人で食べている大人の女性もいるから驚かされる。
「実物はやっぱり凄いね……。
季節ごとに入っているフルーツは違うんだけど、メレンゲの下にはカシスのソルペやコーヒーゼリーも入っていて、甘いのとほろ苦いのが混じってて絶妙なハーモニーなの。
何よりマスクメロンが上に載っているのが印象的。
苺も大粒のあまおうを使っているし、これだけ贅沢なパフェなら値段相応、安いくらいよね」
やってきたパフェを見ながら誇らしげに説明をしてくれる能登さん。
ここまで甘いもの好きだったとは恐れ入った。
僕は覚悟を決めてスプーンを手に取った。
対戦スタートとばかりに大食い選手権が静かに始める。
無言で食べ続ける能登さんに負けずと僕も続いていく。
甘く蕩けるような生クリームと新鮮なフルーツの味わいが口の中を支配していき、食欲中枢をさらに刺激していく。
しかし、半分を平らげたところから、お腹周りの圧迫感が強くなり、段々と意識が遠のいていく。
手が止まり、食べたいのに食べられないという悲しい現実が襲い掛かる。
ふと、能登さんの方に目を向けると夢中になってスプーンでパフェを掬い、食べ続けていた。そして、時々頷きながら味を確かめる余裕すら見せている。
一体、能登さんの胃袋はどうなっているのか……。
僕は幻想を見ているような感覚を覚えた。
「食べられそう?」
「ギリギリかな……甘いものをこんなに食べたの初めてだよ」
これは例えるなら、終わらない連戦バトルを繰り広げているような感覚だ。
食べれば食べる程、奥に潜んでいた次の味がやって来る。
そのバリエーションは無尽蔵で終わりが見えない。
これほど大きなパフェを一人で食べるのは無謀というものだろう。
「鍛え方が足りないね、今度はデザート食べ放題に誘うよ」
「嬉しいのに、辛い気持ちになるのは何でだろう……」
誘ってくれる能登さんの言葉は嬉しいのに、何故か苦しさが増していく。
能登さんがパフェを完食し、余裕の表情で見つめられる中、僕は何とか完食した。
「美味しかったね」
「うん、それは間違いないよ」
「本当? それじゃあ、二件目に行こうか?」
「そ、それは勘弁だよ……」
そう言って、意地悪な笑顔を少しだけ見せてくれる能登さん。
苦しむ僕を見て愉悦を感じているのだ。
恐ろしい……でも、同じ場所で同じものを食べている。
それが幸せなことだと分かり、さらに愛おしさが湧き上がって来る。
「ご機嫌だね、能登さん」
「ふふっ……君もね」
僕の言葉に能登さんが返事をして微笑む。
満腹感と共に胸もいっぱいになっていく。
もう少しだけ、この関係を続けていたいと思いながら、もっと甘いのもいいかもしれないと考える。
でも、それも能登さん次第なのかもしれない。
きっと、一緒に美術館へ行くよりも、こうして芸術とは離れた時間を送っている方が、能登さんはリラックスできて楽しいのだろうと思うから。
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