ぼくと神獣様が本当の友達になるまで~鏡よ鏡、鏡さん。ぼくらはこの旅を無事に終えられますか?~

逢神天景

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第一章 旅立ち

②-1

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「ミルベライトクッキーって、なんていうか随分と簡単な試練ねぇ」

 ミルベライトクッキーというのは、グラーノ領の特産品である小麦とミルベライトという乳牛から取れる牛乳で作られたクッキーです。
 外はサクッ、中はとろりと甘いクッキーは少し高級品ですが……贈答品として他領や他国の人にも大人気です。

「でもうちの領地で一番有名なのは、ミルベライトクッキーだからね。それを選ぶなんて案外しーちゃんは、グルメなのかもね」

「きゅい」

 どやっ、と胸を張る子パッカ。そう、子パッカは味が分かるタイプの神獣なのです。

「じゃあ早速その辺で買ってきて食べる?」

「きゅいきゅい」

 タニアが提案すると、子パッカはフルフルと首を振ります。なんでだろうとタニアが首をかしげると、ラミルは鏡面を指さします。

「ここに『とっても美味しい』って書いてあるからね。一番美味しいミルベライトクッキー……つまり、作り立てじゃなくちゃダメなのかも」

「……じゃあ、ルベライトに行ってそこで直接買うの? 直搾りミルクとかで作られた奴を?」

 タニアが頬を引きつらせながら言うと、子パッカは楽しそうに頷きました。ルベライトに行くまでの距離を知っているタニアは、あちゃーと顔を覆います。

「しーちゃん、グルメね……」

「きゅい!」

 再度褒められ、胸を張る子パッカ。……勿論、この場合は決して褒められている文脈では無いかもしれませんが、彼は得意げです。
 そんな子パッカを撫でつつ、ラミルは更に鏡に問いかけます。

「鏡よ鏡、鏡さん。期限はいつまでですか?」

『貴方達は全部で五つの『聖なる泉』に行く必要があります。次の目的地はチューターの『聖なる泉』です。そこには次の満月の日までに辿り着いてください』

 この指令の期限をきいたはずなのに、試練全体の期限について語り出す鏡。ラミルが首をかしげると、鏡は更に文字を続けました。

『チューターの『聖なる泉』に行くまでに、三つの指令をこなして貰います。三つこなせるよう、時間配分をしてください』

「……なるほど」

 次の満月といえば、二十日後です。つまり二十日以内に全ての指令を終えて、チューターの『聖なる泉』へ行かねばならないということです。
 ラミルは腕を組んで、脳内でシミュレーションをします。

「ここからチューターまでは、普通に歩いたら二週間くらいかな? 途中でヨーコーを通らないといけないし、あの辺はグラーノよりも魔物が強力だからぼくらだけじゃ難しいね」

「歩きってアンタ、馬車なりなんなりに乗ればいいじゃない」

 タニアが言うと、ラミルは少し苦い顔をして首を振ります。子パッカはその仕草を真似した後に、何故かラミルによじ登り出しました。
 ラミルは子パッカをよいしょと背負い、一緒に揺れながら口を開きます。

「馬車はダメなんだよ。他の乗り物もね」

「そうなの? ああまぁ、確かに完全レンタルしたら高いけど、寄合馬車ならそんなでも無いはずよ」

「費用の問題じゃないんだ。そもそも、経費として認められたら後でお金返ってくるし」

 そもそも、交通費や食費などは試練の経費として計上すれば、各地の冒険者ギルドや領主から精算してもらえます。
 だから道中の現金はまだしも、最終的な金額はそこまで気にしなくて良いのです。
 つまり、今回の試練で馬車を使えないのは別の理由があるということです。

「しーちゃんは、神獣様だからね。他の生き物の背に乗ったりしてはいけないんだ」

「きゅいきゅい」

 子パッカはラミルの背で、その通りと言わんばかりにコクコクと頷きます。タニアは「やっぱり神獣は色々あるのね」なんて納得しかけ――

「いや今、思いっきりアンタの背に乗ってるけど!?」

 ――目の前に広がる矛盾に、思いっきりツッコミを入れました。

「そもそも馬車って他の生き物の背じゃないし!」

「いやまぁ、そうなんだけど。これは試練だから、しーちゃんとぼくの足でしっかり歩かないといけないんだって」

「それなら最初からそう言いなさいよ」

 大きくため息をつくタニア。彼女はラミルの背でるんたるんたと踊る子パッカに手を伸ばします。

「じゃあアタシの背中には乗ってくれないのね」

「きゅい~きゅいきゅい」

 しょうがないにゃあ、みたいな顔をしてタニアの背に飛び乗る子パッカ。他の生き物の背に乗らないとは何だったのでしょうか。

「鏡よ鏡、鏡さん。……結局、他の生き物の背に乗っていいんですか?」

 ちょっと困惑した様子のラミルが鏡に問いかけると、鏡面に波紋が広がって文字が浮かび上がってきました。

『試練は、自分たちの足でなるべく進んでください。川や崖は別ですけどね? ただ、神獣は自身が認めた生き物の背にしか乗りません。それは絶対です』

 自分の認めた生き物の背。
 なるほど、それならばラミルとタニアの背に乗れた理由も分かります。ラミルは自分が納得できる理由が知れたので満足して、タニアの方を向きます。

「じゃあタニアちゃん、そろそろ行こうか。さっきも言った通り、移動だけで二週間はかかるから……三つの試練を、二日ずつで終わらせないと間に合わなくなっちゃう」

 チューターまで、直線距離だけであれば休みなしで歩いて四日くらいでしょう。しかし道中では大きい山もあるし、整備されていない道もありますから……ラミルの言った二週間というのは、大きいバッファを込めた数値です。
 タニアは商人の娘として、両親の買い付けなどで他領に行く機会もありますから納得した様子です。
 ……でも、子パッカだけは何でそんなに時間がかかるのか分からないようです。首をかしげて、タニアの背から降りると走るような仕草をします。

「きゅい、きゅい」

「走ればもっと早く付くって? うーん……ごめんね、ぼくらは休みながらじゃないと進めないんだ」

「きゅい~」

 あまりピンと来ていない様子ですが、取り敢えず納得したように頷く子パッカ。彼の同意も取れたところで、ラミルはぐっと拳を握ります。

「じゃあ、まず最初はミルベライトクッキーだ! 行くぞー!」

「おー!」

「きゅいー!」

 ノリノリの二人と、歩き出します。
 ――グラーノ領で一番大きい牧場を目指して。


                                           つづく
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