ぼくと神獣様が本当の友達になるまで~鏡よ鏡、鏡さん。ぼくらはこの旅を無事に終えられますか?~

逢神天景

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第三章 月白色の鍾乳洞

②-3

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「ぼぉぉぉぉおおおお!」

 ずんっ! と重たい音を立てて着地したカバの魔物。ラミルはその姿を見て、脳をフル回転させます。

「あれ……えーっと、バイバイトタマス! 大きくってデッカい魔物!」

「見たら分かるわよ! 逃げないと!」

 真っ青な巨体に、自分の肉体の半分はある巨大な口。そんな見ただけで足が竦むような化け物が、ラミル達に向かって襲い掛かってきます。
 ラミルは鏡を取り出そうとしますが、それよりも早くバイバイトタマスは鼻息で攻撃してきました。

「うわぁああ!」

「きゃあ!」

「わっ」

 ラミルとタニアはフッ飛ばされそうになりますが――カスターニエが二人をキャッチしてくれます。子どもとはいえ、二人を同時に吹き飛ばすような風を受けてもビクともしないのは流石です。
 そしてラミル達よりも近くにいたはずの子パッカ達は……子パッカがかなり俊敏な動きで、ヴィルヤージュを抱えてラミルたちに追いついていました。

「きゅい!」

「こ、この子はパワフルだね!」

「流石しーちゃん! 逃げるよ!」

「ぼぉぉぉぉおおおお!」

 ズンッ! ズンッ! ズンッ!
 地響きを立てながら、こちらへ走ってくるバイバイトタマス。それから逃げるため、カスターニエはラミルとタニアを小脇に抱え、子パッカがヴィルヤージュをお姫様抱っこして全力で走ります。

「こ、これどこまで逃げれば……!?」

 ダッシュしながら後ろを振り向き、緊迫感のある声を出すカスターニエ。ラミルとタニアを抱えていることもあり、ジリジリとバイバイトタマスとの距離を詰められています。
 子パッカもヴィルヤージュをお姫様抱っこしながらのため、いつものように余裕の表情ではなく……ちょっと疲れた様子です。
 ラミルはそんな二人を見ながら、ごそごそとカバンをあさりました。そして今度こそ、目当ての物を取り出します。

「いえ、大丈夫! もう鏡が取り出せました!」

 そう叫ぶや否や、ラミルは鏡をバイバイトタマスに向けて呪文を唱えます。性格が反転する呪文、魔物が人間を襲わなくなる呪文を。

「か、鏡よ鏡よ鏡さん! あの子の性格を変えて!」

 ピカッ!
 鏡から一筋の光が投射され、バイバイトタマスに直撃します。

「ぼぼっ?」

 光が当たったバイバイトタマスは、動きをピタッと止め……さっきまでとは打って変わった様子で、ゆっくりと地面に座りました。

「た、助かった……」

 ラミルはホッと一息ついて、力を抜きます。走っていたカスターニエと子パッカも足を止め、抱えていた人たちを降ろしました。
 さっきまでの突進はいったい何だったのかとばかりに、小川を眺めてボーっとするバイバイトタマス。これで一安心と言いたいところですが、油断は出来ません。鏡の効果は永続では無いからです。

「は、早く鍾乳洞の中に行こう。走ったから、だいぶ距離は近くなってると思う。えーっと……」

 大きく息を吐いたラミルはきょろきょろと周囲を探します。そして白い靄の向こうに、洞穴が三つ見つかりました。

「きゅい!」

 子パッカも見つけたようで、洞穴の方を指さします。ラミルたちは声を出す元気もあまりないまま、ふらふらと洞穴の方へ歩き出しました。

「……思ったより、遠く無かったのね。ありがとう、カエちゃん」

「どういたしまして、タニちゃん。まぁ……だいぶ走りましたからね」

 走って距離を稼いだことが功を奏し、二分足らずで洞穴の前に辿り着くラミル達。ちゃんと三つ並んでおり、チラッと鍾乳石も見えます。

「良かった、着いたね……。皆バテただろうし、一回……飲み物でも飲もうか……」

 重たいですが、無いと死ぬので水はある程度持ってきています。計画的に飲まなくちゃならないものですが……流石にこんな時くらいは良いでしょう。
 タニアは頷いて、カバンの中から水筒を取り出しました。そしてコップを出して、そこに注ごうとして――

「注がなくていよ、タニアちゃん。疲れちゃったから回し飲みで」

「え」

 ――ラミルが横から水筒を取って、グッと一口、口に含みました。そしてすぐに口を離すと、ニコッと笑みを浮かべてタニアに渡します。

「あっ! ご、ごめん先に飲んじゃって。どうぞ、タニアちゃん」

「え」

 渡されたタニアは……水筒に目を落とし、ぼっと頬を赤くしました。そして口をわぐわぐさせながら、ラミルの方を見ます。

「こ、これ……かっ、間接――」

「こら、ラミル。感染症が移る危険があるから、回し飲みはしたらダメだって言ったさね。するならちゃんと口を拭いてから」

 完全に固まりかけたタニアからパッと水筒を取り、その飲み口を拭くヴィルヤージュ。そしてタニアに渡すと……彼女はちょっとだけ唇を尖らせてヴィルヤージュにお礼を言いました。

「……ヴィルヤージュさん、ありがとうございます」

「タニア、アンタは安全なところで直接やんな」

「ふぇっ!?」

 ため息と共にそう言われ、再度顔を赤くするタニア。それを誤魔化すかのようにコップに水を注いで、グイっと飲みます。

「はい、カエちゃん!」

「えっ、あっ、ありがとう……」

 勢いよく渡されたカスターニエは状況が読めていないのか、若干ぼさっとしていましたが……取り敢えずコップで水を飲み、子パッカにも水をあげます。
 最後にヴィルヤージュも水を飲み……ふぅと全員で一息ついたところで、彼女は真剣な顔で全員を見ました。

「入る前に、ちょっといいかい? 大事な話だ」

「……どうしたんですか?」

 三人も真剣な顔になってヴィルヤージュの方を向き、子パッカは楽しそうに腰を振って踊っています。
 そんな子パッカを捕まえたヴィルヤージュは、彼の頭を撫でながら……口を開きました。

「あたしは魔術が使えない。だから、困ったときはあたしを頼ろう……としちゃいけないよ」

「「「え」」」

 三人の声が揃います。特にタニアは……昨晩の幻想的な光景を見ているため、信じられません。
 身を乗り出し、ヴィルヤージュの手を握ります。

「き、昨日!」

「……あれも事情があるんだ。先に理由を言わせてくれるかい?」

 そう言った彼女は、眼鏡をはずしました。美しい銀色の瞳ですが――焦点があっていません。それはただ単に目が悪いというよりは……。

「あたしは昔、ちょっと事故っちまってね。それ以降、目が見えてないんだ。だから常に魔法で視力を補ってる。こんな風にね」

 ヴィルヤージュは何らかの呪文を唱えると、目が焦点を結んでいつも通りの彼女の笑顔になりました。
 そして眼鏡をかけ直し、苦笑します。

「まるっきり使えないってわけじゃない。ただ規模をかなり制限される。勿論視力に回している分を止めれば普通に使えるが、今度はノーコンになっちまう」

「だから……使えないと。なんで今それを……?」

 ラミルが問うと、ヴィルヤージュは肩をすくめました。

「一回でも『エルフ』の魔術に頼ったら、その時に言おうと思ってたんだ。でもアンタら、全然そんなことしないからねぇ。せいぜい、火を点けるくらいかい? さっきのバイバイトタマスの時だって、真っ先に逃げるんだもの。普通、エルフの魔術があればあれくらい一発だよ」

「……カスターニエさんが仲間になってくれた時も、頼りたいのは冒険の知識って言いましたから。ヴィルヤージュさんにも同じことです」

「まぁ、実際はカエちゃんのフィジカルにだいぶ助けられてますけど……」

「きゅい」

 ラミルたちが言うと、ヴィルヤージュは楽しそうな笑みで……がしっと抱き着いてきました。彼女の長く細い指が、ラミルたちの腰をそっと撫でます。

「ふふ、だから今言ったのさ。引き返す最後のタイミングだからねぇ」

「引き返したら、試練がクリアできません」

 間髪入れずに答えるラミル。
 ますますヴィルヤージュは抱きしめる力を強めてから、スリスリと頬ずりしてきました。

「本当にいい子だ。やっぱり、ちゃんと約束を守って良かった」

 彼女はラミル達から離れると、両手をパッと開きます。

「あたしが今使える魔術は、火をつけたりちょっと水を出したりくらい。あと回復みたいに、直接触れて使う魔法は今でも使えるよ。コントロールの概念が無いからねぇ」

「か、回復してくれるだけでも……わたしみたいな剣士は、凄く助かります」

 グッと拳を握るカスターニエ。今までの話を総合すると、彼女が傷を負うことなんて無さそうですが……助かるようです。
 ラミルは頼もしそうに頷くと、スッと手を差し出しました。
 サムズアップの形で。

「じゃあ、改めてよろしくお願いしますヴィルヤージュさん! 報酬は言い値です!」

「あたしは高いよぉ? ふふ、じゃあよろしくね」

 こつん、とラミルの手に拳を当てるヴィルヤージュ。そして子パッカ、タニア、カスターニエとも同じように拳を当てます。
 皆同じように拳を当てた後……ほとんど同時に洞穴の方を向きました。
 目指すは、最奥です。

「それじゃあ……ダンジョンアタック、スタートです!」

「「「おー!」」」

「きゅい!」

 果たして、一体どんな冒険が待っているのでしょうか。

                               ③へつづく

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