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一章
3話 ラウワの帝王②
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(お茶は全部アクアに吸わせておいてよかった!)
入口の扉に手をかけた所で――顎に衝撃を受け、私は吹っ飛ばされる。ギリギリ手を挟んでガードしたから倒れなかったけど……若干足に来たわね。
さらに連撃。前からくる左右のこぶしを何とか躱すけど、回し蹴りを受けて壁に吹っ飛ばされてしまった。
「うぐっ!」
何とか受け身を取り前を見ると、そこには女の子みたいな顔をしたイケメンが立っていた。
ちょっと線は細く、目は垂れ目。肩ほどまである髪は目の色と同じく茶で、服装もホストっぽい。
……なかなか可愛いわね。誘い受け、ってところかしら。
「親父、捕まえるのか?」
「ああ、マリン。存分におもてなししなさい」
こいつら親子なの!?
そんなことに驚いている場合じゃない。というかこいつが、情報だけで顔写真が無かった若頭ね。
「挨拶にしては情熱的過ぎないかしら。えっと……マリンちゃん? 女の子だったのね」
さっきのアクロバティックな動き……どう考えても、めっちゃ強い。荒事があるかもと思ってはいたけれど、睡眠薬を使われるとは思ってもみなかった。
やっぱりヤクザは怖いわね。
「オレは男だ。そっちこそ、今ので倒れてねえとか、ほんとに女かよ」
「失礼ね、どっからどう見ても女の子でしょ?」
踏ん張りがきかないし、足も広げられない。運動する格好で来たかったけれど、あんまりそれっぽすぎるとイザベルって信じてもらえないかもと思ってお嬢様っぽい格好だったのが裏目に出たわね。
っていうか、カーリーが守るって言ってくれたから信じてたのに!
「オレの蹴りで倒せねえ女とか見たことねえな」
「世の中は広いのよ。何せ霊長類最強のレスラーは、206連勝した女性だからね」
私は仕方がないので、アクアを出して水鉄砲を放つ。それを見たマリンはさっと屈み、背後に立っていたお茶くみイケメンがぶっ飛ばされて窓に突っ込んでいった。
「魔法も使えるのかよ」
身を低くし、こっちへ突っ込んでくるマリン。前世じゃ喧嘩なんて学生時代のキャットファイトしか経験ないけれど、この体は運動神経抜群、身体能力最強クラスのイザベルの体(実際、コラボした格ゲーでは攻略キャラや主人公を差し置いてトップクラスの能力値だったし)。
使い魔を合わせればカーリーを奪還して――
「そこまでです、イザベル様」
――流石にそこまでうまくはいかないか。オルカの声で手を止めると、そこには縛り上げられたカーリーが。ご丁寧に頭にナイフまで突きつけられている。仕方がないので、アクアを引っ込めて両手を挙げた。
「マリンと張り合えるなんて……まさかイザベル様が、ここまで動けるとは驚きです。とはいえ、いくら手柄を一人占めしたいからといって、交渉にブレーンを連れてこないのは悪手でしたね」
「馬鹿だろ、一人しか護衛付けないで」
イザベルのこと、アホだの馬鹿だのって言うのやめてもらえないかしら。事実陳列罪で極刑に処すわよ。
とは言えず、周囲を囲まれて後ろ手で縛られてしまった。そして目の前に来たオルカが、ふんと鼻を鳴らす。
「誰がブレーンですかな?」
「私よ」
「別に隠し立てしなくとも。……おい、お前らあの部屋に連れてけ」
「「「へい!」」」
若い衆が後ろ手で縛られた私を掴んで、歩き出す。カーリーが人質に取られているから、下手な動きも出来ないわね。
「親父、あの部屋ってなんだよ。つかなんで、おじょーさんをやったんだ? 普通に協力した方が旨味あるんじゃねえの」
マリンがキョトンとした顔で問うと、オルカは首を傾げる。
「ああ、そうか。お前はまだあっちの件には関わってないんだったな。あの部屋を見せれば、なんでイザベル様を捕らえたかすぐに分かるさ。付いてこい」
不思議そうな顔のマリンを連れ、私とカーリー、そして数名の若い衆はぞろぞろと階下へ向かう階段を歩く。
私一人なら逃げるのも余裕だけど、カーリーがこうされちゃうとねぇ……。
そう思いながら彼らについていくと、とある部屋に通された。
扉を開けるとそこでは――
「クスリ……ッ、クスリをください……」
「あーうー……」
「死にたい……死なせてぇ……」
「クスリぃ……あーう……クスリぃ……」
――地獄が広がっていた。
部屋中に満ちる甘い匂いは、おそらく麻薬。申し訳程度しか布を纏っていない女性たちが、男に群がって……口では言えない、言いたくないような卑猥なポーズでクスリをねだっている。
「げははははは! んじゃあそうだなぁ……そこのテメェ! ほら、犬の真似でもしてみろ。わんわんーってな」
「わ、わんわん! わんわん!」
「おー、うめぇじゃねえか。んじゃほれ、取ってこい」
「わ、わんわんわんわん!」
麻薬の袋を投げ楽しそうに笑う男。別のところでは、裸の男が卑猥な命令を女性に――
「お、おい! 親父、なんだよこれ!」
マリンが食って掛かる。オルカは一切感情を浮かべていない表情で、淡々と答えた。
「うちのメイン事業だ。クスリを売って、クスリ漬けにした女を売る。裏の奴隷市場や調教屋を通さんでいいから利益率が良いんだ」
淡々と、そう。
彼は……目の前で起きる出来事をなんて事のない『事業』として片付けている。
人間の精神を破壊し、尊厳を凌辱し、権利を剥奪しておいて。
ただの『事業』として、扱っている。
人が人を『商品』として扱うのすら吐き気がするというのに――
「おいおいおい、聞いてねえぜ親父。こんな胸糞悪いことやってたのかよ」
「胸糞悪いとはなんだ。お前は私の跡継ぎだということを忘れるな。ただ、これでイザベル様をおつれした理由が分かっただろう。……ただ協力するだけでは、いずれこれがバレる。金貸しと違って、こっちは摘発されてしまうからな」
オルカはそう言いながら、私の肩に手を置く。なれなれしく、厭らしい笑みを浮かべて。
「さて、イザベル様。今から貴方にあのクスリを打ちます。そして三日か四日ほど、クスリ漬けにしてさしあげます。ご安心ください、貴方のために特濃の物を用意しましたから」
依存症にして、クスリが欲しければ……と意のままに操る気か。
「しかしまぁ、まさかこんなに上手くいくとは。まずは借金漬けにして、そして返済手段として少しずつ少しずつ強請るネタを手に入れるつもりだったんですがね」
なるほど、ヤクザの考えそうなことね。
「はっはっは、貴方がブレーンの言うことを聞くお利巧様じゃなくて助かりました」
「オルカ様、こっちのガキはどうします」
「ああ。そっちはマニア用だ。ちょうどいいし、クスリを使ってきっちり調教しておけ。自我は残ってなくていい」
「へい」
事務的に、ただ事務的に『処理』するオルカ。
そんな蛆虫を見て、私の胆(はら)に沸々とどす黒い物が堕ちてくる。
「さて、では最初の一本です。気持ちいいですよ、二度とこれ無しじゃ生きていけなくなる。まあ、私は使ったことありませんがね。はっはっは」
地面が揺れる感覚。平衡感覚を失い、脳だけが沸騰していく。
この感覚には覚えがある。これは、この感覚は――
「あははははははははははははははははは!!!!!!」
――私の笑い声が、部屋の中に響き渡った。
入口の扉に手をかけた所で――顎に衝撃を受け、私は吹っ飛ばされる。ギリギリ手を挟んでガードしたから倒れなかったけど……若干足に来たわね。
さらに連撃。前からくる左右のこぶしを何とか躱すけど、回し蹴りを受けて壁に吹っ飛ばされてしまった。
「うぐっ!」
何とか受け身を取り前を見ると、そこには女の子みたいな顔をしたイケメンが立っていた。
ちょっと線は細く、目は垂れ目。肩ほどまである髪は目の色と同じく茶で、服装もホストっぽい。
……なかなか可愛いわね。誘い受け、ってところかしら。
「親父、捕まえるのか?」
「ああ、マリン。存分におもてなししなさい」
こいつら親子なの!?
そんなことに驚いている場合じゃない。というかこいつが、情報だけで顔写真が無かった若頭ね。
「挨拶にしては情熱的過ぎないかしら。えっと……マリンちゃん? 女の子だったのね」
さっきのアクロバティックな動き……どう考えても、めっちゃ強い。荒事があるかもと思ってはいたけれど、睡眠薬を使われるとは思ってもみなかった。
やっぱりヤクザは怖いわね。
「オレは男だ。そっちこそ、今ので倒れてねえとか、ほんとに女かよ」
「失礼ね、どっからどう見ても女の子でしょ?」
踏ん張りがきかないし、足も広げられない。運動する格好で来たかったけれど、あんまりそれっぽすぎるとイザベルって信じてもらえないかもと思ってお嬢様っぽい格好だったのが裏目に出たわね。
っていうか、カーリーが守るって言ってくれたから信じてたのに!
「オレの蹴りで倒せねえ女とか見たことねえな」
「世の中は広いのよ。何せ霊長類最強のレスラーは、206連勝した女性だからね」
私は仕方がないので、アクアを出して水鉄砲を放つ。それを見たマリンはさっと屈み、背後に立っていたお茶くみイケメンがぶっ飛ばされて窓に突っ込んでいった。
「魔法も使えるのかよ」
身を低くし、こっちへ突っ込んでくるマリン。前世じゃ喧嘩なんて学生時代のキャットファイトしか経験ないけれど、この体は運動神経抜群、身体能力最強クラスのイザベルの体(実際、コラボした格ゲーでは攻略キャラや主人公を差し置いてトップクラスの能力値だったし)。
使い魔を合わせればカーリーを奪還して――
「そこまでです、イザベル様」
――流石にそこまでうまくはいかないか。オルカの声で手を止めると、そこには縛り上げられたカーリーが。ご丁寧に頭にナイフまで突きつけられている。仕方がないので、アクアを引っ込めて両手を挙げた。
「マリンと張り合えるなんて……まさかイザベル様が、ここまで動けるとは驚きです。とはいえ、いくら手柄を一人占めしたいからといって、交渉にブレーンを連れてこないのは悪手でしたね」
「馬鹿だろ、一人しか護衛付けないで」
イザベルのこと、アホだの馬鹿だのって言うのやめてもらえないかしら。事実陳列罪で極刑に処すわよ。
とは言えず、周囲を囲まれて後ろ手で縛られてしまった。そして目の前に来たオルカが、ふんと鼻を鳴らす。
「誰がブレーンですかな?」
「私よ」
「別に隠し立てしなくとも。……おい、お前らあの部屋に連れてけ」
「「「へい!」」」
若い衆が後ろ手で縛られた私を掴んで、歩き出す。カーリーが人質に取られているから、下手な動きも出来ないわね。
「親父、あの部屋ってなんだよ。つかなんで、おじょーさんをやったんだ? 普通に協力した方が旨味あるんじゃねえの」
マリンがキョトンとした顔で問うと、オルカは首を傾げる。
「ああ、そうか。お前はまだあっちの件には関わってないんだったな。あの部屋を見せれば、なんでイザベル様を捕らえたかすぐに分かるさ。付いてこい」
不思議そうな顔のマリンを連れ、私とカーリー、そして数名の若い衆はぞろぞろと階下へ向かう階段を歩く。
私一人なら逃げるのも余裕だけど、カーリーがこうされちゃうとねぇ……。
そう思いながら彼らについていくと、とある部屋に通された。
扉を開けるとそこでは――
「クスリ……ッ、クスリをください……」
「あーうー……」
「死にたい……死なせてぇ……」
「クスリぃ……あーう……クスリぃ……」
――地獄が広がっていた。
部屋中に満ちる甘い匂いは、おそらく麻薬。申し訳程度しか布を纏っていない女性たちが、男に群がって……口では言えない、言いたくないような卑猥なポーズでクスリをねだっている。
「げははははは! んじゃあそうだなぁ……そこのテメェ! ほら、犬の真似でもしてみろ。わんわんーってな」
「わ、わんわん! わんわん!」
「おー、うめぇじゃねえか。んじゃほれ、取ってこい」
「わ、わんわんわんわん!」
麻薬の袋を投げ楽しそうに笑う男。別のところでは、裸の男が卑猥な命令を女性に――
「お、おい! 親父、なんだよこれ!」
マリンが食って掛かる。オルカは一切感情を浮かべていない表情で、淡々と答えた。
「うちのメイン事業だ。クスリを売って、クスリ漬けにした女を売る。裏の奴隷市場や調教屋を通さんでいいから利益率が良いんだ」
淡々と、そう。
彼は……目の前で起きる出来事をなんて事のない『事業』として片付けている。
人間の精神を破壊し、尊厳を凌辱し、権利を剥奪しておいて。
ただの『事業』として、扱っている。
人が人を『商品』として扱うのすら吐き気がするというのに――
「おいおいおい、聞いてねえぜ親父。こんな胸糞悪いことやってたのかよ」
「胸糞悪いとはなんだ。お前は私の跡継ぎだということを忘れるな。ただ、これでイザベル様をおつれした理由が分かっただろう。……ただ協力するだけでは、いずれこれがバレる。金貸しと違って、こっちは摘発されてしまうからな」
オルカはそう言いながら、私の肩に手を置く。なれなれしく、厭らしい笑みを浮かべて。
「さて、イザベル様。今から貴方にあのクスリを打ちます。そして三日か四日ほど、クスリ漬けにしてさしあげます。ご安心ください、貴方のために特濃の物を用意しましたから」
依存症にして、クスリが欲しければ……と意のままに操る気か。
「しかしまぁ、まさかこんなに上手くいくとは。まずは借金漬けにして、そして返済手段として少しずつ少しずつ強請るネタを手に入れるつもりだったんですがね」
なるほど、ヤクザの考えそうなことね。
「はっはっは、貴方がブレーンの言うことを聞くお利巧様じゃなくて助かりました」
「オルカ様、こっちのガキはどうします」
「ああ。そっちはマニア用だ。ちょうどいいし、クスリを使ってきっちり調教しておけ。自我は残ってなくていい」
「へい」
事務的に、ただ事務的に『処理』するオルカ。
そんな蛆虫を見て、私の胆(はら)に沸々とどす黒い物が堕ちてくる。
「さて、では最初の一本です。気持ちいいですよ、二度とこれ無しじゃ生きていけなくなる。まあ、私は使ったことありませんがね。はっはっは」
地面が揺れる感覚。平衡感覚を失い、脳だけが沸騰していく。
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