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一章
5話 懐悪・悪折①
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「う、うう……うぐっ!」
痛みによって、オルカは強制的に覚醒させられる。ぼんやりした頭で周囲を見るが……どうも自分は生かされているらしい。
流石にあれだけ殴られたから手足が動かないが……生かすとは、やはりイザベルは甘い。
「くっ、くくく! 馬鹿め、この私を生かして帰すとはな!」
叫ぶとあばらが痛い。しかしこれも生きている証と思えば嬉しい物だ。
周囲は何故か騒がしい。悲鳴や水音、肉がぶつかる音が聞こえてくる。しかしそんなの些細なこと。
命があるのだから。
「必ず復讐してくれる……! 何が何でもクスリ漬けにして、両手足を切り落として性処理用ペットとして死ぬまで飼ってくれる……!」
相手が貴族だからと搦め手でいこうとしたのが間違いだった。あんな女、すぐにでもクスリで犯してやれば良かったのだ。
そうと決まれば痛いなど言っていられない。すぐにでも立ち上がって――
「……なんだ? う、動けん……ち、違う動けないのではない……ば、馬鹿な! 手足の感覚が無いのではない、手足がそもそもない……!?」
「動ける範囲はそこまでのようね、オルカ」
真上から降りてくる、涼やかな女性の声。オルカは首の可動域限界まで曲げて上を向くと、そこには真っ黒な笑みを浮かべた悪魔――イザベルが立っていた。
「な、貴様……何をした! 私に何をした!?」
「何って、手足を切り落としただけよ」
笑顔で――よく見ると目が笑っていない。ただただゴミでも見るような目でこちらを見下ろすイザベル。
「な、なんで……?!」
「言ったわよね。あんたを地獄以上の地獄に叩き込むって」
両手両足を切り落とすなんて、人間のやることじゃない。ただ楽しむためだけのサディスティックな刑罰。
(なんと非道な……!)
恐怖に染まりそうになった心を、怒りで塗りつぶす。ここで心が折れたら、何もできなくなる。命を拾ったのだ、なんとしてでもこの女を口で上手く誘導して……
「そ、そんなイザベルさ――もがっ!」
口の中に広がる土の味。彼女の靴を口の中に突っ込まれたらしい。イザベルはため息をついて首を振った。
「私がしゃべってるの、分かる?」
機嫌を損ねるわけにはいかない。首を何とか縦に振る。そんなオルカを見たイザベルは靴を食べさせたまま喋り出す。
「あんたにチャンスをあげるわ。何せこれだけ大きい商会を作ったのだもの……ただ殺すだけじゃ勿体ない」
(来た!)
この手のバカにありがちなことだ。自分が強い状況になったと思った瞬間から、警戒感を緩める。そうやって色んな奴が自滅してきた。
オルカは、そういう『油断した』奴を確実に狩って来た。
今までも、これからも。
イザベルは鼻で嗤いながら、両手を広げる。
「やるべきことは簡単よ。一か月後、この部屋の扉を開けてあげる。生きていたら、出してあげるわ」
一か月後、生きていたら。
水も食べ物も無いここで……だろうか。
オルカがそう疑問を持った瞬間、靴を離してくれる。咳き込んだ後、オルカはイザベルに尋ねた。
「その、水も食料も無ければ人は生きられませぬ」
「水? 食料? その辺に転がってるじゃない」
彼女がそう言いながらオルカの背後を指さす。呻き声と水音、そして肉の咀嚼音が聞こえる方を――
「ひぎぃ……い、いてぇ……いてぇ……」
「がつがつ……ぐちゅっ」
「がふっ、がふっ……」
「や、やべろ……お、おれはお前に……」
「あにき……さーせん……さーせん……」
――ジェイソンだけでなく、人が人の肉を食う光景だった。両手両足をもがれた男たちが、弱っている男に群がってその肉を食っていた。
「ひぃっ!?」
身体を震わせる。すると数人の男がこちらを見た。
食料を見る、目で。
「最後に残った一人には、義手と義足をあげるわ。そうして罪を許してあげる。――生き残れたら、だけど」
「ま、まって、まってくださいイザベルさま!」
動けない両手両足でもがきながら、彼女に縋りつく。しかし彼女はオルカの身体をボールでも蹴飛ばすように転がした。
「食べて良いわよ」
その瞬間、誰かが太ももにかじりつく。痛みに悲鳴をあげることも出来ぬまま、涙がこぼれ落ちて来た。
自覚したからだ。他者から恨みを買い、今まるで動けぬ体になった自分は。
人ではない、食料に成り下がったのだと――
「まって、まってくださいああああうぎゃあああああ?! い、イザベルさま、イザベルさまあああああああ! たすけて、助けてええええ! ぎゃあああいやだぁぁぁぁいたい、いたいいいいいいい! お、おれに近づくな!! やめろ、やめろおおおおおおおお!!! イザベル様、イザベル様ぁあああああ!!!! 助けてえええええ!!!」
「あんたはそうやって縋りついて来た人を、一人でも助けたことがあるの?」
笑顔のまま、イザベルはドアの方に歩いていく。
養豚場の豚を見るような目から……怒りと憎しみを宿した目を向けて。
「地獄を楽しみなさい」
「まっ……」
そして、扉が閉じられた。
痛みによって、オルカは強制的に覚醒させられる。ぼんやりした頭で周囲を見るが……どうも自分は生かされているらしい。
流石にあれだけ殴られたから手足が動かないが……生かすとは、やはりイザベルは甘い。
「くっ、くくく! 馬鹿め、この私を生かして帰すとはな!」
叫ぶとあばらが痛い。しかしこれも生きている証と思えば嬉しい物だ。
周囲は何故か騒がしい。悲鳴や水音、肉がぶつかる音が聞こえてくる。しかしそんなの些細なこと。
命があるのだから。
「必ず復讐してくれる……! 何が何でもクスリ漬けにして、両手足を切り落として性処理用ペットとして死ぬまで飼ってくれる……!」
相手が貴族だからと搦め手でいこうとしたのが間違いだった。あんな女、すぐにでもクスリで犯してやれば良かったのだ。
そうと決まれば痛いなど言っていられない。すぐにでも立ち上がって――
「……なんだ? う、動けん……ち、違う動けないのではない……ば、馬鹿な! 手足の感覚が無いのではない、手足がそもそもない……!?」
「動ける範囲はそこまでのようね、オルカ」
真上から降りてくる、涼やかな女性の声。オルカは首の可動域限界まで曲げて上を向くと、そこには真っ黒な笑みを浮かべた悪魔――イザベルが立っていた。
「な、貴様……何をした! 私に何をした!?」
「何って、手足を切り落としただけよ」
笑顔で――よく見ると目が笑っていない。ただただゴミでも見るような目でこちらを見下ろすイザベル。
「な、なんで……?!」
「言ったわよね。あんたを地獄以上の地獄に叩き込むって」
両手両足を切り落とすなんて、人間のやることじゃない。ただ楽しむためだけのサディスティックな刑罰。
(なんと非道な……!)
恐怖に染まりそうになった心を、怒りで塗りつぶす。ここで心が折れたら、何もできなくなる。命を拾ったのだ、なんとしてでもこの女を口で上手く誘導して……
「そ、そんなイザベルさ――もがっ!」
口の中に広がる土の味。彼女の靴を口の中に突っ込まれたらしい。イザベルはため息をついて首を振った。
「私がしゃべってるの、分かる?」
機嫌を損ねるわけにはいかない。首を何とか縦に振る。そんなオルカを見たイザベルは靴を食べさせたまま喋り出す。
「あんたにチャンスをあげるわ。何せこれだけ大きい商会を作ったのだもの……ただ殺すだけじゃ勿体ない」
(来た!)
この手のバカにありがちなことだ。自分が強い状況になったと思った瞬間から、警戒感を緩める。そうやって色んな奴が自滅してきた。
オルカは、そういう『油断した』奴を確実に狩って来た。
今までも、これからも。
イザベルは鼻で嗤いながら、両手を広げる。
「やるべきことは簡単よ。一か月後、この部屋の扉を開けてあげる。生きていたら、出してあげるわ」
一か月後、生きていたら。
水も食べ物も無いここで……だろうか。
オルカがそう疑問を持った瞬間、靴を離してくれる。咳き込んだ後、オルカはイザベルに尋ねた。
「その、水も食料も無ければ人は生きられませぬ」
「水? 食料? その辺に転がってるじゃない」
彼女がそう言いながらオルカの背後を指さす。呻き声と水音、そして肉の咀嚼音が聞こえる方を――
「ひぎぃ……い、いてぇ……いてぇ……」
「がつがつ……ぐちゅっ」
「がふっ、がふっ……」
「や、やべろ……お、おれはお前に……」
「あにき……さーせん……さーせん……」
――ジェイソンだけでなく、人が人の肉を食う光景だった。両手両足をもがれた男たちが、弱っている男に群がってその肉を食っていた。
「ひぃっ!?」
身体を震わせる。すると数人の男がこちらを見た。
食料を見る、目で。
「最後に残った一人には、義手と義足をあげるわ。そうして罪を許してあげる。――生き残れたら、だけど」
「ま、まって、まってくださいイザベルさま!」
動けない両手両足でもがきながら、彼女に縋りつく。しかし彼女はオルカの身体をボールでも蹴飛ばすように転がした。
「食べて良いわよ」
その瞬間、誰かが太ももにかじりつく。痛みに悲鳴をあげることも出来ぬまま、涙がこぼれ落ちて来た。
自覚したからだ。他者から恨みを買い、今まるで動けぬ体になった自分は。
人ではない、食料に成り下がったのだと――
「まって、まってくださいああああうぎゃあああああ?! い、イザベルさま、イザベルさまあああああああ! たすけて、助けてええええ! ぎゃあああいやだぁぁぁぁいたい、いたいいいいいいい! お、おれに近づくな!! やめろ、やめろおおおおおおおお!!! イザベル様、イザベル様ぁあああああ!!!! 助けてえええええ!!!」
「あんたはそうやって縋りついて来た人を、一人でも助けたことがあるの?」
笑顔のまま、イザベルはドアの方に歩いていく。
養豚場の豚を見るような目から……怒りと憎しみを宿した目を向けて。
「地獄を楽しみなさい」
「まっ……」
そして、扉が閉じられた。
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