「アイと愛と逢」

逢神天景

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3章

エピローグ

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 ……そして翌日、ボクは母さんの前で正座させられていた。父さんと一緒に。
「で? 何か言いたいことは?」
「僕は悪くない」
「ボクも悪くない」
「そう。撲殺、絞殺、爆殺、どれがいい?」
「……永遠を誓い合った夫に対してそれはどうなんだい? 喜々」
「自分でお腹痛めて産んだ息子だよ? ボク」
「うるせえ」
 激おこだね、うん。
「事故にあった息子を心配していたら、息子は病室を抜け出したと思ったら? いつまでも子供だと思っていた息子が男になって帰ってきた? しかもあなたは止めなかった?」
「その男になって帰ってきたってなに?」
「は? 付き合いたてのカップルが一晩密室ですごしてなんもなかったの?」
「……よかったね、なんもなかったよ。というかボクのことをなんだと思ってるのさ」
「お父さんに似たかしらね、そのヘタレなところ」
「父さん、言われてるよ」
「僕は確かにあんまり手の早い方じゃなかったけどさ」
 肩をすくめる父さんだけど、母さんに睨まれてすぐに居住まいをただした。
「で? 結婚はいつ?」
「何の話かな、母さん」
「麗華ちゃんと付き合いだしたんでしょ? 今のは冗談としても、親どうし既に知り合いなんだから、いろいろあるのよ。なんかあったら言ってよ?」
 絶対言うもんか。
 ボクが決心を新たにしていると、ボクのスマホから音が鳴った。
「あ、行かないと」
「満喜、あんたは轢かれた翌日にどこに出かけるるもりなのよ」
「デート」
「知ってるわよ。場所」
「どこでもいいでしょ? 行ってきます」
 ボクはそれだけ言うと、さっさと部屋を出て外に出る。
「遅いわよ、満喜」
「ごめんね、説教が長くて」
 ボクは麗華の手を握り、歩きだす。
「行こうか、麗華」
「うん。そういえば、今日はどこに行くの?」
「ん? ……まあ、内緒。麗華も気に入るんじゃないかな」
「そう? ……んー、なら付いていこうかしら」
 そう言って麗華の手を引いて、ボクはバスと電車を乗り継ぎ、とある場所まで連れて行く。
「あれ? ここって……」
「うん、日本一高いところ。前回は最上階の展望台に上れなかったからね」
 キョトンとしている麗華。
 ボクはそれにフッと笑ってから、麗華の頭に手を乗せる。
「日本一高い場所なら――届くかもしれないでしょ? ジェラールと、アレクシアに。恨み言が」
 それと、お礼が。彼らのおかげでボクらは結ばれることになったんだから。
 麗華はぺしっとボクの手を払ってから、ニコリとほほ笑む。
 とても暖かい、優しい笑みを。
「そうね。しっかりと言っておかなくちゃ」
「でしょ?」
「うん」
 ――たとえ、これから先何があってもボクは麗華を愛すことだろう。
 だって、ボクらの前前前世が、見せてくれたんだから。
『死』という苦難すら乗り越え、人を愛すということを。
(……彼らのように、自分の来世に迷惑をかけたくはないけどね)
 数年後、数十年後も、来世でも君を愛すことを誓うよ。
 だって、前世も、前世も、そのまた前世も、そう誓っていたはずだから。
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