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第20話 一方ヴェルディーレ家では②
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マリアンナが『闇属性の女』に襲われた事件から、もう一週間も経過した。
ヴェルディーレ家では、事件の爪痕は残しつつも、いつもの日常に少しずつ戻り始めていた。
始め、マリアンナは当分の間は心のケアが必要であろう、という皆の心配も杞憂に終わり、彼女はすぐに元気を取り戻した。
それは、中身が聖花ではないからであったが、勝手に彼らは『ショックすぎて忘れようとしているのであろう』とか、『もう迷惑は掛けまいと必死に取り繕っているのだろう』とかと解釈していた。
「もう、1週間かぁ………」
マリアンナの部屋で彼女、カナデがぽつりと呟く。
ここ1週間、カナデは自分の時間を作るのが大変だった。
廊下を歩くときは、必ず使用人が彼女の側に控えており、気晴らしに外に出ようとすると、本邸の庭しか許されない上に屈強そうな騎士をつけられ、自室にも初めは使用人が四六時中ついていて、自由がなかった。
苦言を呈したのは事件から約三日後のことで、それでも変わったことと言えば、自室に常にいた使用人が部屋の前に待機するようになったことだけ。
カナデも流石にストレスが溜まったが、『マリアンナ』なので思う存分ストレス発散することもできず、始まったのがあの日のことを思い出して小さく嘲ることと、未来の自分の状況を見越して、優越感に浸ってストレスを紛らわすことだ。
彼女は自室で想像に耽っている為、どんな顔をしていようと誰かに見られているわけでもないので、その分気が楽だった。
しかし、気持ちが高ぶりすぎると笑い声が廊下に漏れてしまうかもしれないので十分に気を付けていた。
(大っ体、ゲームで知っていたけど、想像以上に過保護だったわ!!あんな状態で私、学園に行かせてくれるのかしら……。
母親の方から言って貰うようにお願いするしかないわね。
本当、面倒臭いことになったわ。私が端からマリアンナになってたらこんなことにならなかったのに!!)
部屋で一息付けたところで、ひとり毒づくマリアンナの様子は、とても乙女ゲームの主人公とは思えない形相をしていた。
取り繕うことなく、表情を露わにしている。
自室で1人になれるようになってから、毎日この状態である。
最早今の彼女にとっては、部屋のみが安全基地であったのだ。
「お嬢様、そろそろ夜食の時間でございます」
軽くノックがなって、扉越しにマリアンナの専属侍女であるメイが夜食の時間を告げる。
カナデは日がすっかり落ちている外を見て、もうそんな時間になっていることに今更ながら気が付いた。
「毎日、長い間ごめんなさいね。入っても良いわよ」
「畏まりました」
カナデはゲームのスチルで見た、マリアンナのように取り繕い、メイを部屋に入れて軽く支度をした後、共に家族が待つ場所へと向かった。
就寝時を除いてここ最近、ずっとメイが部屋の前で控えている役割になっていたので、カナデはメイに何か聞かれていないかと毎度警戒していた。
「私が最後ですね。遅くなって申し訳ございません……」
「マリーが謝ることはないよ。そんなことは些末なことだ。
兎に角、これで全員揃ったね。さぁ皆、食事にしようか」
メイが扉を軽くノックして開くと、マリアンナ以外は既に席に着いていた。
つい先程まで何か重大そうな話をしていた余韻が、ハッキリと残っていたが、今は殆ど皆穏やかに微笑んでいる。
ギルガルドは相変わらず無表情で、彼女の方をじっと見ていた。
ダンドールが口火を切り、間もなく料理が次々に並べられていき、他愛もない会話を交わした。
皆、明るい話題ばかりでマリアンナが襲われた事件について口にする様子はなく、彼女を傷つけないように敢えて避けているようだった。
カナデとしてもそちらの方が有り難かった。
だって余りに過去の事を蒸し返されたら、事件のことをハッキリと思い出して思わず嘲笑ってしまいそうになるから。
今日も何事もなく、夜食を食べて、湯浴みを済ませて、部屋で過ごしたりして一日が過ぎるかとカナデは思っていた。
ゲームが始まる前の、ただ過ぎ去るだけの日常。
しかし、この日だけは違った。
いきなりギルガルドが呟いたのだ。
「……あの事件から1週間経ったな」
皆口を噤んで一気に静まり返った。
心なしか空気が冷え切っている。
ダンドールも彼が自分から世間話を始めたことに驚いているが、それと同時に、マリアンナの前では話題に出してはいけないという暗黙の了解を破ってしまったことに目を見開いている。
フィリーネは冷気の籠もった目でギルガルドの方を見て、ルアンナはマリアンナを心配げに見ている。
(な、何言ってるのよ!!?ギルガルド!!
顔がいいからって、余計なこと言わないで!?
ボロが出て面倒が増えたらどうしてくれるのよ!!)
話題の中心人物である当の本人も予想外のことに固まってしまっている。
勿論彼女の心中は穏やかでない。
すぐにダンドールが慌てて身振りだけでギルガルドに触れてはいけないと意志を伝えるも、彼は話を止める気配はなく、ルアンナは結果的には何もしていない。
フィリーネがそれを見兼ねて、ギルガルドに意見しようとすると、先に彼が続けた。
「いつも通り過ごしているが……、お前、無理をしている訳ではないのか?」
マリアンナの方をハッキリと見て尋ねた。
どうやら明確に彼女に返答を求めているようで、周りに有無を言わせない威圧感があった。
流石のフィリーネも押し黙る。
「はい。私は平気ですよ」
(ええ!心配してくれてるの?なーんだ焦って損したぁ
クールで妹思いのイケメンな兄って良いわね。
攻略対象じゃないけれど、攻略できないかしら……)
しかし、カナデはギルガルドの圧に気付かない。
彼が敢えてカナデ以外の者に圧力を掛けたのか、それとも、カナデがただ鈍いだけなのかは不明だ。
ただ、その圧力の中で不似合いな笑顔をマリアンナは浮かべただけだった。
意識せずとも内心が少しばかり滲み出している。
ギルガルドはその様子を見ると、「そうか…」ととても小さな声で言って、食べかけの料理を置いて部屋から出て行ってしまった。
その後は、やはり予想通り、他の皆がマリアンナのフォローに努めていた。
フィリーネも同様にそうしながらも、少しばかりマリアンナに違和感を感じていた。
マリアンナはあの事件の後、友人を招き入れなかったことについては何となく理解できる。
だが、先の様子に加えてあの裏がありそうな笑み。
フィリーネがマリアンナとこれまで側で過ごしてきてあんな顔は見たことがなかった。
(お父様方に相談すべきか…………)
フィリーネは一人思い悩んだが、最終的には何かがハッキリするまで彼女の様子を見ていよう、と思った。
ヴェルディーレ家では、事件の爪痕は残しつつも、いつもの日常に少しずつ戻り始めていた。
始め、マリアンナは当分の間は心のケアが必要であろう、という皆の心配も杞憂に終わり、彼女はすぐに元気を取り戻した。
それは、中身が聖花ではないからであったが、勝手に彼らは『ショックすぎて忘れようとしているのであろう』とか、『もう迷惑は掛けまいと必死に取り繕っているのだろう』とかと解釈していた。
「もう、1週間かぁ………」
マリアンナの部屋で彼女、カナデがぽつりと呟く。
ここ1週間、カナデは自分の時間を作るのが大変だった。
廊下を歩くときは、必ず使用人が彼女の側に控えており、気晴らしに外に出ようとすると、本邸の庭しか許されない上に屈強そうな騎士をつけられ、自室にも初めは使用人が四六時中ついていて、自由がなかった。
苦言を呈したのは事件から約三日後のことで、それでも変わったことと言えば、自室に常にいた使用人が部屋の前に待機するようになったことだけ。
カナデも流石にストレスが溜まったが、『マリアンナ』なので思う存分ストレス発散することもできず、始まったのがあの日のことを思い出して小さく嘲ることと、未来の自分の状況を見越して、優越感に浸ってストレスを紛らわすことだ。
彼女は自室で想像に耽っている為、どんな顔をしていようと誰かに見られているわけでもないので、その分気が楽だった。
しかし、気持ちが高ぶりすぎると笑い声が廊下に漏れてしまうかもしれないので十分に気を付けていた。
(大っ体、ゲームで知っていたけど、想像以上に過保護だったわ!!あんな状態で私、学園に行かせてくれるのかしら……。
母親の方から言って貰うようにお願いするしかないわね。
本当、面倒臭いことになったわ。私が端からマリアンナになってたらこんなことにならなかったのに!!)
部屋で一息付けたところで、ひとり毒づくマリアンナの様子は、とても乙女ゲームの主人公とは思えない形相をしていた。
取り繕うことなく、表情を露わにしている。
自室で1人になれるようになってから、毎日この状態である。
最早今の彼女にとっては、部屋のみが安全基地であったのだ。
「お嬢様、そろそろ夜食の時間でございます」
軽くノックがなって、扉越しにマリアンナの専属侍女であるメイが夜食の時間を告げる。
カナデは日がすっかり落ちている外を見て、もうそんな時間になっていることに今更ながら気が付いた。
「毎日、長い間ごめんなさいね。入っても良いわよ」
「畏まりました」
カナデはゲームのスチルで見た、マリアンナのように取り繕い、メイを部屋に入れて軽く支度をした後、共に家族が待つ場所へと向かった。
就寝時を除いてここ最近、ずっとメイが部屋の前で控えている役割になっていたので、カナデはメイに何か聞かれていないかと毎度警戒していた。
「私が最後ですね。遅くなって申し訳ございません……」
「マリーが謝ることはないよ。そんなことは些末なことだ。
兎に角、これで全員揃ったね。さぁ皆、食事にしようか」
メイが扉を軽くノックして開くと、マリアンナ以外は既に席に着いていた。
つい先程まで何か重大そうな話をしていた余韻が、ハッキリと残っていたが、今は殆ど皆穏やかに微笑んでいる。
ギルガルドは相変わらず無表情で、彼女の方をじっと見ていた。
ダンドールが口火を切り、間もなく料理が次々に並べられていき、他愛もない会話を交わした。
皆、明るい話題ばかりでマリアンナが襲われた事件について口にする様子はなく、彼女を傷つけないように敢えて避けているようだった。
カナデとしてもそちらの方が有り難かった。
だって余りに過去の事を蒸し返されたら、事件のことをハッキリと思い出して思わず嘲笑ってしまいそうになるから。
今日も何事もなく、夜食を食べて、湯浴みを済ませて、部屋で過ごしたりして一日が過ぎるかとカナデは思っていた。
ゲームが始まる前の、ただ過ぎ去るだけの日常。
しかし、この日だけは違った。
いきなりギルガルドが呟いたのだ。
「……あの事件から1週間経ったな」
皆口を噤んで一気に静まり返った。
心なしか空気が冷え切っている。
ダンドールも彼が自分から世間話を始めたことに驚いているが、それと同時に、マリアンナの前では話題に出してはいけないという暗黙の了解を破ってしまったことに目を見開いている。
フィリーネは冷気の籠もった目でギルガルドの方を見て、ルアンナはマリアンナを心配げに見ている。
(な、何言ってるのよ!!?ギルガルド!!
顔がいいからって、余計なこと言わないで!?
ボロが出て面倒が増えたらどうしてくれるのよ!!)
話題の中心人物である当の本人も予想外のことに固まってしまっている。
勿論彼女の心中は穏やかでない。
すぐにダンドールが慌てて身振りだけでギルガルドに触れてはいけないと意志を伝えるも、彼は話を止める気配はなく、ルアンナは結果的には何もしていない。
フィリーネがそれを見兼ねて、ギルガルドに意見しようとすると、先に彼が続けた。
「いつも通り過ごしているが……、お前、無理をしている訳ではないのか?」
マリアンナの方をハッキリと見て尋ねた。
どうやら明確に彼女に返答を求めているようで、周りに有無を言わせない威圧感があった。
流石のフィリーネも押し黙る。
「はい。私は平気ですよ」
(ええ!心配してくれてるの?なーんだ焦って損したぁ
クールで妹思いのイケメンな兄って良いわね。
攻略対象じゃないけれど、攻略できないかしら……)
しかし、カナデはギルガルドの圧に気付かない。
彼が敢えてカナデ以外の者に圧力を掛けたのか、それとも、カナデがただ鈍いだけなのかは不明だ。
ただ、その圧力の中で不似合いな笑顔をマリアンナは浮かべただけだった。
意識せずとも内心が少しばかり滲み出している。
ギルガルドはその様子を見ると、「そうか…」ととても小さな声で言って、食べかけの料理を置いて部屋から出て行ってしまった。
その後は、やはり予想通り、他の皆がマリアンナのフォローに努めていた。
フィリーネも同様にそうしながらも、少しばかりマリアンナに違和感を感じていた。
マリアンナはあの事件の後、友人を招き入れなかったことについては何となく理解できる。
だが、先の様子に加えてあの裏がありそうな笑み。
フィリーネがマリアンナとこれまで側で過ごしてきてあんな顔は見たことがなかった。
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