とうちゃんのヨメ

1章 絆

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「おかえりなさいまし」

旅館に着くと、女将さんがお出迎えをしてくれた。部屋まで案内してもらい、女将さんは僕たちにお茶の用意をしてくれた。

「お食事は、先になされますか？直ぐに用意もできますので、いかがなさいまし？」

少し方言が入って可愛らしい話し方の女将さんだ。

「やっぱり、お風呂に入ってからじゃない？」

雪ちゃんは、お風呂を所望のようだ。トウちゃんも僕も異論は全くない。

「では、先にお風呂に入らせてもらいますので、1時間後に食事をお願いできますか？」
「かしこまりました。お部屋にお持ち致しますね。それと、お客様…もしよろしければ…」

女将さんは、手書き感満載のチラシを一枚テーブルに置いた。

「何もない田舎ですけどね、地元の小学校で蛍の放流をしてるんですわ。ウチの娘がお客様にぜひ見て欲しいってチラシを作りましてね。お食事の後にでも夕涼みがてらお散歩にでもいかがですか？」

【自然が生んだ宇宙　蛍の星空】と書かれたチラシ。旅館からの地図も描かれていて、可愛らしい蛍のイラストに「僕たちピカピカ！」と吹き出しで喋っていた。

「味のあるチラシですね。信、行ってみるか？」
「うん、行きたい！女将さん、教えてくれてありがとうございます」
「娘も喜びます。楽しんで来てくださいまし」

ぺこりとお辞儀をして、女将さんは部屋から出ていった。僕たちは、浴衣に着替えてからお風呂に向かった。

大きな旅館ではないので、大浴場と言っても家族風呂のような大きさだった。数人で満員になりそうな感じだった。

「おぉ！貸し切りみたいな状態だな」

大胆に浴衣を脱ぐトウちゃん、タオルで長い髪を巻き上げる雪ちゃんは、なんだか色っぽい。僕は隅っこでこっそりと脱いでいると、裸のトウちゃんがやってきて僕が腰に巻いたタオルを取り上げた。

「俺たちしかいないんだ！恥ずかしがるな」

ニカっと笑い、そのまま腕を取って浴場に連れて行かれた。
大きな窓ガラスの向こうには、夕陽が海に沈む様子が一望できる絶景だった。

「凄い…」
「こりゃまた贅沢だな」
「海の高さと岩風呂の高さが同じなんだね…」

僕たちは、三人で湯船に浸かり、陽の沈む様子を最後まで観ていた。しっかりとお風呂を堪能して、僕たちは部屋に戻ると女将さんが食事を持って来てくれた。

「素敵なお風呂でした」
「そう言って頂けると嬉しいですわ。夕陽が綺麗でしたでしょ」

にこにこと可愛らしい笑顔で、食事の用意をしてくれた。

「漁港の街ですんで、海の幸ばかりですけど…」

鯛のお刺身、鯛飯、鯛のお清し。ワカメと大根の海藻サラダ、大きな海老フライとフグの唐揚げ。デザートはさっぱりした柚子のシャーベット。

トウちゃんと雪ちゃんは、お酒を飲んで酔っ払うのがもったいないと言い、僕たちは、お腹がはち切れそうなくらい、美味しく頂きました。