とうちゃんのヨメ

りんくま

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1章 絆

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病院の外に出ると、藤原はスマートフォンを取り出した。陽子から送られてきたGPSのデーターを確認して、直ぐに陽子に連絡をした。

「悪いけど、信君のスマホの紛失届を出してくれる?」

手短に用件を伝え、再び別の人物へ連絡した。

山前やまざきさん!お久しぶりです。頼みがあるんですけど、今から送る住所に付き合ってくれません?」

山前は、藤原が懇意にしている捜査一課の刑事だった。仕事上、情報の提供など助け合っている。万が一を考え、警察官の特権を利用できるようによびしておきたかった。

バイクに跨り、エンジンを噴かす。ドルンと重低音の音がマフラーから響く。ヘルメットを深く被り、藤原はアクセルを回した。



その頃、病室の藤吉は、動けない自分が腹立たしかった。自分が無理に藤原について行っても、手足が自由に動かせなければ、足手纏いでしかなかった。大丈夫だと自分に言い聞かせても、安心はできなかった。

藤吉のスマートフォンからLINEメッセージの着信を知らせる音がなる。雪からのメッセージで、信がまだ帰ってきていないと確認の連絡だった。

「一人蚊帳の外と言う訳にもいかないな」

雪之丞の連絡先を画面に表示させてタップする。発信音が鳴る間もなく、雪之丞が電話に出た。

「雪、悪い。信が中埠頭にいるらしい。……わからない。今、大先生が確認に向かっている。」
「ちょっと待って、俺も捜す。どこに行けばいいんだ?」

オネエ言葉から素の言葉に戻った雪之丞に、藤吉自身の慌てた姿が重なり、藤吉は冷静さを取り戻しつつあった。

「場所は、陽子さんから聞いてくれ。だけど、大先生の指示に必ず従ってくれ」
「解った」

藤吉は、直ぐに行動のできる雪之丞が羨ましくも思った。久美子の事が頭に過ぎるが、万が一の事を考え藤吉は耐えるしかなかった。




海に隣接する倉庫街である中埠頭に着いた藤原は、乗り回すには目立つバイクを駅に隣接されたパーキングエリアに停めた。ここからは、徒歩の方が目立たない。山前との待ち合わせ場所である、駅の西口に向かった。

藤原は、西口の前のガードレールに腰掛けた山前を発見した。

「山前さん、急に呼び出してすみません」
「良いってことよ。大ちゃんには、いつもお世話になってることだし。それで、手伝って欲しいことって何?」

人懐っこい笑顔で笑う山前。藤原は、手短に用件を話した。

「それで、信君のGPSが、この中埠頭にあるってことだね。目星はついてんの?」
「GPSとWEBマップをリンクさせてますので、明確な場所も特定出来てます。この場所です」
「取り敢えず、近くまで行ってみようか」

藤原は、山前を連れてGPSが示す場所を目指し移動を始めた。画面に突如雪之丞の名前が表示される。側の山前に断って電話に出た。

「雪君、どうした?…あぁ、藤吉から聞いたのか?……一緒に探したい?…そうか。でもな、現在手分けしてっという状態でもないんだ。……気持ちは、わかるが…?少し、待ってくれるか?」

チョンチョンと腕を突く山前に気付き、藤原は、電話を中断した。

「信君の知り合い?」
「はい、一緒に探してくれると言ってまして、今はまだ連絡を待って欲しいと…」
「来てもらっても良いんじゃない?」
「理由を聞いても?」
「直感!大ちゃん、刑事さんの直感を舐めたらダメだよ」
「…わかりました。山前さんの直感は、いつも助けられています」

藤原は、一緒に行動する事を条件に、雪之丞の動向を了承した。待ち合わせ場所は、目的とする場所から少し離れた場所を指定した。到着後、LINEで連絡をしてくれる事になった。

「山前さん、この中です」
「あらら、まごう事なき倉庫だね。中学生の少年が用も無くくる場所ではないね」

目星の倉庫を確認して二人は、一旦その場を離れる。

「うん、あそこの喫茶店で少し様子を見よう」

山前が示す喫茶店は、倉庫の入り口がよく見える場所にあった。対策を立てるためにも落ち着いて話しをする必要もあった。山前は、自分の携帯を取り出し、連絡を取り始めた。

「悪いけど一台車手配して、サイレンは鳴らさず赤色灯だけつけて。それで、今から指定する場所で赤色灯を回して待機ね」

山前は、指示を終えると藤原を連れて喫茶店に入った。
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