とうちゃんのヨメ

りんくま

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2章 楔

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あれから、僕とトウちゃんは、戸籍上親子になった。本来、独身のトウちゃんは、養父になる事が出来ない。だけど、久美子さんが起こした僕への虐待や誘拐などが明るみになった事や、トウちゃんが僕の未成年後見人で合った事、僕自身の心のケアが必要として、織田家から僕を引き離す必要があると裁判所も判断。無事に僕は、織田 信から木下 信となった。

「また、ヤツがいるのか?」

トウちゃんは、帰宅するなり不機嫌そうにつぶやいた。食卓には、チキンのホワイトシチューに肉じゃが。ポテトサラダに、ほうれん草の白和えが並ぶ。統一感のないメニューを見て、こめかみがヒクヒクしてる。

「トウちゃんの好きな肉じゃがにほうれん草の白和えだよ?」

トウちゃんは、以外に和食派だ。だけど不揃いに並ぶ洋食のメニュー。

「藤吉!お帰りなさい」
「我が家のようにくつろいでんじゃねえよ。信も雪には甘すぎる」

洋食は、雪ちゃんの好物だった。以前雪ちゃんが来た時、洋食メインで夕飯を作った時、トウちゃんは、全力で拗ねてしまった。次にトウちゃんが好きな和食メインで夕飯を作ると、今度は雪ちゃんが全力でいじけてしまった。あっちを立てればこっちが立たず。トウちゃんも雪ちゃんも宥めるには、僕がとても大変な事になってしまう。それからは、和洋折衷案として、半々のお好みメニューとなった。

「でも、結局は美味しいって二人とも食べてくれるよね」

トウちゃんも雪ちゃんも、実は好き嫌いはなく、洋食であっても和食であっても中華であろうと全部美味しいと言って完食してくれる。ただ、お互いにどちらが僕によりかまってもらえるかを競い合っているだけだった。

「藤吉、早く着替えてこい。腹減った」
「うるせぇ」

二人揃えば、直ぐ憎まれ口を叩く。本当に仲が良い二人だと思う。

改めてトウちゃんが、雪ちゃんの隣に座り三人揃って夕飯を取った。なぜ、トウちゃんと雪ちゃんが隣同士で座るのかも、夕食のメニューと同じ理由で、僕が大変なことになるのを避けるためだった。

笑顔あり、罵り合いあり、そしてまた笑顔になる。僕は、三人で過ごす時間が本当に大好きだ。

「本当に、トウちゃんと雪ちゃんって仲が良いよね」

小競り合いをしているトウちゃんと雪ちゃんは、同時に僕に振り向いて、しばらく無言になった。

「…本当に姉貴そっくりだな」
「寧々さんにも、同じセリフをよく言われたわね」

どこか切なく、そして懐かしそうに二人は笑う。

「お母ちゃんも同じことを言ったの?」
「あぁ、俺たちがケンカする度に、本当に仲が良いって言うんだ」
「くすくす笑いながら言われるもんだから、こっちも一緒に笑ってしまう。今のは、デジャヴだったな」

二人は、僕の知らないお母ちゃんのことをいろいろ話してくれた。

「トウちゃんと雪ちゃんって、いつ頃出会ったの?」
「そうだなぁ、保育所で、気が付けばいつも遊んでたな」
「そうだね、いつも寧々さんが迎えに来てたね」
「あぁ、お前が寂しそうにするから、ご近所という理由で、お前も一緒に姉貴が連れて帰ってたな」

懐かしそうに、トウちゃんは目を細めた。

「雪ちゃん、ご近所さんだったの?」

僕の質問を聞いて、トウちゃんはバツが悪そうな顔をした。

「雪…悪い」
「いいよ藤吉。信君には、いずれ話そうと思ってたから」

何か聞いてはいけない質問だったのかな?トウちゃんも雪ちゃんもお互いにあまり子供の頃の話は、した事がないけど、トウちゃんの様子からあえてその話を避けていたっぽい。

「取り敢えず、食事の後でゆっくりお話ししましょ」

雪ちゃんは、少し切ない笑顔を見せた。




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