隣りの神さまは、破壊神?

りんくま

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1章 

006 魔法の土

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 「ゴードンさーん 一休みしませんか?」

 麦わら帽子のツバに手をかけて、声のする方を見ると、総司が手を振りながら近づいてきた。

 「お疲れ様です 冷えた果実水を持ってきましたので、少し休憩をしましょう」
 「これは、これは、かたじけないですじゃ」

 首にかけたタオルで、額の汗を拭いウサギらしいモコモコした四本の指で果実水を受け取り笑顔を見せる。

 「それにしても、綺麗になりましたね さすがです」
 「いやいや、まだまだじゃ 芝を刈って、雑草を抜いただけで、庭師らしい仕事は、しとらんですじゃ」

 謙遜しつつ、美味しそうに果実水を飲む姿に好感を覚える。本当に土作業が好きなのだろう。これからずっと育てていく事になるこの庭の土台作りを、本当に楽しんでいるようだった。

 果実水を飲んで、一息ついた後、ゴードンと並んで草むしり。本当は、雨上がりの晴れた日に草むしりをするのが効果的なのだが、あいにく時間が差し迫っている。草むしりをしたいスペースに軽く水を巻いて、土が柔らかくなったところを狙って、むしっていくしかない。

 時折、土を手に取りゴードンは、軽くため息を吐いていたため、気になることはあるのか尋ねてみた。

 「少し土が細いんじゃよ 悪い土じゃないんじゃがなぁ」
 「…細い?……あぁ、痩せてるってことか?」

 園芸は、専門じゃないが、総司のお掃除ハンターとしてのアンテナが、ピピピと反応する。ポンッと両手を叩くと、神殿から木箱を二つほど持って戻ってきた。

 「ウヘヘ 良いこと思いついちゃった ゴードンさん ちょっとシャベル借りるなぁ」

 総司は、ウロウロと神殿の周りの土を物色。お目当ては、砂利が少なく、黒っぽい柔らかめの土だ。ちょうど、木々が生い茂る林の付近で、落ち葉など混ざった少し湿気った土を見つけた。

 「ここ、少し掘っても良いか?」
 「…ん? ……あぁ、神殿の裏手だから構わんじゃろ」

 ゴードンの許可を得て、えっさ、ほいさと木箱半分くらいに土を集めていく。木箱は、セバスチャンの魔法により軽量化されている為、土がたんまり入っていても手軽に持ち運べる。

 「何をするんじゃ?」
 「えへへ まぁ見てなって」

 土作業であれば、ゴードンも興味があるようで、総司の作業が気になってしょうがない。総司が持って来たもう一つの木箱を開けると、ちょっぴり酸っぱい匂いのする生ゴミだった。

 「…!? …なんじゃぁ?」
 
 小さなスコップで、総司は異臭を放ち生ゴミを掬うとポイッと土の入った木箱に放り込む。ぐりんぐりんと土を混ぜ、また、生ゴミを放り込む。何度かその作業を繰り返して、最後にたらりと油を垂らし、土に空気を含ませるように混ぜていった。

 「魔法の土だよ」
 「魔法の土じゃと?」

 総司の作った物は、簡易的なバイオ式生ゴミ処理機だ。生ゴミ削減を目的として、家庭菜園やガーデニングなどの良質な土を作り出すための手作りコンポストだ。

 ダンボールなどでも簡単に作れるため、主婦たちの間でも口コミで広まっていた。自治体によっては、補助金なども出している所もある。

 「土の中にはさぁ…っと 微生物がぁ…っと いっぱいいてなぁ…」

 ざっくり、ざっくり、底から裏返すように、生ゴミと油と土が混ざるように掻き回す。

 「この生ゴミを…っと 食べて良い土にするんだぁってさぁ…っと」

 「ほほう」とタオルで額の汗を拭きながら、ゴードンは、木箱を覗き込む。

 「どれぐらいで、魔法の土は完成するんじゃ?」
 「ん…?確か三ヶ月くらいって聞いたかなぁ」

 だけど、それは総司の住む世界での話。

 「取り敢えず、日陰に置いて、毎日少し掻き混ぜてると、生ゴミが消えてなくなるらしいよ」

 額に汗を光らせて、頬に土をつけた総司が、「面白いよね」と笑う。ゴードンも特徴のある二本の前歯を見せ、カカカッと笑った。





 コンポストを作るため、生ゴミ類は、ゴードンが全て引き取ってくれた。庭師として有効に処分してくれるだろう。

 これで、衣類、ゴミ類の木箱は片付いたも同然だ。装飾品類は、ソフィーとニノに任せて神殿内に飾ってもらえば良い、食器類は、食事の準備の度に、少しずつ食器棚に収納して、最終的に、いずれ雇うであろう料理人に任す事にしよう。

 これからの肯定を考えながら、総司はセバスチャンに任せっきりになっている書庫へと足を運ぶ。

 「セバスチャン? 作業は順調か?」

 コンコンと扉をノックして、総司は顔をひょこりと出す。

 「そ、総司様ぁ……」

 呆然と書庫の中を立ち尽くすセバスチャン。振り返ると薄っすらと涙目だ。

 「ど、どうして、こうなる?」

 額に手を当てて、頭を抱えて疼くまる総司。片付けを任せてはいけない。混ぜるな危険。残念ダメダメ執事の本領が発揮された惨状が、目の前にあった。
 

 
 

 

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