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7晩目 ホースケさん、憑依する①
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「さて、まずはどうやって魔術具で登録を済ませるかだが……」
マンキーが顎を摩りながら、ホースケをチラリと見る。
「見た目は、レイスっぽいが……レイスにできることといえば、精神異常攻撃に毒攻撃んで麻痺攻撃だろ呪いにと」
マンキーが指を折りながらレイスの能力を洗い出していく。
「俺、そんな怖いことしたことないしできないよ」
「待て待て、焦るな ヒントがあるかも知れんだろうが」
ホースケからすれば、誰かに攻撃するなんて考えたこともないし、これから先もするつもりもない。ぷっくり頬を膨らませ、少し不満顔だ。
「自分、レイスに精神乗っ取られて仲間を攻撃したことあるっす」
「あの時は、あたしがこのメイスでアンタの頭を思いっきり殴って正気に戻ったんだっけ」
「デカいたんこぶできたっす」
マンキー亭に居合わせた冒険者が、レイスから受けた攻撃について話しかけてきた。彼らは、Dランクの冒険者で、シズルとツカサだ。
「シズルとツカサか? 今日は早いな」
「ウッス 頼まれていたバッファロールを討伐したんで、報告と買取りを頼んます」
バッファロールとは、羊っぽい見た目の牛の魔獣らしい。体毛は、品質の良い毛糸になり、肉は霜降りで煮ても良し焼いても良しの高級食材でとても美味いらしい。
「おう………オマエら、ここにバッファロール持ってこい」
「良いっすけど?」
荷車に乗せたバッファロールをゴロゴロと押して店内に持ってくる。
立派な体躯だと思うが、頭と胴体が繋がっていない。お肉は既に加工され、パックで売られている商品しか知らないホースケには、耐え難いホラーな状態だ。
「ホースケ ちょいとお前コレに取り憑いてみ」
「うぇっ!?何を言ってんのオッさん 気は確かか?」
思わずオッさん呼びしてしまったが、マンキーはジロリと睨むだけで「良いからやってみろ」という。ビクビクと頭と胴体が分断されたバッファロールの屍体に近づいては見るが、白目を剥いて舌がベロンと垂れ下がっている顔を見てペチョンと尻持ちをついてしまう。
「いやいやいや ムリムリムリ」
首と手をぶんぶんと激しく振って、それ以上近づくのを拒絶。いくらオバケであってもリアルホラーには耐性が無い。マキマの側でお手伝いをしているミーシャの側に逃げ隠れた。
「パパ!ホースケいじめちゃダメ!」
「ミーシャ パパはいじめちゃいないよ ホースケの為にだなあ」
「ダメったらダメ!」
可愛い娘には逆らえず、スゴスゴとバッファロールの屍体を片付ける。
「レイスみたいなもんだろうから 取り憑けば何とかなるかなぁっと思ったんだけどよう 意外にもホースケが思いの外ヘタレやがって」
「うへ? 取り憑く?」
実質霊体であるホースケが魔術具に触れる為の手段として、バッファロールの身体を利用する事を思いついたのだとマンキーは説明をした。
「レイスってのは、魔物の屍体にも取り憑いたりするからな」
「さすがに屍体は、ないっすよ」
「じゃあ、シズルに取り憑いてみるのはどうだ?」
新たな提案に嫌な顔をしたのは、シズルだった。しかし、絶対的な強者の逆らえるわけでもなく、ホースケとシズルは、マンキーの指示に従うしかなかった。
ホースケは、シズルにゆっくりと身体を重ねていく。
「うわわわわ なんかゾワゾワするっす」
ただ、ホースケが身体をすり抜けたり、重なってみたりしているだけなのだが、シズルにとってはあまり気持ちの良い感触ではないらしい。
「ほら、乗っ取れ」
簡単に言われてしまうが、シズルの身体を出入りしているだけで、精神の干渉にまでは至らない。「えい」「やあ」「とう!」掛け声をかけてみても手応えを感じることが出来ない。
「うはっ くすぐったいっス」
「何だか身体が冷え込むっス」
シズルも身体の違和感を感じるだけで、精神的な異常は特に感じないと感想を述べる。大の男が遊んでいるようにしか見えないマキマが、痺れを切らしてホースケたちに声をかけた。
「魔術と一緒で、イメージが大事なんじゃない?ほら、ホースケも掛け声をあげるだけじゃなくて、相手の精神を操作することを想像するんだよ」
マキマは、イメージが大事なのだとホースケに諭した。シズルの身体から、頭をにょきりと生やした状態で、「乗っ取る」というイメージを考える。
「オバケが、身体を乗っ取る…乗っ取るねえ」
イタコなどの降霊術、悪魔が憑依した少女をお祓いしようとする映画、ゲームなどに登場する敵を誘惑し操る魔物など、思い起こす。
「憑依とか? うわあ!」
言葉にした途端、ホースケは瞬時に理解する。憑依という言葉が、一番しっくりしたからだろうか?シズルの身体を精神を一気に掌握していった。
一つの身体で二つの精神が存在する、そんな感覚だろうか。シズルは、身体が重くなり、思うように動くことも話すこともできない。
「できたのか?」
「あ ああ ぐぁ」
何とも言えない呻き声を上げるシズルに、ホースケが憑依出来たことをマンキーは把握するが、その後直ぐにホースケが対外に飛び出した。
「き きつい このままだとシズルさんの精神が壊れちゃう だけど憑依はできるみたいだ」
バタリと泡を噴いて倒れるシズル。精神を干渉してしまったためか、気絶したままだ。
「生きた人間じゃなくて なんかこう無機質な物体でも憑依できるんじゃないかな?」
ミーシャが、ポンと両手を叩く。
「私、良いもの持ってる!ホースケ、ちょっと待ってて!」
そう言って、ミーシャはマンキー亭の奥へと走り去って行った。
マンキーが顎を摩りながら、ホースケをチラリと見る。
「見た目は、レイスっぽいが……レイスにできることといえば、精神異常攻撃に毒攻撃んで麻痺攻撃だろ呪いにと」
マンキーが指を折りながらレイスの能力を洗い出していく。
「俺、そんな怖いことしたことないしできないよ」
「待て待て、焦るな ヒントがあるかも知れんだろうが」
ホースケからすれば、誰かに攻撃するなんて考えたこともないし、これから先もするつもりもない。ぷっくり頬を膨らませ、少し不満顔だ。
「自分、レイスに精神乗っ取られて仲間を攻撃したことあるっす」
「あの時は、あたしがこのメイスでアンタの頭を思いっきり殴って正気に戻ったんだっけ」
「デカいたんこぶできたっす」
マンキー亭に居合わせた冒険者が、レイスから受けた攻撃について話しかけてきた。彼らは、Dランクの冒険者で、シズルとツカサだ。
「シズルとツカサか? 今日は早いな」
「ウッス 頼まれていたバッファロールを討伐したんで、報告と買取りを頼んます」
バッファロールとは、羊っぽい見た目の牛の魔獣らしい。体毛は、品質の良い毛糸になり、肉は霜降りで煮ても良し焼いても良しの高級食材でとても美味いらしい。
「おう………オマエら、ここにバッファロール持ってこい」
「良いっすけど?」
荷車に乗せたバッファロールをゴロゴロと押して店内に持ってくる。
立派な体躯だと思うが、頭と胴体が繋がっていない。お肉は既に加工され、パックで売られている商品しか知らないホースケには、耐え難いホラーな状態だ。
「ホースケ ちょいとお前コレに取り憑いてみ」
「うぇっ!?何を言ってんのオッさん 気は確かか?」
思わずオッさん呼びしてしまったが、マンキーはジロリと睨むだけで「良いからやってみろ」という。ビクビクと頭と胴体が分断されたバッファロールの屍体に近づいては見るが、白目を剥いて舌がベロンと垂れ下がっている顔を見てペチョンと尻持ちをついてしまう。
「いやいやいや ムリムリムリ」
首と手をぶんぶんと激しく振って、それ以上近づくのを拒絶。いくらオバケであってもリアルホラーには耐性が無い。マキマの側でお手伝いをしているミーシャの側に逃げ隠れた。
「パパ!ホースケいじめちゃダメ!」
「ミーシャ パパはいじめちゃいないよ ホースケの為にだなあ」
「ダメったらダメ!」
可愛い娘には逆らえず、スゴスゴとバッファロールの屍体を片付ける。
「レイスみたいなもんだろうから 取り憑けば何とかなるかなぁっと思ったんだけどよう 意外にもホースケが思いの外ヘタレやがって」
「うへ? 取り憑く?」
実質霊体であるホースケが魔術具に触れる為の手段として、バッファロールの身体を利用する事を思いついたのだとマンキーは説明をした。
「レイスってのは、魔物の屍体にも取り憑いたりするからな」
「さすがに屍体は、ないっすよ」
「じゃあ、シズルに取り憑いてみるのはどうだ?」
新たな提案に嫌な顔をしたのは、シズルだった。しかし、絶対的な強者の逆らえるわけでもなく、ホースケとシズルは、マンキーの指示に従うしかなかった。
ホースケは、シズルにゆっくりと身体を重ねていく。
「うわわわわ なんかゾワゾワするっす」
ただ、ホースケが身体をすり抜けたり、重なってみたりしているだけなのだが、シズルにとってはあまり気持ちの良い感触ではないらしい。
「ほら、乗っ取れ」
簡単に言われてしまうが、シズルの身体を出入りしているだけで、精神の干渉にまでは至らない。「えい」「やあ」「とう!」掛け声をかけてみても手応えを感じることが出来ない。
「うはっ くすぐったいっス」
「何だか身体が冷え込むっス」
シズルも身体の違和感を感じるだけで、精神的な異常は特に感じないと感想を述べる。大の男が遊んでいるようにしか見えないマキマが、痺れを切らしてホースケたちに声をかけた。
「魔術と一緒で、イメージが大事なんじゃない?ほら、ホースケも掛け声をあげるだけじゃなくて、相手の精神を操作することを想像するんだよ」
マキマは、イメージが大事なのだとホースケに諭した。シズルの身体から、頭をにょきりと生やした状態で、「乗っ取る」というイメージを考える。
「オバケが、身体を乗っ取る…乗っ取るねえ」
イタコなどの降霊術、悪魔が憑依した少女をお祓いしようとする映画、ゲームなどに登場する敵を誘惑し操る魔物など、思い起こす。
「憑依とか? うわあ!」
言葉にした途端、ホースケは瞬時に理解する。憑依という言葉が、一番しっくりしたからだろうか?シズルの身体を精神を一気に掌握していった。
一つの身体で二つの精神が存在する、そんな感覚だろうか。シズルは、身体が重くなり、思うように動くことも話すこともできない。
「できたのか?」
「あ ああ ぐぁ」
何とも言えない呻き声を上げるシズルに、ホースケが憑依出来たことをマンキーは把握するが、その後直ぐにホースケが対外に飛び出した。
「き きつい このままだとシズルさんの精神が壊れちゃう だけど憑依はできるみたいだ」
バタリと泡を噴いて倒れるシズル。精神を干渉してしまったためか、気絶したままだ。
「生きた人間じゃなくて なんかこう無機質な物体でも憑依できるんじゃないかな?」
ミーシャが、ポンと両手を叩く。
「私、良いもの持ってる!ホースケ、ちょっと待ってて!」
そう言って、ミーシャはマンキー亭の奥へと走り去って行った。
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