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第二章
第42話 隠された実力
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「ロロアさん、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたの? ライブラさん」
立ち塞がる【理の破壊者】を倒して、レイリアさんと合流し。
残るは最上層を目指すだけだと、いざ歩き出したばかりだった。
「私様は用事を思い出しました。みなさんは先に進んでおいてください」
ライブラさんが上着ポケットから抜けてそんな事を言い出す。
いつものように悪戯っぽい妖精らしい表情で。でも雰囲気が違う。
こんな何もない砂漠地帯で用事だなんて。あまりに不自然だ。
「何を言っているのよ。貴女一人では魔物に押し潰されておしまいよ」
アイギスも違和感を覚えたのか、すぐに同行者として名乗り出る。
「失礼な! 本気を出したら私様はアイちゃんより強いのですよ!」
「あら、出せないもので威張られても困るわ。ここで白黒つけてみる?」
「むむむ、望むところですが。私様が本気を出すのは生涯に一度だけと決められておりまして」
「ほらいつもの強がりじゃない。私が付き合うわよ」
「むー。強情ですねぇ。しかし、ここは私様が一人でないと……」
ライブラさんが珍しく言い淀むような形で立ち止まっていた。
よほど大事な用事があるみたいだ。でも内容は答えてくれそうにない。
「僕もついていくよ。やっぱり心配だから。あの戦いのあとだし、何があるかわからないよ」
「エルもです!」
「……ぐぅ」
「ライブラ参謀、同行を許されない私めはクビなのでしょうか……?」
「あの、私も人付き合いが苦手ですが、寄り道を許さないほど狭量ではありませんよ……?」
「ライブラ様は☆1なのです! 一人では危ないです!」
この場に集う全員が、彼女を心配してついていこうとする。
「保護者同伴が恥ずかしいのなら、私だけでもいいけど。どうするの?」
「ええい、私様は子供ではないのです! 一人でお使いくらいできますよ! ふんっ」
逆に意固地にさせてしまった。
ライブラさんが不機嫌そうに羽を動かす。
意外と本気を出すと飛ぶのが早かった。
何より身体が小さいので砂漠の風で見え辛い。
「……あっ、ロロアさん。スペアの【情報板】ですが。大切に肌身離さず持ち歩いてくださいよ? これはライブラ様とのお約束です!」
「えっ? それはどういう意味――」
「ではみなさん御機嫌よう。またすぐに戻りますよ」
別れの言葉のようなものを言い残し、
ライブラさんは砂漠の中に消えてしまった。
◇
砂漠の真ん中に一人の人間が倒れていた。
激しい戦闘を物語る穴が穿たれた地形の中で。
必死に生き残ろうとする最期のあがきを。鼓動が聞こえてくる。
「やはり生き残っていましたか。いつの時代もゴミはしぶといものですね」
「……俺は……人の限界を超え……神をも超える……こんな所で……!」
崩れた肉体を修復してカナンは原型を取り戻しつつある。
すべての損傷は治せずに、元の人間に近い姿ではあったが。
「【神化の霊薬】を使いましたか。――異界神の遺骸から精製された霊薬。大賢者が遺しし禁じられた神話級の秘宝。どこで手に入れたのかは存じませんが。適合者でなければ二日と持たないでしょう」
ライブラの瞳には今にも死に掛けの男が映っている。
「ですが、自然消滅を待つ暇も与えません。霊薬を取り込んだ偽神は存在そのものが世界の害となる。この場で確実に塵も残さず消し去る。それが大賢者の望みでもありましょうから」
「黙れ……妖精風情が……何ができる……!」
カナンの爪が伸びて、ライブラの妖精の肉体を貫いた。
羽がもがれ、頭が力なく項垂れる。何一つ抵抗もなかった。
「……受信完了」
最期にライブラの口から紡がれた言葉を引き金に、
魔塔内部に天から降り注ぐ光の柱が。彼女の亡骸を包み込む。
白いカーテンの中から、一人の女性が現れた。虹色の羽が広がる。
「――ご苦労です。ふむ、ロロアの【擬人化】は分体の容姿を引き継ぐようですね」
その様相はまるで神秘の妖精女王だった。
女性は自分の肉体を確かめるように見つめている。
「お、お前は……何者だ……!? こ、この……威圧は……あの男と同じ……!」
「大賢者ライブラが次代に託した聖遺物と申しておきましょうか。先程の肉体はあくまで仮初の物」
ロロアの所持していた【情報板】は複製品だ。
本体の原板は現在もとある大国に封じられている。
分体であったライブラが持つ唯一のスキル。【情報受信】。
それは一時的に原板との繋がりを生み、本来の力を取り戻すものだった。
「今のワタクシは正真正銘の神話級。他の子たちのように優しくはありませんよ」
ライブラは悠然と砂漠の上を歩く。罪人を裁く処刑人のように。
「自らを神を超えしと嘯く戯者に、真の神威というものをお見せしましょう――グリモワール」
ライブラの背後に一冊の古い書物が召喚される。
開かれたページには空白が目立つ。これは未だ不完全なもの。
「……そうですね。この子たちが適任でしょう」
ライブラが止めたページから複数の生物が這い出てくる。
それは魔塔に挑戦する者なら、誰しもが見覚えのある魔導生物。
キングオーガ アクアドラゴン フォルネウス
「ブウオラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「グギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
「キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
咆哮するのは【星渡りの塔】を代表とするフロアボスだ。
ロロアの経験、記憶から摘出された。限りなく本物に近い複製品。
それが数十の群れとなって一人の人間の男を包囲する。
油断もなく、憐れみもない。確実性を持って消滅させる。
「喰らいなさい」
「あ……ああ……あああああああああああああああああ」
人であった頃の恐怖を思い出したカナンは絶望に歪む。
悲鳴もなかった。ただ圧倒的な神の力によって蹂躙される。
「――誰ですか。ワタクシのあとをつけてきた無神経な方は」
ライブラが背後に近付いていた人物に語りかける。
「……何よこれ。……あのフロアボスは、ライブラの仕業なの?」
アイギスだった。戸惑いを隠せずに立ち止まっている。
見覚えがあるのに別人のライブラが信じられないのだろう。
だが神話級を目指す彼女には、否定もできず、到底無視できない。
「アイちゃん……いえ、アイギス。どうして追いかけてきたのですか」
「そんなの、帰りが遅いから心配で――って言わせないでよ! それより詳しく説明しなさいよ!?」
「だから何度も申し上げていたはずです。ワタクシは神話級の道具であると」
「う、嘘……私はいつもの冗談かと……だって貴女はロロアの為に真剣だったから。あの子が大変な時にまで実力を隠すとは思わないじゃない!」
ライブラは何度か自分で神話級と語っていたのだが。
普段から出せない本気は、ないのに等しいのかもしれない。
「案外、辛いものなのですよ。力があるのに手助けができないのは。だからこそ、アイギスたちにはいつも感謝していたのです。ふふっ、この身体だとワタクシも素直になれますね」
大事なロロアの身に危機が訪れても、見ているだけしかできなかった。
そんな無力な自分に苦笑しながらも、ライブラは心優しい友人に微笑み掛けた。
「そろそろ時間のようです」
「……ライブラ、貴女身体が!?」
妖精女王の肉体がひび割れていた。
乾いた人形のように指先から崩れ落ちている。
「媒体に使ったのが複製品ですから。私様の力に耐えられないのです。いやぁ、強すぎるって罪ですねぇ♪ 己の身すら簡単に滅ぼしてしまう」
ライブラは妖精だった頃の名残がある口調で。
アイギスに抱きかかえられながら静かに目を閉じる。
「アイちゃん、ロロアさんに伝えてください。これまでお世話になりましたと。……最期にこの肉体でお役に立てて良かったです。奴を生かしていれば、たとえ残りの寿命が僅かだとしても多くの犠牲を生んでいたはずですから」
「ちょっと何を言っているのよ!? 勝手に別れの空気を出さないでよ! 子供のお使いじゃないのでしょ!? それは自分の口で伝えなさい!」
「形あるものはいずれなくなります。神話級であれど不変の物はありません。アイちゃんも偶には素直になるのですよ。とても清々しい気分になりますから」
「馬鹿、ばかばかばかばか! 自分勝手でいつも胸ばかり見てくる変態の癖に、こんな時だけ格好つけるんじゃないわよ!」
「さようなら、アイちゃん。楽しかったですよ……また――」
「ああ、あああああああ。ライブラああああああああああああ!!」
アイギスの手のひらに残されたのは。砕けた【情報板】の破片だった。
◇
「アイギスお帰り。随分と遅かったけど……ライブラさんは?」
私が迎えに行くからと走って向かったのに。
アイギスは重い足取りで一人で戻ってきていた。
「ごめん……ロロア。私は……あの子に何もしてあげられなかった。理解してあげられなかった」
その場で倒れそうになるアイギスを受け止めて。
何か大変な事が起こったのだと。僕はそう察した。
慰めの言葉も浮かばずに。涙ぐむ彼女を抱き留めていると。
ふと、ヘラさんから貰ったスペア【情報板】が熱を持ち始める。
「――ふあぁ、おはようございます。やはりこの肉体が一番落ち着きますね」
「……は?」
アイギスは口を開けて放心していた。
ライブラさんは呑気に欠伸をしながら羽を動かす。
「あれ、らいぶらさん。もしかして二人目ですか!?」
スペアが【擬人化】したのだから。そうなるのかな。
「いえいえ、諸事情があり一人目のままですよ。世界で一番可愛い妖精はたった一人。この新生ライブラ様です! ふふん♪」
「あ、え……貴女……消えたんじゃ?」
「何を言っているのですか。私様は冒険者の数だけ点在しているのですよ? 一は全、全は一です。原板が残されている限り、ライブラ様は不滅です」
「形あるものはいずれなくなるのくだりは……? 不滅って何よ……!」
「何事にも例外がつきものですよ。アイちゃん?」
ライブラさんが片目を閉じてにやけていた。
えっと、よくわからないけど。
アイギスが早とちりしたって事かな?
あーでもライブラさんの事だから、
あえて重要な部分をぼかして伝えたのかも。
「……ふ、ふざけるなぁ! どれだけ私がぁ……! この……私がぁ」
ポロポロと涙を零しながらアイギスが顔を真っ赤にする。
怒りと喜びの二つの感情に挟まれて、自分でもよくわかっていないみたい。
「おやおや、アイちゃん泣いていたのですか? つくづく私様は罪作りな存在ですねぇ」
「本当に罪作りなのよ……この変態冷血妖精! 今日という今日は、羽を全部毟り取る! 覚悟しなさいっ!!」
「きゃーこわいーロロアさん助けてくださいー♪」
棒読みのまま僕の上着ポケットに入っていった。
「卑怯者、出てきなさい! ……コクエン」
「あひっ、ライブラ参謀を捕まえました!」
「でかしたわ!」
「ちょっと、コクエンちゃんは私様の部下でしょう!? 裏切りですかっ!」
「参謀は私めを置いていかれましたので……ふーん。心配していましたのに」
珍しくコクエンが拗ねた様子になっていた。
「長いものには巻かれるです? アイギスの神盾さん怒ると怖そうですから。どうかお達者で」
「らいぶらさん、怪我をしたらエルが治します!」
「……ぐぅ、ようせいおいしそう」
「復活早々にお別れ!? 負傷前提!? 非常食!? ロロアさん、世界一可愛い貴方のライブラ様の危機ですよ!」
「二人は仲が良いね。いつ見ても微笑ましいや」
「ロロア……私も貴方ともっと親密な関係を築きたいです。何でも言い合えるような仲に……」
「私様より新参の女に夢中ですか!? あーーれーー!」
「不滅なら多少は痛めつけても平気でしょ。…………ばか」
ライブラさんがアイギスに問答無用で連れ去られていく。
心配を掛けたみたいだし、多少の罰は受けるべきじゃないかな。
「どうしたの? ライブラさん」
立ち塞がる【理の破壊者】を倒して、レイリアさんと合流し。
残るは最上層を目指すだけだと、いざ歩き出したばかりだった。
「私様は用事を思い出しました。みなさんは先に進んでおいてください」
ライブラさんが上着ポケットから抜けてそんな事を言い出す。
いつものように悪戯っぽい妖精らしい表情で。でも雰囲気が違う。
こんな何もない砂漠地帯で用事だなんて。あまりに不自然だ。
「何を言っているのよ。貴女一人では魔物に押し潰されておしまいよ」
アイギスも違和感を覚えたのか、すぐに同行者として名乗り出る。
「失礼な! 本気を出したら私様はアイちゃんより強いのですよ!」
「あら、出せないもので威張られても困るわ。ここで白黒つけてみる?」
「むむむ、望むところですが。私様が本気を出すのは生涯に一度だけと決められておりまして」
「ほらいつもの強がりじゃない。私が付き合うわよ」
「むー。強情ですねぇ。しかし、ここは私様が一人でないと……」
ライブラさんが珍しく言い淀むような形で立ち止まっていた。
よほど大事な用事があるみたいだ。でも内容は答えてくれそうにない。
「僕もついていくよ。やっぱり心配だから。あの戦いのあとだし、何があるかわからないよ」
「エルもです!」
「……ぐぅ」
「ライブラ参謀、同行を許されない私めはクビなのでしょうか……?」
「あの、私も人付き合いが苦手ですが、寄り道を許さないほど狭量ではありませんよ……?」
「ライブラ様は☆1なのです! 一人では危ないです!」
この場に集う全員が、彼女を心配してついていこうとする。
「保護者同伴が恥ずかしいのなら、私だけでもいいけど。どうするの?」
「ええい、私様は子供ではないのです! 一人でお使いくらいできますよ! ふんっ」
逆に意固地にさせてしまった。
ライブラさんが不機嫌そうに羽を動かす。
意外と本気を出すと飛ぶのが早かった。
何より身体が小さいので砂漠の風で見え辛い。
「……あっ、ロロアさん。スペアの【情報板】ですが。大切に肌身離さず持ち歩いてくださいよ? これはライブラ様とのお約束です!」
「えっ? それはどういう意味――」
「ではみなさん御機嫌よう。またすぐに戻りますよ」
別れの言葉のようなものを言い残し、
ライブラさんは砂漠の中に消えてしまった。
◇
砂漠の真ん中に一人の人間が倒れていた。
激しい戦闘を物語る穴が穿たれた地形の中で。
必死に生き残ろうとする最期のあがきを。鼓動が聞こえてくる。
「やはり生き残っていましたか。いつの時代もゴミはしぶといものですね」
「……俺は……人の限界を超え……神をも超える……こんな所で……!」
崩れた肉体を修復してカナンは原型を取り戻しつつある。
すべての損傷は治せずに、元の人間に近い姿ではあったが。
「【神化の霊薬】を使いましたか。――異界神の遺骸から精製された霊薬。大賢者が遺しし禁じられた神話級の秘宝。どこで手に入れたのかは存じませんが。適合者でなければ二日と持たないでしょう」
ライブラの瞳には今にも死に掛けの男が映っている。
「ですが、自然消滅を待つ暇も与えません。霊薬を取り込んだ偽神は存在そのものが世界の害となる。この場で確実に塵も残さず消し去る。それが大賢者の望みでもありましょうから」
「黙れ……妖精風情が……何ができる……!」
カナンの爪が伸びて、ライブラの妖精の肉体を貫いた。
羽がもがれ、頭が力なく項垂れる。何一つ抵抗もなかった。
「……受信完了」
最期にライブラの口から紡がれた言葉を引き金に、
魔塔内部に天から降り注ぐ光の柱が。彼女の亡骸を包み込む。
白いカーテンの中から、一人の女性が現れた。虹色の羽が広がる。
「――ご苦労です。ふむ、ロロアの【擬人化】は分体の容姿を引き継ぐようですね」
その様相はまるで神秘の妖精女王だった。
女性は自分の肉体を確かめるように見つめている。
「お、お前は……何者だ……!? こ、この……威圧は……あの男と同じ……!」
「大賢者ライブラが次代に託した聖遺物と申しておきましょうか。先程の肉体はあくまで仮初の物」
ロロアの所持していた【情報板】は複製品だ。
本体の原板は現在もとある大国に封じられている。
分体であったライブラが持つ唯一のスキル。【情報受信】。
それは一時的に原板との繋がりを生み、本来の力を取り戻すものだった。
「今のワタクシは正真正銘の神話級。他の子たちのように優しくはありませんよ」
ライブラは悠然と砂漠の上を歩く。罪人を裁く処刑人のように。
「自らを神を超えしと嘯く戯者に、真の神威というものをお見せしましょう――グリモワール」
ライブラの背後に一冊の古い書物が召喚される。
開かれたページには空白が目立つ。これは未だ不完全なもの。
「……そうですね。この子たちが適任でしょう」
ライブラが止めたページから複数の生物が這い出てくる。
それは魔塔に挑戦する者なら、誰しもが見覚えのある魔導生物。
キングオーガ アクアドラゴン フォルネウス
「ブウオラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「グギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
「キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
咆哮するのは【星渡りの塔】を代表とするフロアボスだ。
ロロアの経験、記憶から摘出された。限りなく本物に近い複製品。
それが数十の群れとなって一人の人間の男を包囲する。
油断もなく、憐れみもない。確実性を持って消滅させる。
「喰らいなさい」
「あ……ああ……あああああああああああああああああ」
人であった頃の恐怖を思い出したカナンは絶望に歪む。
悲鳴もなかった。ただ圧倒的な神の力によって蹂躙される。
「――誰ですか。ワタクシのあとをつけてきた無神経な方は」
ライブラが背後に近付いていた人物に語りかける。
「……何よこれ。……あのフロアボスは、ライブラの仕業なの?」
アイギスだった。戸惑いを隠せずに立ち止まっている。
見覚えがあるのに別人のライブラが信じられないのだろう。
だが神話級を目指す彼女には、否定もできず、到底無視できない。
「アイちゃん……いえ、アイギス。どうして追いかけてきたのですか」
「そんなの、帰りが遅いから心配で――って言わせないでよ! それより詳しく説明しなさいよ!?」
「だから何度も申し上げていたはずです。ワタクシは神話級の道具であると」
「う、嘘……私はいつもの冗談かと……だって貴女はロロアの為に真剣だったから。あの子が大変な時にまで実力を隠すとは思わないじゃない!」
ライブラは何度か自分で神話級と語っていたのだが。
普段から出せない本気は、ないのに等しいのかもしれない。
「案外、辛いものなのですよ。力があるのに手助けができないのは。だからこそ、アイギスたちにはいつも感謝していたのです。ふふっ、この身体だとワタクシも素直になれますね」
大事なロロアの身に危機が訪れても、見ているだけしかできなかった。
そんな無力な自分に苦笑しながらも、ライブラは心優しい友人に微笑み掛けた。
「そろそろ時間のようです」
「……ライブラ、貴女身体が!?」
妖精女王の肉体がひび割れていた。
乾いた人形のように指先から崩れ落ちている。
「媒体に使ったのが複製品ですから。私様の力に耐えられないのです。いやぁ、強すぎるって罪ですねぇ♪ 己の身すら簡単に滅ぼしてしまう」
ライブラは妖精だった頃の名残がある口調で。
アイギスに抱きかかえられながら静かに目を閉じる。
「アイちゃん、ロロアさんに伝えてください。これまでお世話になりましたと。……最期にこの肉体でお役に立てて良かったです。奴を生かしていれば、たとえ残りの寿命が僅かだとしても多くの犠牲を生んでいたはずですから」
「ちょっと何を言っているのよ!? 勝手に別れの空気を出さないでよ! 子供のお使いじゃないのでしょ!? それは自分の口で伝えなさい!」
「形あるものはいずれなくなります。神話級であれど不変の物はありません。アイちゃんも偶には素直になるのですよ。とても清々しい気分になりますから」
「馬鹿、ばかばかばかばか! 自分勝手でいつも胸ばかり見てくる変態の癖に、こんな時だけ格好つけるんじゃないわよ!」
「さようなら、アイちゃん。楽しかったですよ……また――」
「ああ、あああああああ。ライブラああああああああああああ!!」
アイギスの手のひらに残されたのは。砕けた【情報板】の破片だった。
◇
「アイギスお帰り。随分と遅かったけど……ライブラさんは?」
私が迎えに行くからと走って向かったのに。
アイギスは重い足取りで一人で戻ってきていた。
「ごめん……ロロア。私は……あの子に何もしてあげられなかった。理解してあげられなかった」
その場で倒れそうになるアイギスを受け止めて。
何か大変な事が起こったのだと。僕はそう察した。
慰めの言葉も浮かばずに。涙ぐむ彼女を抱き留めていると。
ふと、ヘラさんから貰ったスペア【情報板】が熱を持ち始める。
「――ふあぁ、おはようございます。やはりこの肉体が一番落ち着きますね」
「……は?」
アイギスは口を開けて放心していた。
ライブラさんは呑気に欠伸をしながら羽を動かす。
「あれ、らいぶらさん。もしかして二人目ですか!?」
スペアが【擬人化】したのだから。そうなるのかな。
「いえいえ、諸事情があり一人目のままですよ。世界で一番可愛い妖精はたった一人。この新生ライブラ様です! ふふん♪」
「あ、え……貴女……消えたんじゃ?」
「何を言っているのですか。私様は冒険者の数だけ点在しているのですよ? 一は全、全は一です。原板が残されている限り、ライブラ様は不滅です」
「形あるものはいずれなくなるのくだりは……? 不滅って何よ……!」
「何事にも例外がつきものですよ。アイちゃん?」
ライブラさんが片目を閉じてにやけていた。
えっと、よくわからないけど。
アイギスが早とちりしたって事かな?
あーでもライブラさんの事だから、
あえて重要な部分をぼかして伝えたのかも。
「……ふ、ふざけるなぁ! どれだけ私がぁ……! この……私がぁ」
ポロポロと涙を零しながらアイギスが顔を真っ赤にする。
怒りと喜びの二つの感情に挟まれて、自分でもよくわかっていないみたい。
「おやおや、アイちゃん泣いていたのですか? つくづく私様は罪作りな存在ですねぇ」
「本当に罪作りなのよ……この変態冷血妖精! 今日という今日は、羽を全部毟り取る! 覚悟しなさいっ!!」
「きゃーこわいーロロアさん助けてくださいー♪」
棒読みのまま僕の上着ポケットに入っていった。
「卑怯者、出てきなさい! ……コクエン」
「あひっ、ライブラ参謀を捕まえました!」
「でかしたわ!」
「ちょっと、コクエンちゃんは私様の部下でしょう!? 裏切りですかっ!」
「参謀は私めを置いていかれましたので……ふーん。心配していましたのに」
珍しくコクエンが拗ねた様子になっていた。
「長いものには巻かれるです? アイギスの神盾さん怒ると怖そうですから。どうかお達者で」
「らいぶらさん、怪我をしたらエルが治します!」
「……ぐぅ、ようせいおいしそう」
「復活早々にお別れ!? 負傷前提!? 非常食!? ロロアさん、世界一可愛い貴方のライブラ様の危機ですよ!」
「二人は仲が良いね。いつ見ても微笑ましいや」
「ロロア……私も貴方ともっと親密な関係を築きたいです。何でも言い合えるような仲に……」
「私様より新参の女に夢中ですか!? あーーれーー!」
「不滅なら多少は痛めつけても平気でしょ。…………ばか」
ライブラさんがアイギスに問答無用で連れ去られていく。
心配を掛けたみたいだし、多少の罰は受けるべきじゃないかな。
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現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。
そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。
ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。
だが彼自身はまだ知らない。
自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。
竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。
これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
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そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
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スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
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