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第三章

第102話 寄り道

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「この先に進むのはやめておいた方がいい。死にに行くようなものだ」

 情報収集を進める僕たちの前に一人の男性が警告を言い放つ。
 その身体には激戦を潜り抜けた傷が幾つも残され、装備は破損が目立つ。

「それはどうしてでしょうか。この先に一体何が?」

 危険なんて、みんなわかってここまで来ている。
 だというのにあえて警告するだけの理由があるんだ。

「二十階層にある休憩所との定期連絡が途絶えたんだ。様子を確かめに向かう途中、気味の悪い繭があってな。恐ろしく凶悪な魔物が生まれ落ちてきやがった。一匹だけだったので何とか倒せたが。アレが複数出てきたらと思うと肝が冷えるぜ」

「繭……まさか【深淵化】……!」

「どうやらお前たちも心当たりがあるようだ。深部まで到達したパーティだけあるな」

 【深淵化】したクイーンアントの強さはまだ鮮明に覚えている。
 フロアボスでない通常の魔物でも、相当な強化を受けるに違いない。

「俺が知る限りでは三ヵ月の間に五つのパーティが行方知らずになった。仲間を地上に帰してギルドの方にも報告したが。調査団が辿り着くまで気長に待つしかない。命が惜しかったらな」

 地上から三十階層まで徒歩でと考えると、半年以上は余裕で掛かる。
 調査団ほどの規模だと一年の可能性も。そこまで待つのは流石に厳しい。

「待機しているパーティがやけに多いなと思っていたところです。なるほど…」

「あるじさま。どうします?」

「先に進むのは変わらないけど、悩ましいね」

 僕たちは二十五階層にある秘密の通路を利用するつもりだった。
 だけど、連絡が途絶えたという二十階層の休憩所が気になる。
 
 クイーンアントのような女王が存在するなら止めないと。
 ここは一旦、秘密の通路は無視して二十階層を目指すべきか。

「俺は一応止めておいたぜ。先に進むのは自由だが。あとで後悔するなよ?」

「貴重な情報をありがとうございました」

 お礼を伝えてから、僕はエルと一緒に休憩所の中央に向かう。
 ちょうど分かれて行動していたコクエンたちが駆け寄ってきた。

「ご主人様。どうやらこの先【深淵化】した魔物の巣窟となっているようです。犠牲者も多く出ているとか」

「僕たちも先ほど教えてもらったよ。またクイーンのような女王が待ち構えているかもしれない」

「おー。またむし、たおす?」

「はい、強い魔物退治です!」

「……大物を倒せば、ご主人様の一番に近付けるのかなぁ」

 三人には避けて通るという考えは端からないみたいだ。
 結局、戦うのは彼女たちなので。彼女たちの意見を尊重したい。

「わかった。寄り道になるけど次の目的地は二十階層。【深淵化】した魔物たちをできる限り討伐していこう!」

 方針が決まったところで、ライブラさんの元へと戻る。
 運搬ゴーレムの傍でティアマトさんと一緒に待っていてくれた。

「お待たせ」

「……主人か」

「よろしく頼みましたよ。ティアマト」 

 二人は何か内緒話をしていたようで。僕たちの姿を見て距離を取った。
 若干視線を感じるけど。質問しても答えてくれそうにない雰囲気だった。

「仲良しだね?」

「冗談がキツイぞ。うるさい羽虫と一緒にされては困る」

「私様のような知性溢れる妖精に、このような頭に筋肉が詰まった動物が――――いだだだだ」

「このまま羽を毟るぞ」

 お互いに新鮮なやりとりをしていて。やっぱり仲良しに見える。
 
「あれ? そういえばユグの姿がないね」

 全員が揃ったかと思えば、一人足りていない。

「おやおや。迷子ですか。ユグちゃんはおっとり系ですからね。男どもに捕まっているのでは?」

「みたいですね……ユグさんがあちらで柄の悪い人たちに囲まれていらっしゃいます」

 天幕近くでユグがあらあらと困った表情を浮かべている。
 どうやら勧誘を受けているみたいだ。パーティ補強だろうか。

 地上での引き抜きは特に禁止されていないけど。
 魔塔内ではよろしくない。生死に関わるので当たり前だけど。
 
「ふんっ、こんな場所まで来て盛るか。知性の欠けたサル共め」

「盛る……?」
「何ですかそれ?」
「?」

 僕とエルとトロンは同時に首を傾げる。

「……ティアマト。貴女には知性も配慮も欠けていますよっ! まったく。お子様の教育に悪い筋肉ですね! ――ロロアさんもご存じでないのには驚きましたけど!」

「そ、そのようだな。すまん」

 ライブラさんが怒っているところを見た感じ、碌な意味じゃなさそう。
 ティアマトさんも気まずそうに顔を背けている。力関係がよく変わる二人だ。

「とにかく助けに行ってくるね。コクエンも一緒にお願い――」

「…………」

 何故か顔を真っ赤にしたコクエンは、ぼんやりとしていた。
 心配になって顔を覗き込むと、目を見開いて後ろに下がっていく。

「ごごごご、ご主人様!? かかかか、顔がちかっ」  
 
「どうしたの?」

「いいいいえ、何でもございません! 何でも……!」

「むむ、コクエンちゃんってば案外――」

 ライブラさんがニヤリと悪い表情に。

「参謀っ! ご主人様に余計な事を吹き込まないでください!!」

 コクエンが必死になってライブラさんに掴みかかる。珍しい光景。

「いだだだだだ、羽を引っ張らないで、部下に反逆されました!!」

「あはは、こっちも仲良しだ」
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