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13話 ダンジョン研究
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小鳥を追って歩き出した俺たちだったが、一日では辿り着けない距離だったらしい。
今は休憩中で焚火の前で荷物を降ろしている。小鳥も与えられたパン屑を突いていた。
俺はずっと虚空を睨み付けている。別に疲れて頭がおかしくなったとかそういう訳じゃない。
前回から三十分ほど経過している。――そろそろか。
「マスター、穴が出てきました!」
「……出現時間にだいぶムラがあるな。試行回数は少ないが規則性はないと見た方が良いか」
目の前に現れたのは、もはやお馴染のダンジョンだ。
実を言うと、これすらもフランが生み出しているのではと疑っていたのだが。
この現象はどうも調べてみると、俺を中心に発現しているらしい。
一体どういう事だろうか。俺はスキルを所持していない。
それは五歳になった時に、教会で受ける検査で明らかにされたものだ。
両親に捨てられたのもスキルが無いという単純な理由からで、それを受け止めて生きてきた。
肉体および精神の成長に伴って、新たなスキルを手に入れるケースもあるが。
そもそも俺はスキルに適応した器ではないのだ。つまり後天的にスキルを習得する術も失っている。
何らかの呪いを疑った方がまだ可能性がある。今のところは恩恵を受けれているが。
「よし、今回も入り口だけ調査してみようか」
「わかりました!」
メモを持って穴の中に入っていく。
ここまで二十回ほど調査を繰り返しているのだが。
驚くことに内部の大きさも内装も入るたびに変わっていた。
しかも草原が広がっていたり、海に通じていたりと。もう何でもありなのだ。
当然、魔物が住み着いている場合もある。値打ちがありそうな道具が転がっている事も。
中級回復薬の材料になる珍しい上薬草を見つけた時は二人で喜んだものだ。
金になりそうな道具は全て持ち帰っている。街で換金するのが楽しみだ。
割合的には魔物の方が多いか。ドラゴンとも既に六回も遭遇してしまった。
不用意に近付かなければ縄張りから出てこないので、奥には進まないようにしている。
「近くで水の音がするな。ここには川があるのか」
「空になった水筒にいっぱい詰めますね!」
「毒はないか? 下手すればお腹を壊すぞ?」
「大丈夫です。新鮮で美味しいです。マスターもいかがですか?」
フランに誘われて一口。
乾いた喉が潤いで満たされる。文句無しに旨い。
探せばもしかしたら食べられる果実があるかもしれない。
旅の間わざわざ街に寄り道しなくても物資を補給できる。便利といえば便利だが。
「まだまだ未知が多すぎる。このダンジョンに頼るのは最後の手段だな」
二十の調査の間に、一度だけ触手を伸ばす単眼の新種の魔物の存在があった。
かなり好戦的でフランベルクが無ければ危うかった。偶然なのか単一個体だったので助かったが。
これでも俺は魔物に関してはかなり勉強している方だ。
相手を知らなければ逃げられないからな。弱いと自覚しているからこそ学んできた。
だが、このダンジョンには俺の知識が通用しない。今後も何が起こるかわからないのだ。
出口周辺ならまだ安全に探索できるが。
これ以上奥地に進むには俺とフランの二人では厳しいだろう。
「最初にフランと出会えたのも神の奇跡ってやつだな。何も知らずに入れば即死していただろうし」
得られる恩恵より危険の方が大きい。
その最初の一回目で魔剣を手に入れたのは俺にとって幸運だった。
二回目でドラゴンと遭遇した時、手元に魔剣が無ければ間違いなく死んでいた。
「フランにとってもマスターの存在は奇跡でした!」
「……お前はどうしてそう、嬉しい事を言ってくれるんだよ!」
「えへへへ」
わしわしと強めにフランの頭を撫でまわす。
魔剣の剣精がお前だったのも幸運の一つだったと付け加えて。
じゃれ合っていたら遠くの方で獣の叫び声が。恐ろしい数の殺気が飛んでくる。
……そういえばここはダンジョンの中だった。
冷静になって慌てて元の場所に戻る。俺が外に出た瞬間に穴が閉じられた。
ダンジョン内の生態系はダンジョン内だけで完結しているらしい。
相変わらず小鳥が荷物の上に乗って帰りを待っていた。よく訓練されている。
フランの頭に飛び移ると。そのまま大人しくなった。
「一体コイツは何処に案内するつもりなんだろうな?」
「わからないです。でも、ピヨピヨさんは。フランにとって懐かしい匂いがするんです」
「懐かしい匂い? 昔飼ってたとかか?」
「ピヨピヨさんのものではない匂いです。飼い主さんでしょうか?」
「もしかしたらフランの知り合いかもしれないな」
「是非、会ってみたいです」
剣精であるフランは俺と会う以前の記憶が曖昧らしい。
どうなるかはわからないが、本人が望むなら会わせてやりたいと思う。
悪い奴だったら俺たちを助けてくれないだろうし。きっと優しい人物なんだろう。
剣精の昔の知り合いか。
もしかしたらソイツも魔剣だったりしてな。
今は休憩中で焚火の前で荷物を降ろしている。小鳥も与えられたパン屑を突いていた。
俺はずっと虚空を睨み付けている。別に疲れて頭がおかしくなったとかそういう訳じゃない。
前回から三十分ほど経過している。――そろそろか。
「マスター、穴が出てきました!」
「……出現時間にだいぶムラがあるな。試行回数は少ないが規則性はないと見た方が良いか」
目の前に現れたのは、もはやお馴染のダンジョンだ。
実を言うと、これすらもフランが生み出しているのではと疑っていたのだが。
この現象はどうも調べてみると、俺を中心に発現しているらしい。
一体どういう事だろうか。俺はスキルを所持していない。
それは五歳になった時に、教会で受ける検査で明らかにされたものだ。
両親に捨てられたのもスキルが無いという単純な理由からで、それを受け止めて生きてきた。
肉体および精神の成長に伴って、新たなスキルを手に入れるケースもあるが。
そもそも俺はスキルに適応した器ではないのだ。つまり後天的にスキルを習得する術も失っている。
何らかの呪いを疑った方がまだ可能性がある。今のところは恩恵を受けれているが。
「よし、今回も入り口だけ調査してみようか」
「わかりました!」
メモを持って穴の中に入っていく。
ここまで二十回ほど調査を繰り返しているのだが。
驚くことに内部の大きさも内装も入るたびに変わっていた。
しかも草原が広がっていたり、海に通じていたりと。もう何でもありなのだ。
当然、魔物が住み着いている場合もある。値打ちがありそうな道具が転がっている事も。
中級回復薬の材料になる珍しい上薬草を見つけた時は二人で喜んだものだ。
金になりそうな道具は全て持ち帰っている。街で換金するのが楽しみだ。
割合的には魔物の方が多いか。ドラゴンとも既に六回も遭遇してしまった。
不用意に近付かなければ縄張りから出てこないので、奥には進まないようにしている。
「近くで水の音がするな。ここには川があるのか」
「空になった水筒にいっぱい詰めますね!」
「毒はないか? 下手すればお腹を壊すぞ?」
「大丈夫です。新鮮で美味しいです。マスターもいかがですか?」
フランに誘われて一口。
乾いた喉が潤いで満たされる。文句無しに旨い。
探せばもしかしたら食べられる果実があるかもしれない。
旅の間わざわざ街に寄り道しなくても物資を補給できる。便利といえば便利だが。
「まだまだ未知が多すぎる。このダンジョンに頼るのは最後の手段だな」
二十の調査の間に、一度だけ触手を伸ばす単眼の新種の魔物の存在があった。
かなり好戦的でフランベルクが無ければ危うかった。偶然なのか単一個体だったので助かったが。
これでも俺は魔物に関してはかなり勉強している方だ。
相手を知らなければ逃げられないからな。弱いと自覚しているからこそ学んできた。
だが、このダンジョンには俺の知識が通用しない。今後も何が起こるかわからないのだ。
出口周辺ならまだ安全に探索できるが。
これ以上奥地に進むには俺とフランの二人では厳しいだろう。
「最初にフランと出会えたのも神の奇跡ってやつだな。何も知らずに入れば即死していただろうし」
得られる恩恵より危険の方が大きい。
その最初の一回目で魔剣を手に入れたのは俺にとって幸運だった。
二回目でドラゴンと遭遇した時、手元に魔剣が無ければ間違いなく死んでいた。
「フランにとってもマスターの存在は奇跡でした!」
「……お前はどうしてそう、嬉しい事を言ってくれるんだよ!」
「えへへへ」
わしわしと強めにフランの頭を撫でまわす。
魔剣の剣精がお前だったのも幸運の一つだったと付け加えて。
じゃれ合っていたら遠くの方で獣の叫び声が。恐ろしい数の殺気が飛んでくる。
……そういえばここはダンジョンの中だった。
冷静になって慌てて元の場所に戻る。俺が外に出た瞬間に穴が閉じられた。
ダンジョン内の生態系はダンジョン内だけで完結しているらしい。
相変わらず小鳥が荷物の上に乗って帰りを待っていた。よく訓練されている。
フランの頭に飛び移ると。そのまま大人しくなった。
「一体コイツは何処に案内するつもりなんだろうな?」
「わからないです。でも、ピヨピヨさんは。フランにとって懐かしい匂いがするんです」
「懐かしい匂い? 昔飼ってたとかか?」
「ピヨピヨさんのものではない匂いです。飼い主さんでしょうか?」
「もしかしたらフランの知り合いかもしれないな」
「是非、会ってみたいです」
剣精であるフランは俺と会う以前の記憶が曖昧らしい。
どうなるかはわからないが、本人が望むなら会わせてやりたいと思う。
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