神殺しのエグ・ラグド

ゆーき

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5話

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 宿屋である。
 周辺のダンジョンは粗方攻略し終えたので、ソルドムの迷宮から西に数十キロ移動した。
 ここ、メルエムという港町が次の拠点候補だ。

「マスターは割とケチですよねぇ」

 するりと。
 瞬時に右腕から形態変化しボロ子がソファに腰かける。
 チェックインの時だけ右腕に戻ってもらい、宿代を浮かしたのだ。

「普段はギリギリまで私を『使う』くせに」
「腕はガシャガシャうるさいからな」
「照れちゃって」
「お前は別の意味でうるさい」
「むぅ」

 頬を膨らませる。
 あざとい表情をしようともこいつはロボだ。

「せっかく二人きりになれましたし……私を『使って』くれてもいいんですよ?」
「何にだ」
「私に言わせるんですか?」
「あいにくと無機物に興奮する趣味はない」
「ですよね」

 鳥肌を立てることはできるが。

「はふー」

 ボロ子はソファにうつ伏せになり、ゴロンとする。
 最初はかなり有能に見えたが、時が経つごとにポンコツと化していっている。
 名前のせいだろうか……。

「いいですけどねー。とりあえず今日は体を休めましょう」
「ロボに休息は必要なのか」
「私もラグドも自己修復機能がついているのでいらないですね」

 便利なものだな。
 だが、何かしらのメンテが必要だった場合、俺は右腕を諦めていた。
 そうなると今でも最初の町でひいこら言いながら初級クラスを鍛えていただろう。

「でも私が人間のフリして休んでないと、マスターの気が休まらないでしょう?」
「意味不明な邪推はやめろ」
「それにほら、右腕が生身でないと困ることもありますし?」
「卑猥なジェスチャーはやめろ」
「そういえば、わざわざ西に行くのですね」

 ボロ子が今更な疑問を出す。
 確かに、事前に入手している情報では、大陸の中心に移動した方が敵は強くなる。
 迷宮都市レウィン。
 世界最大の、未だ底が知れないという唯一のダンジョンが存在する。
 そこに近づけば近づくほど、迷宮のレベルは上がっていく。

 メルエムは港町。
 つまりは大陸の外れにある。

「いや、特にこだわりはないが……噂の一つに気になるものがあっただろ」
「ああ、あれですか」

 最近急速な発展を遂げているというダンジョン。
 その一つがここメルエムにあるらしい。

「てっきりクリスタルを集めているのかとも思ったんですけど」

 ボロ子が小さなクリスタルを取り出して、それを愛おしそうに撫でた。
 ソルドムの迷宮で手に入れたクリスタルの一つだ。
 破壊しようとしたら、直前でボロ子にとられた。
 壊すくらいならほしいとのことで。

 外観は悪くない。
 だがそれだけだ。

「それ、売れねえだろ」
「え……?」
「いや、だから、クリスタル。その辺の店で売ろうとしたが断られたぞ」
「……」

 ボロ子が絶句する。
 何かおかしいことでも言ったのだろうか。

「たぶんですけど……そのクリスタルはNPCでは買い取れないくらい高価だったのでは」
「……つまり売れないんだろ?」
「プレイヤーなら大枚はたいて買う可能性が」
「……」
「……」

 ボロい宿屋の一室に気まずい沈黙が流れる。

「そ、それよりクリスタルの内容ですよ!」

 空気を換えるようにボロ子が言う。

「非売品レベルの貴重な映像……宝箱を開けたときに一度は見たはずですよね? 何が映ってたんですか!?」

 食い気味に聞いてくる。
 普段なんでも知ってる風な態度をとるが……。
 ロボの癖に無駄に表情豊かだ。

「忘れた」
「あっその顔はぜったい覚えてるやつです」
「それより次のダンジョン攻略についてだが」
「誤魔化す気です」
「情報、集めてあるんだろ? 頼りにしてるぞボロ子」
「……。まっかせてください!」
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