輪廻血戦 Golden Blood

kisaragi

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第四章 夢浮橋

第十一夜 好ましい、愛、恋

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 私はその後、ふらふら家に戻った。とりあえずベッドにダイブすると夕方になっていた。眠いはずなのに目が冴えて私はベッドの上に座った。

 ふと、半分もずれた引き出しに気が付く。

 私は億劫な身体を動かして勉強机の引き出しを戻そうとした。その瞬間、ヒラリと紙が落ちる。紙ではなく手紙だった。
 まさかと思ったが、やはりダンダリオンからの手紙だ。

 いないと思ったら、手紙だなんて。

 綺麗に印まで押してある。私はベッドに座って、日が暮れる中、手紙を開いた。

  親愛なる天崎伊鞠様へ

  『ははは! 我輩が手紙の書き方を知らないとでも思ったか? いいや。知っているとも。何せ、我輩は辞書の番人だからだ。

 前置きはさておき、おそらくは今、我輩はお前の目の前にはいないのだろう。

 これは予測出来たことだ。しかし、我輩はお前に選択肢を残したかった。

 それは我輩の目の前に処刑人が現れた時に決まった。

 伊鞠、まず前提に我輩はお前を愛している。好ましいと思う。何故、そうなったのかは分からないがきっと一目惚れだったのだろう』



 まさか、ダンダリオンに手紙で告白されるとは思わなかった。胸が思わずきゅっと痛くなる。



『 だから辛いことも告げなければならない。我輩にはその覚悟がある。いいか、ここはメモリアルブックの中だ。この世界は、と言い換えた方が正しいだろう』

「……え?」


  ダンダリオンの意外にも達筆な文字に私は思わず封筒を落とした。そして空を見た。

『メモリアルブックの中だ。つまりブラックボックスの中でもある。永遠に人、物、全てを保管するために作られた。いいや、これは天崎伊鞠を使って全てを保管するために作られた一つの世界なのだ』


 そんな馬鹿な話が信じられるだろうか。

 私は壁を触った。

 普通の壁だ。ベッドも、勉強机も、全て普通の、硬さを持った物質だ。

 しかし、急に、また頭痛のようなノイズが視界に広がる。

『信じることは難しいだろうが、この世界の異端者はお前を処刑する処刑人と冥界の役人だけだ。彼らはこの世界を断罪するためにやって来たのだ』

「えっ、……ちょっと、……まって……」

『天崎伊鞠は既に死んでいる』

 私は等々、手紙を落とした。そして歩き回った。手で頬を摘まんだ。

 空を見た。

 月は二つあったりしない。

 町は永遠に続く。私には信じることは出来なかった。けれど、震える指先で私は手紙を拾った。

『つまり、ブラックボックスは天崎伊鞠なのだ。君は産まれた直後に研究所により脳を凍結され、最先端のテクノロジーで永遠を手に入れた。つまり、メモリアルブックを創った創者は君であり、研究者だ。

 証拠を示せ、と言われると難しいが……この世界にはないが本当の世界にはある物がある。

 外を見てみろ』


  私は手紙にある通り、窓を開けて外を眺めた。

 広がるのは永遠に続く町。

『何もないだろう。しかし、本当の世界にはある。でかくて白い研究所があるのだ』

  そんなモノはない。ただ、夕焼けの街が広がるだけ。

『我輩はお前は死んでいる、と言ったが実際はそうではない。脳という記憶媒体にされ永遠に保管されている。

 ある意味は生きているに等しい。

 永遠に。

 そこで、きっとお前は思うだろう。じゃあ、私はどうすればと』

「どうすればいいの?」

 私は誰に言うでもなく呟く。

 感情が追い付かず、涙さえ出ない。

『選択肢は三つ。

 一つめ、あの処刑人を倒して永遠に続くこの街で生きること。
 二つめ、処刑人と共にメモリアルブックを破壊し、自身の機能を止め、つまり簡単に言えば死ぬことだ。
 三つめ、は二つめの続きだ。
 死ぬことにより冥界の輪廻に入り、正しい魂の形になること』

 四枚目の手紙が終わった。

 私は何も分からなくて、手紙を放り投げてベッドに沈んだ。床には紙が散らばる。

 その時、私は五枚目の手紙に気が付いて拾う。

『何故、我輩が気が付いたのか。

 それは我輩が伊鞠を眷属にしようとしたからだ。

 しかし、出来なかった。
 その時、気が付いた。

 伊鞠の本当の身体ではないと』

「け、眷属……?」

『伊鞠、我輩は処刑人の手で正しい魂の輪廻に入るべきだと我輩はそう思う。冥界の役人がいるならお前を不遇に思い何かしらの処置が出来るかもしれん』

「……なに、言ってるの」

 等々、涙が出てきた。
 涙が溢れて止まらない。

 この街は偽りだということだ。作り物だということだ。

『伊鞠。愛を知らない創者は外には出れない。しかし、きっと外にはお前が求めた愛があるはずだ』

 手紙はそこで終わっていた。意識の中だから何でも出来た。
 魔法なんて嘘だ。
 全てが私の意識。
 入り口と出口がメモリアルブックだったのだろう。

 タイムリミットは夜十時。
 そう処刑人は言った。

 後、四時間。

 私は考えるのを放棄して、ひたすら眠った。

 しかし、感覚としては眠りながらも深い思考に沈んでいた。

 今は何年?
 今は……そうしている間に様々な綻びを見つける。
 この街の外はどうなっているの?
 テレビをつければ砂嵐。
 商店街の先はどこ?
 私は高校二年生から卒業出来るの?
 思考の限界だ。
 私は何もしなくたってきっと数年後には停止する。
 そもそも、脳だけで生きるなんて無理がある。
 どんなテクノロジーでも。

  夜十時には綺麗な月が見えた。

 私は真っ直ぐ、迷うことなく、本屋に向かった。
 向かう場所なんてそこしかない。

 その本屋の前には獅道愁一とそして杉本さんがいた。

「決意は決まりましたか?」
 杉本透が言った。

 しかし、その姿は杉本透、ではない。とても似ているけれど、その男性は喪服のようなスーツを着ていた。
「あの……貴方は?」
「申し遅れました。俺は杉本透という思念の本体である冥界の役人の桜小路鏡一狼です」
「……長い名前ですね」

 出会った時にも思った。

 確かに、彼らは似ていた。
 だから、私は何の違和感もなく頷く。

「良く言われます。決意は決まりましたか?」

 その人は私の知らない顔で微笑む。
 彼は杉本透であって杉本透ではないのだ。

「はい。私は……これから死にに行きます」 

 私はハッキリと言った。

「でも……だから心配なんです。この世界が……杉本さんや両親は……」
「大丈夫です。我々はこの本に閉じ込められた思念ですら、貴女の混沌世界の住人です。天崎さんが消滅すれば一緒に消えます。そして、やっと正しい外の世界に戻れるのです」
「ここにある思念はつまり永遠にずっと思念なんだ」

「貴女が成仏しない限り」

 刀の柄に額を付ける愁一さんの目付はとても鋭かった。
 鏡一狼さんも喪服のような真っ黒なスーツを着ている。

「けれど、私に何が出来るのでしょうか……」

 私は愁一さんのように強くはない。
 しかし、彼は言った。

「出来るさ。まず、向こうにあってこっちに無いものを出現させよう」

 それはダンダリオンの手紙に書かれていた。

「……研究所ですね?」
「そこに、きっとダンダリオン達も本もある。君が願えば出現するだろう」
「ねがう」
「強く」

 言われた通り、私は強く願った。

 両手を握りしめ、祈るように。

 その手にそっと愁一さんの手が重なる。

 それでも、私には感情がない。今の私は一体誰に焦がれているのか、ハッキリと分かっているからだ。
「大きな、大きな研究所。白くて大きい。塔のような研究所。イメージして」
「はい」

  白くて大きい。

 ガラス窓ばかりで無機質な研究所。

 部屋がいっぱいあって、大きいエレベーターもある。地下もあって、そこで人々は日夜私を研究する。

 私の意識を。

 脳を。

 すると、どこからか地響きが聞こえた。地震かと思って瞳を開くと目の前にはイメージ通りの研究所が聳え立っていた。

 これで確定した。

 この世界は偽物の世界なのだと。
「さあ、繋がったよ。君の思念と現実が」

  瞬間、足下が揺れた。
 街が崩れている。

「え、どうして……」
「思念と現実の歪みによる崩壊だ。行くよ」
「えっ、」

  愁一さんは私を抱えてぴょんと飛んだ。

 すごい身体能力だ。

 鏡一狼さんは大きく細く金色に光る星型に箒のように乗っている。栗色の髪が風に靡く。

 何故か、その姿が懐かしく思えた。
 そうか。今更、私は分かった。彼らは私を迎えに来てくれたのだ。

  崩れていく。街が崩れている。

 そんな中で、鏡一狼さんはあの変わらない優しい笑顔だった。
 私は溢れる涙をそのままに愁一さんに問う。
「今の私はどういう状態なんでしょう?」
「幽体離脱した幽体、あるいは神、あるいは魂」

 鏡一狼さんが答える。

「鏡一狼さんにも分からないんだ?」
「少なくともそれらを超越した存在です。これはとてもイレギュラーな件ですね」
「一つ、お願いがあります」
「願いによります」
「ダンダリオンに一度だけで良いから会わせて!」
「……分かりました。その程度ならば。研究所で別行動を取りましょう。俺と伊鞠さんでダンダリオンを、愁一さんは自分自身の思念を」
「了解、その方が都合が良いね」

 愁一さんは私をポンッと鏡一狼さんの星型のステッキに預けて颯爽と崩れていく街の中をぴょんぴょん飛んでいた。

 私はおそるおそる金色の星型のステッキを掴んだ。
「すごいですね……」
「伊鞠さん……」
「はい?」
「死を恐れないでください。死は生であり、尊いものです」
「まるで哲学みたい」
「伊鞠さん、今度生まれ変わったら、きっと両親は揚げ物屋で悪魔すら受け入れる優しい両親です。途中で気の合わない悪魔のような男に出会うかもしれませんけど」

「……はい」

 私は鏡一狼さんの背中に額を付けて泣いた。

「愁一さんも同じです。彼も、生まれ変わり続ける己を止める為に、自身の霊や思念を破壊し続けました」

「生まれ変わり続ける?」

「彼は死んだ瞬間、次の戦地へ生まれ変わる転生型の兵器です。誰も愛せず、孤独に殺戮と死を繰り返す。俺はずっと彼を監視していた」

「……えっ?」

「つまり、彼は人ですね。普通に生まれた人です」

「それじゃあ、勝てるんですか? あの思念は力を、世界を崩壊する力を持っています!」
「だから、愁一さんには効かないのです。彼は人ですから」

 私はゾッとした。それは永遠に続く、自分を殺し続ける旅だ。

「なぜ、そんなことを……」
「彼は普通に生きて、普通に死にたいと思ったから」

  等々街は崩壊し、残ったのはたった一つの月だった。

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