輪廻血戦 Golden Blood

kisaragi

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第十一章 Month Living In Seclusion

第五夜 更待月

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 それは目覚めに近かった。
 あの時に似ていた。初めて愁一が現世の地に立った瞬間に。
 ただ、暗闇では無かったし、そこは豪華ホテルのエントランスのようで中には数十名、いや、情報通りならば五百名ほどの人間がそれぞれわいわいと騒いでいた。

「な、なにこれー!!!!」

 そう。一見して、あの時の目覚めと似ていた。しかし、似ていただけだ。見上げるエントランスはどう考えても大きい。一歩、踏み出すとぽよん、という信じられない音がした。手を見て更に驚く。

「ひ、人の手じゃないー!!」

 ざわざわと周囲の視線が痛い。
 飛んで、跳ねて見てもどう考えても人ではない。そんな時、エントランスの水辺で自身を見て更に驚いた。


「なにこれー!!!」

 それは、ケイが以前作ったライオンのぬいぐるみだった。動けばもふもふ。残念な音がする。

「そのまま突っ込んだらバレバレでしょ」

 と、英治の声に振り向くと、彼は何故か目付きの悪いペンギンの姿だった。

「だからってこれはあんまりじゃ……」
「他に即興で作れるアバターデザインがケイにしか出来なかったんですよ」
「……それでこれなのね」

 愁一は納得する。二、三頭身のぬいぐるみ。明らかに周囲から見れば浮いている。
 選ばれた五百名。彼らは要は資産家、医者、名家、旧家。そんな人々ばかりで彼らは随分テンションが高く、パーティー会場のような広場で誇らしげに遊んでいた。

「ほとんど現実と変わらないね」
「見かけは」

 英治はペンギンの手を握ったり開いたりしながら答える。

「そういえば、向こうは……」
「鏡一狼君となら通信出来るよ。ただ、あまりおおっぴらにやるとそれはそれで目立つでしょ?」
「確かに」

 そんな会話をしていると、一人の少女がこちらに向かって話しかけて来る。セーラー制服には見覚えがある。藤堂高校の制服だ。髪は桃色、カーディガンを着崩し、更に風船ガムを噛んでいる。

「あんたら、何。どう見てもぬいぐるみだけど」
「一応、ちゃんと招待されてるよ」

 愁一は少女の目の前にブラックカードを見せる。

「本当だ。鳩里先生が知り合いがいる、って言うから来てみたけど……まさかアンタ達?」

 愁一は疑わしげな少女を見上げて頷いた。

「じゃあ、君は鳩里先生の……」
「生徒」
「じゃあ、俺達は先輩だよ」
「ふーん。一応、私と妹が鳩里先生の生徒なんだ。私は泉類。妹は頼」
「もしかして双子?」

 彼女は首肯く。泉姉妹は綺麗な桃色の髪の姉妹だった。類は長く、片方が小さな三つ編み。頼はベリーショートで少しおどおどしている。確かに双子だ。顔が瓜二つ。しかしこれだとどちらかがどっちなのか判断が難しい。

「私は止めようって言ったのに……」
「だって、桂一が変わった石が見られるって!!」
「……変わった石?」

 英治の問に類は首肯く。

「そう。私、石が好きなんだ。石って言っても、その辺の石じゃないぜ。鉱石とか。そういうの。桂一はそういうのすっごく詳しくてさ」

 少女の瞳はとても輝いていた。人は見かけだけで判断してはならない。彼女はどうやら見かけに似合わずとてもいい趣味をしている。

「見せてもいいけど、このくだらないゲームが終わったらな」
「そう来ると思った。任せな。お姉さんはRPG得意だぜ!」

 その時、ホールに音声が響いた。

『ようこそ。ようこそお越し頂きました、皆さん。といっても、肉体は来てないけどね?』

 と、雑なギャグを放った男の声らしき人物は大きなスクリーンに映し出された。

 まるで道化師のような風貌だ。紫を基調とした服に、白い肌。そして帽子から伸びる一筋の金髪の髪。それだけで、この男が寧斗かどうか判断する材料にはならない。

「血統ね。俺達はサッカー選手、政治家、医者。そんなのばっかだぜ。血統だってさ。そんなのチートに決まってんだろ」

 彼らは笑った。そう言って唆したのだろう。

『そーう。君たちは優秀な親。その親。その親。優秀な血統を持った人間たち。だからこのゲームだって簡単だよねぇ?』

「それはいいけど、なんでこんな虫ケラみたいな部外者がいるんだ?」

 一斉に愁一と英治に視線が注ぐ。

『彼らは要は実験台さー。優秀な血統ではない人間がこの世界を生きられるのか』


「そんなの、分からないよ。どんなに優れた血統を持っていても、自分で使いこなせなきゃ意味ないじゃん」

『ライオンのぬいぐるみに言われてもねー?』

 その言葉に人々は理解したようにこちらを見る。馬鹿にされていると空気で分かる。

「おい、アンタら、本当に桂一の生徒なんだよな?」

 類が屈んで愁一に話しかける。仕方ない、と言えば仕方ない。今、愁一の姿はぬいぐるみなのだ。

「そうだよ」
「名前は?」
「ライオン師匠」
 答えたのは英治……と思われるペンギンだ。
「……え?」
「……何、そのダサい名前」
「って、ケイが言ってた」
「そういう名前だったんだ……これ」

 ライオン、のようなぬいぐるみ。二等身で一応二足歩行。で、一応刀は持てるが大根とそう変わらないおもちゃレベルの刀だ。

「そっちのペンギンは?」

 ペンギンの方もそう変わらない。二足歩行するペンギンだ。

「ペンギン岡っ引き」
「そのまんまか!!」



『さーて、準備はいいかな? 一度血統を登録するとプログラムが発動するんだ。そこは素晴らしいー世界だよ!! みんな、持ってるブラックカードを掲げてね!』

 言われるまま、愁一はブラックカードを取り出した。しかし、愁一はこの偽造プログラムに登録はしていない。つまり、このカード事態が偽物だ。愁一の会社で作ったコピーライセンスである。
「良く、ここまで偽造出来ましたね」
「偽造は出来たよ。けど登録人数は予め決まってたんだ。だから俺達のいずれかが侵入することは向こうは知ってる、ってことだね」

『さあ、行くよ~。血統の世界へ、ようこそ!!』


 エントランスが光る。


 選ばれた五百名。その血統が解析される。

 ある者は有名な政治家。ある者は有名なスポーツ選手。

 その空間はただの廃墟、砂漠だった。

「なんだ、これ。ただの廃墟じゃん」

 落下するようにその世界は顕現する。一面の荒野。選ばれた五百名は姿が変わる。
 医者、名家、旧家、政治家、スポーツ選手。それぞれの血統プログラムが認識した姿に。
 愁一はライオンのままだった。

「えぇえー、どうしよう!!」
「……っとに、大丈夫かよ! 桂一の生徒じゃなきゃ見捨ててるぜ!!」

 少女に担がれ、何とか着地する。少女は白い軍服を着ていた。

「君は軍人なの?」
「まぁ、自衛隊空軍一家。桂一にアンタの面倒を見てくれって頼まれて。桂一の家は結構古くてしかもトップシークレットな旧家だから参加出来んと」
「そんなことまで知ってるなんて仲が良いんだね」
「そ、……っんなことはともかく、頼とはぐれちまった」
「あっちには上杉君が付いてるし、大丈夫だよ」
「今はただのペンギンじゃん」
「……あ」


『さて、さてー? 全員血統が目覚めたかなぁ? そのブラックカードは無くさないでねぇ。血統証明だから。さて、ゲームの概要は簡単。殺し合いだーよ!』

「はぁ!?」

『我々が用意した手駒と君達による殺し合い。我々のボスを倒せば君たちの勝ち~。君たちが全員殺されれば我々の勝ち~。君たちのその血統、ぜーんぶ頂戴するよ!!』

「そんなの、聞いてねぇよ!!」

 何人かが騒ぎ出した。

『だ~って。君たちチートでしょ?しかも僕たちのボスを倒せば一発勝利、なんてハンデまであるのに、あるのにぃ??』

 その言葉に参加者は黙る。


『それじゃあ、開始~!!!!』




 パーン、と何処からともなく音が鳴った。参加者はおろおろと何処か隠れる場所を探す者、己の血統を過信して堂々と歩く者様々だ。

「協力とかしないのかなぁ?」
「そんな風に見えるかよ。皆、自分の家柄を過信していやがるぜ」
「とりあえず、一回隠れて君の妹と合流しよう」
「その方が良さそうだ」

 近場に隠れてられそうな場所は森しかなく、そこで二人は一旦息を潜める。類は軍人一家らしく、色々な小物を取り出しスコープで周囲を確認していた。

「向こうの手駒はまるで軍人だな。手当たり次第、って感じだぜ」
「この廃墟は腐敗した現代だね。あの鉄塔は東京タワーだ」
「なんつー皮肉だ。何処が血統RPGだっての。元々持ってるもん持ってなきゃ何も出来ねぇじゃん」
「だからそうだって言ったのに」
「こっちの持ち物は緊急食糧、空軍は血統プログラムで使えるな。銃は使えなくもないけど、プロと比べるとお粗末。そんぐらいだ」
「すごいねぇ!!」

 愁一はぬいぐるみの姿でぴょんぴょん跳ねた。

「べ、……別に」
「ちゃんと自分の力を分かってるんだね!」
「お前、軍に関しちゃ素人だろ?」
「それより、もう人数が十人ぐらい減ってるよ」
「何!?」
「あれ! あれ! あのタワー!」

 愁一はぴょこぴょこと中央に位置する、唯一大きな腐敗していない東京タワーを指(手)で示す。そこには本来はない大きな電子掲示板があり、時刻のように刻々と数字が減っている。

「まさか……」
「そうだよ! ゼロになったらタイムリミットだ!」
「……お前、一体何者だよ……」
「ライオン師匠だよ!」
「違うわ!! ったく、桂一の話じゃ凄い奴だって聞いてたけど」
「鳩里先生がそこまで生徒に事情を話すなんて、君らどういう関係?」
「なっ……それは……それは」

 それまで、切れの良い話し方をしていた類は顔を真っ赤にして伏せた。それだけで察するものがあるというものだ。

「あ……そういう」
「悪いか!!」
「悪くないよ。でも本当に、良くあの鳩里先生を落としたね。生徒ってだけで相当なハンデだ。大変だったでしょう?」
「そりゃあ、もちろん。大変だった……」
 と、類は思い出したのか疲れきった表情で言った。
「妹さんは知ってるの?」
「知らない。言ってない」

 類は本当に見掛けによらず純情そうな表情で頬を赤く染める。簡単に話しただけだが、事情は分かった。彼女は信用に足る人物だと。この世界に妹の魂があるのかはまだ分からない。本当に双子かもしれないし、もしかしたらどちらかは存在すらしていないのかも。

「鳩里先生の恋人か。なら余計、ちゃんと守らなきゃね」
「その姿で言われても説得力ねぇよ。取り敢えず、頼を探そう」
「そうだね。近付ければ上杉君と通信出来るから、思いきって何処か目立つ所に行ってみる?」
「良いぜ。そこまで、アンタを護衛してやるよ。空軍の力、見せてやる」
「格好いい!!」

 愁一は素直に彼女に任せることにした。一度合流して、向こうのボスを倒した方が早い。一々手駒を相手にする理由はない。
 更に向こうはこちらの姿でおそらく油断している。近付くまで油断させておいた方がいい。
 また、邪道で外道な戦法だ。
 類は重航空機類を操縦出来るらしく、しかもその重航空機類を血統で呼べるのだから大したものだ。

 その飛行機の中にライオン師匠は乗った。

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