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第零章 九尾のきつねの琥珀さんをご奉仕します!!
ご奉仕その四 私の……になって下さいな!
しおりを挟む清気に満ち溢れた朝に満足して蠢くと、瀧臣の姿は既に何処にもいなかった。
「あれ、あれあれ??」
ベッドの隣はシーツが少し冷たい。不満で私は頬を膨らませる。
小ぢんまりしたちゃぶ台の上を見ると手紙が置いてあるのを発見する。
『琥珀へ
流石にあの後直は気恥ずかしいので、朝練行ってくる。
そのまま学校に行く。
弁当は一応作ったので食べること。
それと、変なことはするなよ。
瀧臣』
「ほほーう。これは、恥ずかしくなって逃げましたね!!」
私は満足げに四本の尻尾を揺らす。
昨晩は向こうの勝ち逃げですね!!
でも次は絶対に私が満足させてみせます!!
昨晩で戻った力は大きい。
私は基本的に瀧臣のベッドの上で生活している。そこで漫画を読んだり、ゴロゴロしていることが多い。
家事はほとんど瀧臣がやってしまうし。私がすると手間が増えるだけなのだ。
本当はもっと構って欲しいという本音はあるが。
本棚の本は大体、野球に関係した雑誌か動物図鑑だった。本当に動物が好きなようで部屋の棚の上には猫や犬、熊等のぬいぐるみや小物が並んでいる。
私の……狐の小物がないなんて瀧臣のセンスもまだまだですね!
しかし私には分からないことがあった。
それは彼が何者か、ということだ。
数日触れ合い性格は理解したが内面の奥底が見えて来ない。
時々ふとした瞬間に見える闇がある。
「それをどうにかすれば恩返しにはなるかもしれません!」
その時、朝の日射しに紛れて一枚のカラスの羽が通過する。
『それは無理そうじゃが』
私はそれを横目で眺める。
その羽はポンッと本体に変化した。
「久々じゃの!」
「出ましたね! ロリ詐欺!!」
「この崇高な烏天狗に向かって!!」
「冗談ですってば!! 叩かないで!」
この烏天狗、仕事は優秀だがこうして時々私を錫杖で殴るのだ。
「全く人に調査を依頼しといてその横暴さは変わらんの」
「それで? 烏天狗組の力、見せて下さいな。天城瀧臣について何か分かりました?」
「……何も」
「何も?」
私はその幼女のふりをした烏天狗の長を見つめる。
「時にお主こそお主の全てあやつに話したのか?」
「……尻尾のことは一応。私が無垢な善人ではないということも理解させようとしました」
「させようとした?」
「あっさり受け入れられてしまって。逆に性格に問題があるとバレちゃいました。それも受け入れちゃうんですよね~、変わった人です」
「お主のそういう所を拒絶しない、と来たか。やはり面白い男じゃ。探り甲斐がある」
「で、何用ですか?」
私は起き上がって、ベッドに腰かける。
「せめてその乱れた服装を……」
「はいはい分かりました。調査結果が分からない、だなんて烏天狗組も落ちたものです」
仕方なく私はいつもの正装に戻る。
「なんじゃと!! 正確には分からない、のではない。探れない、のじゃ」
「へぇ?」
「あの男は孤児じゃ」
「……え!?」
「だからヤツの名前からその先祖を探るのは不可能じゃった。あれは本名ではない。生誕し少しして孤児になり物心が付いてすぐに施設で育った。名が分からないので仕方なく誰かが代理人として彼に名を与えたようじゃ」
「それが天城瀧臣……」
「彼は幼年は施設で過ごしていた。そこの職員の誰かの名じゃろう。天城という名からは何もヒットせんかった。どうやら、彼は今はその施設のバイトと国からの援助金で生活している。満足したか?」
「む……それでも、あの清気の理由は分かりません。しかし、そういう事情でしたか……少し驚きました」
普通そうな体育会系の男だと思っていた。瀧臣もそう見えるように振る舞っている。あの様子で孤児だとは誰も気が付くまい。
それなら……。
「もう少し夢や希望があればいいのに」
「その理由も瀧臣から直接聞くんじゃな。お主こそ、あやつにお主の全てを話した訳ではあるまい?」
「それはまだちょっとハードルが高いです」
「ではお主何故その力で自分で探しに行かぬのじゃ?」
「それも理由あってのこと。怠惰ではないですよ!!」
「そうかの?」
ヒラリ、とカラスの羽だけ残し烏天狗は消えた。
「仕方ない。後は自分で調べるしか無さそうです」
私はベッドの上で二つ目と三つ目の力を使って調査する。
尻尾を使えば移動せずとも、瀧臣の動向を探るぐらい簡単だ。
今、瀧臣がいるのは学校だ。
学校で過ごしている彼はごく普通の高校生だった。
少々、兄貴肌だが誰とでも争わない。しかし誰とでも仲が言い分けではない。そして誰も拒絶しない。
「分かっていましたけど。本当にそのままなのですね」
しゃべり方も、動きも、何も。
私は少し面白くなかった。私にだけ、ちょっとぐらい特別感があったっていいではないですか。
一部に、物凄い邪心を感じて私はぴくり、と耳を動かす。
「これは……」
探ってみたが、まだ分からない。四本目の追跡が戻ればもっと詳しく調べられるだろう。
一瞬見えたそれが気になる。瀧臣の回りをうろうろするそれが……。
「私の……に、邪魔ですねぇ……んん??」
その時、私は閃いた。
「そうか! その手がありました!!」
一回、この件については置いておいて、私はもっと彼を知り、更には最後の尻尾の回収にも足る最高の案を閃く。
「流石、私。そうですよ、最初からこうしていれば良かったのです!!」
調査を終了して私はベッドの上でご機嫌で瀧臣の帰りを待った。
私はるんるんでその瞬間を出迎える。
「ただいまー」
スポーツバックを背負った瀧臣が帰ってくる瞬間だ。私はばっと飛び出す!
「お帰りなさいませ、ご主人様!!」
「バッ……うるさい!」
むむむ。全然気が付いてない。私を必死に玄関の中に押し込んでため息を吐いた。
誠に不満だったが、そこで私は気が付く。ならばどこまで分からないのか試そう!! と。
「玄関では静かに」
「……む」
瀧臣はせっせとスポーツバックを置いて家の片付けを開始する。
この手慣れた動作もずっと一人だったのだろう。私は元々会話する気でいた内容を話すことにする。
「そういや、聡から聞いたぜ。お前みたいなの押し掛け女房って言うんだろ?」
「??? 似ているような。違うような?」
「でも、フツーはそうやって来るヤツは大体何か色々してくれるんだけどなぁ」
キッチンで夕食の準備をしながらちらり、と彼は私を見た。
「色々したじゃないですか?」
「そういう意味じゃねぇよ!!」
「しましたよ! 貴方のことを調べましたから! 調べたの烏天狗組ですけど!!」
「で? 何か分かったのか」
瀧臣は無表情で野菜の皮を向いている。その方が怖いんですけど。えー!! みたいな最もらしい反応して欲しいです!!
「……分かりました」
「そりゃすごい」
そこで私の決意は鈍る。
どうする? 本当に言っちゃいます??
しかし決意して私は言った。私は決めたのだ。彼にすると。
「貴方は……孤児だったのですね」
「そうだよ」
瀧臣は無表情で肯定する。
とん、とん、とん、と野菜を斬る音がキッチンに響く。
「……だから、私のご主人様にしてあげます!」
我慢ならなくて、流石に自分で言った。
「……え?」
そこでようやく、瀧臣は驚いた人間の表情で私を見る。
「だから……その、私が貴方の唯一無二になります」
「何、言ってんの?」
「それが貴方の本当の望みのはずです。ご主人様?」
「違う!!」
瀧臣は叫ぶ。ガシャン、とシンクが音を立てて揺れる。
カランと手元から包丁が落ちる。
「何故、そこまで他人を拒絶するのですか!」
「そんなの……」
彼は苦しそうな表情で顔を伏せる。彼が見せる、心の闇。私だけに見せる特別。
「私は貴方の何を知っても何処にも行きませんよ」
「行けない、の間違いだろう?」
「今は行けます!」
ピンッと三本目の尻尾を動かして私は言った。
「でも、行きませんでした。ここを出て行けば、そのまま閉め出される気がしたのです」
「……さながら間違いないな」
「何ですか、ソレ。最初から一人だったから他人が怖いんですか?」
「ああそうだよ」
ご主人様は立ち上がった。シンクに落ちた包丁を取り戻し、調理を再開する。しかし、何を作っているのやら。
「俺は最初から一人だった。まだ赤ん坊だった頃に大きな事故で両親が死んだらしい」
「らしい?」
「その時、俺はまだ喋れない赤ん坊だったんだぜ? そっからずっと施設で生活していた」
その言い方に私の耳がぴこーんと動く。
「貴方は何故生き残ったことに罪悪感を感じているのですか? 普通、そこは幸福感を感じるものです」
「……良く分かったな。流石神様」
「褒めても何も出ませんよ。何故ですか?」
「そんなの、怖いに決まってる! 俺以外全員死んだんだぞ!! 何で、俺だけ……生き残ったんだ」
ご主人様はキッチンの床に手を付いて屈んだ。
そんなこと……と私は少し驚く。
「生き残ったんだ、何かしなくちゃいけないのに、俺は俺のことが分からない。頭も悪くない。運動も出来る。何も不幸なことはない……それが一番怖いんだ。何で、俺だけ……」
「ちょ、しっかりして下さいな! 貴方はどこも変ではありません。両親を亡くす程の不幸にあったのです。差引その幸福は当然です!! 頭や運動は普通に貴方の才能と努力の結果です!」
「その幸福だけで、俺はお前を引き当てたって? 何千万人の内一人が得られる幸福を?」
「貴方は何も分かっていませんよ。やはり、私の決意は鈍りません」
「なんで……そんな」
「理解させます。私の言葉に間違いなかった、と。そしてご主人様は私を盛大に崇めるでしょう!!」
「今、妙な単語が聞こえたんですけど」
「今更ですか? ご主人様!」
「ちょ、……止めてくれよ!!」
「私は絶対に貴方のその幸福恐怖症と対人恐怖症、治してみせます!」
「何でだよ……むしろガッカリしただろう。俺は聖人君子じゃない」
「いいえ。ご主人様が自覚していないだけです。私は側にいますからね!」
「……勝手にすれば」
と、やっぱり照れているのかご主人様はふいっと顔を反らしてキッチンに戻った。
しかしまな板の上には不揃いの野菜たち。そりゃあ、あれだけ無差別にダンダン切断したらこうなります。
「……これ何作る気だったんだ?」
「白いシチューが良いです! あれなら私も食べられます!!」
「……勝手に決めるなよ」
その時のご主人様の表情は、泣いてはいないが泣いた後のような表情をしていた。
結果食卓にはイメージ通りのシチューが完成した。
「私と同じ。白です!」
「……そうだな」
勝手にだが、少しご主人様の表情が前より柔らかくなった気がする。
「……って、いうか勝手に俺をご主人様にするな! そんなの無理だ!!」
「いいえ!! 貴方しかありません!! 清き気を持ち、己の幸福を感じるのではなく他に愁いを感じる真摯な性格。あの尻尾だって気に入るはずですよ!」
「よくまぁ、そんなに言葉数並べられるわ」
「と、いう訳です! ご主人様! あーん!」
「しねぇよ。ご主人様ってか奴隷って感じだよな。家事、洗濯、掃除。やるのは俺じゃん」
「それは私に対してのご褒美です」
「ご、ほ、う、びー?」
予想通りの反応だ。
「何事もギブアンドテイク。私はしているじゃないですか。夜のご奉仕……なんちゃって!」
「何がなんちゃって? だ。結局俺から清気を摂るくせに」
しかし、美味しそうにシチューを食べる瀧臣を見て私は満足する事にした。
「……貴方は、もっと知りたいですか?」
「何を」
きちんと咀嚼を終えてから瀧臣はまっすぐ私を見つめる。その強い瞳に私は何故か妙なデジャブを感じる。
知っているような。懐かしいような。
「貴方のことです」
「……うん」
瀧臣は予想外に素直に頷く。
「私、調べても良いですか? 貴方に貰った力です。貴方の為に使いたいのです」
「良いぜ、好きにしな」
瀧臣は少し照れた様に頷いた。
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