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第零章 九尾のきつねの琥珀さんをご奉仕します!!
ご奉仕その七 デートして下さいな!
しおりを挟む何故、琥珀が最後の一本の尻尾に逃げられるのか。
あの晩で良く分かった気がするな。
翌日、俺は真っ先に聡に謝った。
通学中の聡に駆け寄る。
「いいって。これぐらいのコブなら慣れてる」
「なら、良かった」
「大会も近いしな!」
「おう!」
その言葉に俺は相槌を打つ。
そうだ。時間は幾らでも経過する。
このクラスメイトは皆が人間で、普遍的で、自分もそうだと思っていた。
しかし、あの時。
俺はただバットに球を当てただけだ。それなのに、球は華麗に俺の望む軌道を描いた。
俺は投手ではない。あくまでも四番だ。小技もこなすが、あれは狡になるのか?
ぐるぐると色々な思考が巡る。
尻尾が九本揃ったら。どうなるのだろう。
あの神社に戻るのだろうか? きっとそれが良いのだ。
最近は嫌な思考ばかりだ。だから誤魔化すように黙々と練習に打ち込んだ。
家に帰れば琥珀がいる。相変わらず、人のベッドを占領して。笑顔で俺を出迎える。
例え俺が人間でなくとも?
琥珀は人間ではない。けれど九尾のきつねというアイデンティティーがある。俺には何がある??
野球選手になれるのか。話は来ている。それとも大学に行くのか。
「おかえりなさい!!」
「ああ……」
「あれ、何か妙に元気がないですね? 聡さんは怒ってました?」
「いいや。……なあ。お前、ずっとこの家に居っぱなしだけど、何処か行きたい所はないのか?」
「え!?」
「また、勝手なことをされても困るしな」
「……本当に?」
「ああ。勝手にこそこそ外に出られるよりは」
「ギクッ……バレてる……じゃあ、夜のお散歩です!」
「夜の散歩?」
「もう、鈍いな、ご主人様。……デートです!」
「けどその姿は目立つぞ……」
「お任せあれ!!」
ポンッと音がした、と思ったら。琥珀はセーラー服を身に纏い、尻尾と耳が消えていた。
「それは……」
「そう! 変化です!!」
「おおー!!」
俺は素直に感心する。いかにも、九尾のきつねらしい。
「けど、夜だと何もないぞ。繁華街は原則校則で深夜には行けないし」
「んんー。二人きりの場所が良いです。ご主人様、知りません?」
「ああ、それなら近場に公園がある。オブジェもアスレチックもあるし、明るいから大丈夫だろう」
「そこ! そこにしましょう!!」
それも良いか、と俺は寮から外に出る。
今日は二日月、既朔だ。うっすらと細い月が見える。あれがあの人。確かに似ていた。顔も。色が違うだけ。
「ご主人様?」
琥珀が心配するように屈むと、さらりと銀髪が数本落ちる。
「いや、わるい。行こう」
その場所は少し開けた広場で、お洒落な噴水とベンチと芝生がある。琥珀はベンチに座ると伸びをした。
「んー。こうして外に出てみるのも良いですね」
「つか、別に好きに出れば。もう力は大分戻ってんだろ?」
「……と、思って」
「……あ?」
「ご主人様が寂しがるかと思って!」
「な、俺は……」
「私の居ない部屋に一人で帰るご主人様を想像したら悲しくなりました」
「琥珀……」
妙な間に俺は焦る。
デート。そういえば、デートだなんてしたことない。女性が好きな話題? それは……何だ、動物の話……を琥珀にしてどうする!!
「今日は星が綺麗ですね」
「そうだな」
「星は良いですね。何千年経っても変わらない。正確には一秒の単位で変化しているのですが。その概念と光り輝く姿は変わらない」
妙な小難しい話。畏まった態度。
「何、お前照れてんの?」
「だって……私だって人間とデートなんてしたことありません」
そんなの、俺だってない。
「……お前はさ、尻尾が戻ったらどうするんだ? また酒池肉林? するのか?」
「しませんよ! 次こそ消されちゃいます。……そうですね。あるには……あるのですが……」
「んだよ」
「秘密です~!」
琥珀はふふふ、と嬉しそうに笑う。
「琥珀……お前はどうしていつも一人なんだ? こうやって姿も変えられれば別に……」
「それは……」
『それは、この女狐が大妖怪だからだ』
「あれは……面!?」
「お前は最後の……」
「あれが……」
狐の面がふよふよ浮いている。俺はもう何が起こっても驚くまい。
「何しに来た、裏切り者!!」
琥珀はいつになく、物凄い迫力で叫んだ。
『我が主の恩義によってのうのうと生きているだけでも御しがたい』
「ちょっと、どういうことだ!?」
「……昔、言ったでしょう。ちょーっとやり過ぎちゃった時に退治されかけたって。その時に最後の尻尾はアイツに付いたのです!! 忘れもしない。一ノ宮 月臣!!」
『しかし、滑稽』
面に巻かれていた帯が解ける。
スラリ、と歌舞伎の様な姿をした男。
大丈夫だ。まだ驚かない。
『主人? 笑わせる。その狐が? ならば、我を倒してみよ!!』
「うわぁああ!!」
狐の面に巻かれていた帯が放たれる。すごい量の白い帯が。流石の俺も叫ぶ。
そうだ、琥珀!!
「きゃぁああ!!」
琥珀は帯に絡まり動けなくなっていた。
俺は必死にもがいて琥珀を助けようとする。しかし、琥珀はその帯に捕まってしまった。
「琥珀……琥珀!!」
『時刻は明日。場所はあの社にて』
あの神社に? またか、またなのか?
その時、トンッと空から烏天狗が現れる。
「琥珀が、……おい、……えっと……」
「落ち着け。我が名は紅天狗じゃ。お主、全て知っておるな」
俺は真っ直ぐ紅天狗を見返して頷く。
「おうおう。その面構え。よう似とるわい」
「知っているのか?」
「我々、烏天狗組は全て月臣の支配下にあるからの」
「知ってて、黙ってたのか!!」
俺だって、こんな幼女(姿は)に怒りたくはない。しかし、全てを知っていたのだとしたら。なんて堂々巡りだ。
「ああ。知っておった。しかし、我らが主に止められておったのじゃ。少し様子を見よう。さすればあの狐の素行も変わろう、と」
全て、言う通りなのか。何が宇宙人だ。そんなことが出来るのなんて神ぐらいじゃないか。
訪れたのは無音。俺は、また一人になった。
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