輪廻血戦 Golden Blood

kisaragi

文字の大きさ
90 / 90
第零章 九尾のきつねの琥珀さんをご奉仕します!!

ご奉仕その九 私も貴方を愛しています!

しおりを挟む
 
 その光景はただ、美しく。美しかった。
 輝く神社。その中のお狐様。八本の尻尾は光り輝き、様々な柄の帯が解き放たれる。うっすらと、開かれる瞳は黄金の瞳。

 琥珀はゆっくりと起き上る。頬に銀色の紙が流れ、落ちる。しかし、表情に悲しみはない。喜びも。あるのは無だ。

 これは、本当に俺の知っている琥珀だろうか?

『ようやく本性を出したな、女狐よ!』

 面の男は帯を掴むと、ピンッと刀のように伸ばした。これがこの男の武器か。琥珀に向かって突っ込もうとするので俺はバットを持って止める。キンッと音が響いた。

『ええい、邪魔するな!』
「するさ! 愛してる、って言っちまったしな!」

「無駄だ」

 これは琥珀の声か? 静かで重い声だった。琥珀は緩やかに、神々しく動く。まるで感情が抜けて月に帰るかぐや姫のような。

「琥珀?」

「その一尾。役目を果たしなさい」

『な……』

「琥珀? 琥珀!!」

「貴殿の役目、忘れたか」
「役目?」

 俺は項垂れる面に向かって尋ねる。

『我が役目はお狐様の封印です』
「なっ!」
『私はお狐様の最後の一尾として、ずっとお狐様をお守りする存在。しかし、お狐様は月よりの使者に射られ、死さえ覚悟した時に私を斬り放し言ったのです』

 俺が聞いていた話と違う。琥珀は確かに俺の側面に射られた。しかし、なんとか生き残って今までカツカツの状態で生活していたんじゃないのか?

「この私を封印して下さい。私は神力のせいで自分では死ねぬ身。これ以上、他人に迷惑をかけるぐらいなら、朽ちた神社に封印して下さい」

 琥珀は言った。俺は琥珀に駆け寄る。

「琥珀! 琥珀!!」

「良いのです。ありがとう。貴方のおかげで私の邪が消えました」

「なんで……」

 俺は崩れ落ちる。俺が好きだったのは、あの無垢で、無邪気で、怠惰で、悪ふざけが過ぎて、自分の自慢が大好きな、猟奇的な女狐なのだ。自分でもおかしいと思う。美人で、お淑やかで、何でもしてくれるような。普通はそんな女性を愛するのだろう。

 けれど、俺は楽しかった。ずっと一人だった俺は初めて怒り、呆れ、そして笑った。琥珀がもう怠惰だから、俺がそこまで畏まる必要もなく。普段している勉強やロードワークをするだけで彼女は無邪気に俺を褒めた。

 駄目で良いのだ。我が儘でもいい。

 彼女はずっと、俺が言えないから。言わないから。代りに言っていたのだ。

「さあ、早く」

 まさか、彼女は始めからすべての尻尾が戻ったら封印される気でいたのか?

『御意』

 勝手にさせるか。そんなこと。面の男の後ろに揺れる尻尾を掴む。

『なっ! お止め下さい!!』
「お前、本当は琥珀に消えて欲しくないんだろう? だから全力で琥珀から逃げたんだ」
『な、なぜ……』
「そんな理由がなきゃ、俺は……俺の側面は、……月臣はお前を匿ったりしない。琥珀は本当は善い狐なんだ。違うか?」
『何故、分かるのですか……』

「俺は、俺。俺はあの人、月臣の側面だから。何となく分かるんだ」

 そして、気持ちも共有出来るのだ。彼が考えていることが、思っていることが。分かる。俺はそれが少し嬉しかった。今までは一人だったけれど。今は月臣がいる。常に一緒にいなくても、姿が見えなくても分かる。

「……ご主人様が……まさか、月臣?」
「なんだ……気が付いてなかったのか? そうだよ。俺は瀧臣であり、月臣でもある」
「それじゃあ、私は……まさか」

 琥珀は崩れる。

「例え、そうであっても。この思いは俺だけのものだ」
「なぜ、そう言い切れるのですか! あの男が慈悲を持って私を逃がしたのは分かっています。でも、もしかしたら、そこに」
「愛情はない」

 ハッキリ言い切る。俺だから分かる。月臣は琥珀を助けたかったんだ。いいように人間に唆され、穢され、騙されて、搾取され続けた琥珀をどうしても助けたかった。しかし、月臣は契約で人間は殺せない。だから琥珀を射るしかなかったのだ。

「……そうか」

 俺は、持っていかれて、脳裏に映された映像を見るように感じる。

 これが琥珀の過去。

「違うんだ。琥珀。琥珀は地球に来て始めて出会った人間以外の人間の姿をした者だった。だから幸せになって欲しかった。憎しみを蓄積したまま封印なんてしたくなかったんだ。そして、自分で見つけてほしかった。本当に、愛する者を」

「でも、私……いいのですか? 誰かを愛して。こんな、何も出来ない狐なのに」
「いいんだ。それに、琥珀は何も出来ない訳じゃない」

 とん、と琥珀を抱き寄せる。俺の制服が涙で濡れる。

「え……」
「俺を愛してくれるなら、それでいい」
「……ご、」
「だからもう、そんな人形みたいなフリはするな」
「ご主人様~!!!!」

 がばっと琥珀は俺に抱きついて、狐なのにわんわん泣いた。

「俺はもう『ご主人様』じゃねぇよ」
「では……なんとお呼びすれば?」
「あれぇ? 何、覚えてねぇの? じゃあ、殴ったら思い出すかな?」
「ちょ、突然、いつものテンションに戻るの止めて下さい!!」

『……本当に、良いのですね?』

 ずっと見ていた面は俺に言った。

「ああ」

『御意に。我らが主人よ』

「え?」

 その瞬間、神社は光輝く。光があるから影がある。光が強ければ、影も強くなる。どこからかは分らないけど、俺は遠くから月臣の力を感じた。

「ありがとう。月臣さん」

 難い、と思った時もあった。知っているなら、何故俺を仲間に入れてくれなかったのか。まるで無視するみたいに。でも俺は悟る。強い力を持っていると、それだけ予期せぬことが起こるから。記憶もなくて、力の使い方も分らない俺を月臣はあえて切り放し、普通の人間として違えた存在にしたのだ。

 それが、再び繋がる。

 俺が手を伸ばす。

「え?」
「大丈夫。二つに分かれたものが一つになるだけだから」
「そんな、それこそ、そんなことしたら貴方が……」
「大丈夫だ。信じろ」

 琥珀はただ、頷く。

 空の光。空の虚無。銀の輪。輝き。その月から、俺の失った力と、記憶が送られる。

 ああ、もう一人の俺は本当に俺に似ているけれど、やっぱりちょっと違う。孤高で、気高く、偉そうで、でも少し脆くて。側面だからか、全然真逆の所もある。これが俺。

 俺は再び瞳を開く。月臣とは違う、月色の瞳の色。その姿を琥珀は呆然と見上げていた。

「……ご主人様……いえ、瀧臣?」
「あ、そういえば、俺、お前から返事聞いてねぇけど」
「そ、……そんなの、私も貴方を愛しています!!」

 琥珀はいつもの調子で泣き出した。


 それから、数日が経った。琥珀は相変わらず、俺の部屋でだらけ、俺はひたすら野球に打ち込み、甲子園で優勝する。

『こら! 琥珀様! いつまでだらけているのです! 瀧臣の球団が決まりましたよ!!』
「そんなの、どこでも同じです~」

 結局、俺はあの寮から引っ越した。今は東北の帝王、星、なんて呼ばれているけど上手くやっている。琥珀と、小姑のような面。俺は面歌舞伎と呼んでいる。え? 一緒にしなかったのか? うん、そう。しなかったんだ。だって、ずっと琥珀を見守っていてくれてたんだ。彼にだって自由を知る権利がある。

 ハッキリと言える。俺は今、幸せだ。まだ若いし、球団の中では若手だけれども一人じゃない。

 あれから、一度も月臣とは繋がらない。

 俺に力を与えたのなら、弱ってなければいいけれど。

 今日は満月。

 俺は家への道を歩きながら夜空を見上げる。

 うん、きっと、あの人なら大丈夫だろう。

 そして走った。家から変な匂いがする。思いきり扉を開くと、琥珀が鍋を焦がして泣いていた。
 ずるずると肩のスポーツバックが下がる。

「なんだ、これ……」
「ふぇええええ!! 瀧臣のホームラン祝にカレーを作ろうと思ったのです! コイツが美味しいって言うから!」
『私は月臣が作っていた通りの手順を説明しました! なのに琥珀様はどれ一つ、正しく……』
「わかった、分かった。俺がやるよ」
「わかるの?」

 ぴこん、と琥珀の耳が揺れたので俺は頷く。

「でも疲れてるんじゃ……」
「あー。そうだな」
「じゃあ、癒して下さいね!」
「……俺がお前を、な?」
「そして、私が貴方を。お帰りなさい」

 琥珀はめいっぱい両手を広げ、俺に飛び付いた。

 ハジメテの言葉。貴方だけの言葉。唇が自然と重なる。

 ああ、今日の月はどうだっけ。そんなの、どうでもいい。

 きっと今日も月は世界のどこかで輝いているのだから。



 I'll meet in night when I drown.
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」 幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。 迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。 ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。 これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。 しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。 奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。 現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。 異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー 様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。 その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。 幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。 それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。

処理中です...