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001・バーテンダーにオーダーを!
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オレはバーテンダー。この店を切り盛りする店主だ。カウンターの前に立てばどんな客相手でも酒を編み出し、楽しく美味しい空間を作るのがバーテンダーの仕事だ。
今日も店は無事に開店し、お客は酒を楽しみに来店する。馴染みの客も一見の客も来てくれる。
しかし、今日の客の中に一人だけ変わった客がいる。
カウンターに座った男は酒を飲んでいるが何か悩んでいる。時計を見てはため息を吐いていた。
「……ブランデーコークを」
言われたオーダーを無駄無く手早く作る。男はテクニックを見るわけでもなく虚ろだった。
「どうぞ」
出されたブランデーコークを一口飲む。二口。
「こんなもんだったかなぁ……」
酒に不満があるのかそうこぼすのが聞こえた。
見覚えのない客なので、ここで飲んだカクテルでは無いだろう。昔の酒と比較するのもまた酒の楽しみ方の一つだと自分に言い聞かせる。
「なあ兄ちゃん、名前は?」
「『×××』です」
「そうか『×××』さんよ、今から言う話しを聞いて笑ってほしい。それと、次来る客に、オレが飲んだブランデーコークと同じものを出してほしい」
男の目には気迫があり、はいとしか答えられなかった。
「いいか、実のことを言うとオレは……未来から来たんだ。笑え。そして未来から来た理由は、これからオレがここに来て酒を飲みアホみたい酔っ払う。笑え。そして路上でぶっ倒れて女性に看病してもらい、そのままベットの上でベイビートライアルに成功しちまう。笑え。ちなみにその女性はびっくりするほどブサイクだ。笑え。そして困ったことにその子供が信じられないくらい天才でタイムマシンを完成させ、オレを過去に送った。
酔った勢いでできた子か、
過去に来て全てを知った上での子供か、
阻止をして子供とタイムマシンの無い世界にするか、
選ばせてくれるそうだ。……笑え」
男の急激なSF話しに乾いた笑いがかすかに出る。
「あと5分でオレが来る。初めてバーに来るから緊張しているがブランデーコークを勧めてくれ。そんですぐに酔っ払って出ていく。金は今払う。いいな?」
男は手元から万札を出し、オレに渡した。これは演技料と口止め料が含まれているのだろう。
「たのんだぞ、オレはトイレに行く」
男はゆっくりと席を立ち、トイレへ向かった。
その直後、バーの扉を力強く開け入って来たのは……! さきほどの男と瓜二つ。
よく見ると顔付きがだいぶ若々しい。
辺りを見回しながらまっすぐにカウンターに付いた。
「あの、えっと、オススメのものは?」
「……ブランデーコークなどいかがでしょうか?」
「じゃあそれで」
先ほどと同じ手つき手順でカクテルを作る。
若い男はその手つきを物珍しそうに見ていた。
「どうぞ」
「あざっす!」
男は酒のペースというものを知らないのか、あるいはブランデーという名前を忘れコークしか頭に入ってなかったのか、一気に飲み干した。
10秒もしないで男の顔は真っ赤になり、頭頂部は円をえがく。
「は、ひ、ふっ!」
そんな急に酒が回るのか今にも倒れそうな足取りで出て行ってしまった。
「客観的に見ると、あんなものなのか、はぁ~若かったなぁ……」
トイレに行っていた男が戻ってくる。
「これで嫁も息子もタイムマシンもいずれ繋がる。助かったよ『×××』さん」
「いえ、私はなにも」
男はカウンターにうつむく。
「チャンスがあったのに、未来を変える勇気が無かった。妻も息子も、危険なタイムマシンも予定通りだろう」
「そうかもしれませんね。でも、全てが悪いことじゃないでしょう? 奥様と息子さんを選ぶほど、貴方の人生はいい人生だと私は思いますよ」
「はは、言ってくれるぜ。未来で何が起こるか……まあ、楽しみにしときな」
男は一杯目のブランデーコークを飲み干す。若かりし時と違い、とても酔っているようには見えない。
「お客様、よろしければもう一杯いかがでしょうか? 本当の私のオススメをご用意いたします」
「へえ、それじゃあいただこうかな」
「ええ、お代は先にいただいていますので」
__END__
【最後にバーテンダーはどんなお酒を出したでしょう?】
EX
「こちらをどうぞ」
「これは?」
「ギムレットです。聞いたことありますか?」
「いや、知らんな」
「とある小説で『ギムレットには早すぎる』というセリフがあるんですよ。ギムレットはシメに飲まれるアルコールの強いおカクテルとなっております」
「ふむ……なるほど。つまり、物語の終わりに、ギムレットを飲むということか」
「貴方が物語を終わらせるか、続けるかなんてのはあなた次第です。終わりだと思っても、次の晩餐はあります。ギムレットには早すぎるという言葉がっても、まだ次があると私は思ってますよ」
「いい酒だな、それじゃ遠慮なく、がっつり酔わさせてもらおうかな。次のギムレットのために今日はとことん酔わせてもらうか」
ーーEX ENDーー
Special thanks Mr.tender!
今日も店は無事に開店し、お客は酒を楽しみに来店する。馴染みの客も一見の客も来てくれる。
しかし、今日の客の中に一人だけ変わった客がいる。
カウンターに座った男は酒を飲んでいるが何か悩んでいる。時計を見てはため息を吐いていた。
「……ブランデーコークを」
言われたオーダーを無駄無く手早く作る。男はテクニックを見るわけでもなく虚ろだった。
「どうぞ」
出されたブランデーコークを一口飲む。二口。
「こんなもんだったかなぁ……」
酒に不満があるのかそうこぼすのが聞こえた。
見覚えのない客なので、ここで飲んだカクテルでは無いだろう。昔の酒と比較するのもまた酒の楽しみ方の一つだと自分に言い聞かせる。
「なあ兄ちゃん、名前は?」
「『×××』です」
「そうか『×××』さんよ、今から言う話しを聞いて笑ってほしい。それと、次来る客に、オレが飲んだブランデーコークと同じものを出してほしい」
男の目には気迫があり、はいとしか答えられなかった。
「いいか、実のことを言うとオレは……未来から来たんだ。笑え。そして未来から来た理由は、これからオレがここに来て酒を飲みアホみたい酔っ払う。笑え。そして路上でぶっ倒れて女性に看病してもらい、そのままベットの上でベイビートライアルに成功しちまう。笑え。ちなみにその女性はびっくりするほどブサイクだ。笑え。そして困ったことにその子供が信じられないくらい天才でタイムマシンを完成させ、オレを過去に送った。
酔った勢いでできた子か、
過去に来て全てを知った上での子供か、
阻止をして子供とタイムマシンの無い世界にするか、
選ばせてくれるそうだ。……笑え」
男の急激なSF話しに乾いた笑いがかすかに出る。
「あと5分でオレが来る。初めてバーに来るから緊張しているがブランデーコークを勧めてくれ。そんですぐに酔っ払って出ていく。金は今払う。いいな?」
男は手元から万札を出し、オレに渡した。これは演技料と口止め料が含まれているのだろう。
「たのんだぞ、オレはトイレに行く」
男はゆっくりと席を立ち、トイレへ向かった。
その直後、バーの扉を力強く開け入って来たのは……! さきほどの男と瓜二つ。
よく見ると顔付きがだいぶ若々しい。
辺りを見回しながらまっすぐにカウンターに付いた。
「あの、えっと、オススメのものは?」
「……ブランデーコークなどいかがでしょうか?」
「じゃあそれで」
先ほどと同じ手つき手順でカクテルを作る。
若い男はその手つきを物珍しそうに見ていた。
「どうぞ」
「あざっす!」
男は酒のペースというものを知らないのか、あるいはブランデーという名前を忘れコークしか頭に入ってなかったのか、一気に飲み干した。
10秒もしないで男の顔は真っ赤になり、頭頂部は円をえがく。
「は、ひ、ふっ!」
そんな急に酒が回るのか今にも倒れそうな足取りで出て行ってしまった。
「客観的に見ると、あんなものなのか、はぁ~若かったなぁ……」
トイレに行っていた男が戻ってくる。
「これで嫁も息子もタイムマシンもいずれ繋がる。助かったよ『×××』さん」
「いえ、私はなにも」
男はカウンターにうつむく。
「チャンスがあったのに、未来を変える勇気が無かった。妻も息子も、危険なタイムマシンも予定通りだろう」
「そうかもしれませんね。でも、全てが悪いことじゃないでしょう? 奥様と息子さんを選ぶほど、貴方の人生はいい人生だと私は思いますよ」
「はは、言ってくれるぜ。未来で何が起こるか……まあ、楽しみにしときな」
男は一杯目のブランデーコークを飲み干す。若かりし時と違い、とても酔っているようには見えない。
「お客様、よろしければもう一杯いかがでしょうか? 本当の私のオススメをご用意いたします」
「へえ、それじゃあいただこうかな」
「ええ、お代は先にいただいていますので」
__END__
【最後にバーテンダーはどんなお酒を出したでしょう?】
EX
「こちらをどうぞ」
「これは?」
「ギムレットです。聞いたことありますか?」
「いや、知らんな」
「とある小説で『ギムレットには早すぎる』というセリフがあるんですよ。ギムレットはシメに飲まれるアルコールの強いおカクテルとなっております」
「ふむ……なるほど。つまり、物語の終わりに、ギムレットを飲むということか」
「貴方が物語を終わらせるか、続けるかなんてのはあなた次第です。終わりだと思っても、次の晩餐はあります。ギムレットには早すぎるという言葉がっても、まだ次があると私は思ってますよ」
「いい酒だな、それじゃ遠慮なく、がっつり酔わさせてもらおうかな。次のギムレットのために今日はとことん酔わせてもらうか」
ーーEX ENDーー
Special thanks Mr.tender!
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