穢れの螺旋

どーん

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聖騎士と異端者

第37話 - オーク軍団 2

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ずっと襲われていないことを考えるとオーク達の数が少ないように思える
800は多いが王都にスウォームが行っていないにも関わらずこの規模はおかしい

「《ここはずっと襲われていないと聞くが、定期的にスウォームをだしているのか?》」

シンラは首を振る

「《ここは月に一度軍団長同士が覇権を賭けて全軍をぶつけ合うんです。そのため上位種が生まれやすいですが数はあまり増えません》」

なるほどな、それぞれの軍団の長はきっと数からして全てジェネラルだろう

「《他の軍団の長は全てジェネラルか?》」
「《そうです。具体的には次の通り》」

====================

 ”爛れた”モル
 ”屑拾い” ズール
 ”高潔な” シンラ
 ”強欲” ゴズ

====================

「《それぞれ敵対関係で協力という事はしません、ひとつの軍団にジェネラルは一匹のみです》」
「《つまり他のジェネラルが死ねば兵隊を増やせる?》」
「《プゴッその通りです、ですがジェネラルは基本しぶといのでなかなか死にませんね》」

ふむ、産む以外にも増やす方法はある
主を変える事があるなら引き抜くことも可能だろうな

気になっていることが一つある、女たちだ
まずはシンラのところの女たちから救ってやりたいが他の軍団をどうにかするまで手をつけられない、部下たちが不満を溜めて反乱するのもよくない

やるなら他の軍団からだ
月に一度争うと言っていたがその間に小競り合いは産まれないのだろうか

「《月に一度の決戦以外で小競り合いが発生することはあるか?》」
「《あります、ですが死ぬほどの争いをあまりしませんね。月に一度の決戦に備えています》」

なるほどな、事前に争わせる事は可能だ
となると後はどうやって弱らせ、次回の兵力へ繋げるかだ
さらに最後に残ったシンラ軍団を弱らせておく必要もある


理想は最初の決戦までに二つの軍団を100まで減らしておく
決戦でジェネラルを倒して吸収した後残った二つの軍団の戦力差が拮抗するくらいになるのが理想だ

なるだけ拮抗した戦力で争わせ、最後に手を下す手間を減らしたい

「《次の決戦はいつだ?》」
「《十日後です》」

よし、準備する時間はある

シンラ軍の強みは俺がいる事だ
建物に登れないオーク達にとって壁を越えて奇襲される概念がない
俺が裏に回ってジェネラルを倒すのが一番いいだろうな

決戦の事はそれでいいだろう
あとは兵力をどう育てているのか

「《上位種はどうやって育つんだ?》」
「《プゴッ戦い、経験を積み、たくさん食べて少しずつ形が変わっていきます。決戦までにだいたい10匹くらいは死ぬんですがそれでバーサーカーが毎回どこかの軍団に一匹は育ちます。50匹くらい殺して喰うとジェネラルになり親の軍団長を殺して乗っ取るか分裂します。分裂はよほど強くないと生き残れませんね》」

そうだろうな

「《シャーマンは特殊なやつですね、殺して経験を積むのは違わないんですが自ら手を下さないタイプがシャーマンになります》」

頭を使うやつは呪いや毒に頼るからなんだろう
体つきが全然違うからどんな変身をするのかと思っていたがどうやらそうでもないらしい

具体的に他の軍団の数を減らす方法は明日考えよう、今日は疲れた

「《わかった、とりあえず今日はここまででいい。助かった》」
「《プゴッ覇道の栄光を掴まれますようお祈り申し上げます》」

シンラは礼をすると下がっていった

オークのクセに世辞も言うのか…
思ったより文明的だな

シンラと話し終えるともうすっかり日は落ちていた
マドロアが今か今かとそわそわしながら待っており
シンラがいなくなるや否や紅茶を淹れ、席に座った

「ふぅ、ようやくエーサー様とお話しできます」

殿、から様に変わったな

「結婚の件は本気だったのか?」
「まぁ!こんな所に乙女を連れ込んで所有物宣言されたら逃げ場なんてあるはずもないじゃないですか!」

マドロアは驚いた顔をした振りをして俺を叱る

まぁ…そう言わなきゃ他のオークに穢されてたかもしれないだろう…
軍団長に認められたのは俺であってマドロアじゃないんだから所有物だと言わなければ共有されてしまうぞ

マドロアは表情を変えながら一度にいろいろな会話を投げつけてくる

「でも私嬉しかったんです。オークが来賓の結婚式は残念でしたがこれもエーサー様の手勢になるわけですし、そう思えば我慢できます。あ、そうでした。私にもオーク語を教えていただけませんか?お話できるのがエーサー様だけですとご負担になってしまいます。それにここは夫婦の部屋と言うよりは軍略室に近いので二人でくつろげる部屋もほしいですね」

完全にここに住む気だな
俺は出ていくぞ?ここを滅ぼして

うわの空で話を流すように聞いていた俺をよそにマドロアは盛り上がる
マドロアは言いよどみ、うつむいた

「それで、あの」

まだ何かあるのか…

「初仕事の件で…」

なるほど、本気度が伺える

「あの!その…私まだ純潔を保っております!ただ…自信がなく…」

胸に手を当て、立ち上がり力説すると勢いがみるみるしぼんでいく
ついには座り込み喋らなくなった

勝手についてきたあたりからそうだったが俺の話を全く聞かないやつだ
正義について悩んでいたのではなかったか?これから始まるのは裏切りと血の宴だぞ

まぁ…殺伐とした毎日では息が詰まる
これはこれでいいのかもしれない
クベアの事を思い出すとマドロアもいつかは死んでしまうのではないかと不安になった
オークやゴブリンを許すことはできない、きっと一生戦い続けるだろう
俺は守り切れるんだろうか、いつしか憎しみを忘れ幸せな家庭を築くなんて事があるんだろうか
少なくとも今は、想像できない
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