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Version 2 - 独立しました

Ver 2.13 ムラクモ君の年収

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今日はムラクモと連携を確かめるため毒牙の森へ来た
ゴットゥムが毒を欲しがっていたので素材を集めるついでだ

「ムラクモ、ここでは毒を持つ魔物が多い、気を付けてね」
「………」

ムラクモは静かに頷いた

この子話しかけた時に必ず顔を見ておかないとどういうリアクションしているかわからない
目が離せない子…なんだけど否定したのは椅子に座るのを拒否したときだけで基本的に拒否しない
いったいどういう訓練をしてきたのか…

「まずはその辺の魔物を何匹か倒して来てもらえるかな、毒を集める必要があるから毒腺はなるだけ残しておいて欲しい」
「………」

ムラクモは何も言わないままピクピクと耳を動かし、ゆっくりと深呼吸すると
息を吐くとともに消えた

「え…」
「あれ…」

リタと共に周りを見るとムラクモが立っていた場所に穴がある

「これが神速?地面を蹴りつけたような跡にも見えるねこれ」
「すごいね、話しに聞いてはいたけど神速って初めて見た。見えないんだね」
「そんな速度で動いてたらそりゃ目を開けてられんな」
「そうだね…人間の反射速度超えてそう」

ザっと着地する音が聞こえ、イズルとリタが振り向くと飛蛇という木の枝に擬態し、滑空する蛇を3匹ほどぶら下げ、ムラクモが立っていた

「お、おかえり…早いな」
「………」
(これくらいなら朝飯前、もっと難しくてもいい)
「とりあえずそれは魔力鞄に入れておきな、次は戦ってるとこが見たいな」
「………」
(承知した)

ムラクモが頷き、3人で森を進む
獣道のような道なき道を歩きながらふと、人の声が聞こえる

リタとムラクモと顔を合わせ、腰を低くしながら近寄った
森の中では珍しく日の当たる場所が茂みに覆われている
女の声がする、なにやら楽しそうに囁く声だ

茂みのスキマから覗いてみると5人ほどの女たちが裸で絡み合っていた

うわ何だあれ、こんなところで百合が見れるとは
冒険者か?

リタは顔を赤くして手で顔を覆い、指の隙間からチラチラと覗く
ムラクモは無表情のまま目を閉じている

ムラクモこれ見えてるのかな、目を閉じたままでもあれこれ把握してるみたいだけど
若いのに反応すらしないとは…童貞ではないのだろうか

イズルはムラクモの反応に関心しつつ、また女たちの様子を伺う

こんなとこで何してんだろうな、遊ぶために来るとこじゃないんだが…注意したほうがいいんだろうか?
あれでもおかしいぞ?荷物がない、隠してるのかな

イズルは不信に思ってよくよく女たちの荷物を探す
小枝を踏み、小さな音を立てると女たちはイズル達に気づいた

「男はおるか?」
「触れてもよいぞ?ほれ」

女たちは誘惑するように胸や尻を強調し、イズル達を誘惑する
イズルはじっと息をひそめ、前かがみのまま動かない

(ポジションが悪いな、息子の位置をそっと直したいがリタに気づかれるだろうか…)

リタがそっとイズルに語り掛ける

「あれドライアドだよ。やつけないの?」
「え?魔物なの??」
「こんなとこで裸になる女いるわけないでしょ!」

なんだと…ちょっと楽しそうだったのに

「そっか…残念だな…じゃあムラクモに倒してもらおうか…いける?」
「………」

ムラクモはそっと刀に手をかける

リタが軽蔑の眼差しでイズルを見た

「ねぇ…何が残念なの?」
「え?」

イズルが目を離した瞬間、バキバキと音が鳴り始め
周囲の木々に何かがぶつかったような跡が残りはじめた

一瞬で複数の音が鳴り、すぐに止んだ
刀を鞘に納める音がする
音のする方を見るとドライアドたちが全て首を跳ねられ
ムラクモが傍に立っている

「え…見逃したんだが」
「あたしも見えなかった…」
「………」
(終わったけど…これも収納すればいいのだろうか)

これは俺たちが彼に合わせるというのが無理な気がしてきた
合わせてもらったほうがいいのではないだろうか…

いろいろ試して見たがどうやらムラクモ的にもイズルの魔法に合わせるほうが楽らしい
魔法が急所を狙い、ムラクモが手足を攻撃して動きを止める
急所を狙う場合勘のいい魔物は稀に反撃してくるらしく、それなりにリスクが伴うようだ

「基本的な連携はムラクモが動きを止める、俺が魔法で仕留める。リタは俺の護衛兼全体の支援って感じでいいかな」
「………」
(承知)
「おっけー!もうあたし剣いらないんじゃないかな」
「最初の頃より魔力もそれなりに増えてきて治療士らしくなってきたよね」
「まぁでもまだまだ一般の人よりは劣るけどね…そうなると剣を捨てるとただの劣化治療士になっちゃうな…やっぱり剣は捨てませーん」
「魔石が割れる治療士はリタしかいないから俺からすれば貴重だけど」
「あっはは!たしかに~」

結構倒したしもう十分だろう
いったん帰ろうかな

「帰ろうか、この調子なら年間で金貨1,000枚くらい余裕で稼げちゃうだろ」
「そうだね…神速ってすごい」
「それだけあれば嫁なんていくらでも寄ってきそうだけどな」
「そうだね~顔もかわいいし、乳母付き執事付きで何人か奥さんもらっても贅沢できそう」
「貴族だな…」
「実際上位の冒険者で稼げる人はそれくらいの生活できるよ~」

まじかよ、俺も豪邸建てれるかな

「………」
(大きな家があれば嫁が来るのか…金貨1,000枚…)

◆ ◆ ◆

冒険者ギルド

ペトラに報告し、換金してもらうと金貨50枚と評価され、ムラクモのランクは60まで一気に上がる

「その年齢でここまで一気にあがるのは珍しいですね。本当にほとんどお一人で倒されたんですか?」
「もちろん、連携の確認で一緒に戦わなきゃ全部一人で倒してたよ」
「すごいですね…神スキルの威力…」
「たぶんスキルだけでこうはならない気がするけど」
「………」

ペトラは静かなムラクモに目を向ける

「ムラクモさんどうしていつも喋らないんですか?」
「さぁ、無駄な事は一切喋らない」
「………」
(無駄口は男の価値を落とす)
「そういや35代目ムラクモ当主らしいよ。嫁探してるんだって、いい人いないの?」

ペトラは腕を組み顎に手を当てる

「いい旦那の条件…亭主元気で留守がいい…そのうえ無駄口叩かず稼ぎもよい…」

ペトラ?

「私は今まさに恋人募集中ですよ!年齢は20歳!ピチピチです!」

自慢気にペトラが胸に手をあてふんぞり返る

「………子さえ産み育てられるなら細かい事は気にしない。金は好きにしてくれ」

ムラクモ?

「わぁ…はじめて喋りましたね」
「今宵時間を取れるか?」
「え?積極的…ですね」

ペトラは顔を赤くして身をくねらせはじめた
イズルとリタは顔を見合わせる

「あれでいいの?」
「ペトラ恋愛しすぎて疲れてるからちょうどいいかも…」

マジか…末永くお幸せに
先を越された気がしてちょっと悔しい

翌日リタがペトラに様子を聞いたところデートじゃなくて即刻宿を共にしたそうだ
お金が貯まり次第式を挙げ、家を建てるという計画になっているという

◆ ◆ ◆

夜 ケラウノス イズルの部屋

「あまりにも早い」
「ね、ペトラ嬉しそうだった」
「あれくらい強引な方がモテるのかね」
「まぁ…いいなって思ってる人に迫られるのは悪い気しないと思うよ」

会って数秒レベルの話しだった気がするが…

「イズルは…あたしの事どう思って…る?」

リタがペトラに触発されたのか、顔を赤くしてうつむきながら呟いた

好きです!って言えれば楽なんですけどね
こういう雰囲気こそばゆくてすごい苦手
でも…言わなきゃだよな…結構長い事一緒にいるしいろいろあったのに
むしろなんで今まで俺から言わなかったのか
…よし、言う。言うぞ!

「好き…だよ…」
「う…あ、たしも…」

………

………

………

流れで告ってしまった
この後どうしたらいいの

お互い目を激しく泳がせながらうつむき続けた
次第に、リタが肩を寄せてくる

リタを見ると顔を赤くしたまイズルの頬に手を当てる
流されるまま、唇を重ね
リタが微笑んだ

「えへへ…これで…恋人同士になったかな」
「…もう一回」
「うん…」
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