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序章:プロローグ
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しおりを挟む「ユニシェル?」
私を呼ぶ、少年の優しい声。私よりも少し前で立ち止まり不思議そうにこちらを見ている。目の前にいるのに、その声はどこか遠くから聞こえたような気がした。
靄がかかったような視界の中、ぼんやりと視線をずらす。私の名前を呼んだ少年の横、同じ顔の少年がやはり不思議そうにこちらを見ていた。
――実際の話。
彼らと私の距離は数歩。声は鮮明に聞こえるし、視界だって私は特に視力が悪かったりはしないし、良く晴れた真昼間の今時分、視界を遮る靄や霧などは存在しない。
それでも、私は二人の声はまるで夢の中のように遠く、視界は今も蜃気楼のように揺らめいている。
「ユニシェル、どうした?」
動こうとしない私に、重ねて掛けられた声。二人揃ってこちらに歩いてくる――近付いてくる二人を観察するように見上げた。
さらさらと揺れる青銀の髪に透き通るような紫水晶の瞳。まだ幼い――確か、二人とも今年で12歳だったはず――少年だが、整った顔立ちに、将来はきっとイケメンになるんだろうな。いや、なる。彼らは確かに物凄いイケメンになる。私が知っているのは24歳の彼らだが、物凄い美形だった。
そう――私は彼らを知っている。
「ユニシェル、具合でも悪いのかい?」
いつの間にか――単に私が思考に没頭していた為、気付かなかっただけだ――目の前まできた、最初に声を掛けてきた方が心配そうに言いながら、私を軽々と抱き上げる。
抱き上げられた分、顔が近くなる。心配そうに私を覗き込む紫水晶の瞳。その瞳に映る少女――呆然とした、私の顔。
一発できょうだいとわかる、よく似た顔立ち。彼らと同じ、青銀の髪と紫水晶の瞳。びっくりするほど美形きょうだいですね、私たち。まあそうでしょうとも!
これは間違いなく――あの乙女ゲームの世界です!!
唐突に脳内に湧いてきた――落ちてきた? 降ってきた?? どれでもいい――前世の記憶。そして認識した目の前の事実。まだ混乱する脳内、それでも一つの事柄がこの現象の名を明確にする――これってあれですね、前世で流行っていた転生ものですね!? まさか自分の身にそんなことが起こるなんて…ご褒美なのか罰ゲなのか、とっても微妙です。いや、好きですよ。好きでしたよこのゲーム。でもですね、このゲーム…。
死亡エンドが存在するのです――!
平和なただただイケメンときゃっきゃうふふするゲームとチェンジしてください!!――心の底から願いました。無論、応えるものなどいませんが。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
久方瑞穂――それが前世での私の名前。
ごく普通の一般家庭に生まれ、大きな病気もなく普通に学校に通い友達と遊び就職し…ごく普通の人生を歩んだ――若干オタクな人生も歩んだりしましたが――それを差し引いても、ごくごく普通の人生だった、はず。
……いや、その……オタクに振り切れて生涯お一人様引き篭もり喪女ではありました。挙句、事故死しているので…やっぱり普通ではない?
でも友達だってたくさんいたし! 主にオタク仲間ですが! 好きなものを全力で楽しんだ、我が人生に悔いは無い!!
一人っ子だった私が結婚もせず子どもも産まずに死んでいるので、両親には申し訳ない…それが心残りと言えば心残りだろうか。
そんな私が生前ハマっていた乙女ゲーム。それが『FANTASTIC CONCERTO-詩に彩られる世界-』。
よくある“剣と魔法”のファンタジー世界。主人公は攻略対象たちとの好感度を上げたり自身のステータスを上げるために育成したりして複数あるエンディングを目指す乙女ゲーム…なのだが。
このゲーム、ヒロインが二人いる。
一人はある事故――実は後々わかるが、これは必然――によってこの世界に召還される女子高生。王道ですね。
そしてもう一人は元からこの世界にいる、貴族の娘であるユニシェル・エリシオン――つまり、私である。
ライバルキャラだの悪役令嬢だのに比べたら『アタリ』の転生先であるのだが、問題はこのゲームのエンディング。
攻略対象との好感度を上げ、必要なステータスを確保し、イベントをこなし辿り着く恋愛エンド。
恋愛フラグを立てずステータスをひたすら上げて、上げたステータスにより決定する職業エンド。
もう一人のヒロインとの好感度を上げ、イベントをこなし辿り着く友情エンド。
ユニシェル限定だが、兄様たち――目の前にいる美形少年二人の事だ――とのほのぼの兄妹エンド。
ここまでは、いい。正直乙女ゲーに兄妹エンドとかいる?とか思ったりはしたが、いい。許容範囲です。スチルはとってもおいしかったです。運営さんありがとうございますごちそうさま!
問題は――メインストーリー。
この世界、女神テリオスルキアの加護により守られた世界という設定なのだが、ゲームスタートから約1年後――その加護はいきなり消失し、世界が崩壊の危機に陥るという絶体絶命イベントが起こるのだ。
このイベントクリアに必要なステータスが結構鬼畜。どのくらいかというと、乱数調整必須、セーブロード駆使しまくってもやっとギリギリといった鬼畜中の鬼畜仕様。妥協は一切許されない。
さらには攻略対象たちとの好感度も一定数必要な上にもう一人のヒロインとの好感度も必須。
つまりはステータス上げるための育成に加え、各攻略キャラたちの好感度を上げるために通いヒロインとも友情を育まなければいけないという…知らないと初プレイでクリアは正直無理ゲーです。攻略サイトを見て思った――最初に攻略した人、化け物か、と。
更にはメインストーリーのエンディングは3つあるのだが…。
育成、好感度、友情度を必要値確保し必須イベントをしっかりとクリアすれば辿り着ける女神様復活、世界崩壊回避のハッピーエンド。これはいい。みんな幸せ、平和、いいね!
逆に必要値が一つでも足りないと起こる滅亡イベント。世界を救う為にヒロインどちらかが生贄となることで世界は救われるがヒロイン死亡というバッドエンド。いやなんで乙女ゲーに世界滅亡とかあるの。自分が生贄として死亡も嫌だが、もう一人を生贄に差し出して生き残るとか罪悪感ハンパ無い。重いです。きゃっきゃうふふさせてくださいよ!
極めつけ、運営はこれをトゥルーエンドと発表していたが――とある選択肢を選ぶと辿り着く、ヒロインが女神様になるというトゥルー? いやいやいや乙女ゲーでそんな神様にクラスチェンジとか誰得なんですか!? 女神になって天に召し上げられるとか、生贄エンドと大差ないですよね!?
そんなわけで、数あるエンディングの中に2つ存在する死亡エンド。エンディングの数を思えば少ないかもしれないが、それはあくまでゲームの話。
これがゲームで、私がプレイヤーなら、恋愛エンドなり職業エンドなり友情エンドなりにいけば、そこでゲームは終わりなので平和です。
が、転生した私にとって、これは現実。女神消失はどうあっても起きるのだとしたら…選択の余地がありません。
どうにかしないと、生贄or犠牲差し出しor女神エンドで終了か後味悪すぎます。世界の為に犠牲になるとか、もう一人のヒロインを犠牲にするとか、私はそこまで善人でも図太くもありません!
なんでもっと平和な恋愛エンドしかないゲームに転生させてくれなかったの神様!!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ユニシェル。本当に大丈夫?」
心配そうに頭を撫でてくれる兄様に、にっこりと笑顔を返す。
「だいじょうぶですの。ゆえはげんきです」
実際、体は元気です。健康体です。脳内が大変ですが。
どうにかごまかし、当初の予定通り兄様たちとお庭でティータイム中。正直、一人になって情報を整理したいのですが、具合が悪いといえば医者を呼ばれてしまうだろうし、騒ぎになって城にいるお父様――父であるジェライド・エリシオンはこの国の宰相――にまで話がいっては大騒ぎになる。やめて大事にしないで。兄様たちに負けず劣らず娘にバリ甘な父親の耳に入っては、大事な仕事を放って帰宅してしまう。
「それなら、いいけど…無理はしないようにね?」
「そうだ、ユニシェル。具合が悪ければ、隠さずに言え」
二人の兄様たちは心配そうに私を覗き込む。年の離れた妹である私にとことん甘い兄様たち。
さすが乙女ゲーです。こんな美形で妹にバリバリ甘いお兄様とか、リアルにはいませんよ。ゲームならきゅんきゅんできましたが、現実だと胸焼けしそうです。
とにかく、まずは情報の整理。いきなり思い出した前世の記憶。それに伴うゲームのこと。
現状、兄様たちと私自身の情報のみなので、本当にこれが『FANTASTIC CONCERTO』の世界なのか。しっかりと検証もしなければならない。
そう思いながら、私はお茶を飲み干した。
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