天威矛鳳

こーちゃん

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プロローグ

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陳都が天下を治めてから、約18年が経過した時代
政治に不満を持った各地の民や山賊、盗賊や海賊などといった賊までもが国に反旗を翻していた。
陳都の帝は宰相の命により、各国の国王に反乱を鎮めるようにと書いた勅書を送る。しかし、これを無視し逆に反乱軍を援助するという最悪の事態が起こり、宰相は将軍達を呼び、鎮圧するようにと指示を出す。
それぞれ約2万以上の大軍を率いて出陣し、各国の反乱を鎮めようとしたが、予想以上に敵は強く獅子奮迅の勢いで次々と陳都の軍勢は撃破され、大臣や民が逃亡したりと滅亡の危機に落ちていた。
民は、自分達は殺されるのでは。という不安から商売では赤字が出たり、農民は畑仕事が出来ず、大勢の民が決められた年貢を治めれていない状況が続き、国力は次第に低下していく。

「宦官、皇帝陛下に取り次いでくれ!」
「陛下は、ただいま稽古場に居られます。」

宦官から聞いた宰相は、王宮の屋根を見て部下に合図を送ったかのように頷き、側近2人と共に稽古場へと向かう。
稽古場は大きく分けて2つに分けられている。1つ目は、剣や槍などと言った近距離攻撃を主とした訓練所。2つ目は、弓が主である訓練所。この2つをまとめて稽古場と呼ばれており、武将や王族が日々鍛練している。
稽古場近くにやってきた宰相は、木陰に隠れる

「明海、陛下の護衛が何人か調べて来い」
「はっ、承知致しました。」

明海は陳都にある寺院を治めている僧侶であり、国からは大僧正という地位を与えられており、宗教においての取り締まりや管理を主に任されている。
調査が終わった明海が戻って来る。

「人数は如何ほどであった?」
「親衛隊が10人程で、軍兵が20人近くです」
「合計30人だと......。今の兵力では到底勝ち目はない。順天総兵に加勢するように伝令するのだ」

宰相の側近である軍器監が伝令に走る。
順天総兵とは、諸州の軍事を監督する役割であり、軍器監は主に兵器の製造を監督している。
他国からの進軍と国内の各城を監督する者と武器の製造工場の者達が反旗を翻してしまうと絶体絶命となる。助かる道は残されていない。
陛下を近くで守る親衛隊は、他の兵士とは違い休む暇もなく日々鍛錬をしている。戦場で功績を上げる将軍くらいの武力を兼ね備えている。
宰相の元に居る刺客は50名程。親衛隊1人で5人以上を倒すほどの強者であるため、陛下を暗殺するには最低でも100名近くは必要とされる。

「宰相様、大臣達の手勢が稽古場近くに集結致しました。間もなく、総兵様もご到着との事でございます」
「いよいよだな。陛下を殺し、この窮地を俺が救ってみせる!」

宰相は幼少の頃からの野心家である。農家育ちの自分が王族を押し退けて陛下になるという夢が叶おうとしていた。

稽古場に1人の兵士が入って行く。
それに気付いた宰相は反乱がバレたと悟り、総兵が来ていない状況ではあるが総攻撃の命を下す。兵士達の鬨の声で、親衛隊は隊列を整えながら剣を抜き始めた。
宰相の兵力は50余人であり、皆が功績を残そうと必死に剣を振るい攻めているのに対し、親衛隊は勢いを止めて少しでも陛下を逃がそうと剣を振るっているため、一進一退の攻防が繰り広げられている。

「陛下、ここは危険でございます。一旦、王宮へと後退しましょう!」
「そうだな。王宮への近道は宰相が塞いでるだろうし、遠回りして王宮へ戻ろう」

親衛隊隊長は兵士2人と共に、稽古場を抜け出す事に成功する。
歩いてる道中で矢の雨が降って来る。先頭を歩いていた兵士2人が矢を受けて倒れ込み、隊長は飛んで来る矢を剣で防いでいた。段々と重い剣に身体が付いて行けず、右肩に矢が刺さってしまう。

「敵を包囲しつつ殺せ。陛下を殺した者には、特別な報酬を与える」
「なっ.....何故だ。総兵が俺を裏切るとは」

陛下は今まで信頼していた総兵が裏切り、周りが見えなくなり剣を持って振る動作を一切せず、立ち止まっているだけであった。
敵に包囲されないように隊長は、右肩をカバーしながらも迫る敵を1人2人と倒していく。

「陛下、お気を確かになされて下さい」

隊長の怒鳴り声で我に返り、剣を抜き敵に立ち向かう。しかし、敵200余人に包囲された2人は次第に疲れていく。それでも隊長は、主君を守る為に血路を開こうと頑張っている。
総兵に襲撃されてから時間が過ぎていき、死傷者の血と全員の汗の匂いが混じり、奇妙な臭気を醸し出している。だが、誰1人として気にならない。

陛下は王子の時には、先陣を切って敵に突撃し、多くの武将を斬っている。今回の謀反でも、その時の勇猛さを見せつけるかのように敵兵を次々と斬り伏せていく。

「貴様ら、何をしている。さっさと片付けろ」

この声に応えたかのように、戦場から離れた場所から飛んで来た矢が陛下の左胸に命中し、弱った所を槍兵数人が一斉に突き刺す。しかし、誰も誰が矢を放ったか分からないでいたが、総兵は無事に目的が達成され、心中で喜んでいる。
隊長は、陛下が殺られた事に気を取られている隙に隊長も斬り殺されてしまう。稽古場の親衛隊も壊滅していた。
宰相と大臣達は、総兵の元へと到着する。兵士と共に倒れている陛下を見て、宰相は両手を上に伸ばす。

「宰相様、復讐は憎しみの連鎖が続くだけでございます。」

元々は自身の家を守る為に反乱し、戦に心底から乗る気ではなかった大臣が口にした。これを聞いた宰相は、黙れ、と言いながら、大臣を斬り殺してしまう。
そこへ、伝令兵が宰相の前で座り込む。

「申し上げます。この都城が包囲されました」
「それでは皆様方、敵に降伏致しましょう」
「この窮地を救うのではなかったのか?」
「機会を見て、各司令官を殺ります」

宰相は皆を引き連れ、都城の城門前に来る。兵士に開けるように指示を出し、敵を迎える。
瑠璃国、水郷之国、春雷国、皇鳳国、夏溟国が続々と入城する。

「全軍、止まれ!」

連合軍を指揮する瑠璃国の総司令官が大声で叫び、副将軍2人を自身の護衛として宰相の前へと歩き出す。
宰相は主君であった陛下の首を、大将軍に差し出す。総司令官は、すぐに抜刀し宰相を斬り殺し、これを合図に副将軍の命により各軍が、この場に居合わせた陳都の大臣や逃亡兵を斬り、ここに陳都は滅亡したのであった。
その後、連合軍は解散し敵同士に戻る。
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