留年看護学生の異世界実習

サザンX

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第1章

第8話 変化

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 南は剣を胸元に深く突き刺した、しかしウルフロードは腕を振り上げるのをやめなかった。松明の炎が消え辺りが暗くなりウルフロードのシルエットだけが見えた。

(ダメだ…死ぬ…。)

 後退りをするが避けられない、南は死を覚悟した。…その時。

「グルル…。」

 ウルフロードが呻いたかと思うとそのまま南目掛けて倒れ込んできた。

「うわぁっ!?」

 南は下半身を下敷きにされた、しかしウルフロードが動く気配は無い。

(助かったのか?とにかくこのウルフロードを何とかしなくては。)

 南は暗闇の中ウルフロードの巨体を押し退け何とか抜け出せそうになった。すると、先程まで月にかかっていた雲が晴れ辺りが見えるようになった。そこには背中をバックリと大きく切り開かれたウルフロードの亡骸と…。

「こんばんは、間に合ったようで良かったです!」

 ナイフを手にしたノウザの姿があった。

「ノ、ノウザさん!」

 南が驚くと「はーい♪」と言ってノウザは手を振った。

「ノウザさん、どうしてここへ?」

 南が問いかけるが。

「そんな事よりまずは皆さんの手当てをしないとですよ!もちろんミナミさん、あなたもです!!」

 そう言ってノウザは呆れながら南へ指を指した。

「皆さんこんなに無茶して…今はポーションで痛み無いとは言え身体はもう立っているのも危ういくらいですよ?とりあえず手当が終わって他の皆さんも起きたら改めて私がここにいる理由も話しますので今は休んでくださいね?」

 ノウザはそう言うとチェルが持っていた松明を手に取り炎の呪文で火を灯した。そしてフロートのスキルで気絶したセーレ、ステア、チェルと眠ってしまっているファーマを浮かせると食事をとっていた焚き火まで運んだ。南が後を追う…が、そのままその場に倒れ気を失った。





 次に南が目を覚ますと空は明るくなっていた。まだ痛いが体も十分動かせるくらいに回復したようだ。南が体を起こすとそこにはセーレ達がいた。

「寝坊だぞミナミ~。」

 セーレはそう言って笑っていた。チェルとステアもそれを見て笑っている、すると。

「ミナミさん、昨晩は私のせいでこんな事になってしまい本当に申し訳ない…。」

 ファーマが深々と頭を下げてきた。

「いえいえ!俺たちは依頼者を守るためにいるのですから当然の事をしたまでですよ。それより回復したみたいで本当に良かった。」

「おかげさまで、もうなんともありません。ありがとうございます。」

 南とファーマが話していると…。

「皆さん回復したようで良かったです♪既にセーレさん達から事情は聞いてます、そこで私もさせていただく事にしました。村へ向かっている間に私がこちらへ来た理由もお話しますね。」

 ノウザはそう言いながら出発の準備をした。南も素早く準備をすませると南達はその場を後にした。




「私がこちらへ来たのはギルドの依頼を受理するために現地偵察としてです、内容としては最近この辺りの環境が変化しているとの事でした。」

 しばらく歩き続けノウザがここへ来た理由を話した。すると真っ先に反応したのはステアだった。

「そうね、確かに異変は感じているわ。以前来た時とは違う。ウルフロードは普段森の深い所で滅多に街道には出てこないわ、なによりポイズンイールの存在よ。本来あの魚はもっと上流の流れが早い岩場を縄張りにしてるの、あんな河原にいるはずがないわ。」

「そうなんです、他にも動物に限らず植物なども奇妙な場所で見られました。私はそれの捜査をしていたんです。」

 するとセーレが。

「なるほどねぇ、でもよく調査中に私達の事見つけられたな。」

 確かにノウザが助けに来なかったら南達は今頃どうなっていたのか想像もつかない、しかし野営をしているだけならノウザも来る事は無いはずだ。何故南達が戦闘中だと気付き助けに来れたのだろうか。

「私も最初は皆さんだとは知らなかったんです、ただ遠くで野営している事だけは分かってました。そのまま調査に戻ろうとした時、灯りが激しく動いていたのです、普通に野営をしていたらあんな動きはしないはずなので。」

 するとチェルが。

「私にはそれしか出来なかった。松明を振り回し他の人がもし近くに居た時に気付いて貰えるかもしれないと、助けを求める事しか…。」

「でもそのおかげでアタシ達は助かったのよ。ありがとうね。」

「…うん。」

 ステアは気恥しそうにお礼を言いチェルも恥ずかしそうに俯いた、いつもは喧嘩しているチェルとステアだが今回は少し素直なようだった。

「それで、その灯りの元へ向かったらミナミさんがウルフロードに襲われていたんです。ちょうどウルフロードのターゲットがミナミさんに向いていたので簡単に背後をとれましたのでそのままプスッとしちゃいました♪」

 明らかにあの傷はプスッなんかでは無くザシュッだ。恐らくこの場にいた他の全員がそう思っていただろう。

 そんな事を話しているとルラル村へ着いた。ファーマは村長へ話をして他の村人が荷物を村中へ運んだ。南達も運ぶのを手伝いそれが終わると。

「皆さん、ようこそルラル村へ。この度はファーマを助けていただきありがとうございます。」

 先程ファーマと話していた村長が話しかけてきた。

「私はこの村の村長のメイヤーと申します、道中のポイズンイールやウルフロードの件はファーマから聞きました。なんとお礼を言って良いのか…。」

「いやぁ、私は依頼を受けただけさ。一番頑張ったのは私じゃなくてコイツさ。」

 そう言ってセーレは南の頭をわしゃっと鷲掴みした。

「おぉ、あなたが。それにしてもポイズンイールの毒から救ったとは…もしやあなたはカテドラルの方なのですか?」

 メイヤーが南の手をとり握手をしてきた。

「い、いえ、違います。」

「なんと、カテドラルの力を使わず…。」

 メイヤーは目を丸くし驚いた。

「もし良ければその方法を教えては下さりませんか…?次またポイズンイールに襲われ、必ずしもカテドラルの方が居らっしゃるとは限らない。そんな時私達に出来ることをしたいのです。」

 今回が奇跡的に上手くいったとは言え救える可能性のある方法があるならそれを広めるべきだろう。

「もちろん、良いですよ。」

 南は二つ返事で承諾した。

「おぉ、ありがとうございます。折角ですのでこのままこの村で今夜は休んで行ってください、お礼としてご馳走と宴も準備しますので。」

 メイヤーはそう言うと村人達を集め宴の準備を始めた。

 日もすっかり落ち辺りも暗くなって来た所で村の真ん中にキャンプファイヤーのような大きな焚き火へ火が灯された。そして沢山の料理や飲み物が運ばれてきた。

「美味そうだなぁ、私もう腹ペコペコだぜ。」

「昨日の夜食べたチーズもあんなに沢山!!」

「森の果物も豊富…。」

「私もいつも納品されたこの村の物を倉庫に運んできる時はとても我慢しています…。」

 セーレ達やノウザが料理で盛り上がっていると。

「皆の者、この者達のおかげでファーマが村へ帰り私達が今年の冬も生活を続ける事が出来る。この者達に乾杯だ!」

「「「乾杯!!」」」

 そう言うとメイヤーと村人達は小さな樽のジョッキを上へ掲げた。

 あちこちから笑い声が聞こえ食事を楽しんでいたり踊っている人達もいた。南達も一緒に盛り上がった。そして、南はメイヤーにポイズンイールに襲われた時にした事を話した。事細かく心臓マッサージや人工呼吸の説明もした。

「なんと、そのような方法で対処できるとは…。」

 メイヤーは驚いていた。

「はい、たまたま今回の毒を知っていたので…なので他の毒には効果があるとは限りませんので注意して下さい。」

「分かりました、村の皆にもそう伝えておきます。」

 そうして南の説明は終わり残りの時間を楽しんだ。

 そして翌日、街へ戻るため村を出発する準備をしていた。ノウザは村周辺の安全を確認すると言ってまた調査に行った。チェルはチーズが相当気に入ったようで沢山買い込んでいた。

「おいおい、沢山買うのはいいけど自分で持てる分にしろよー?」

 セーレが苦笑しながら待っていた。

「あ、ずるい!アタシも買っていくわ!」

 そう言ってステアも買いに行ってしまった。

 そんな姿を見ていると。村の入口に馬に乗った男がやって来た。

「これはこれは司祭様、ようこそおいでくださいました。」

 メイヤーが頭を下げたその男性は以前ギルドで出会ったローマン司祭だった。

「うむ、早馬でこの村の者がポイズンイールに襲われたと聞いてな。定期の巡回を繰り上げ早めにこの村に来たのだが…襲われた者は誰かね。」

「はい、私でございます。」

 そう言ってファーマは噛まれた部位を出しローマンの前に立った。

「様子は普通そうだが…。あぁ、なるほど。まぁ一応手当をする。」

 ローマンは南に気付いたようだったが、そう言うと噛まれた腕に手を当て詠唱を始めた。すると青白い光が腕を包んだ。しばらくするとファーマの腕の噛まれた傷もすっかり消えていた。

「ローマン司祭様、ありがとうございます。」

 ファーマはローマンに頭を下げた。

「いや、我は外傷を治しただけだ。既に毒も体内に残っていないようだったからな。今回もお主が助けたのだろう?ミナミ。」

 そう言うとローマンは南の方を向いた。

「前回に引き続きお主に感謝しなければならないな。それに、お主の力は偶然ではないようだな、時間がある時にでもじっくりと話をしたいものだ。我は引き続き村の者達の手当に周ろう、失礼する。」

 そう言って村の中へ進んで行ってしまった。と、入れ替わりでステアとチェルが戻ってきた、相当買い込んだようで二人とも鞄がパンパンに膨らんでいた。

「ちょっとちょっと、さっきのローマン司祭様じゃない。何か話してたの?」

 ステアが食い気味に話しかけてきた。

「司祭様はミナミに興味があるんだってさ。」

 にやけながらセーレが意地悪そうにそう言った。

「少し気になっているくらいだろ。語弊を招きそうな言い方はやめてくれよ。」

 南はそう言って笑った。するとノウザが戻ってきた。

「お待たせしました、今村周辺の調査と安全確認が終わりましたので街へ戻りましょう。今から戻れば何とか今日中には着くと思いますよ。」

 それを聞いてセーレとチェルは。

「そいつはありがたいな、もうしばらく野営はこりごりだ。」

「私も魔力が尽きる前に街に戻りたい。」

 一昨日のウルフロードの戦いで二人とも控えめになっていた。

「それでは早速出発しましょう♪」

 ノウザがそう言うと皆街へ向かい歩き始めた。村の入口ではファーマやメイヤー、村の人達が見送ってくれた。

 道中は昼休憩を挟みそれ以外は特に何もなかった、それぞれが好きなように話をして順調に街へ戻っていた。日が落ち辺りが暗くなる頃、街の灯りが見えた。そしてしばらく歩き街へ着いた。

 街へ入りギルドの前に着いた。

「それでは私はここで失礼しますね♪それでは~。」

 そう言うとノウザは手を振りギルドへ戻って行った。

「私達も寮に戻るか。」

「久しぶりにふかふかのベッドで寝たいわ~。」

「部屋でチーズ食べる。」

 そう言うとセーレ達も寮へ向かった。寮に着くとサウンが出迎えてくれた。

「お、おかえりなさいませ。部屋は前と同じ所を準備されていますのでごゆっくりお休み下さい。」

 そう言われ早速部屋へ向かった。
 部屋では村で買った物や頂いた物を食べ全員が満足した所でその日は就寝した。
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