あの桜の木の下で。

椿姫哀翔

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少年の学校生活

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毎日、学校に行ってるけど誰にも話しかけられないし、授業でも当たったことが無い程、僕は影が薄いみたい。



お昼休みは一番の苦痛の時間で、みんな楽しくお友達と喋りながらお弁当を食べている。
僕は、一緒に食べる人が居ないので毎日校舎の裏にある桜の木の下で1人でお弁当を食べている。


高1の最初の頃にこの場所を見つけてから桜の木の下で1人で食べるようになっていたお弁当だが、3年の秋頃から2人で食べるようになった。


ある日突然、僕が1人で桜の木の下でお弁当を食べていたら女の子が来た。
その子は無言で隣に座り、お弁当を食べ始めた。
名前や学年など頑張って聞いてみたけど、ちらりとこちらを見ただけで無視された。

それからはなにを話すでもなく、2人で無言でお弁当を食べて、昼休み終了のチャイムがなるまで桜の木の下でボーっとしたり、本を読んだりしていた。
最初は、「なにか話さないと」って会話を探して頑張って声を掛けてみたが、ちらりと見られて無視されるだけで心折れて諦めて無言でボーっとしたり本を持ってきて読んだりすることにしたのだ。
なにも話さなくても変な空気にならないので、話すのが苦手な僕には、凄く気楽で結構楽しみな時間だった。





そんな、僕にとって楽しみになっていたお昼休みが今日で最後になった。

今日は、明日に迎えた卒業式の予行練習だった。
午前中で終わるからお弁当なんて必要無かったけど、お母さんに頼んで作ってもらった。
「今日で学校でお弁当食べるの最後になるから」と言って無理言って作ってもらった。

いつものように桜の木の下に座ってお弁当を開けた。
いつもの巾着袋の中に、いつものお弁当箱が入ってる。
蓋を開けると、いつもとは違う全て手作りのお弁当のおかずが入ってた。
いつもは、1つか2つは冷凍食品が入ってたのに。

「っ、……ありがとう、母さん………。いただきます。」

嬉しくて、涙が出そうになった。


食べ始めると、隣にいつも来る女の子が座った。

「あ、……っ、」

いつもは声を掛けないけど、今日で最後になるから声を掛けようと思ったけど、なにを話したらいいか分からず言葉が出てこない。

僕の声に反応したのか、ちらりと見られた。
いつもだったらすぐに視線をお弁当に移すのに今日はこちらをそのまま見ていた。

「あ、あの、僕、きょ、今日で、ここ最後だから、よかったら、話さないっ、ですか!?」

ドモりながらも、なんとか声を掛けた。

「…………」
「っ、」

なんとも言えない沈黙がしばらく続いた。

「ご、ごめ」
「いいですよ。」
「んへ?」
「なにを話しますか?」
「っ!」


凄く嬉しい!


その子は、少し低めの芯がある声をしていた。
見た目が可愛らしいので、ギャップがある。

「え、えっと、名前、教えて、くださいっ」
「………」
「あ……、あの、」
「先輩が敬語やめて名前教えてくれたらいいですよ。」
「っ、あ、」

すぐに教えてもらえなかったけど、条件を出されてキョドってしまう。

「ぅ、………、僕、宇都宮うつのみや桜希おうき、です、」
「…………」
「あ、あの?」
「敬語だからもう1回。」
「っ、…………ぼ、僕、桜希。君は?」
「私は、木村きむら美桜みおです。」
「ほっ。……名前、どうゆう字で書くの?」
「美しい桜です。先輩は?」
「僕は、桜の希望、だよ。」
「へぇ、かっこいいですね。」
「っ、あ、ありがとぅ……、美桜ちゃんの名前、可愛いね。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
「っ、」


笑顔っ!
可愛いっ!


「何年生なの?」
「1年です。」
「そっか、なんで、ここでお弁当食べてるの?」
「……………………」
「ぁ、ご、ごめん、言いたくなかったら無理に言わなくてもっ!」
「………、先輩」
「っ、はいっ!」
「明日、卒業式のあと、ここに来てくれますか?」
「へ?」
「そしたら教えます。」
「え?」

そのあと美桜ちゃんは、1つ笑みを浮かべ、無言でお弁当を食べ始めて、もうこちらを1度も見ることは無かった。
美桜ちゃんがお弁当を食べ終わる頃に、ボケっとしていた僕は慌てて広げていたお弁当を食べ始めた。
美桜ちゃんは、僕のお弁当を食べ終わるのをただ無言でこちらも見ずに待っていてくれた。いつもだったら本を読んでるのに、本も読まずに待ってくれていた。
ずっと一緒に居たくて、この時間が永遠に続けばいいのにと思いながらいつもよりゆっくりお弁当を食べた。

「……もぐもぐ……、ごくん。
あ……、ご馳走様でした…………。」

最後の1口を食べ終わり寂しくなりながらもお弁当にご馳走様を言った。

「それじゃあ、また明日。」
「え、あ、ぅん!またねっ!」

美桜ちゃんは僕の事を見て声を掛けてからその場をあとにした。

美桜ちゃんの背中が見えなくなるまで見送ってからお弁当箱を閉まって僕も桜の木の下をあとにした。



「ただいま」

桜の木の下をあとにして、家に帰った。

「おかえりなさい」
「母さん、ただいま。
3年間毎日、お弁当ありがとうございました。」

お弁当箱の入った巾着袋を母さんに渡しながら目を見て初めて感謝を伝えた。

「いいえ、毎日完食してくれてありがとう。」

涙を浮かべながら嬉しそうに巾着袋を受け取ってくれた。




次の日

粛々と卒業式が執り行われ、教室に戻ったあとの最後のホームルームも終わった。

いつものごとく、誰にも声を掛けられないで教室を後にして、約束の桜の木の下に向かった。


着くとまだ美桜ちゃんは来ていなかった。

3年間の楽しい思い出はここでのお弁当だけだったから、膨らんできている蕾や1つ2つ咲いている桜を見てると涙が込み上げてきた。

「3年間、お世話になりました。」

桜の木に向かってお辞儀をして感謝を伝えた。

「1枚、失礼します。」

記念に、桜の木の写真を1枚撮った。

パシャリ

「うん、お守りにしよう。」


写真を撮り終わったあと、桜の木の下のいつもの所に座った。

「ここも最後か……」

感傷に浸っていると、

タッタッタッ

「先輩、お待たせしました。」

美桜ちゃんが走って来た。

「大丈夫だよ。」
「先輩、ご卒業おめでとうございます。」

美桜ちゃんは、立ち上がった僕の前で止まり、深々とお辞儀をしながらお祝いしてくれた。

「ありがとう」
「座りましょうか」
「うん。」

いつもの所に2人で座った。

「先輩、これどうぞ。」
「ありがとう。なにかな?」
「開けてみてください。」
「うん」

座ってすぐに美桜ちゃんは、持ってきていたスクールバックから小さな箱を出して僕にくれた。

「わぁ」

中にはブラックの革製の細めのシンプルなブレスレットが入っていた。細いゴールドがアクセントになっていてかっこよかった。

「付けてみてください。」
「うん。」

ブレスレットを左腕の時計の横に付けてみた。

「どう、かな……?」
「似合います。かっこいいです。」
「ありがとう。」

目を見て『かっこいい』なんて言われて照れてしまって思わず俯いた。


僕に言った訳ないのに、ハズ……。


「卒業祝いのプレゼントです。気に入ってくれましたか?」
「うん!気に入ったよ!ありがとう!大学でも付けるね!」
「良かったぁ」

俯いてた顔を上げて、お礼を伝えた。
頬を薄く赤らめて微笑んでいる美桜ちゃんと目があった。

「っ、」
「あ、……、ぁのっ、!」
「は、はいっ!」

そんな美桜ちゃんに見惚れていると、緊張した面持ちの美桜ちゃんが声を震わせながら話しかけてきた。
思わず僕は姿勢を正して美桜ちゃんを見た。

「えっと、ぁの………………」

美桜ちゃんが話すのを目を見て待っていると、顔を俯かせてしまった。

しばらくそのまま沈黙が続いたが、なんとか美桜ちゃんが話し始めた。

「き、昨日の、約束、なんですけど、」
「約束……?あぁ、うん、なんでここでお弁当を食べてるかだよね。」
「はい、…………、」
「話したくないなら話さなくてもいいよ?」

言うか言わないか迷っている美桜ちゃんに思わず伝えたら、睨まれた。

「今、覚悟決めてるんで、迷わせるようなこと言わないでください!」
「ご、ごめん……」
「…………………………、すぅー、ふぅー、よし、
先輩。」
「は、はい、」

しばらく目を閉じ、深呼吸をした美桜ちゃんは目を開けると、真剣な表情で僕を見つめてきた。
こちらも真剣に聞こうと美桜ちゃんと視線を合わせる。

「私、木村美桜は、宇都宮桜希さんの事が好きです。」
「…………へ?」
「初めてお会いした時に優しくてかっこいい先輩に一目惚れして、ずっとお昼休みに探していました。ですが、3年生の教室で先輩を探しても誰もあなたの事を知らなくて、諦めてました。ですがある日、静かにお弁当を食べたくて裏庭に来たら、先輩が桜の木を背もたれにして眠っているのを見かけたんですが、その日は逃げてしまいました。
次の日こそはと、お弁当を持ってここに来て勇気を出して先輩の隣に座りました。先輩から声を掛けてもらえたのが凄く嬉しかったのですが、恥ずかしくて声が出なくて、無視したみたいになってしまって、ごめんなさい。そのあともしばらく無視したみたいになったあと、話し掛けてくれなくなったので、興味を無くしたのかと不安でしたが、ここに来ないでと言われなかったので、図々しくも毎日来てしまいました。昨日は、また声を掛けてくださってありがとうございました。本当に嬉しかったです。最後に先輩とお話し出来て、名前を教えてもらえて凄く嬉しかったです。
もし、よろしければ、私と付き合ってくれませんか?」
「………………」


僕は、今、なにを言われた?
え、告白された……?
こんなに可愛い子に?
え?えぇ?


「やっぱり、最初に話し掛けたのを無視したから無理ですか?」
「っ、ちがっ!」
「え、」
「あ、いゃ、えっと……ちょ、ちょっと、待って」
「は、はい……」
「…………僕、影が薄いのか、高校に入学してから誰からも声をかけられたことなかった。それが苦痛で1年生の時からここでお弁当を食べてた。ここでの時間が、僕の学校生活の中で1番の癒しだった。でも、ある日、女の子が急に来て、無言で隣に座ってお弁当を食べ始めて、この癒しの時間が終わったと思った。でも、最初は一生懸命に話しかけても無視されて心が折れかかったけど、次第に君が居るこの時間が僕にとっての癒しの時間になってた。本読んだり、ボーっとしたりするこの時間に君が居ることが当たり前になっていた。
昨日も最後で寂しくて、頑張って声を掛けてみたんだ。
いつの間にか、僕も君が好きになっていたのかもしれない。」
「へ、」
「なので、こんな僕ですけど、よろしくお願いします。」
「いいんですか……?」
「うん。」

僕は、美桜ちゃんに告白されて、やっと自分の気持ちに気付いた。
頑張って告白してくれた美桜ちゃんが可愛くて愛らしくてずっと一緒に居たいと思った。
その気持ちをそのまま伝えて、握手をするために手を美桜ちゃんに向かって出した。

「っ、」
「うわっ、」

美桜ちゃんは、僕の手を取らないで、抱き着いてきた。

「ちょ、美桜ちゃん!?」
「桜希先輩大好きです!」
「ふふっ、僕も好きだよ。」

驚いたけど、抱き着いてきた美桜ちゃんの背中に手を回して、僕からも抱き締めた。



しばらくそのまま抱き着いていた美桜ちゃんは、急に恥ずかしくなったのか、おずおずと僕から離れて元の座ってた場所に戻っていった。

「ご、ごめんなさい……」
「ううん、嬉しかったから大丈夫。」
「っ~!」

思った事をそのまま伝えたら、顔を真っ赤にして手で隠してしまった。

「あれ?」

顔を隠した手を見ていたら気付いた事があった。

「もしかして、おそろい……?」
「っ、!?」

ボソッと言った声が聞こえたのか、左手首を隠してしまった。

「美桜ちゃーん?」
「っ~、」
「美桜ちゃん?」

話してくれない美桜ちゃんを見ながら呼び掛けてると諦めたのか、俯きながら真っ赤な顔で小さく頷いた。

「そうなんだ!見せて?」
「っ、はぃ……」

おずおずと左手首を僕の前に出してくれた。
その手を右手で掴んで指を絡めて恋人繋ぎをしてみた。

「っ~~~!!」

昨日、キョドりながら美桜ちゃんに名前聞いてたのに、こんなこと出来るなんて、自分でもびっくりしている。
そのまま袖を少しめくり、良く見えるようにした。

美桜ちゃんの腕には僕のと色違いのブラウンの革製の細めのブレスレットが巻かれていた。同じく細いゴールドがアクセントになっている。

「美桜ちゃんのはブラウンなんだね。似合ってるよ。」
「っ、あ、ありがとう、ございます……。もう、手、離して………………。」
「やだー。ふふっ」

真っ赤な顔を空いている右手で隠しながら離してと伝えてきた。
でも、左手は、僕の手を離したくないのか、ぎゅっと力を入れてきた。
本人は気付いてないみたいで、ほんと、可愛い。


しばらくそのまま手を繋いで桜の木の下でボーっとしていた。
最初はモゾモゾしたり手を離そうとしたりしてた美桜ちゃんも観念したのか諦めて一緒にボーっとしてた。

「そろそろ、帰ろうか。」
「あ、はぃ……」
「ねぇ、連絡先教えて?今までみたいには会えなくなるけど、いつでも美桜ちゃんの事想ってるから。」
「は、はいっ。私も、先輩の事いつも想っています!」

空に夕焼けの色が増えてきて寒くなってきたので、帰る提案をした。
凄く寂しそうなのが心苦しい。僕も寂しい。
連絡先を交換して、帰路に着いた。




家に帰ると、卒業式に出てくれた母が出迎えてくれた。

「おかえりなさい」
「ただいま。」
「遅かったわね、お友達と居たの?」
「ううん、彼女。」

自分でも分かるくらい満面の笑みを浮かべて母さんに伝えた。
びっくりしている母さんを見れて満足して部屋に戻った。


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