15 / 16
結果
しおりを挟む
ベルトランの声だけで、私は恐怖に目を瞑ることなく、その様を見ていることが出来た。
まるであのパーティの日のフラッシュバックのように、私に向かってくるエルヴェ様はベルトランの手によって取り押さえられた。腕をつかんで体をぐいと地面に押し付ける。体をろくに動かすこともできないようなのに、エルヴェ様は私の方を見てわめき続ける。
「この!この溝鼠!全部お前のせいだ!全部、全部お前が悪いんだ!王女にとりなせ!俺は何も悪くない、全部お前が悪いんだと言え!」
「わー、良く叫べるね、そろそろ骨折れちゃうよ?」
エルヴェ様を抑えたまま呆れたようにベルトランが言う。さらに体をぐいと押されてエルヴェ様は「ぐあっ!」と悲鳴を上げた。
「シルヴェーヌ」
名前を呼ばれて振り返る。私を呼んだカトリナ様は安全のためにニコラ公爵令息の背後に隠されていた。ちょいちょいと手を振って2人が私のことを呼ぶ。数歩だけ離れて彼らのそばに行く。
「彼を断罪するのはあくまで私の意思よ。それでも一番の被害者はあなただから、言いたいことは最後にあなたが言った方がいいと思うの。もし、万が一、彼の免罪を望むなら、多少なら受け入れるわ」
ニコラ公爵令息の肩越しにカトリナ様が囁く。どこか不満そうな顔をして。
「君が思うままにしていいと思うよ。カトリナも心からそれを望んでる」
ニコラ公爵が私に微笑む。
「・・・ありがとうございます。カトリナ様、ニコラ様」
2人にお礼を言って、私はベルトランと、押さえつけられたエルヴェ様のもとに向かう。
「シルヴェーヌ」「シルヴェーヌ!」
両者の声がなぜかピタリと揃った。こんな時なのになぜかおかしく感じて私は珍しく微笑んでしまう。もしかして私がエルヴェ様に笑い顔を見せたのはこれが初めてかもしれない。
「・・・言いたいことが1つだけ」
ベルトランの顔を見る。私のことを心配しているような顔。エルヴェ様を押さえる手にさらに力がこもる。私のことを大事にしてくれる婚約者。
エルヴェ様の顔を見る。歯をむき出して私のことを睨む顔。8年の婚約は長すぎて、彼のことをいまだに「エルヴェ様」と呼んでしまうけれど。
「エルヴェ様。私とあなたはもうとっくに赤の他人です。私にあなたの犯したことの責任を取る必要は全くありません。私はベルトランの婚約者です。どうか、1人で、いいえ、ミリーさんと2人で、沈んでいって下さい」
そして私はできるだけ優雅に頭を下げて見せた。エルヴェ様が私を見る最後が、本当に悔しく感じるような、美しいものであるように。
「やっぱり面白いねシルヴェーヌ」
心底楽し気なベルトランの声が、私の一番の賛辞だった。
まるであのパーティの日のフラッシュバックのように、私に向かってくるエルヴェ様はベルトランの手によって取り押さえられた。腕をつかんで体をぐいと地面に押し付ける。体をろくに動かすこともできないようなのに、エルヴェ様は私の方を見てわめき続ける。
「この!この溝鼠!全部お前のせいだ!全部、全部お前が悪いんだ!王女にとりなせ!俺は何も悪くない、全部お前が悪いんだと言え!」
「わー、良く叫べるね、そろそろ骨折れちゃうよ?」
エルヴェ様を抑えたまま呆れたようにベルトランが言う。さらに体をぐいと押されてエルヴェ様は「ぐあっ!」と悲鳴を上げた。
「シルヴェーヌ」
名前を呼ばれて振り返る。私を呼んだカトリナ様は安全のためにニコラ公爵令息の背後に隠されていた。ちょいちょいと手を振って2人が私のことを呼ぶ。数歩だけ離れて彼らのそばに行く。
「彼を断罪するのはあくまで私の意思よ。それでも一番の被害者はあなただから、言いたいことは最後にあなたが言った方がいいと思うの。もし、万が一、彼の免罪を望むなら、多少なら受け入れるわ」
ニコラ公爵令息の肩越しにカトリナ様が囁く。どこか不満そうな顔をして。
「君が思うままにしていいと思うよ。カトリナも心からそれを望んでる」
ニコラ公爵が私に微笑む。
「・・・ありがとうございます。カトリナ様、ニコラ様」
2人にお礼を言って、私はベルトランと、押さえつけられたエルヴェ様のもとに向かう。
「シルヴェーヌ」「シルヴェーヌ!」
両者の声がなぜかピタリと揃った。こんな時なのになぜかおかしく感じて私は珍しく微笑んでしまう。もしかして私がエルヴェ様に笑い顔を見せたのはこれが初めてかもしれない。
「・・・言いたいことが1つだけ」
ベルトランの顔を見る。私のことを心配しているような顔。エルヴェ様を押さえる手にさらに力がこもる。私のことを大事にしてくれる婚約者。
エルヴェ様の顔を見る。歯をむき出して私のことを睨む顔。8年の婚約は長すぎて、彼のことをいまだに「エルヴェ様」と呼んでしまうけれど。
「エルヴェ様。私とあなたはもうとっくに赤の他人です。私にあなたの犯したことの責任を取る必要は全くありません。私はベルトランの婚約者です。どうか、1人で、いいえ、ミリーさんと2人で、沈んでいって下さい」
そして私はできるだけ優雅に頭を下げて見せた。エルヴェ様が私を見る最後が、本当に悔しく感じるような、美しいものであるように。
「やっぱり面白いねシルヴェーヌ」
心底楽し気なベルトランの声が、私の一番の賛辞だった。
60
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~
深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。
灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる