きっと私は悪役令嬢

麻生空

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さて、私達は昼食を終えるとお茶を二杯程頂いた。
ルドルフ様とは特にお話はせず、女将と談笑をする。
勿論、そんな私達の間に話を割り込みする事もなくルドルフ様はおとなしくお茶を飲んでいる。

時折こちらを物言いたげに見て来る事はあったが、何故かその後はため息をついてはお茶を飲むの繰り返しだった。

何が言いたいのだろうか?
今朝の暴言の事だろうか?
それとも……。

少し思案してしまうが、もう彼とは婚約者ではない。
ただの同僚だ。

あまり突っ込まない方がお互いのため。
丁度良い距離感を作れればと思う。
少なくともエドとして接する分には紳士的だったのだから。

そして、午後の一時にラクト伯爵の屋敷に到着するように食堂を出たのだ。

小高い坂の上に佇む屋敷は五代前の伯爵が建てた屋敷らしく、古い良き時代の雰囲気を醸し出している。

知識としてあるのは五代前の伯爵がこの地域に絹を普及させて一代で結構な財産を作ったと言う事だ。

しかし、その後は特に才能のある領主は出ず何とか全盛期のやり方を維持している状態だ。

まぁ、女将達の話では今の若い伯爵も、前伯爵も女にダラシがなかったとの話だから、ろくに政務もせずに女に金を使っているのだろう。

そう言えば女将が面白い話をしていたな。

「私の祖母に聞いたんだけど、初代のラクト伯爵は正妻との間に子供が出来なかったからと5人の妾を娶って別宅に住まわせていてね。50を過ぎた辺りから殆どの時間を別宅で過ごしていたらしいんだよ。その甲斐かいあってか、程無くして息子が一人産まれたらしい。まぁ、その息子はだいぶ女にダラシなく、今の領主様もその前の領主様も女にだらしないようだから、その血を引き継いでいるのだろうね」

と、言う話だ。

基本的に領地の執務は本宅で行う。

別宅で妾と遊んでいたその領主は本当に一代で財産を築き上手く伯爵の地位に就けたのか?

もしかしたら、名君たる領主は妾との間にも子供が出来なかった?

そこまで考えた時、隣を並走させていたルドルフ様が声を掛けて来た。

「エド。あそこの庭の東屋にいるのはラクト伯爵ではないだろうか?」
 

ルドルフ様の声に私は東屋を見やる。

そこでは、貴族……多分ラクト伯爵だろう男の靴を侍従らしき男が口付けしている姿だった。


なんだ?あれは?
どんな茶番劇?

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