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王太子ルート回避いたします1
「初めまして。セドリック・アイマロンです。お加減は如何かな?」
そう言うとまるで流れるような所作で無駄にキラキラさせた王太子は、私の手をとり何の躊躇いもなく手の甲にライトキスを落とす。
「えぇ。大丈夫でしてよ」
思わず顔が引きつる。
うっわぁ。
めっちゃ気障。
スチルで見る分には身悶えものだったのに実際自分がされるとちょっと微妙。
普通の令嬢なら頬を赤らめるべきシーンなんだろうけど……
ごめん。
ど鬼畜王子の本性知っているだけに寒いから……。
私が顔を引きつらせていると、セドリックが怪訝な顔になる。
しかし、それは一瞬の事でセドリックは直ぐさまアンの方へと向きを変え一歩踏み出そうとした。
私が『やはり私は当て馬かよ!』と思っているとイヴァンがセドリックの前に立ちアンを庇うように背に隠す。
「殿下も何かと忙しい身ですれば。早速、手紙でご所望の薔薇園へ行きませんか?」
『お兄様ナイス妨害ですわ』
私は心の中でガッツポーズをとる。
そして私も援護射撃とばかりに「では私がご案内致しますわね」と、王太子の腕を取り外へと連れ出した。
王太子は何やら考えるように私の頭を見ているが、その時の私達にはそんな王太子の些細な様子を見ている余裕はなかった。
半ば強引に我等兄妹に薔薇園へと引きづられて行く王太子。
その後方をアンが静かに付いて来る。
我が家が誇る薔薇園。
イヴァンが連れて来たのは我が公爵家で所有する薔薇園の中で唯一市場に商品として出さない薔薇が咲く庭。
代々の当主となる時の儀式の為にだけある『虹の薔薇園』。
こじんまりとしたそこに、イヴァンは王子を促す。
「あれ。ここって……」
実は私も来た事がないそこは正しく秘密の薔薇の園。
幾重にも光が反射し薔薇を幻想的に見せるそこは年中むせ返るような薔薇の香りに包まれる。
その庭には覚えがあった。
「あっ、やっぱりそうだ」
ここはアンが幼少の頃に『想い出の君』との出会いがあった場所だ。
あの幼少の頃のアンが薔薇の中に佇むキラキラ王子との出会いのシーン。
オープニングでほんの7秒程のシーンは、一瞬見つめ合う二人の間を薔薇の花が舞い散ってスタート画面になる。
まさにその庭だ。
私はその7秒のシーンを見る為に、2分間の長いオープニングをひたすら耐えて毎回見ていたのだ。
ほぼ毎日。
見間違うはずがない。
しかし、何故我が家の特別な庭が?
一瞬固まる私を他所にイヴァンとセドリックとアンは庭の中央へと歩いて行く。
兄とアンの(一人は眼中になかった)後ろ姿を見ていたらあるスチルが頭を過る。
「愛しき君に捧げる薔薇は、華々しく散らぬ約束を永久に捧げよう」
一瞬ゲームの『想い出の君』とのスチルで流れた言葉が口を紡ぐ。
これはCMで流れていたスチルだ。
30秒程のCMをデッキが壊れるんじゃないかって位に再生したのを思い出す。
そう『愛バラ』のサブタイトルだ。
確か、本当はタイトルにしようと思っていたらタイトルが長かった為に、販売直前にスタッフが略称で呼んでいたタイトルがそのままゲームのタイトルになったらしい。
一瞬の沈黙の後、ブワッと私の周りを風が渦巻いて行く。
視界を遮る様に舞った花びらが空中で止まるや、この世の者とは思えない美女が私の眼前に立っていた。
虹色に輝く色素の薄い髪に虹色の瞳の美女は私を見るや微笑む。
「我が永遠の友よ。やっと呼んでくれたな」
と花が綻ぶ笑みを称え威厳のあるオーラを醸し出す。
私は目を大きく見開きその美女を見ていた。
全てにおいて色素の薄いその姿……しかし、その存在感は半端ない。
「もしかして、聖霊界の女王陛下でいらっしゃいますか?」
思わず問うてしまう。
美女はそんな私に微笑み頷く。
「最初の友は我を『アリア』と名付けた」
「アリア様?」
あまりの出来事に呆然と呟く。
「友よ『様』は要らない」
そう言うと眩しく微笑む。
「アリア?」
正直この様な神々しい御方を呼び捨てにして良いのだろうか?
そう思いつつも私は戸惑う様にその名前を呟いた。
「良くできましたね。エマ」
アリアはニコリと笑むとそっと私の瞼にキスを落とした。
何かが私の中を駆け巡り、一瞬にして辺りには沢山の聖霊が取り巻く。
「契約の印に……我が友よ。悪戯してしまいすまない。明日には全て元通りになっているだろう」
そう言うとすっと空に消えた。
辺りに浮遊していた聖霊も伴い去り際「いつでも私を呼んで構わない」とだけ残して。
ぼーっと立っていた私と兄の眼が一瞬合う。
そして、解ってしまった。
アンの『想い出の君』が兄のイヴァンだと言う事に。
まさかの隠しキャラが解ってしまった。
あの幼き日のスチルも全てが今の庭に重なる。
そう得心がいくと俄然やる気が出た私は三人の元へと向かった。
ど鬼畜王子からアンを守り、念願の『想い出の君』とのスチルを間近で見る為に。
『邪魔はさせませんわよ。このど鬼畜王子』
鼻息荒く私はアンの元へと駆け寄る。
『アン。貴女の選択は間違っていなかった。我が家に来たのは正解でしてよ』
内心アンに感服しながら、アンに近付くセドリックへと向き直る。
「殿下。私が殿下をご案内致しますわ」
少し挑戦的にそう言うと、私はセドリックの腕を取りグイグイと庭を歩き出す。
セドリックは後方に遠ざかるアンを愁い気に見やるが、何も言わずに私に引かれて行く。
フフフ。
今のアンは私の侍女。
ど鬼畜王子でも、そこは弁えているのね。
私はニマリと笑むとセドリックを更に強引に引っ張って行く。
強く引っ張っていたせいか私の胸にセドリックの腕が押し当てられる様になっていた。
「結構強引なお嬢さんだね。しかし、胸がない……」
ポツリと出たセドリックの言葉に私はカチンと来た。
「今から発達する予定なのでご心配には及びませんわ」
そうだゲームの3年後のスチルではそれなりになっていた。
そう、そ れ な り に
伊達にエマとの友情エンドは見ていない。
まぁ。顔は残念なままでしたけど。
セドリックが顔の事を言ってきたら太刀打ち出来なかった。
けど、愚痴ったのは胸だ。
まだ伸びしろはある。
「ふふん」と鼻を鳴らしていると後ろから着いて来るイヴァンとアンから苦笑いが漏れる。
『勝手に笑っていなさい。こっちは必死なんだから』と内心悪態をついてしまう。
「ふ~ん。もしその件で困った時は何時でも相談に乗るから」
と有り得ないセクハラ発言をして来る。
『何?やり返してるつもり?』
眉間に皺を寄せて
「私の様な小娘。殿下の趣味ではないのでは?」
低く呻く様に言えばセドリックは目を大きくして、一瞬後には破顔していた。
「君、なかなか面白いね。うん。それもありか……」
「ククク」と何処か楽し気に笑うセドリックを変な物でも見るような目で私は彼を見た。
『何その顔。
反則でしょう。
それに殿下って面食いでしたよね。
美女専でしたよね』
と言いたい。
言いたいのに……。
キリって睨めば、セドリックは更に楽しそうに笑う。
「エマ。君が気に入った。私の友になってくれないかい?」
「はい?」
淑女にあるまじきアホ面でセドリックを見てしまったのは不可抗力だと思う。
そして、疑問系で思わず出た言葉がセドリックに了承の返事と変換されたとは……トホホです。
ド鬼畜だが耳が悪いと見た。
キリリと睨めば更にセドリックは機嫌が良くなる。
あれ?
殿下ってドSですよね。
ドMじゃないですよね。
そう言うとまるで流れるような所作で無駄にキラキラさせた王太子は、私の手をとり何の躊躇いもなく手の甲にライトキスを落とす。
「えぇ。大丈夫でしてよ」
思わず顔が引きつる。
うっわぁ。
めっちゃ気障。
スチルで見る分には身悶えものだったのに実際自分がされるとちょっと微妙。
普通の令嬢なら頬を赤らめるべきシーンなんだろうけど……
ごめん。
ど鬼畜王子の本性知っているだけに寒いから……。
私が顔を引きつらせていると、セドリックが怪訝な顔になる。
しかし、それは一瞬の事でセドリックは直ぐさまアンの方へと向きを変え一歩踏み出そうとした。
私が『やはり私は当て馬かよ!』と思っているとイヴァンがセドリックの前に立ちアンを庇うように背に隠す。
「殿下も何かと忙しい身ですれば。早速、手紙でご所望の薔薇園へ行きませんか?」
『お兄様ナイス妨害ですわ』
私は心の中でガッツポーズをとる。
そして私も援護射撃とばかりに「では私がご案内致しますわね」と、王太子の腕を取り外へと連れ出した。
王太子は何やら考えるように私の頭を見ているが、その時の私達にはそんな王太子の些細な様子を見ている余裕はなかった。
半ば強引に我等兄妹に薔薇園へと引きづられて行く王太子。
その後方をアンが静かに付いて来る。
我が家が誇る薔薇園。
イヴァンが連れて来たのは我が公爵家で所有する薔薇園の中で唯一市場に商品として出さない薔薇が咲く庭。
代々の当主となる時の儀式の為にだけある『虹の薔薇園』。
こじんまりとしたそこに、イヴァンは王子を促す。
「あれ。ここって……」
実は私も来た事がないそこは正しく秘密の薔薇の園。
幾重にも光が反射し薔薇を幻想的に見せるそこは年中むせ返るような薔薇の香りに包まれる。
その庭には覚えがあった。
「あっ、やっぱりそうだ」
ここはアンが幼少の頃に『想い出の君』との出会いがあった場所だ。
あの幼少の頃のアンが薔薇の中に佇むキラキラ王子との出会いのシーン。
オープニングでほんの7秒程のシーンは、一瞬見つめ合う二人の間を薔薇の花が舞い散ってスタート画面になる。
まさにその庭だ。
私はその7秒のシーンを見る為に、2分間の長いオープニングをひたすら耐えて毎回見ていたのだ。
ほぼ毎日。
見間違うはずがない。
しかし、何故我が家の特別な庭が?
一瞬固まる私を他所にイヴァンとセドリックとアンは庭の中央へと歩いて行く。
兄とアンの(一人は眼中になかった)後ろ姿を見ていたらあるスチルが頭を過る。
「愛しき君に捧げる薔薇は、華々しく散らぬ約束を永久に捧げよう」
一瞬ゲームの『想い出の君』とのスチルで流れた言葉が口を紡ぐ。
これはCMで流れていたスチルだ。
30秒程のCMをデッキが壊れるんじゃないかって位に再生したのを思い出す。
そう『愛バラ』のサブタイトルだ。
確か、本当はタイトルにしようと思っていたらタイトルが長かった為に、販売直前にスタッフが略称で呼んでいたタイトルがそのままゲームのタイトルになったらしい。
一瞬の沈黙の後、ブワッと私の周りを風が渦巻いて行く。
視界を遮る様に舞った花びらが空中で止まるや、この世の者とは思えない美女が私の眼前に立っていた。
虹色に輝く色素の薄い髪に虹色の瞳の美女は私を見るや微笑む。
「我が永遠の友よ。やっと呼んでくれたな」
と花が綻ぶ笑みを称え威厳のあるオーラを醸し出す。
私は目を大きく見開きその美女を見ていた。
全てにおいて色素の薄いその姿……しかし、その存在感は半端ない。
「もしかして、聖霊界の女王陛下でいらっしゃいますか?」
思わず問うてしまう。
美女はそんな私に微笑み頷く。
「最初の友は我を『アリア』と名付けた」
「アリア様?」
あまりの出来事に呆然と呟く。
「友よ『様』は要らない」
そう言うと眩しく微笑む。
「アリア?」
正直この様な神々しい御方を呼び捨てにして良いのだろうか?
そう思いつつも私は戸惑う様にその名前を呟いた。
「良くできましたね。エマ」
アリアはニコリと笑むとそっと私の瞼にキスを落とした。
何かが私の中を駆け巡り、一瞬にして辺りには沢山の聖霊が取り巻く。
「契約の印に……我が友よ。悪戯してしまいすまない。明日には全て元通りになっているだろう」
そう言うとすっと空に消えた。
辺りに浮遊していた聖霊も伴い去り際「いつでも私を呼んで構わない」とだけ残して。
ぼーっと立っていた私と兄の眼が一瞬合う。
そして、解ってしまった。
アンの『想い出の君』が兄のイヴァンだと言う事に。
まさかの隠しキャラが解ってしまった。
あの幼き日のスチルも全てが今の庭に重なる。
そう得心がいくと俄然やる気が出た私は三人の元へと向かった。
ど鬼畜王子からアンを守り、念願の『想い出の君』とのスチルを間近で見る為に。
『邪魔はさせませんわよ。このど鬼畜王子』
鼻息荒く私はアンの元へと駆け寄る。
『アン。貴女の選択は間違っていなかった。我が家に来たのは正解でしてよ』
内心アンに感服しながら、アンに近付くセドリックへと向き直る。
「殿下。私が殿下をご案内致しますわ」
少し挑戦的にそう言うと、私はセドリックの腕を取りグイグイと庭を歩き出す。
セドリックは後方に遠ざかるアンを愁い気に見やるが、何も言わずに私に引かれて行く。
フフフ。
今のアンは私の侍女。
ど鬼畜王子でも、そこは弁えているのね。
私はニマリと笑むとセドリックを更に強引に引っ張って行く。
強く引っ張っていたせいか私の胸にセドリックの腕が押し当てられる様になっていた。
「結構強引なお嬢さんだね。しかし、胸がない……」
ポツリと出たセドリックの言葉に私はカチンと来た。
「今から発達する予定なのでご心配には及びませんわ」
そうだゲームの3年後のスチルではそれなりになっていた。
そう、そ れ な り に
伊達にエマとの友情エンドは見ていない。
まぁ。顔は残念なままでしたけど。
セドリックが顔の事を言ってきたら太刀打ち出来なかった。
けど、愚痴ったのは胸だ。
まだ伸びしろはある。
「ふふん」と鼻を鳴らしていると後ろから着いて来るイヴァンとアンから苦笑いが漏れる。
『勝手に笑っていなさい。こっちは必死なんだから』と内心悪態をついてしまう。
「ふ~ん。もしその件で困った時は何時でも相談に乗るから」
と有り得ないセクハラ発言をして来る。
『何?やり返してるつもり?』
眉間に皺を寄せて
「私の様な小娘。殿下の趣味ではないのでは?」
低く呻く様に言えばセドリックは目を大きくして、一瞬後には破顔していた。
「君、なかなか面白いね。うん。それもありか……」
「ククク」と何処か楽し気に笑うセドリックを変な物でも見るような目で私は彼を見た。
『何その顔。
反則でしょう。
それに殿下って面食いでしたよね。
美女専でしたよね』
と言いたい。
言いたいのに……。
キリって睨めば、セドリックは更に楽しそうに笑う。
「エマ。君が気に入った。私の友になってくれないかい?」
「はい?」
淑女にあるまじきアホ面でセドリックを見てしまったのは不可抗力だと思う。
そして、疑問系で思わず出た言葉がセドリックに了承の返事と変換されたとは……トホホです。
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