猫の小太郎

大里 悠

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僕のご主人

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ピピピピ!ピピピピ!

    今日もこの音が聴こえて来た。
    毎日同じ時間に鳴るこの音は、毎日同じようになり続ける。

ピピピピ!ピピピピ!

「んん……んー、ん、ふが……えい」

ピ!

    そしていつものように、一際大きな音と共に鳴るのをやめていた。

「んー………はぁ……ふわぁ…」

    ポリポリ、ガシガシ、そんな音をたてながらご主人はあくびをしていた。
    その後もしばらくの間ぼーっとしていたご主人は、僕のいる方へゆっくりと視線を向け、眠そうな顔に笑みを浮かべた。

「おはよう、小太郎」

    そう言っている間も、まだ眠いのか瞼を半分程閉じて、うつらうつらとしていた。
    出来ることならこのまま一緒に寝たいのだけれど、そうはいかないだろう。
    よくは知らないけれど、ご主人はいつもこの時間に起きてからご飯を食べ、仕事というものをやりに行くのだと言っていた。
    いまだに寝床から動こうとしないご主人は、しきりに何かを取ろうと手をわさわさと動かしていた。
    きっといつも顔に着けているあの、思わず飛び付いてしまいそうになる、キラキラと輝く透明な物が付いたものを探しているのだろう。

「ニャー、ニャウ!」
「おや、どうしたんだい?ああ、そこにあったのか。ありがとう、小太郎」

    ご主人が気づくように鳴くと、ご主人は僕がいる場所の隣にある探し物を見つけ、僕の頭を優しく撫でた。
    ご主人は探していたものを顔に着けると、寝床から立ち上がり、大きくのびをした。
    何もない日であればこの後は僕のご飯を用意してから自分もご飯を食べているけれど、今日はいつもと違うらしく、四角くて白いものに甘い匂いのする赤いドロドロとしたものを塗って食べていた。

「モグモグ……うん?どうしたんだい、そんなに私を見つめて、ご飯はっと、もう終わってたんだ。もしかして、これが気になるのかい?」

    いくらほわほわとしているとはいえ、さすがにご主人でも僕が見ているのに気がついたようだ。

「ニャー」
「うーん、猫にジャムって良かったっけ……パンとかはダメだったのは覚えてるんだけどな……あ、というかこれブドウジャムだし、ブドウはダメだったなぁ。うん、小太郎、残念だけどこれは小太郎は食べれないんだ」

    どうやら見つめていたのが食べてみたいからだと思われてしまったようだ。
    まあ、確かに気にはなっていたけれど、食べたいから見ていたのでは無く、珍しいから見ていたのだけれど。

「モグモグ……ん、ごちそうさま。さて、今はってもうこんな時間?そろそろ着替えるかなぁ」

    ご主人はそう言って着ている服を脱いでから壁に掛かっていた服に着替えた。
    前にこの服に飛び付いた時はご主人がとても困った表情をしていたから、それからは飛び付くのを我慢している。

「さてと、スーツよし、鞄よし、ネクタイよし、ハンカチよし、靴もよし!それじゃあ、行ってくるね小太郎。昨日みたいに部屋を荒らさないようにしてよ?」
「ニャー」
「じゃあ、行ってきます」

    ご主人はそう言って扉を開け、外へ出た。
    僕は扉が閉まったのを確認してから寝床へ戻った。
    寝床へ戻る途中、壁に掛かっている、ご主人が『カレンダー』と呼んでいたものが目に入った。
    以前ご主人が、赤い日は仕事が休みだから一緒にいられると言っていた。
    ご主人は今日はどうなのかを見ていなかったから、もしかすると今日は休みとやらではないかと思った。

    その時、玄関からガチャガチャという音が聞こえてきて、少しするとご主人が入って来た。

「ニャーニャー!」
「あ、小太郎、ただいま」
「ニャー?」
「どうして帰って来たかって?いやー、今日が休みだってことをすっかり忘れてたよ」

    やはり、今日は休みだったようだ。
    このように、ご主人は時々おっちょこちょいだけれど、とても優しい。
    なぜなら──

「小太郎ー、ほれほれ、猫じゃらしだぞー」
「ニャー!」

    こんなふうに、僕と遊んでくれるから。


    僕、猫の小太郎。ご主人に拾われた元捨て猫で、今は幸せに暮らしています。



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