最強魔導士となって国に尽くしたら、敵国王子様が離してくれなくなりました

湊一桜

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【第一章】片想い編

16. やってしまった……

 そんなわけで、私は拒否権無しで、レオン様と魔力交換をすることになった。レオン様が後々後悔することになりませんように、と祈りながら。

「私が証人になります。……レオン様、思いとどまる気持ちはありませんね?」

 誰もいない農園で、マリウス様はレオン様に聞く。レオン様は口角を上げて、自信満々に頷いた。

「ローザ。思いとどまる気持ちはありませんね?」

 あるに決まっているでしょう!思わず口を開きそうになったが、

「これは第二王子からの命令のため、残念ながらあなたに拒否権はありません」

マリウス様はピシャリと言ってのけた。
 私に拒否権がないのなら、思いとどまる気持ちがあるかなんて聞かないでいただきたい。

「それではこれから、ロスノック帝国第二王子レオン様とローザの魔力交換の儀を行います」

 マリウス様はそう告げて、農園の机の上に置いてあるグラスを取り上げた。グラスには、透明な液体がなみなみと入っている。

「まずはひと口ずつ、この『聖酒』を飲んでください。聖酒によって心を清めます」
 
 私とレオン様が、同じグラスの聖酒を飲むということか。つまりそれは間接キスだ。経験値ゼロの陰キャの私には、あまりにもハードルが高い。
 レオン様を見上げた私は、それはもう真っ赤だったに違いない。

「ローザ、先にどうぞ」

 レオン様はそう言ってひと口目を私に譲ってくださるが、それはそれで申し訳ない気持ちでいっぱいになる。レオン様が、私の唇で汚染された酒を飲むことになるなんて……

 だが、マリウス様にグラスを渡され、否応なく私が先に飲むことになる。どんなまずい酒だろうと意を決して飲んだものの、聖酒はほんのりフルーティーな甘味があって、とても美味しいものだった。

 思わぬ美味しさにほっと表情が緩んだ私の手から、レオン様はそっとグラスを取る。そしてわざわざ私が口を付けた部分に唇を重ね、それをぐっと飲んだ。

「ちょ、ちょっと!!そこは駄目です!」

 慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。レオン様は悪戯そうに口角を上げ、目を細めて私を見た。

「駄目ではない。私はここから飲みたいのだ」

 レオン様は絶対に私をからかっているのだ。だから挑発には乗らないでおこうと思うのに、胸がドキドキして顔が真っ赤になってしまう。これではレオン様の思う壺だ。

 そんな私の様子を見て、マリウス様はまた乾いた笑い声を上げた。そして、私に告げる。

「では、ローザ。もうひと口」

「えっ!?」

「魔力交換の儀では、聖酒を交互に飲むと決まっているのだ」

 そんなこと聞いていない。結局、私だってレオン様と間接キスをしなきゃいけないじゃん!!
 だけど、儀式なのだから仕方がない。すごくドキドキして恥ずかしいが、儀式なのだから!!

 私はレオン様からグラスを受け取り、そっと唇を付けた。そして甘い聖酒を飲みながらも、レオン様と唇を重ねている気分になってしまう。身体中が熱くて、心臓がきゅんきゅんうるさい。これだから、陰キャ処女の妄想は恐ろしいのだ。

 こうして、なんとか聖酒を飲み終えた私は、お酒のせいだか分からないが、体が酷く熱を持っていた。鼓動だって止まりそうに速い。
 だが、もちろん儀式はこれで終わりではなかったのだ。


「お二人は、利き手をしっかりと握り合わせてください」

 不意にマリウス様は告げ、私の右手とレオン様の右手を触れさせる。そしてレオン様は、そっと私の手に指を絡ませた。
 その手に触れて、さらに私は真っ赤になってしまう。胸のドキドキが止まらない。こんな私を見て、レオン様は余裕の表情で告げた。

「ローザ、そんなに照れなくていい」

 照れるに決まってるでしょう!イケメンと手を繋ぐのだから!しかも、レオン様はやたら積極的に指を絡ませてくるのだから!!

 だけどそんなこと言えるはずもなく、真っ赤な顔で不服そうにレオン様を見る。私はこんなにドキドキしているのに、レオン様は何とも思っていないようだ。相変わらず余裕の表情で私を見る。きっとただの儀式だと思っておられるのだろうが、そんなレオン様の様子がさらに私を不安にさせるのだ。

 真っ赤な顔の私を見て、マリウス様はあからさまに鼻で笑った。こうやって馬鹿にされるのは慣れている。私は少しレオン様やリリーと話しただけでいい気になっていたのだ。結局は陰キャのまま何も変わっていないのだ。

 マリウス様は、金色と紅色の紐で手首を縛り合わせた。離れないように、ぎゅっときつく。レオン様の触れる右首が、指先が、焼けるように熱い。

「それでは私の合図とともに、縛られた利き手に魔力を流してください。
 魔力によってこの紐が溶けて吸収されたら、魔力交換は完了です」

 これで私はレオン様と一心同体になる。色々不安はあるが、もう後には戻れないのだ。
 この逃げられない状況で、ようやく決心をした。私はただの陰キャ魔導士だが、レオン様に相手として選んでいただけた。私は、私の出来ることをするしかない。

「レオン様、よろしくお願いします」

 私は真っ赤な顔のまま、レオン様をまっすぐに見た。そんな私の視線を受け、レオン様は心なしか頬を染める。……いや、顔が赤いのは、きっと聖酒のせいだ。

「三、二……一……」

 私は絡められた右手に魔力を込めた。その瞬間、右手を伝って身体中に大きな力が駆け巡る。レオン様みたいに優しくて、それでいて力強いその力は、私の腕を、顔を、胸を、足を、包み込んでいく。まるでレオン様に抱きしめられているような錯覚さえ覚える。
 結ばれた赤と金の紐は七色の虹のように発光していて、その美しさに見惚れてしまった。

 強大な力を感じるなか、

「ローザ」

名前を呼ばれた。見上げると、七色の光に包まれたレオン様が優しい瞳で私を見下ろしている。
 昂った気持ちの中、レオン様が左手でそっと私を抱きしめた。陰キャで経験値ゼロの私だが、その胸の中にいると心地よいと思ってしまった。レオン様に、ずっと包まれていたい……

 こうやって身を任せてしまうのも、魔力交換という常識離れしたことを行っているからだろう。私は強大な力を感じながらも、レオン様の胸に頬を付けて目を閉じていた。そしてその胸からは、とくとくと速い鼓動が伝わっていた。



 どのくらい時間が経ったのだろう。私には、一瞬にも一時間にも思えた。

「これにて、魔力交換の儀を修了いたします」

 マリウス様の冷めた声で、はっと我に返った。

 いつの間にか強大な力を感じることはなくなっており、体もすっかり元に戻っている。ただ私は、レオン様に優しく抱きしめられていた。正気に戻った私は、ばばっとレオン様を押し退け、また真っ赤になる。
 こんな私をマリウス様は相変わらず冷めた目で見ていて、それでさらに恥ずかしくなった。

 レオン様と魔力交換をしたが、今のところ変わったことは何もない。もしかして、魔力交換は失敗に終わってしまったのだろうか。だが、手首を縛っていた紐は跡形も無くなり、代わりに右手首に紅い痣が出来ていた。まるで紐で縛られたような痣だ。

 その痣をぼんやり見ていると、

「無事終わったようだな」

レオン様が嬉しそうに告げる。そんなレオン様の腕にも、私と同じような痣が出来ていた。そしてレオン様は、その痣に愛しそうに唇を付ける。私をからかっているだけだろうに、いちいち真っ赤になってしまう私がいた。
 


 それから……私たちは気を取り直したように農作業をした。

 レオン様は草属性の魔法を使えるようになっており、勇んで農園に魔力を送っていた。そして、レオン様が魔力を使うと、レオン様の魔力が減ることが私にも分かる。そしてその減り方は、私の想像以上に大きいのだ。
 私が負けじと全力で魔力を送ろうとしたが、それはレオン様にバレて止められてしまった。こうやって、私たちは本当にお互いの魔力を把握し、使えるようになったのだ。

 魔力交換によって、魔力の容量も明らかに増えた。そして、繰り出す魔法も強いものとなっていた。どうやら光属性の魔法がより強化されたらしい。これはレオン様の熟練した技術のせいでもあるが……

「魔力交換によって、体の隅々まで魔力を蓄えられるようになる。魔力の容量が二倍になるのではなく、約四倍になると文献では言われている」

 マリウス様は冷めた声で教えてくれる。それを聞いてはっと思った。もしかして、レオン様の真の狙いはこれだったのかもしれない。私が魔力を使いすぎて消耗しているから、魔力容量を増やしてくれたのかもしれない。
 ……だとしたら、やっぱり魔力交換なんてしてはいけなかった。お互いのために魔力交換をしたのではなく、私のために魔力交換をしたのだから。

 思い悩む私に、レオン様は笑顔で告げる。

「ローザ。明日から第二魔導士団に入団することを許可する。
 午前中は魔導士団で過ごし、午後からは私たちと種子の開発をするとしよう」

「……はい!!」

 思わぬ言葉に思わず笑顔になってしまった。こうして私は、念願の魔導士団に入れることになったから。

「それと、魔力交換について変に悩む必要はない。ローザのためだとか、私が犠牲になったとか、そんな意味は全くない。
 私はただ私のために魔力交換をしただけだ。それに、君は私のものだという印を残したかったのだ」

 レオン様はそう言って、右手首の痣に唇を付ける。それでまた真っ赤になってしまう私がいた。

 レオン様はこんなにも私を弄んで、楽しいのだろうか。そして不覚にも、そんなレオン様にやられてしまう。
 レオン様のおかげで、陰キャ街道まっしぐらだった私も、少しだけ前向きになれたのも確かだった。これ以上、魔力交換について後悔するのはやめようと思ってしまったから。レオン様があまりにも前向きな言葉をかけてくださるから、自虐はもうやめようかと思ってしまったのだった。



 
 
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