つまらない女と言われたため、婚約者をぶん殴りました〜婚約破棄して武闘家になろうと思います〜

湊一桜

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彼の頭が狂ったようですが

第8話

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「フリード様、ご夫人、おはようございます」

 騎士団についた瞬間、馬車で護衛をしてくれたジルが駆け寄り、頭を下げてくれる。ジルは今日もグレーと赤色の隊服を着て、いかにも騎士といった感じでかっこいい。私好みではないが、俗に言うイケメンだ。

「ジル、俺の妻となるメリッサだ」

 フリードに紹介されて、思わず言ってしまった。

「妻にならないし」

 それで慌てて口を塞ぐ。こんな私を、ジルはぽかーんと見ている。

「……失礼ですが、メリッサ様。昨日までと随分ご様子が違うようですが」

 ジルは言いにくそうに聞き、

「そうそう。どうせ捨てられるんだから、自由に生きることにしたの」

私は笑顔で伝える。こんな私を、ジルはまだぽかーんと見ている。そしてフリードが、

「捨てられる? 」

驚いた様子で聞く。

「そんなはずはない。俺はメリッサを離すつもりはない」

 いや、そう言っていられるのも今のうちだ。頭がもとに戻ったら、私は容赦なく追放だ。私は苦笑いをしていた。
 こんなフリードは、やはり頭が狂っているのだろう。ジルはあんぐり口を開けたまま、

「メリッサ様……フリード様はどうされたのですか? 」

聞く。さすがに私が殴ったら脳にダメージがいってしまったなどとは言えず、

「さ……さぁ。頭が狂っちゃったみたい」

と説明しておいた。

 騎士団長のジルからしても、今のフリードは異常なのだと思い知る。そう、今のフリードは、悪魔辺境伯とはいい難い。武術で人を殺めることもあるが、脳障害により人格を変えることだってあるのだ。やはり、素人相手に武術を使ってはいけなかったのだと猛反省した。

「ジル、メリッサは武術に精通しているようだ。誰かお手合わせしてくれる奴はいるか? 」

 フリードがジルに聞くと、ジルはますます困った顔になる。それも当然だろう。どこかの伯爵令嬢相手に、お手合わせしたいという人なんていないだろう。

「……それなら、私がしましょうか」

 ジルは困ったように私を見ながら剣を渡す。それを受け取りながらも、剣術ではなくて武術なのにな、なんて思った。ただ、剣術だって不得意ではない。ヤヌース伯爵領騎士団のヒューゴに教えてもらったのだ、それなりにはやれる。

「ありがとう、ジル。嬉しいわ」

 私は笑顔でジルに告げていた。そして、ドレスのまま闘技場へと入る。こんな私を見て、騎士たちはざわっとした。それも当然だ。フリードの婚約者の女が、剣を片手に決闘を申し込んでいるのだから。
 それにしても、見られるって快感だ。私は前世、こうやって観客に見られるなか、次々と人を投げ飛ばして勝っていった。



 私は剣を構える。そして、ジルは戸惑った表情で剣を抜いた。

 国境を守るハンスベルク辺境伯騎士団の騎士団長だ。きっと、ジルの腕は確かなのだろう。強い相手だと思うだけで、私の心臓は打ち震える。そして私は、私を舐めきっているジルに牙を剥いたのだ。

 素早くジルに詰め寄り、剣を振り下ろす。だが、騎士団長はそれを容易くガードする。開い闘技場に、カンカンと金属のぶつかる音が響く。そして、全騎士団員の視線を集めている。

「なかなかやるね、メリッサ」

 いつの間にか敬語が抜けているジル。意外にも必死なのかもしれない。私はジルに剣を向けながらも、笑顔で告げた。

「女だからってナメないでよ? 」

 だが、ナメていたのは私のほうだった。カーンというひときわ大きな音と、強い衝撃が右手を襲った。そして私の持っている剣が宙を舞ったのだ。
 負けた……さすか騎士団長だ。私相手に余裕だったし、私を傷つけないように攻撃してきた。上には上がいると思うと、ゾクゾクする。

 宙を舞った剣が、カシャーンと地面に舞い落ちた。そして剣を鞘に収めたジルは、戸惑った笑顔で私に告げる。

「なかなか強かった」

 だが、その言葉が私のプライドを傷つける。なかなかではない。そもそも、私が得意とするのは剣術ではない。私はもと柔道日本王者になる身だった。
 私は素早くジルの脇に入り込み、容赦なくその騎士服を掴む。柔道着とは違って掴みにくいが……そのまま軸足を踏ん張って背負い投げをかけた。

 騎士団長ジルは華麗に宙を舞い、どさっと地面に叩きつけられる。そして、

「う……」

呻き声を上げた。

 その瞬間、騎士たちから驚きの声と拍手が湧き起こる。今回の私の勝利は、反則に違いない。ジルが油断している隙に技をかけたのだから。だが、勝ちは勝ちである。

「どう? 私はただの令嬢じゃないのよ」

 ようやく上半身を持ち上げたジルに、私は自慢げに言う。これでジルもさらに怒ると思ったが、

「すごいじゃないか、メリッサ!」

ジルは少年のような笑みを浮かべて、私の手を握った。あれ、怒らないの? と拍子抜けする私。
 ジルは笑顔のまま私に言う。

「本当に君は、ただの令嬢ではない。
 思い返せば君が汚れた服を着ていたのも、武術の訓練をしていたからだろ? 」

 いや、それは違うんだけど……そして、家族は私が強いということすら知らないだろうけど……
 でも、私が素を出しても受け入れられるのだと思ってホッとした。私が婚約破棄された時には、ジルにでも頼って新たな就職地を紹介してもらおうかな。……武闘家としての、就職先を。

「ジル、私、またここに訓練しに来ていい? 」

 そう聞くと、ジルは陰りのない笑顔で頷いてくれた。

「もちろんだ。僕たちは強い人が大好きだから」

 強い人と言われて嬉しかった。強い、それこそが私に対して一番の褒め言葉なのだろう。

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