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彼の頭が狂ったようですが
第12話
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フリードは剣を収めてから、私を思いっきり睨んだ。いつもの無表情ではなく、怒りが込められている。まるで般若の面のように歪んだフリードを見て、さすがの私でさえビビってしまう。
「メリッサ……」
低い声で唸るように吐き出すフリード。
「お前は……馬鹿か」
「は、はい!」
フリードの怒りがすごくて、思わず声が上ずってしまった。私としたことが、完全にフリードにやられている。
「死ぬかもしれないんだぞ!!」
怒りの顔のまま、フリードは私に歩み寄る。そして……そのままぎゅっと抱きしめられた。
咄嗟に抱きしめられて、私はパニックを起こしてフリーズしている。だが、フリードはそのキャラに合わないくらい、そっと大切そうに私を抱きしめる。そして、このギャップにドキドキする私は、フリードと同じく頭が狂い始めているのだろう。
「無事で良かった」
耳元で囁かれ、ようやく自分がいけないことをしたと思い始める。フリードの命令に従えないのなら、せめて真正面からぶつかるべきだった。隠れて魔物討伐について来るなんて、フリードにとっては迷惑に他ならない。
「ごめんね……」
自分の非を認め、素直に謝る私。今回は、完全に私が悪い。フリードがいなかったら、本当に二度目の人生が終わっていただろう。いくら私に興味がないとはいえ、目の前で死なれたらフリードだって嫌に違いない。
フリードはそっと私の体を離した。そして、まだドキドキして顔が真っ赤な私を見下ろす。その顔は、やはりいつものように無表情だ。だが、さっきまでの怒りで歪んだ般若みたいな顔ではなくてホッとした。
「終わったら帰るぞ」
そう言われてはっとした。
「……馬!馬の背中に立って大ジャンプしたから、馬、どこかに行っちゃった」
「……はぁ!? 馬の背中に立つ奴が、どこにいるか!? 」
フリードはもはやあきれている。そして、
「仕方ない、俺の前に乗れ」
無表情で告げる。誰があんたの前なんかに乗るか!なんて言いたかったが、私は先ほどフリードを怒らせたばかりだ。大人しく従っておくべきだろう。
「はーい」
不貞腐れたように返事をした。
だが、ふと気付いてしまった。私の前を歩くフリードの左手からは、どくどくと血が流れている。
「フリード!怪我してるの!? 」
思わず声を上げ駆け寄った。
フリードの左腕の服は引き裂かれ、深い傷からは血が流れ続けている。
どうしよう、止血しなきゃ!
私は自分の上着に入っていたタオルを出し、傷の上部を慌てて縛る。自分の服がフリードの血液で汚れることも気にせず、ただ必死だった。
それなのに、フリードは
「気にするな、ただの傷だ」
など言っている。
これがただの傷のはずがない!どんどん血が溢れているし、このままでは感染症の恐れだってある!
前世日本で育った私は、この世界の人よりも、怪我に対して知識があるのだろう。だが、そんな私の独りよがりは、
「館に帰ったら、聖女に治療してもらう」
フリードの言葉によって掻き消された。
「……聖女? 」
その名を聞き、酷く愕然とした。もとからフリードは、私なんかに頼っていなかったのだ。その聖女を当てにしていたのだ。
そもそも、私は婚約破棄される身だ。フリードが感染症で苦しんでも、痛くも痒くもないはずだ。だから、フリードが私でなく聖女を頼っても、何とも思わないはずなのに。
なのに、どうしてこんなに胸が痛むのだろう。
嫉妬に歪んだ私は、
「ジル!」
騎士団の中心部にいて、隊列を立て直しているジルに駆け寄った。ジルは驚いて私を見る。
「メリッサ!どうしてこんなところに!! 」
そして馬から降り、私に駆け寄る。
「どうしたの!? 血だらけじゃないか!」
「ううん、私は大丈夫なの」
そう言って、ジルに告げた。
「私を連れて帰って。フリードは怪我しているから、私の面倒まで見れないから」
いや、違う。私はフリードに仕返ししたかったのだ。フリードが私よりも聖女を選ぶから、私はフリードよりもジルを選んでやろうと思った。
私はなんて愚かな女なのだろう。
ジルは心配そうにフリードを見る。そして私は、フリードのほうを見ることなんて出来ない。
「……分かった。僕の馬で帰ろう」
ジルはそう言ってくれたが、私の心はまだズキズキ痛むのだった。
結局、私はジルの前に乗せてもらって、館へ帰った。ジルは私を守るように馬に乗せてくれたが、ちっともドキドキしない私がいた。そして、聖女が気になって仕方がない私は、馬上でいきなり聖女の話を持ちかけるのだった。
「フリード、聖女に怪我の治療をしてもらうんだって」
軽くそう言いながらも、胸はズキズキと悲鳴を上げる。
「……そうだな。聖女は治癒能力を持つから、帰った騎士たちの治療係だよ」
フリード専属の治療係ではないと知り、ホッとする。それと同時に、私はなに腹を立てているのだと愕然とする。そもそも、私は治癒能力なんて持っていない。聖女に頼るのは当然だ。
それでも気になる私は、
「聖女ってどんな人? 」
ジルに聞いていた。
聖女がどんな女であれ、たとえフリードのお気に入りであれ、私には関係がないはずなのに。
ジルはしばらく考え込んで、教えてくれた。
「……あんまり悪口を言いたくないんだけど、僕は苦手だな」
ジルが人のことを悪く言うなんて意外だった。
「聖女は、怖いから戦場には行きたくないらしい。
自分に治療してもらいたいなら、安全なところまで戻ってからにしてって」
「そうなんだ。……きっと、私とは正反対なタイプなんだね」
思わず言ってしまうと、ジルは笑いながら頷いた。
フリードは私のことが嫌いだ。所詮私は「つまらない女」だ。だから、正反対の聖女ほうがいいのだろう。そんなこと分かっているのに、私の胸はずっと痛み続けるのだった。
「メリッサ……」
低い声で唸るように吐き出すフリード。
「お前は……馬鹿か」
「は、はい!」
フリードの怒りがすごくて、思わず声が上ずってしまった。私としたことが、完全にフリードにやられている。
「死ぬかもしれないんだぞ!!」
怒りの顔のまま、フリードは私に歩み寄る。そして……そのままぎゅっと抱きしめられた。
咄嗟に抱きしめられて、私はパニックを起こしてフリーズしている。だが、フリードはそのキャラに合わないくらい、そっと大切そうに私を抱きしめる。そして、このギャップにドキドキする私は、フリードと同じく頭が狂い始めているのだろう。
「無事で良かった」
耳元で囁かれ、ようやく自分がいけないことをしたと思い始める。フリードの命令に従えないのなら、せめて真正面からぶつかるべきだった。隠れて魔物討伐について来るなんて、フリードにとっては迷惑に他ならない。
「ごめんね……」
自分の非を認め、素直に謝る私。今回は、完全に私が悪い。フリードがいなかったら、本当に二度目の人生が終わっていただろう。いくら私に興味がないとはいえ、目の前で死なれたらフリードだって嫌に違いない。
フリードはそっと私の体を離した。そして、まだドキドキして顔が真っ赤な私を見下ろす。その顔は、やはりいつものように無表情だ。だが、さっきまでの怒りで歪んだ般若みたいな顔ではなくてホッとした。
「終わったら帰るぞ」
そう言われてはっとした。
「……馬!馬の背中に立って大ジャンプしたから、馬、どこかに行っちゃった」
「……はぁ!? 馬の背中に立つ奴が、どこにいるか!? 」
フリードはもはやあきれている。そして、
「仕方ない、俺の前に乗れ」
無表情で告げる。誰があんたの前なんかに乗るか!なんて言いたかったが、私は先ほどフリードを怒らせたばかりだ。大人しく従っておくべきだろう。
「はーい」
不貞腐れたように返事をした。
だが、ふと気付いてしまった。私の前を歩くフリードの左手からは、どくどくと血が流れている。
「フリード!怪我してるの!? 」
思わず声を上げ駆け寄った。
フリードの左腕の服は引き裂かれ、深い傷からは血が流れ続けている。
どうしよう、止血しなきゃ!
私は自分の上着に入っていたタオルを出し、傷の上部を慌てて縛る。自分の服がフリードの血液で汚れることも気にせず、ただ必死だった。
それなのに、フリードは
「気にするな、ただの傷だ」
など言っている。
これがただの傷のはずがない!どんどん血が溢れているし、このままでは感染症の恐れだってある!
前世日本で育った私は、この世界の人よりも、怪我に対して知識があるのだろう。だが、そんな私の独りよがりは、
「館に帰ったら、聖女に治療してもらう」
フリードの言葉によって掻き消された。
「……聖女? 」
その名を聞き、酷く愕然とした。もとからフリードは、私なんかに頼っていなかったのだ。その聖女を当てにしていたのだ。
そもそも、私は婚約破棄される身だ。フリードが感染症で苦しんでも、痛くも痒くもないはずだ。だから、フリードが私でなく聖女を頼っても、何とも思わないはずなのに。
なのに、どうしてこんなに胸が痛むのだろう。
嫉妬に歪んだ私は、
「ジル!」
騎士団の中心部にいて、隊列を立て直しているジルに駆け寄った。ジルは驚いて私を見る。
「メリッサ!どうしてこんなところに!! 」
そして馬から降り、私に駆け寄る。
「どうしたの!? 血だらけじゃないか!」
「ううん、私は大丈夫なの」
そう言って、ジルに告げた。
「私を連れて帰って。フリードは怪我しているから、私の面倒まで見れないから」
いや、違う。私はフリードに仕返ししたかったのだ。フリードが私よりも聖女を選ぶから、私はフリードよりもジルを選んでやろうと思った。
私はなんて愚かな女なのだろう。
ジルは心配そうにフリードを見る。そして私は、フリードのほうを見ることなんて出来ない。
「……分かった。僕の馬で帰ろう」
ジルはそう言ってくれたが、私の心はまだズキズキ痛むのだった。
結局、私はジルの前に乗せてもらって、館へ帰った。ジルは私を守るように馬に乗せてくれたが、ちっともドキドキしない私がいた。そして、聖女が気になって仕方がない私は、馬上でいきなり聖女の話を持ちかけるのだった。
「フリード、聖女に怪我の治療をしてもらうんだって」
軽くそう言いながらも、胸はズキズキと悲鳴を上げる。
「……そうだな。聖女は治癒能力を持つから、帰った騎士たちの治療係だよ」
フリード専属の治療係ではないと知り、ホッとする。それと同時に、私はなに腹を立てているのだと愕然とする。そもそも、私は治癒能力なんて持っていない。聖女に頼るのは当然だ。
それでも気になる私は、
「聖女ってどんな人? 」
ジルに聞いていた。
聖女がどんな女であれ、たとえフリードのお気に入りであれ、私には関係がないはずなのに。
ジルはしばらく考え込んで、教えてくれた。
「……あんまり悪口を言いたくないんだけど、僕は苦手だな」
ジルが人のことを悪く言うなんて意外だった。
「聖女は、怖いから戦場には行きたくないらしい。
自分に治療してもらいたいなら、安全なところまで戻ってからにしてって」
「そうなんだ。……きっと、私とは正反対なタイプなんだね」
思わず言ってしまうと、ジルは笑いながら頷いた。
フリードは私のことが嫌いだ。所詮私は「つまらない女」だ。だから、正反対の聖女ほうがいいのだろう。そんなこと分かっているのに、私の胸はずっと痛み続けるのだった。
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